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広沢海渡は画面端からVTuberで逆転する(仮)  作者: 安達ちなお


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第2話 殴り合いの香りはパン屋から⑤

「よっす、どうも。お邪魔します」


 海渡が第一声を上げると、ドン様の配信でリスナーが一斉に反応した。


 ――初めまして~

 ――ようこそー

 ――楽しみ


 かなり好意的に歓迎してくれている気配だ。ずいぶん民度が良い。

 ドン様自身もかなり良い人だけど、リスナーも安心していられる。変なコメントなんて、一つも見当たらない。


「ようこそドン様のお城へ。今日はスマスト5で対戦をしようと思うのだけれど、子ウサギちゃんたちは初めましてだろうから、自己紹介をお願いできるかな。それとスマスト5でこのドン様と対戦するわけだけれど、意気込みも聞きたいな」

「昨日からVTuberやってるタカウジと言います。かなり自信があります」

「うん、頼もしい言葉だ。今日は決闘のお誘いを送ってくれてありがとう。嬉しいよ。とりあえず合えず10先で良いだろうか」

「おっけーです」


 準備は万端だ。

 ドン様の配信を覗いてみると、80人が視聴していた。やっぱりすごい。驚きの吸引力だ。艶のある金髪とイケメン・オブ・ザ・イケメンといった外観から繰り出されるイケボが、視聴者を捉えて離さないんだろう。カッコいい上に変なことも言わないから、安心して視聴できるというのもあるのかもしれない。


「せっかくだからドン様のリスナーのみんなも、タカウジ君と僕の配信、2窓して見てくれないか。みんなで楽しもう」


 ドン様がそんな風に言うと、あっという間に視聴者数が20人を超えた。リスナーの民度が良すぎる。


「ニマドってなんだろう」


 葵が怪訝な顔をしていた。


「ウィンドウを二つ開いて、俺とドン様の配信の両方を見ることだよ。二人が同時接続者数を増やせる」

「なるほど」


 こちらの配信のコメント欄が少しざわついている。


 ――女か?

 ――女だ

 ――捕まえろ!


 葵の声が聞こえていたみたいだ。こんなの全部無視だ。

 顔の前で両手を合わせた葵が、声を出さずにごめんと口を動かす。葵のドジは珍しい。このおっちょこちょいさんめ。


 スマスト5にドン様から対戦申し込みが届いた。設定は10先。2ラウンド先取で1勝。先に10勝した方が勝ち。それ以外は普通のスマスト5だ。

 普段のランクマッチは2先なので、対戦数は多くなる。その辺りを打ち合わせたのは葵だ。単純に対戦時間が長くなるから、仲良くなりやすいと思って設定したんだろう。


 でも格闘ゲーマー的には、10先は少し意味合いが違う。1先より2先、3先、5先と対戦回数が増えるたびに、プレイヤーの本当の実力が結果に反映されやすくなる。


 1先ではまぐれ当たりでのジャイアントキリングはいくらでも起こる。でも10先となればそうはいかない。長期戦は相手の癖や技術を観察し、先読みや人読みが出来るようになり、攻略方法の模索なども行われる。格闘ゲームプレイヤーとしての基礎的な強さや、ある種の才能までが比べられる。


 決定的とは言わないまでも、その時点での実力の上下関係を構築してしまう可能性がある。見る人によっては、あるいは勝負の内容によっては、敗者を決定的な敗北者としてとらえることになるのかもしれない。それゆえ10先は、真剣勝負であるという意識がどこかにある。


 仲良くなることが目的なのに、10先で良いのかな。そんな思いは微かにある。

 ま、そんなに気にすることじゃないか。持ち前の能天気スイッチを入れて、海渡はコントローラーを握り直した。


「こっちは準備万端です。ドン様はどうですか?」

「こちらもバッチリさ。さあ、試合デートを始めよう」


 最初のラウンドが始まった。

 ドン様の使用キャラクターは、剣を携えた美形騎士ジョー・クインだ。動きは単純で得意距離も限られるが、一撃のダメージが大きいパワータイプで、ペースを掴むとかなり強い。


「タカウジ君はタカを使うんだよね。名前が似ているから、意識しているのかな」

「いや、かなり偶然っすね」


 全く意識してなかった。確かにダジャレみたいで、少し恥ずかしい。いや、めっちゃ恥ずかしい。

 けれど照れたそぶりは見せるわけにはいかない。絶対に見せてはならない。格闘ゲーマーとは、弱みを見せたら死んでしまう生き物なのだ。マウントを取られたら取り返さねば息が出来ないのだ。全て想定どおりだと言わんばかりに自信満々でいたいのだ。


