表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

1話 深夜の学校、双子の異変

学校の怪異編スタートです。

「学校の怪談」や「学校の七不思議」──。


 学校は閉鎖的になりがちな施設だ。そのコミュニティに放り込まれた子供たちの間で、古くから数多くの都市伝説が語り継がれてきた。その起源は、実に江戸時代まで遡ることとなる。

 それらの大半は、時代の移り変わりとともに科学的に解明されていった。

 だが、「学校」という場所が「いわく付き」の存在として今日こんにちまで語り継がれてきたのも、紛れもない事実。

 未だにそこには、得体の知れない「ナニカ」が潜んでいるのだ。





 夏休みが、明日で明けてしまう。マコトと美川のお陰で問題集は全て終わった。だが一つ、やり忘れたものがあった。それが今、カイトの目の前に広がる真っ白な原稿用紙だ。

 これが何かというと、読書感想文の宿題である。

 マコトが休み中、本を借りるのに付き合ってくれたというのに、借りたことで満足してしまい、読まずに放ったらかしてしまっていたのだ。

 時、既に遅し、である。


「うわーーーー、やべーーー、どうしよーーーっ!」


 一人自室で頭を抱え、ベッドでのたうち回る。

 助けを求めようと、慌ててスマホを取り出した。焦るあまり手が滑りそうになりながらも、どうにかメッセージアプリを開いて、目的の人物にSOSを送る。


『マコト! 読書感想文やり忘れた! 助けて!』


 直ぐに既読が付き、秒で返信が届いた。


『自分でやれ、バカ』

「バカは酷くない!?」


 スマホの画面に向かって叫びながらも、ここで引き下がるわけにはいかない。しつこくメッセージを送りまくる。しかし、やがて既読すらつかなくなり、カイトは自分が完全に見捨てられたことを悟った。


「こーなったら……!」


 カイトは自室を飛び出し、隣にある姉のカンナの部屋のドアを勢いよく開け放った。

──が、運悪く、そこには正に着替え中のカンナがいた。


「出てけ!! バカ愚弟!!」

「ぶふぉっ!?」


 猛烈な勢いで投げつけられた枕が顔面にクリーンヒットする。そのまま無理矢理部屋の外へと押し出され、目の前でドアを激しく閉められた。


「待ってカンナ!! 読書感想文手伝ってほしいんだよ!!」

「知るか!!」


 頑丈な鍵の閉まる音が廊下に虚しく響く。

 以降、夕食の時間になるまで、カンナが部屋から出てくることはなかった。





「くっそーー、マコトもカンナも冷たすぎね?」


 夕食後、読書感想文が終わっていないことを母親にこっぴどく叱られ、逃げるように自室に駆け込んだ。机の上で睨みつけているのは、夏休み中に図書館で借りた一冊の本だ。長すぎると読むのが辛いと泣き言を言ったカイトに、美川が選んでくれたのは一冊の短編集だった。「一冊を丸々読む必要はないから」という理由での親切なチョイスだった。

 だが、「短いならいつでも読める」と高を括り続けた結果が、このザマである。


「こーなったら……」


 カイトはスマホを取り出すと、検索エンジンに小説のタイトルと「あらすじ」というワードを打ち込んだ。


「あ、出てくんじゃーん」


 とあるサイトに掲載されていた、大まかなあらすじと結末を斜め読みし、さも自分が読んだかのような感想を原稿用紙に書き殴っていく。


※良い子は真似しないでください。


「出来た出来た!」


 文字で埋まった原稿用紙を見て満足気に頷き、それをスクールバッグの中へと放り込む。

 明日から新学期だ。夏休み中にすっかり夜型になってしまったせいで、早起きできる自信がまるでない。形だけでも寝る努力はしようと、ベッドに潜り込んだ。電気を消して目を瞑るが、皮肉なほどに脳が冴え渡っていく。


「寝れねえ……」


 一向に眠気は訪れず、静まり返った部屋には壁掛け時計の秒針の音だけが、やけに大きく響き渡る。一度意識してしまうと、チクタクという規則正しい音が耳障りでなおさら眠れない。

 ゴロゴロと寝返りを打って身体の向きを変えてみるが、どうにもしっくりくる姿勢が見つからなかった。

 暗闇の中でチラリと時計の文字盤を見ると、針は既に日付を跨いでいる。


「ヤバい……、さすがにヤバい……」


 明日の朝のことを考えるほど、焦りで心臓の鼓動が速くなる。もし寝坊して遅刻でもしたら、母とカンナの怒りの雷が落ちることは確実だ。父は何も言わずに苦笑いするだけだろうが、それもまた気まずい。

 何とかして眠らなければと、目を瞑って羊の数を数え始める。だが、暗闇の中で思考だけが空回りする。そんな悪循環を繰り返していた、その時だった。

 部屋の外の廊下で、微かな物音がした。


(カンナ……?)


