表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/51

4話 選択の代価、彷徨う魂

 相変わらず、ヒロキとは連絡がつかない。

 少し前まではメッセージを送ると既読だけはついた。だが今は、その既読すらつかない。

 カイト、マコト、カンナの三人は学校近くの公園で、「今どこだ?」と送った画面を食い入るように眺めていた。そうしてスマホを睨みつけてから、すでに一時間以上が経過している。


「まさか、ヒロキまで……」


 行方不明になっているのは、ヒロキとよく行動を共にしていた不良たちだ。

 カズラの術にかかっていた頃は気にも留めなかった。だが、夢から覚めるように現実を直視するようになってからは、これまで見過ごしていた違和感が、どうしても頭から離れなくなっていた。


「まだ、そうと決まったわけじゃないだろ」


 カイトの不安げな呟きに、即座に反応したのはマコトだった。それに続くようにカンナも言葉を重ねる。


「あの夜、確かにヒナは『ヒロキを連れて行く』って言っていた。けど、竹本たちはヒナとは何の関係もないはず。なのになんで、あいつらが行方不明になるの?」


 冷静なカンナの疑問に、三人は頭を抱え込んだ。

 そろそろ家に帰らなければならない時間だ。

 このまま帰るべきか、それとも手がかりを探すべきか。二択の狭間で迷っていると、不意に背後から声がかけられた。


「君たち、こんなところで何をしている」


 遊び歩く生徒を警戒する教師の見回りかと思い、三人は心臓を跳ね上がらせて振り返った。

 そこに立っていたのは、白衣はくえに紫色の袴を身にまとったカズラだった。現世うつしよで活動するときはいつも「十五歳のヒナ」の姿を模していたため、この神職の姿をこちらの世界で見るのは初めてだった。


「なんだ、カズラかよ……。驚かすな」

「何を言っている。君たちこそ、こんなところで何をしているんだ」


 カイトの文句などどこ吹く風で、サラリと受け流す。

 カズラが訝しげな視線を向けてくると、マコトとカンナがたまらず事情を説明した。


「ヒロキと連絡を取ろうとしてるんだよ」

「最近、ヒロキとつるんでる生徒たちが行方不明になってて……。ヒロキが無事かどうか、確かめたくて」

「おい。まさか、こいつらのことじゃないだろうな?」


 するとカズラは、慌てた様子で懐からスマートフォンを取り出し、三人の前に画面を突き出した。

 カズラがスマホを使いこなしていることにマコトとカンナは目を丸くしたが、すぐに三人で画面を覗き込んだ。


 それは、夜の稲荷神社を映した動画だった。神主が深夜の侵入者を撮影したものだというが、そこに映っていたのは、ヒロキを含む例の不良グループの少年たちだった。

 最初にいなくなった竹本が、供えられていたバケツを蹴っ飛ばす姿が映し出されると、三人の表情がみるみる曇っていく。さらに映像のなかで、少年たちが一瞬にして掻き消え、直後に悲鳴を上げて逃げ惑う様子が克明に記録されていた。


「酷い……。ヒナのために供えた花なのに……」


 映像を見て顔を歪め、今にも泣き出しそうになったカンナは、画面の隅に映り込んでいるヒロキの姿を捉えると、みるみる瞳に涙を溜めていった。


「これ、いつ撮られたものなんだ?」


 話を前に進めるため、マコトがカズラに尋ねる。本心では、この罰当たりな連中の中に幼馴染のヒロキがいたことも、大切な花を踏みにじったことも、到底許せるはずがなかった。


「一週間前だ。神主が、深夜に侵入してきた子どもたちを証拠用に撮影したそうだ」


「お前、やっぱ神主さんと繋がってたな!! どーりでいつも知ったかぶりな態度ばっか取ると思ったぜ!!」


 カイトは、カズラの説明に登場した神主の存在に目くじらを立てた。散々「カズラとつるむな」と自分たちに忠告しておきながら、当の本人はしっかりカズラと連絡を取り合っているのが面白くないのだ。


