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広沢海渡は画面端からVTuberで逆転する(仮)  作者: 安達ちなお


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第1話 アルバイト・V⑥

 チョロ太郎が選択したキャラクターは、初代スマストのラスボスであり、本作までシリーズ全てに皆勤で登場する人気のキャラクターである魔王ヘポヨッチだった。これまでのどの作品でも上級者向けの強いキャラクターとして設定されていた。


「今作でも強キャラなのかな」


 これまでの対戦相手に、このキャラクターをまともに使いこなせている人はいなかった。その潜在能力は、いまだに図り切れてはいない。葵が素早くスマートフォンを手繰った。


「兎に角、強いらしい。遠距離攻撃が豊富なうえ、近距離でもしっかり戦える。動きが独特なのでテクニックが要求される玄人向けのキャラクターだが、きちんと使いこなせるならば、最強格の一人だそうだ」

「産廃呼ばわりされてるタカじゃ、キャラ負けしてそうだな」


 そして、強キャラを操るチョロ太郎のランクは、キングの上を行く、エースだった。強キャラに強プレイヤー。間違いなく格上だ。

 だけど、どんな相手であっても勝つつもりしかない。


「いいぜ、来いよ」


 対戦が始まった。

 勝つためには、敵を知る必要がある。最初は様子を見よう。

 そんな海渡の方針は、チョロ太郎の動きと奇妙にかみ合った。互いに攻撃する素振りを見せつつけん制しながら、相手の出方を伺う時間が過ぎていく。


 だが変化は一瞬だった。

 チョロ太郎の操るヘポヨッチがけん制のパンチを放ったところで、タカを突っ込ませた。隙の大きい攻撃をスカしてから差し込んだ神竜拳は、しかし防がれた。


 そこからは一方的だった。威力の大きい近距離の魔法を含めたコンボでダメージをもらい、さらには投げ技でも大きく体力を削られて画面端に追いやられる。

 そのまま画面端から逃げ出すことも、起き上がることも出来ずにパーフェクトで第一ラウンドを取られた。


 チョロ太郎の配信画面が付いたままのスマートフォンからは、「にゃはは、クソザコでござるな♪」という調子に乗った声が聞こえてくる。


「あーくそ。悔しいな」

「カイトが負けた? この対戦相手、可愛らしい格好だけど強いんだな」

「うん、しょうがない。分からんことが多すぎる」


 チョロ太郎の行動は、攻撃に伴う隙の大きい技、いわゆるフレーム消費の大きな動きが多かったように見える。それに対してこちらは、最短の反撃を選択したつもりだった。だが結果は全てで競り負けていた。


 このレベルの相手との攻防を考えるとき、フレームという概念は必須だ。例えばこちらが3フレームを消費するパンチを繰り出した時、相手が同時に2フレームしか消費しないキックを使えば、相手のキックが有効になる。パンチやキックに限らない。すべての行動に、フレームの消費量が設定されている。

 それらを把握したうえで、相手より早く動ける選択をし続けることで、行動が繋がり大きなダメージを与えることが出来る。この攻撃のコンビネーションを、コンボと呼ぶ。


 つまり状況に応じて繰り出せるコンボを多く持っている方が、俄然に有利である。

 きっとチョロ太郎は、発売されてからひと月ほど、練習を重ねつつ数百試合を戦ってきたのだろう。それに対してこちらの対戦経験は100戦ちょっと、練習もほとんどしていない。練度も知識も全く足りていないのだ。


 でも勝てないわけじゃない。ここから二つのラウンドを連取すればいいだけだ。

 ちらりと葵を見ると、握りしめた拳を膝にのせて、神妙な顔でこちらを見つめている。目が合うと、細い唇が静かに動いた。


 がんばれ。


 声は出ていないが、何を言っているかは分かった。これは絶対に負けられない。


「さあ、勝ってくるか」


 第二ラウンドが始まった。

 今度は最初から距離を詰めた。じっくり攻められたら勝てない。しかしテンポの速い応酬になっても経験の差で負ける。実力差を埋めるには、こちらのペースで動いて主導権を握るしかない。


 格闘ゲームとは、こちらの体力が尽きる前に相手の体力ゲージをゼロにするのが究極の目的だ。ならば、どうやってダメージを与えるかを模索するのが、勝利への最適解だ。コンボも立ち回りも、そのための手段に過ぎない。


 そしてタカは、性能の一部こそ弱体化されているものの根幹は前作と変わらない。今作でもタカの代名詞的な三つの必殺技は健在だ。


 突進技の神竜拳、上空に向けて竜巻を放つ竜昇閃、謎のエネルギー弾を放つ天翔竜破。

 竜昇閃は、ゲームの設定的には、鋭い拳が強風を巻き起こすというスマストらしいおおざっぱな攻撃だ。天翔竜破に至っては、音速を越えた拳が物理法則を超越して敵を攻撃するという、訳の分からない技だ。ゲーム的には、ただの遠距離攻撃である。


