【9話】ハイカラ食堂でいただきます!?
今回は、デパートでの食事です。
三越デパートの中を歩きながら、ミアは周囲をきょろきょろと見回していた。
「やっぱり大きいなぁ……」
高い天井、整然と並べられた商品。
着物姿の人もいれば、洋装の人もいる。
大正時代のデパート。
来る前は、もっと昔らしい場所を想像していた。
でも、実際に歩いてみると――
「……なんか、思ったより普通かも」
買い物を楽しむ人。
友達と楽しそうに話す女の子。
店員に商品の説明を聞くお客さん。
そこにあるのは、時代は違っても変わらない日常だった。
「昔の人も、おしゃれしたり、買い物したりするんだよね」
ミアは少し笑う。
令和とは違うところもある。
でも、人が楽しむ気持ちは変わらない。
そんなことを感じながら歩いていると、前からいい匂いが漂ってきた。
「……この匂い」
「ミアちゃん、着いたよ」
琴音の声に、ミアは顔を上げた。
「食堂だよ」
目の前には、広い入り口と大きな看板があった。
「食堂……」
ミアはその言葉を繰り返しながら、中を覗き込む。
そこには、たくさんの人が食事を楽しんでいた。
着物姿の女性もいれば、洋服を着た人もいる。
楽しそうな会話。
料理の香り。
店員が注文を聞く姿。
ミアは少し不思議な気持ちになった。
「……なんか、思ってたより今と変わらないんだね」
琴音は首を傾げる。
「ん?」
「もっと昔って感じだと思ってた」
ミアの言葉に、琴音は少し不思議そうな顔をした。
「昔って……?」
「あ、ごめん。なんでもない」
ミアは慌てて笑う。
琴音には、ミアが何に驚いているのか分からなかった。
けれど、楽しそうに周りを見ているミアを見ていると、なんだか自分まで嬉しくなった。
二人は入り口横に置かれたガラスケースの前で足を止めた。
中には、見本の料理がきれいに並べられている。
洋食の皿。 甘味。 色とりどりの飲み物。
「わぁ……」
ミアは思わず声を漏らした。
「これ、本物みたいに見えるけど……」
「食堂の料理を見せているんだよ」
琴音が説明する。
「へぇ……昔のショーケースって、こういう感じなんだ」
ミアは一つ一つ眺めながら悩んでいた。
「どれも美味しそう……」
隣では琴音も真剣な顔で考えている。
「琴音ちゃんは何にする?」
「うーん……」
二人でしばらく悩んでいると、ミアが笑った。
「今日は私のおごりだから、好きなの頼んでね」
「えっ……でも」
琴音は少し遠慮した。
「いいのいいの!」
ミアは財布を取り出した。
「おばあちゃんがお小遣いをくれたんだ」
「そうなの?」
「うん。それでね……」
ミアは少し嬉しそうに笑った。
「『友達にご馳走してあげなさい』って言ってくれたの」
琴音は少し驚いた顔をする。
「優しいおばあさんだね」
「うん。だから今日は琴音ちゃんに食べてもらいたいんだ」
ミアはもう一度、ガラスケースの中を見る。
「さて、どれにしようかな!」
ガラスケースを眺めながら、二人はしばらく悩んでいた。
「うーん……どれも美味しそう」
ミアは指を当てながら迷っている。
「これにしようかな」
ミアが指差したのは、サンドイッチとコロッケだった。
「サンドイッチとコロッケ?」
琴音が不思議そうに聞く。
「うん! どっちも食べてみたかったんだ」
ミアは嬉しそうに笑った。
「せっかく、デパートに来たんだからね」
琴音ももう一度、料理の見本を見る。
「私は……これにする」
琴音が選んだのは、ハヤシライスだった。
「ハヤシライス?」
「うん。名前は聞いたことがあるけど、食べたことがなくて」
二人は顔を見合わせる。
違う時代から来た二人が、同じ食堂で同じように料理を選んでいる。
ミアはそんなことが少し嬉しく感じた。
二人は料理を決めると、店員に案内されて席へ向かった。
広い食堂の中には、たくさんの人が座っている。
「いらっしゃいませ」
店員が注文を聞きに来る。