「黙れカイト!」

「今そんなこと、どうでもいいだろ!」


 頭脳明晰なマコトが真っ先に突っ込み、それに続くようにとカンナにも一喝された。カンナなど弱々しい口調から、いつものキツイ口調に瞬時に戻ったいる。変わり身の早いことだと思ったが、カイトは何も言わないほうがいいと判断し、口を閉ざした。


「それで、この映像に何かおかしなところがあるのか?」

「見ろ。バケツを蹴飛ばした小僧が、一瞬消えたあと、戻ってきていないだろう」


 そう言ってカズラが動画を巻き戻し、問題の瞬間を再生させる。


「本当だ……」

「竹本だけ、いなくなってる……」

「生徒が行方不明だと言ったな。どこで姿を消したんだ?」

「色々だよ。登下校中だったり、学校の中だったり、家の中だったり……」

「なんか、みんな『いつの間にか』いなくなってるらしいよ」


 マコトとカンナが、知っている限りの情報をカズラに伝える。カイトといえば、会話の輪に入り込めず、ポツンと突っ立っていることしかできない。こういう時、弁が立つのはこの二人なのだ。

 そんなカイトのことなど気にも留めず、カズラは考え込むように顎に手を当てた。


「……人の所業じゃないな」


 ぽつりと呟くと、カズラは踵を返してどこかへ去ろうとする。振り返った瞬間に揺れた長い髪が、まるで生き物のごとく蠢いたような気がした。


「君たちは家に帰っていろ」

「どういうことだよ!! ちゃんと説明しろって!!」


 立ち去ろうとするカズラの背中に向かって、カイトが吠える。


「これは人の所業じゃない。君たちにできることは何もない」


 カズラが冷淡にまた一歩を踏み出そうとした、その時だった。


「ヒナが、何かしたの?」


 カンナの絞り出すような言葉に、カズラの足がピタリと止まった。ゆっくりと振り返り、冷たい視線をカンナに向ける。彼女にはいつもの凛々しい姿はない。


「ヒナはあの夜、学校で『ヒロキを連れて行く』って言ってた……。ヒナが事故に遭った井戸で、最初に一人生徒が消えてる。そして今、ヒロキもいなくなったかもしれない……。どういうことなのか、ちゃんと説明して」


 不安に声を震わせながらも、芯のある強い口調でカンナは訴えた。

 そんな彼女の覚悟に根負けしたのか、カズラは小さくため息を吐くと、重い口を開いた。


「……まだ何とも言えんさ。僕は主さま方の命令で動いている身だからね」

「……っていうと、宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ荼枳尼天ダキニテンのことか?」


 オカルトオタクのマコトが、カズラの仕える神々の名を口にした。


「……そうだが、あまり主さま方の名を気安く呼ぶな。無礼だぞ」

「あ、ごめん……」

「別にいいだろ、姿なんて見たことねえし」

「いいわけがあるか!」


 素直に縮こまるマコトの横で、カイトは相変わらず不遜な態度を崩さない。そんなカイトにカズラは眉をひそめたが、すぐに声音を落として本題に戻した。


「主さま方の話では……ヒナはマヨイガを出たらしい」

「!!?」


 予想だにしなかった事実に、カイトたちは息を呑んだ。


「どうして……」

「……カンナが学校の女子トイレで『コックリさん』をしたからだ。それによって、ヒナは現世うつしよへ顕現してしまった……」


 苦渋くじゅうの表情を浮かべながらも、カズラははっきりと言い切った。


「ヒナは、ずっと君たちと遊ぶのを心待ちにしていた。君たちは毎年、あのマヨイガで『本物のヒナ』と再会していたんだ。……だが、今年はそうならなかった。ヒナは……寂しかったんだろうね」


 あのマヨイガで、カズラとの契約を拒否しなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。──いや、これは、自分たちが現実を生きると決めて選んだ、選択の代償だ。


「ヒナは、確実に現世うつしよに留まるために、()(しろ)を求めて彷徨っている。あの口ぶりでは、最初はカンナを狙っていたんだろうね。それを邪魔されて、ヒロキに狙いを定めたんだ……。ヒナは自らも『黄泉がえり』したがっていたから……」


 重く残酷な現実だけが、容赦なく子供たちに突きつけられた。

次回8月25日(火)19時更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