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黒猫の魔導書  作者: 巌沢雪乃
一章 元騎士団長、冒険者になる

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自己紹介

 先日冒険者登録をしたばかりの少年がいる。名はアルマ。

 金髪に近い茶髪で少し隠れた目は垂れ気味で、大人しげな雰囲気を感じさせる。


 さて、そんな彼は今日、実地講習のためにギルドへとやって来ていた。


 カウンターの真ん中にいつも立っている金髪の女性、クィジニの指示で訓練場へと向かう。

 アルマは自分が一番に来たのだと思っていたが、既に一人、登録をしたばかりの新人が来ているらしい。


 どんな人だろう、怖い人じゃないといいな。そんな考えを持ちつつ開いた扉の光景は、臆病で慎重なggの顔を青ざめさせる。


 鎧を纏った男が地面に槍を突き立てている。槍の先端に目を滑らせると、砂で汚れたマントを身につけた少女が仰向けで倒れている。


「えっ、あっ、え……っ?じ、事案……っ!つ、通報……っ!?」


 その声で男はアルマに気付いたようだ。ある程度離れた場所なのだが、しっかりと言葉を聞き取れていたらしく、慌てたように両手を上に挙げた。


「ご、誤解だよ!ただ手合わせをしていただけさ!ほら、ソニアちゃんも起きて起きて!」

「はい」


 どうやら誤解であったようだ、と息を吐く。それにしても、これから町の外に出るというのに元気な人だなぁ、なんて思いながら二人の元へと歩き出した。




 惨敗であった。身体強化の魔法の有無は、実力に大きな差を生むようである。


 今回の打ち合いで何度も転がされたものの、得られるものはあった。

 ロジェルタは常に身体強化をした上でソニアの相手をしていた。それには理由がある。


 実は彼は打ち合いの前に、左手から右手にかけてゆっくりと魔力の塊のようなものを移動させていた。

 ある程度魔力を感知することができる相手ならば、どんな形であれ反応があるはずだ。


 誰と手合わせをする場合でも、ロジェルタはこれを行なう。相手の反応によって、身体強化を使うか使わないかを決めるためである。


 今日相手をしたソニアだが、なんと魔力の動きをしっかりと目で追っていた。そのため、ロジェルタは常に身体強化を行うことで、ソニアがそれを習得するためのヒントを与えていたのだ。


 ソニアもなんとなくそれを察していたため、一撃でも当てる、なんて意識を持ちつつも、常に彼の魔力の流れを観察していた。


 アルマが来た後、すぐに残りの参加者二人がやって来た。みんなが集まった後、ロジェルタは自己紹介をしよう、と提案した。


「僕の名前はロジェルタ。知っている子もいると思うけど、銀等級の冒険者で『豪槍』と呼ばれているよ。魔法の適性は氷で、使う武器はこの槍さ。そして、今年で35歳になるおじさんさ」


 地面に刺した槍をコツンと拳で叩きながら話すロジェルタに、新人は目を輝かせたり、興味なさげに顔を見たりと、各々の反応をしている。


「さて、じゃあここに来た順番で自己紹介をしようか!まずはソニアちゃん」


 名指しされて一瞬驚いたが、すぐに頷いて口を開く。


「私はソニアです。昨日冒険者登録をしました。魔法の適性は……光と雷だそうです。使う武器は短剣で、年齢は15です」


 ちなみに魔法はまだ使えません、と一言添えた上で軽く会釈をした。


 本当はもう二つ属性があるようだが、正体不明なので伏せておく。


「ありがとう、じゃあ次は君だね」


 次に口を開いたのは、人数が多くなったことで居づらさを感じて縮こまっていたアルマだ。


「あの、ぼ、僕はアルマです!土の魔法が使えます!使うのは直剣と盾、この前17歳になりました。どうぞよろしくおねがいしましゅ!」


 緊張しつつも自己紹介は順調にできそうであった、がしかし。最後の最後で噛んでしまった。

 顔を赤くしたアルマは深くお辞儀をすることでそれを隠す。


「はは、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。それじゃあ次は君」


 指名されたのは、先程からロジェルタのことを目を輝かせて見つめていた少年だった。


「俺はダグ!炎の魔法が使えて、武器はロジェルタさんと同じ槍だ!もうすぐ16歳になる」


 彼の髪はアルマと比べると暗い色の茶髪で、瞳も濃い茶色である。キリッと釣り上がった目尻と彼の口調により、やんちゃそうな印象を覚えた。


「僕と一緒か、いいね!また今度指導してあげよう。最後は君だね」


 最後に皆の視線を集めたのは、町を歩いてもまず見かけることなどない緋色の髪を、頭の左右で括った少女。瞳は青く、吊り上がった目は力強さを感じる。


「ふん……フェルナよ。炎の魔法使い。13歳」


 まさかのソニアより年下であった。

 勝手に15歳にならないと冒険者になれないと思っていたのだが、そういうわけではないようだ。


 フェルナは自己紹介を終えると、すぐにそっぽを向いてしまった。


 そんな態度の悪い彼女を気にする様子もなく、ロジェルタは頷く。


「よし、みんなありがとう。今日はよろしくね。じゃあ早速だけど出発しようか」


 ロジェルタは槍を地面から引き抜き、扉の方へと歩き出した。四人も置いていかれぬよう、彼の背を追う。

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