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黒猫の魔導書  作者: 巌沢雪乃
一章 元騎士団長、冒険者になる

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成人の儀

 あれから七ヶ月が経つ。今日はソニアの成人の儀が執り行われる日だ。

 基本的に15歳の誕生日を迎えた子供は、その日のうちに教会で成人の儀を行う決まりになっている。


 ソニアはこの期間に髪を切った。かつて腰まであった黒い髪は、肩あたりまでの長さになっており、それを後ろで括って馬の尾のようにしている。

 激しく動くと髪が顔に当たって鬱陶しいため、このようにした。


 服装については特に指定がないため、普段着ているような服を着ている。


「ソニアはどんな才能を持っているのかしら」


 ルディアは二人目の子供、ジェイドを抱きながら安楽椅子を揺らしている。めでたいことに、先日ソニアに弟ができた。

 両親に似るであろう茶髪はとても細く、窓から差し込む光でキラキラと光っている。


 それはさておき。ルディアの言う才能とは、魔法使いとしての才能のことである。

 才能の確認は、成人の儀において最も重要な部分だ。今後の人生を大きく左右されるはずである……と、いうのが父ゴルドの言っていたことである。


 この成人の儀、実は前世では行なったことがない。というのも、まず存在自体してなかったためである。

 魔法の発展と共に生まれた新たな文化なのだろう。


「きっと、誰もが驚くようなとんでもない結果が出るだろうよ。なんたって、俺らの子だからな!」


 そう言うゴルドは、普段よりも気を使って髪を整えている。成人の儀にはどうやら彼が同行するようだ。

 ルディアはまだ生まれてまもないジェイドの面倒を見るので忙しい。家を離れるわけにはいかないのである。


 準備を終えた二人は家を出た。向かう先は町の中心に近い場所、そこにある【アイギス教】の聖堂だ。


 まだ空気の冷たい季節だが、日差しは暖かく植物も新芽を出し始めている。


「才能の確認はな、でっかい玉に触ってやるんだよ。それに触ると才能によって玉の中で何かが起きるんだ。ちなみに俺がやった時は風が吹き荒れてたぜ。つまり、風の魔法の才能があったんだ」


 ゴルドはそう語りながら人差し指を立てた。魔力視に切り替えると、指の先に魔力が集まっているのが見える。

 ある程度集まり、小さな魔力の玉ができたところでポツリと呟く。


「風よ、吹け」


 その呟きに呼応するように魔力が変質し、風となり、ソニアの前髪を揺らした。


「すごい……」

「はは、だろ?もっと集中すれば人くらいなら吹き飛ばせるぞ!まぁ、斬った方が早いから使うことがないんだけどな」


 確かに、そよ風を吹かすだけにしては時間がかかっていた。かなりの集中力が必要なのだろう。

 もし戦場で魔法を使うためにあの時間を使うのなら、駆けて斬った方が圧倒的に早そうだ、とソニアも思った。


 しかし、とソニアは思う。魔法使いというのはかなり珍しく、数が少ないものだというのが常識だった。

 規模の大小があるとはいえ、ほぼ誰もが魔法を使えるというこの環境にかなり驚いている。


 そんなやり取りがありつつ、気付けば二人は聖堂の前にまで辿り着いていた。

 白い石造りのその建物は、この町の雰囲気にそぐわない外観をしている。アイギス教自体が異国からやってきた宗教であるため当然と言えば当然なのだが。


 アイギス教はその名の通り、創造主であるアイギスを信仰した宗教だ。

 ソニアの知る限り、神は二柱いるとされている。

 一柱が創造神アイギス。この世界を創造した存在で、この世界を愛するあまりたまに顕現して歩き回っている……のだとか。


 もう一柱はエルディアナ。こちらは邪神や破壊神といった呼ばれ方をすることが多い。何をした、といった細かな情報はなく、とにかく悪い神という伝えられ方をしている。


 意識を戻し開け放たれた大きな門を潜ると、そこは長椅子が並ぶ広い空間であった。椅子にはちらほらと指を絡めるように組んで目を瞑る人々が座っている。


 先の方に目を向けると一人の男性が立っている。身長は高く、やや丸みを帯びたその体が纏うのは、派手すぎず、しかし神々しさや偉大さのようなものを感じさせる、金で装飾された白い衣装であった。


 さらに奥には、ゴルドの言うように『でっかい玉』が鎮座している。いや、本当にでっかいのである。中をくり抜けば余裕で生活ができるのではないかという大きさの、透明の玉だ。


 二人が先に進むと男性は微笑みながら迎えてくれた。


「ようこそ。成人の儀を受けにいらっしゃいましたか?」

「はい」

「ではこちらへ。お父様は席に掛けてお待ちください」


 多くの人がここに来るのだろう。多くを語らずともすんなりと進むようだ。


 玉の前に辿り着き、男性が振り向く。


「これより成人の儀を始めます。まずは魔法の才能を確認して、アイギス様へ御祈りを捧げて終わりです。では、玉に触れてください」


 言われるがまま、ソニアはその巨大な玉に右手で触れた。一瞬、体の中から何かが出ていくかのような感覚があったが、すぐに収まった。

 やがて、玉の中に変化が訪れる。


 まず初めに、玉の中心に白い光の玉のようなものが現れた。その光は次にパチパチと音を立てて放電し出す。そしてそれらを囲うように黒い霧のようなものが渦巻き始める。さらに、黒い霧の隙間を縫うように血のようなドロッとした液体が流れ出す。


「うわぁ……」

「な、な……なんですかこれは……?」


 言葉で形容するなら、それは地獄だ。ただ声を漏らして引いているソニア、そして見たこともない出来事が起きて困惑する男性。


 離れた場所で見ていたゴルドも口をあんぐりと開けてその光景を見ていた。


 場が騒然としていたが、玉の中で起きた現象が収まった後、男性が口を開いた。


「前例のない状態だったのでなんとも言えませんが……私が見たままあなたの才能を伝えるならばこうなります」


 コホン、と咳払い。


「まず、光の属性に適性があります。これは発光や浄化、怪我や病気の回復といった魔法を使える可能性が高いです。


 次に雷の属性。こちらは才能に目覚める人が少ないのでどんな魔法が使えるかはわかりません。少なくとも、相手を感電させるくらいならできるのではないでしょうか。


 次に黒い……霧、でしょうか。これはすみません、わかりません。光を飲み込むような黒い玉でしたら闇属性だとわかるのですが。


 そして最後に、赤い液体。これもわかりません。……お力になれずすみません」


 頭を下げる男性にソニアは首を横に振る。


 わからないものはどうしようもないのだ。いずれ自分で探っていけばいいだろう。と、ソニアは思っていた。


「そういっていただけると救われた気持ちになります。では、お次はアイギス様への御祈りですね。こちらへ」


 次に案内されたのは玉を横切った先にある空間で、大きな女神の石像が鎮座している。

 男性の指示により、ソニアは石像の前で手を組んで目を瞑る。


 何を祈ればいいのかはわからなかったが、男性に止められるまでその時間は続いた。

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