 動揺を隠して前進した。

 ひとまずは情報収集だ。10先ともなれば、多少痛い目を見てでも最初に敵の癖を見定めた方が良い。

 そんな覚悟で前に出ると、ドン様は手馴れた対応を見せた。ジョーの得意の間合いに入るや否や、高火力コンボを叩きこんでくる。間一髪でガードするも、間を置かずに投げに打撃にと攻撃を重ね、圧をかけてくる。


 ジョーは攻撃偏重のキャラクターだ。隙を見せたら手痛い攻撃を貰うことになる。とはいえペースを委ねても勝ち目はない。ここは勝負に出るべきだ。

 近距離戦を意図して懐に飛び込んだ。


 だが斬撃ではじき返されると、後は蹂躙されるがままだった。高火力のコンボから神技アーツに繋げられ、見る間に体力が削られていった。

 画面にKOの文字が躍っている。見事にラウンドをさらわれた。


 強い。

 コマンドにミスが無いのは、きちんと練習している証拠だ。コンボ選択もそつがない。高火力の必殺技をパナすわけでもなく、狙いすまして撃ってくる。

 これは気合を入れないとまずい。


 第2ラウンドが始まった。

 どう攻めるか。思考をフル回転させながら間合いを図っていると、肩をチョンとつつかれた。この指の感じは葵だ。


「あ」


 そうだった。目的は勝つことじゃない。仲良くなることだ。何か話さなくっちゃ。でも何を話そう。ぐるぐると悩んだ結果、安直な話題を放り投げた。


「今日、良い天気っすね」

「え?」


 言いながら天翔竜破を放つと、ガードされることなく当たった。


「今日は大雨だったから驚いてしまったよ。都会的お洒落伊達人間のドン様は東京的な都市にいるのだけれど、もしかしてタカウジ君は西の方かな」

「はい。岡山と山口にサンドイッチされてますね」

「すると……えっと、広島かな」


 ドン様が考えている間に距離を詰めて突進技の神竜拳を使うと、これもあっさり刺さった。もしかしてマルチタスクが苦手なのかな。いっぱい話しかけてやろう。


「ドン様って格闘ゲーム歴が長いんですか?」

「うん、とっても。スマストは初代からやっているよ」

「道理で上手なわけですね。前作では誰を使ってました? ジョーは5からの新キャラですよね」

「4はタカと共に戦っていたよ。ドン様の憧れのプロゲーマー……k4110選手が使っていたからね」


 おっと、藪蛇だった。

 わずかな動揺が隙に繋がり、逆にジョーのコンボをまともに受けた。「YOU LOSE」の文字が画面に映る。

 これで一敗だが、10先となればまだ序の口だ。焦ることはない。

 ここまで戦って、ドン様の行動にピンとくるものがあった。


「俺、ドン様の弱点を見つけたかもしれないです」

「ほう。なんだろう」

「それは見てのお楽しみってことで」


 第2試合が始まった。

 格闘ゲームでは、ゲーム画面で操作キャラクターが動く前にコマンドの入力している頻度はかなり多い。


 キャラクターごとに性能が違う故に、どうしても動きのパターンが生まれてしまう。そして、相手がどのパターンで来るかを的中させることが出来れば、展開はがぜん有利になる。


 よくやり込んでいる人ほど、パターンを予測して、すでに動いているのだ。

 パターン的な動きをしないときに、ドン様の動きは精彩を欠くことが多い。そこに付け入るスキがある。


 タカを下がらせた。

 敢えて距離をとって攻防に緩急をつける。そしておもむろに距離を詰めていく。そしてドン様の操るジョーが得意とする斬撃技の間合い付近で、束の間、いくつかのフェイントを混ぜる。前後に動き、技を出す素振りを繰り返す。ジョーが反応したのを見てから、一気に距離を詰めた。

 そのままタカのコンボが突き刺さる。やっぱりだ。

 決定的な弱点を見つけた。


 反射神経だ。

 再び、見てから対応するようなタイミングで飛び道具とジャンプ攻撃を重ねる。何度も重ねていると、二つに一つが突き刺さる。

 格闘ゲーム歴が長いだけあって、コンボは正確だし、駆け引きも上手い。だけど攻略方法を見つけてしまえば、こっちのもんだ。


「やべえ、コイツ雑魚だ!」


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