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黒猫の魔導書  作者: 巌沢雪乃
一章 元騎士団長、冒険者になる

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冒険者ギルド

 帰宅すると、母が何か包みのようなものを持って出迎えてくれた。


「ソニア、誕生日おめでとう!あなたが立派な冒険者になることを願って、これを用意したの。気に入ってもらえたら嬉しいわ」


 手渡された包みを開封すると、何やら革製のベルトのようなものと、畳まれた布製のものが入っていた。


「これは……」

「そのベルトはあなたの短剣と、あの本を持ち歩けるようにアンドレさんに作ってもらったの」


 アンドレは近所に住む革職人だ。

 町の散策をした際に店を見かけて立ち寄った時がある。その際、質の良いそれらの商品を絶賛したのだが、やけに気に入られてしまった。

 今持っているソニアの財布はアンドレが作ったものであったりする。


 ベルトを確認してみると、確かに短剣の鞘を固定できそうな部分と、本一冊が入りそうな革のケースが取り付けてある。


「ローブの方は、あなたの身を守るためのものね。あんな高そうなものを持ち歩いてたらきっと羨む人もいると思うの。手の内はしっかりと隠しておくべき……って、アンドレさんが言ってたわ」

「本当に……ありがとうございます!」


 ソニアは受け取ったものを胸に抱え、深々とお辞儀した。

 安くないであろう贈り物、それに明らかに性格が変わっても家族として迎えてくれる両親。彼らには絶対にいつか恩返しをしよう、と思った。


 この日の食事はとても豪華なものであった。ソニアの前世において、誕生日をここまで祝われる経験がなかったので、なんとも言い難い感情が溢れた。




 翌日になる。今日は冒険者ギルドに行き、冒険者登録をする予定だ。


 ソニアは動きやすい服を身に纏い、上着を着る。今日は登録だけを行なうつもりなので、武器等を持ち歩く必要はない。

 実技試験があるようだが、それは訓練用の武器が支給されるそうだ。


 冒険者ギルドもアイギス教の聖堂と同じく、町の中心に近い位置にある。

 何度か近くを寄ったことがあるので場所はわかっている。


 今日は曇りだ。日が隠れている分、少し肌寒い。


 道行く人は老若男女様々だが、やはり場所が違えば年齢層も違うだろう。

 例えば聖堂の近くは老人が多い。対して、冒険者ギルドの周辺では若い人がよく見られる。


 冒険者ギルドの建物は木造だ。年季の入った壁や天井は黒ずんでおり、それだけで歴史を感じさせる。


 建物を前にしてソニアの心は高鳴っていた。


 意を決して中に入って真っ先に視界に映ったのは、何人もの冒険者がテーブルを囲んで談笑をしている光景だった。


 ガヤガヤと何を言っているのかはわからないが、それぞれのグループがそれなりに大きな声で話している。

 外からは聞こえなかったため、何かの魔道具で音漏れを防いでいるのだろう。


 冒険者達は県や盾、杖などの武器を携帯している。そのどれもがしっかり使い込まれており、普段から使い続けているのがよくわかる。


 建物に入ってそのまま真っ直ぐに進むとカウンターがある。そこには三人の女性が立っていた。彼女達が受付をしているのだろう。


 左の女性は短く切り揃えられた茶髪を耳にかけ、丸い縁のメガネをかけている。キリッとした目付きは人によっては睨まれていると感じそうだ。身長が高いため、見下ろされるとかなりの威圧感があるかもしれない。


 一方、真ん中の女性はウェーブがかった金髪を腰まで伸ばしており、穏やかな青い瞳は見る者を魅了しそうだ。全体的に体格が恵まれているようで、実に女性的な雰囲気をしている。


 最後に右の女性だが、ソニアと同じ黒髪を肩辺りまで伸ばしている。やる気のなさそうな表情の割に手元は忙しく動いており、仕事は早そうだ。背も低く、凹凸のない体をして……と、考えたところでなぜだかその女性と目が合った。

 にこりと微笑まれたがどこか圧があるように感じる。


「何してんだぁ?散歩か?新人かぁ?」


 突然背後から聞こえた男性の声に振り向く。そこでようやくソニアは自分が入り口付近に突っ立っていたことを思い出す。


「冒険者登録をしに来ました」


 背後にいた男性に体を向け、しっかりと目を見て答える。


「ほーう?なんだ、女にしては度胸がありそうじゃねぇか」


 男はニヤリと笑って体を前に倒し、ソニアの顔を覗き込んだ。


「俺は『鉄槌』のハギだ。等級は銀だ」


 冒険者は活動をしていくうち、特徴に合わせた二つ名が人々によって付けられるそうだ。


 下調べによると、冒険者の等級は五つに分かれている。下から、石、銅、銀、金、白金である。


「おめぇは……もちろん銅等級志望だよなぁ?」


 ニヤニヤと笑うハギの顔は、なんというか、とても厳つい。成人したばかりの子供がこの顔で迫られたら、泣いてしまう人も出てくるかもしれない。


「はい、そのつもりで来ました」


 冒険者は最初、石等級か銅等級のどちらから始めるのかを選べる。


 石等級は魔物討伐等の危険な依頼は受けず、町での仕事のみを行うものだ。戦いが苦手な者、もしくは実力が不十分な者はこちらから始まる。


 対する銅等級は、初めから討伐依頼を受けることができる。当然、誰もがなれるわけではない。

 ギルドが選んだ冒険者との手合わせをし、実力が十分だと認められた場合のみ、銅等級から始められる。

 今回ソニアは、銅等級から始めようと考えていた。


 ソニアの答えに満足したのか、頷きながら体を起こす。


 今更ながら、ハギの体型はとてもしっかりとしている。身長は非常に高く、長時間会話をすれば間違いなく首を痛めるだろう。そして、纏う鎧の上からでも鍛えられた筋肉がよくわかる。


 背後に備えた武器は大槌で、力がなければ持ち上げることすら困難な代物だ。

 『鉄槌』という二つ名はこの武器から来ているのだとわかる。


 ハギは親指を自分の胸に当てた。


「今日の試験官は俺だ。多少の怪我は覚悟するんだなぁ?」


 そう言い、カウンターの左にある扉の方へ歩いて行った。


 ソニアもカウンターに向かう。向かう先は右側にいた黒髪の女性の元だ。見るたびに目が合うのだ、行かないわけにはいかないだろう。


 ちなみにカウンターには人が何人か並んでいる。しかし、今のところ右の女性の前には列がない。

 そしてその理由をすぐに理解することになる。


「やっと来ましたね。新人はこれだからダメなんです。どうせ見慣れる光景になるんだからさっさと受付に来て登録して働き出せばいいんですよ。わかりましたか?」


 ソニアは今からでも別の列に行こうかなと思った。

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