 タカは前作で何千時間も共に戦った相棒なのだ。タカのことなら、誰よりも知っていた。タカの使い手の中では、最強を自負していた。タカを使えば全国一位、つまり全一であると自他ともに認めていた。


 きっといける。


 チョロ太郎の繰り出すしゃがみキックを飛んで躱し、大パンチを当てる。ヘポヨッチが大きくのけぞったところにタカの大パンチ、しゃがみ大パンチで追撃をかけ、最後に神竜拳を放ち画面端まで吹き飛ばす。

 体力の7分の1ほどを削った。


「やっす。安すぎるわ~」


 相手の行動に合わせて、飛び込みつつこちらの攻撃を当てたのだ。極めて有利な状況だったはずだ。本当なら強力なコンボを当てて体力を削りたかった。もっと大きなダメージを与えられる動きを模索しなくてはならない。


「さて、どう攻めてくれようか」


 相手を画面の端に追い込んでいる。ここは攻め時だ。

 2D格闘ゲームにおいて、画面端に追い込んだこの状況は、極めて有利といえる。相手は後ろに下がることが出来ず、行動が大きく制限される。

 こちらは、進むも退くも自由だ。有利な距離を選択できる。相手を吹き飛ばすような技を当てても画面の端が壁となって距離が開かないので、追撃をしやすいうえに、コンボも繋がりやすい。


「こういう攻め方、どーすか?」


 素早く距離を詰めて投げ技を決める。

 相手が起き上がったところを、もう一度投げる。再び起き上がったところを、更に投げる。今度は投げに警戒しているところに打撃を叩き込む。怯む相手に、さらに打撃を重ねる。


 投げ技と打撃技はジャンケンのようなものだ。打撃技を防ぐには防御する必要がある。だが防御すれば、投げられてしまう。投げられないようにするには、同じように投げ技を繰り出す必要があるのだが、投げに行ったところへ打撃を受ければダメージを受けてしまう。


 相手が防御すると読めば投げ、投げを警戒すれば打撃を選択する。そこで正着を選び続ければ、果てしなくダメージを与えられる。

 そして俺は、選択を的中させ続けた。


「フハハ、読み易い君が悪いのだよ」


 笑みを浮かべながらしばらく画面端の攻防を続けていると、チョロ太郎が無敵時間のある必殺技を放った。

 だがそれも読んでいた。画面端から脱出するには、何かしらの行動を起こさねばならない。あとはタイミングと方法の先読みをするだけだ。


 あらかじめ垂直にジャンプすることで暴れるチョロ太郎をしっかり回避すると、反撃のコンボを決め、最後に神竜拳で体力を削りきった。


 画面に「K.O.」の文字が大きく表示され、タカが背を向けながらガッツポーズをする。

 スマートフォンから「うぎゃあぁぁぁ、全部読まれてるぅぅぅ?!」と断末魔のような悲鳴が聞こえてきた。


「画面端の読み合いで俺に勝てると思うなよ」


 スマスト5は、これまでのシリーズと同様に2ラウンド先取で勝利だ。つまり次のラウンドで勝負が決まる。

 葵が耳元に口を寄せてきた。


「これで互角に戻したな。このラウンドを取れば海渡の勝ちなんだろう?」


「そうだよ。けど、やっぱり難しいよ」


 知識もやりこみも足りていないのだ。こういうやり方くらいでしか、勝ちを拾えなかった。そして同じ行動は通用しないだろう。チョロ太郎クラスになれば、一度見れば対策をしてくるはずだ。


 そんな考えは的中した。


 最終ラウンドは、一進一退の攻防になった。読みや差し返しではこちらが勝るが、行動選択やコンボ性能に勝るチョロ太郎がしっかりダメージを奪っていく。そして互いにコンボひとつで相手の体力を削り切れるという終盤に、綻びが出た。


「やっべ!」


 タカの放った竜昇閃が、ぎりぎりで敵に当たらず明後日の方向に飛んで行く。間合いを読み違えた。経験不足が露呈した。

 攻撃直後のタカは、敵の目前で無様に隙を晒している。硬直するタカに向けて、ヘポヨッチが必殺技の中でも特にダメージの大きい超必殺技、神技アーツのモーションに入る。

 が、そこで一瞬動きが止まった。間一髪、防御が間に合う。


「どうしたんだ?」

「オンライン対戦のあるある。ラグだよ」


 神技を防ぎ切り、今度は神技後で硬直するチョロ太郎へコンボを叩きこんだ。体力ゲージのバーが消失する。


「よっしゃあ。危なかったー」


 画面に踊る「WIN」の文字を前に大きく息を吐いた。


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