「サンドイッチとコロッケをお願いします」
「私はハヤシライスをお願いします」
二人が注文を終えると、店員は丁寧に頭を下げた。
「かしこまりました」
店員が離れていく。
ミアは店内を見回した。
「なんか不思議……」
「何が?」
琴音が首を傾げる。
「こういう場所って、もっと違う雰囲気なのかなって思ってた」
「そう?」
琴音は不思議そうに笑う。
「私はいつもの買い物の場所だけど……」
「そっか」
ミアは料理を待ちながら、周りを見渡した。
暫く話していると
「お待たせしました」
店員の声が聞こえた。
二人の前に、料理が運ばれてくる。
琴音の前には、湯気の立つハヤシライス。
そしてミアの前には、サンドイッチとコロッケが並べられた。
「わぁ……!」
ミアの目が輝く。
「美味しそう!」
二人は手を合わせる。
「いただきます」
琴音はスプーンを手に取り、ハヤシライスを一口食べる。
「……美味しい」
思わず笑顔になる琴音。
「よかった」
ミアも嬉しそうに笑った。
ミアもサンドイッチを手に取る。
パンに挟まれた具材を見ながら、楽しそうに頬張る。
「うん、美味しい!」
続いてコロッケにも箸を伸ばす。
サクッとした衣と、ほくほくした中身。
「やっぱりコロッケっていいね」
二人はそれぞれ注文した料理を楽しみながら、ゆっくりと食事を続けた。
しばらく食事を楽しんでいたミアは、ふと思いついたように手を止めた。
そして、サンドイッチを一つ手に取る。
「……」
その上に、コロッケをそっと乗せた。
琴音はその様子を見て、首を傾げる。
「ミアちゃん?」
「ふふっ、これこれ」
ミアは嬉しそうに笑う。
「こうすると美味しいんだよ」
サンドイッチにコロッケを挟み、一口食べる。
「……!」
そして満足そうな顔をした。
「やっぱりコロッケサンドは神だよね!」
琴音は目を丸くする。
「神……?」
「あ、ごめん。すごく美味しいって意味!」
ミアは慌てて笑った。
琴音は少し不思議そうにしながらも、その楽しそうな様子を見て微笑んだ。
「ミアちゃんは、本当に食べることが好きなんだね」
「うん!美味しいものは幸せになるから!」
「琴音ちゃん、一口食べてみる?」
ミアがサンドイッチを差し出した。
「えっ……いいの?」
「うん。絶対美味しいから!」
琴音は少し迷ったあと、そっと一口食べてみる。
パンに染み込んだソースの味。
そこに、コロッケのほくほくした中身と、衣のサクッとした食感が重なる。
「……!」
琴音の目が少し大きくなる。
「美味しい……」
思わず、もう一度味わうように噛みしめる。
「パンとコロッケって……こんな食べ方があるんだね」
「でしょ?」
ミアは嬉しそうに笑った。
「コロッケサンドは最高なんだから!」
琴音は不思議そうにミアを見る。
「ミアちゃんって、時々面白いことを考えるね」
「えへへ」
ミアは照れたように笑った。
食事を終え、二人は一息ついた。
「美味しかったね」
琴音が笑う。
「うん!」
ミアは満足そうに頷いた。
……けれど。
ふと、ミアの視線が入り口近くのガラスケースへ向く。
そこには、甘いものの見本が並んでいた。
「……」
琴音はその視線に気付く。
「ミアちゃん?」
ミアは少し笑った。
「んー、琴音ちゃん」
「なに?」
「デザート頼もう!」
琴音は少し首を傾げる。
「デザート?」
「あ、甘いもの!」
ミアは慌てて言い直す。
「食後に食べるやつ!」
「そういうことね」
琴音は納得したように笑った。
二人はまた、ガラスケースの前へ向かった。
「うーん……」
ミアは真剣な顔で悩む。
「何か足りないんだよね……」
琴音が首を傾げる。
「足りない?」
ミアは並んだ甘味を眺めていた。
そして、突然ぱっと顔を上げる。
「これだ!」
「え?」
ミアは店員に注文を伝える。
「みつ豆と……アイスクリームをお願いします」
琴音は少し驚いた。
「ミアちゃん、そんなに食べられるの?」
「大丈夫!」
ミアは笑う。
