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広沢海渡は画面端からVTuberで逆転する(仮)  作者: 安達ちなお


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12/17

第2話 殴り合いの香りはパン屋から③

「なるほど、YouTubeで探すのか」

「配信の様子を見れば、実力も性格もそれなりには分かるんじゃないかなって」


 何度か見たせいか、チョロ太郎の配信が最上段のおすすめに出ている。

 開いてみると、チョロ太郎が画面の中を転げまわっている。スマストの画面とその笑い声に、どこか懐かしさすら覚える。相変わらず全力で楽しんでいるようだ。


『昨日の配信でタカウジっていうVTuberに試合を吹っ掛けた件、事務所のスタッフさんに怒られたでござるよ。辻斬みたいに挑戦するのも悪態吐くのもマナー違反だそうでござる。負けたのはこっちなのに、トホホでござるよ』


 ふと思いついて、チョロ太郎のチャンネルを開き、人気順で配信アーカイブを並び替えてみた。謝罪動画が三つ並んだ。何回謝罪してるんだ、こいつ。


「こいつは放っておこう」


 チャンネル登録者数は10万人だった。雲の上の数字だ。事務所にも所属しているし、きっと売れっ子なんだろう。関わるつもりはないし、それ以前にそもそも相手にもされないだろう。


「もっと規模感と雰囲気が近い人が良い。チャンネル登録者が多すぎず、少なすぎず、スマスト5をやっていて治安が悪くない人」

「なるほど。登録者数1万人以下のチャンネルに絞るぞ」

「いや、まだ多すぎる。5000人……いや、3000人以下で。サムネイルにスマストの要素が入っている配信を順に見ていこう」

「本当にそれでいいのか? 海渡なら潜在能力的に登録者数7兆人くらいいるはずなのに」

「葵って時々バチボコに頭がアレするよね」


 最初に開いた配信は、スマストのランクマッチ戦をプレイしていた。黙々と対戦を繰り返している。


「この配信者どうなんだ?」

「やめとこ」


 ほとんど無言だから性格はよく分からない。でも追い詰めた対戦相手に向けて、しゃがむ動作を繰り返していた。いわゆる屈伸と呼ばれる煽りの動作だ。仲の良い相手なら許されるだろうけど、見知らぬ相手にはバッドマナーである。


 次に開いた配信はVTuberだった。


『はわわぁ。めく、負けちゃうヨ~☆』


 桃色の髪の少女が、鼻にかかったような、舌足らずな声でくねくね動きながらスマスト5をプレイしている。チャンネル名称は「芽来めくるめくちゃんのチャンネルだヨ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」とある。


「すげえ、ブリブリバリバリの女の子だ」

「可愛いね、この子」


 弥栄子ちゃんも興味津々に見ている。


「海渡の方が可愛いだろう」


 葵は黙っていて欲しい。

 使用キャラクターは、本人同様にかわいらしさ満載のミユミユだ。魔法少女にあこがれている少女という設定で、薄い本を厚くしてきた人気キャラだ。プレイヤーと使用キャラクターがばっちり合っている。だがプレイをよく見ていると、一見した雰囲気とは違うことに気づく。


「こいつ、強いな」


 ミユミユはテクニカルなキャラだ。コンボの難易度が高く選択肢も多いのが特徴で、的確な選択とプレイイングスキルが求められる。可愛さ目当てで使う人はいるものの、ガチンコでプレイするなら、その難易度の高さから避けられがちだ。

 だが可愛らしい少女は、そんなミユミユを使いこなしている。


『いくヨ~♪』


 中足でヒット確認をしてから14連打を当てる激むずコンボを披露している。間違いなくやり込んでいる。チャンネル登録者数は2900人もいる。可愛くて強ければ当たり前か。そんな思いでコメント欄に目を向けると、思いもよらぬ文字列が並んでいた。


 ――かわいい

 ――えらい

 ――つよい

 ――かわいい


 賞賛の嵐だけれど、果たして何人がこいつの実力に気づいているのだろうか。


「めく。こいつは良い」


 高評価ボタンを押して、次の配信に画面を切り替える。

 画面に現れたのは、ドン様だった。ちょうど今、ライブ配信をやっているようだ。


「わあ、ドン様だ!」


 弥栄子ちゃんが華やいだ声を上げる。

 画面の中のイケメンは、スマスト5をプレイしながら、魅力的な声でコメント欄とのトークに花を咲かせている。


『おっと、かなり追い込まれてしまったね。でも大丈夫。みんなが応援してくれるなら、どんな窮地も跳ね返してみせるよ』


 使用キャラは顔面最強で女性ファンの多いイケメン騎士のジョー・クインだ。圧倒的な体力差にもかかわらず、果敢に前に出て、華麗に剣の攻撃を当てていく。みるみる劣勢を挽回する様子に、コメント欄が盛り上がっている。


 ――ドン様がんばって!

 ――すごい!かっこいい!


 同時接続者数は100人ちかくいる。チャンネル登録者数が1200人であることを考えると、週末とはいえ、すごい数字だ。

 ドン様の操るジョー・クインは、リスナーの応援コメントを力に変えて、そのまま勝ち切った。試合の展開を乱さない正攻法で、正々堂々とした戦い方だった。


「やっぱりドン様もいいね」


 高評価ボタンを押して、次の配信に画面を切り替えた。

 そうして昼までかけて100以上のチャンネルを見て回った。


「どうだ、よさそうな相手はいたのか」


 葵がお昼ご飯のおにぎりを乗せたお盆を手に聞いてきた。手作りおにぎりは海渡と弥栄子ちゃんの分も用意されている。具は焼き鮭で、海苔はパリパリだ。アサリの味噌汁も付いている。葵の手作りらしい。


「うん、とりあえず目星をつけた人は高評価をしておいた。この中から何人かを選んで連絡してみるのもいいかなと思うけど……」


 だけど、今すぐに声をかけるのは現実的ではない。

 一番の問題は自分自身だ。まだ一度しか配信をしておらず、チャンネル登録者数も120人。一方で、良さそうに見えた人たちは、チャンネル登録者数が1000人以上の人ばかり。ちょっと差がありすぎて、声をかけるには躊躇われる。

 もう少し数字を伸ばしつつ、名刺代わりに出せる配信や動画も無い。


「となれば、まずはスマストの練習をしながら、チャンネル登録者数を増やすか」


 おにぎりを味噌汁で流し込むと、マウスに手を伸ばした。

 配信ソフトの起動ボタンを押下しようとしたその時、今まで俯いていた葵がおもむろに顔を上げた。


「連絡とれたぞ」

「え?」

「海渡が選んだ人達に連絡してみたら、さっそく返信があったから、コラボの約束を取り付けた。ああ、大丈夫。段取りは僕に任せてくれ」

「え?」

「なんと最初に返事をくれたのは、ドン・キホーテ・シュトルテハイム・ショスタコービッチ3世。ドン様だ」

「え?」

「明日、時間を作ってくれるそうだ。楽しみだな」


 この女の行動力を忘れていた。いや、舐めていた。

 野太い眉毛が、にこにこの笑顔で海渡を見つめていた。


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