 ギィ、と静かにドアが開閉する音。音源は間違いなく、隣にあるカンナの部屋だ。続いて、トタトタと床を揺らす軽い足音が聞こえてくる。


(トイレか……?)


 寝ぼけ眼でそう結論づけようとしたが、足音は二階のトイレの前を通り過ぎ、そのまま階段を下りていってしまった。


──バタン。


 一階から、小さく玄関の扉が閉まる音が響いた。


(外!?)


 驚きのあまり、カイトはベッドから跳ね起きた。時計の針は午前二時を回っている。草木も眠る丑三つ時だ。こんな時間、マコト以上に真面目な姉が外へ出かけるなどあり得ない。

 居ても立ってもいられなくなり、カイトは部屋着のまま自室を飛び出し、階段を駆け下りた。

 一階の薄暗い玄関へ行き、タイルが敷かれた三和土たたきへ視線を落とす。


──カンナの靴だけが、忽然と消えていた。間違いなく外に出ている。


 カイトも自分のスニーカーに足を滑り込ませ、玄関の扉を押し開けた。鍵は掛かっていなかった。

 勢いよく夜の空気の中に飛び出したはいいが、外は街灯が点々と光るだけの深い闇だ。カンナがどちらへ向かったのか見当もつかない。


「クソッ! どこ行ったんだよ!!」


 キョロキョロと辺りを見渡すが、人っ子一人いない。不気味な静けさに怯み、大人しく家に戻ろうかと考えかけたその時、カイトの脳裏に、数日前の記憶が蘇った。


──そういえばこの間、昼間に妙な様子で歩いているカンナを見かけたことがあった。あの一瞬の隙に見失ってしまった時、彼女が歩いていた方向は……。


「確か、学校の方に向かってたような……」


 嫌な予感が胸を過る。カイトは意を決すると、深夜の通学路に向かって一気に駆け出した。





 夜の通学路は、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。だが、思いの外、幹線道路を行き交う車通りはある。こんな時間に子供が一人で走っていれば、嫌でも目立つだろう。もしかしたらカンナはすでに見つかって、警察に補導されているかもしれない。そんな考えが頭を過るが、今はとにかく真っ直ぐ学校に向かって走るしかなかった。

 幸いにも誰に声をかけられることもなく学校に辿り着くと、カイトは息を呑んだ。

 暗い校門の向こう──昇降口へ向かって、ふらふらと歩いていくカンナの後ろ姿を見つけたのだ。


「カンナーーッ!!」


 声を限りに呼びかけるが、届いていないのか、彼女は一度も振り返らない。

 連れ戻そうと駆け寄るが、カイトの前には頑丈な校門が立ち塞がっていた。当然、夜間の門はしっかりと閉ざされていて、びくともしない。


「あいつ、どうやって入ったんだ……?」


 そこそこ体格のあるカイトなら、門をよじ登って飛び越えるなど造作もない。だが、小柄なカンナでは、そんな芸当は難しいはずだった。

 胸を突く不気味な違和感を振り払うように、カイトは門に手をかけ、一気に飛び越えた。着地の衝撃も構わず、カンナを追いかけて真っ直ぐ昇降口へとひた走る。

 しかし、一足遅かった。

 カイトが辿り着いたときには、すでに彼女の姿はどこにもなかった。


「嘘だろ……っ!?」


 慌てて昇降口のガラス扉に手をかけ、激しく引く。だが、無情な金属音を立てるだけで、昇降口の扉には固く施錠されており、開かない。

 鍵は閉まっている。なのに、カンナは確かにこの昇降口の方向に消えた。

 カイトは誰もいない真っ暗な昇降口の前で、言葉を失ったまま、ただ立ち尽くすしかなかった。

2話目は今夜19時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