「ちょっと試してみたいことがあるの」
琴音は不思議そうに首を傾げた。
「?」
一方、琴音は悩んだ末に決めた。
「私は……ぜんざいをお願いします。」
「いいね!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
二人は席に戻り、甘味が届くのを待った。
しばらくすると、店員が甘味を運んできた。
「お待たせしました」
琴音の前には、温かなぜんざい。
そしてミアの前には、みつ豆と小さな器に入ったアイスクリームが置かれた。
「きた!」
ミアは嬉しそうに目を輝かせる。
琴音がぜんざいに手を伸ばそうとした時だった。
ミアがアイスクリームを手に取る。
「……」
そして、みつ豆の上へそっと乗せた。
「えっ?」
琴音は思わず声を漏らした。
「ミアちゃん……?」
みつ豆の上に、白いアイスが乗っている。
琴音には、なぜそうするのか分からなかった。
ミアは満足そうに笑う。
「これで完成!」
琴音は不思議そうに眺める。
「それ……混ぜるの?」
「うん!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
ミアはスプーンを手に取り、みつ豆とアイスを一緒にすくう。
「いただきます!」
一口食べた瞬間、ミアの顔がぱっと明るくなる。
「……うん!」
冷たいアイスの甘さ。
そこに、蜜の優しい甘さと、寒天や豆の食感が合わさる。
ミアは満足そうに頷いた。
「やっぱ、アイスみつ豆には勝てん……!」
琴音は首を傾げる。
「勝てない?」
「あ、ごめん。最高ってこと!」
ミアは笑いながら、もう一口食べる。
琴音は不思議そうにその様子を見ていた。
「琴音ちゃんも食べてみな!」
ミアは楽しそうにスプーンを差し出した。
「えっ……私も?」
琴音は少し戸惑う。
「うん。絶対美味しいから!」
琴音はミアの勢いに押され、そっとスプーンを受け取った。
みつ豆とアイスを一緒にすくう。
そして、一口。
「……!」
琴音の目が少し大きくなる。
冷たい甘さが口の中に広がる。
蜜の甘さ。 寒天のつるりとした食感。 そこにアイスの濃厚な味が重なる。
「……美味しい」
琴音は思わず呟いた。
「本当に?」
「うん……。最初は少し驚いたけど、合うんだね」
ミアは嬉しそうに笑う。
「でしょ? 甘いものと冷たいものって相性いいんだから!」
琴音はもう一度、みつ豆を眺めた。
「ミアちゃんって、不思議なことを考えるね」
二人は甘味を楽しみながら、楽しそうに話していた。
「やっぱり美味しいね!」
「うん。ミアちゃんが考えるものって、少し変わっているけど……美味しいね」
そんな二人の会話を、少し離れた席から見ている女性がいた。
洋装の服に身を包んだ、若い女性。
そして、ゆっくりと二人のテーブルへ近づいていく。
ミアと琴音が会話をしていると、女性は少し控えめに声をかけた。
「少し、宜しいかしら?」
ミアと琴音は顔を見合わせた。
見知らぬ女性からの突然の声かけに、二人は少し驚きながら振り返るのだった。
今回のお話では、大正時代のデパートと食堂を舞台にしました。
大正時代になると、都市部ではデパートが人々の憧れの場所になっていきました。
特に三越などの百貨店では、買い物だけではなく、店内の食堂で食事を楽しむことも人気でした。
当時のデパートの食堂は、ただ料理を食べる場所ではなく、家族や友人と出かける「特別な場所」でもありました。
洋食など、それまで一部の人しか味わえなかった料理を気軽に楽しめる場所として、多くの人に親しまれていったそうです。
現代のショッピングモールのフードコートのように、買い物の途中で食事を楽しむ文化は、この頃から少しずつ広がっていきました。
ミアが感じた「思ったより今と変わらない」という感覚は、昔の人も新しいものを楽しみ、友達や家族との時間を大切にしていた、という部分から生まれています。




