【8話】ハイカラなお買い物!?
話が進む内に方向性が変わりましたので、タイトル副題を変更しました。
障子から差し込む柔らかな陽の光で、ミアはゆっくり目を覚ました。
「んー……今日は買い物の日!」
勢いよく布団から起き上がる。
顔を洗い、鏡の前に立つと、用意された洋服を眺めた。
「今日は何を着ようかな。」
制服ではない、普段着を一枚ずつ手に取る。
「せっかくだし、可愛いのがいいよね!」
淡い色の洋服を選び、丁寧にを袖通す。
鏡の前でくるりと一回転。
「うん、いい感じ!」
髪も両側を軽く編み込み、リボンを結ぶ。
「よーし、準備完了!」
ミアは満足そうに笑うと、軽い足取りで部屋を出た。
身支度を終えたミアは食堂へ向かった。
「おはようございます、おばあちゃん。」
「おはようございます、美亜。今日はずいぶん早起きですね。」
「えへへ。今日は琴音ちゃんと買い物に行くから!」
朝食を軽く済ませると、おばあさんは小さな包みを取り出した。
「美亜。」
「なあに?」
「これを持っていきなさい。」
そう言って、ミアの手にそっと包みを乗せる。
「えっ、お小遣い?」
「ええ。自分のためだけではなく、お友達にも何かご馳走して差し上げなさい。」
「友達に?」
「人との縁は大切なものです。感謝の気持ちは、形にして伝えることも大事ですよ。」
ミアは包みを大切そうに握りしめた。
「ありがとう、おばあちゃん!」
「楽しんでいらっしゃい。ただし、暗くなる前には帰るのですよ。」
「はーい!」
元気よく返事をすると、ミアは待ち合わせ場所へ向かって駆け出した。
屋敷を出たミアは、朝の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「いい天気!」
街には店を開ける準備をする人たちの姿があり、行き交う人々もどこか穏やかだ。
「買い物って何処に行くんだろ。」
胸を弾ませながら歩いていると、やがて琴音の実家である喫茶店が見えてきた。
「あっ、琴音ちゃーん!」
店の前では、琴音が待っていた。
「おはよう、ミアちゃん。」
「おはよう! 」
店の中から琴音の父が顔を出す。
「おはよう、美亜ちゃん。」
「おはようございます!」
「今日はゆっくり楽しんでおいで。」
「はい!」
琴音は小さな手提げ鞄を持ち、にっこり笑う。
「それじゃあ、行こっか。」
「うん!」
二人は肩を並べ、賑わい始めた大正の街へと歩き出した。
二人は街を歩き、停留所へ向かった。
しばらくすると、チンチン――と鐘の音を鳴らしながら路面電車がやって来る。
「わぁ、本当に走ってる!」
ミアは目を輝かせた。
「ふふ。乗るの初めて?」
「うん!」
二人は電車に乗り込み、窓際の席へ腰掛ける。
窓の外には、大正の街並みがゆっくりと流れていく。
着物姿の人々、自転車で走る青年、人力車を引く車夫。
ミアは窓に顔を近づけた。
「なんか映画みたい!」
琴音は不思議そうに笑う。
「映画?」
「あっ、えっと……絵巻物みたいってこと!」
「ふふ、ミアちゃんって本当に面白いね。」
しばらく景色を眺めたあと、ミアは尋ねた。
「そういえば、今日はどこへ買い物に行くの?」
琴音は嬉しそうに答えた。
「デパートだよ。」
「デパート?」
「うん。お洋服や髪飾り、お菓子まで何でもあるの。」
ミアは目を輝かせる。
「えっ! デパートがあるの!?」
「もちろん。」
琴音は笑顔で頷いた。
「今日はきっと、ミアちゃんも気に入るものが見つかるよ。」
「楽しみー!」
路面電車は鐘を鳴らしながら、賑やかな街の中心へと走っていった。
路面電車を降りると、ミアは思わず足を止めた。
「わぁ……。」
目の前には、周囲の建物よりひときわ大きく、堂々とした建物がそびえ立っている。
レンガ造りの重厚な外観。
大きな窓が並び、入口には多くの人が出入りしていた。
「すごい……。」
思わず見上げるミア。
「ここがデパート?」
琴音はにっこりと頷く。
「うん。」
「三越だよ。」
その名前を聞いた瞬間、ミアは目を丸くした。
「えっ……三越!?」
何処かで聞いた事がある名前……。
現代でも何度も耳にしたことのある百貨店だった。
「まさか、もうこの時代からあるなんて……。」
ミアは感動したように建物を見つめる。
「どうしたの?」
琴音が不思議そうに尋ねる。
「あっ、ううん! こんな立派な建物を見るの初めてだから!」
「ふふ。中はもっとすごいよ。」
琴音は笑いながらミアの手を引く。
「さあ、行こっ!」
「うん!」
二人は期待に胸を膨らませながら、三越の大きな入口をくぐった。
入口には制服を着た店員が立ち、訪れる客へ丁寧に頭を下げている。
ミアはその姿を見て驚いた。
「店員さんがお出迎えしてる……ホテルみたい。」
店内を見た瞬間、ミアは足を止めた。
「……あれ?」
思わず周囲を見渡す。
広々とした吹き抜けの空間。 整然と並ぶ商品棚。 店員が丁寧に客へ声をかける姿。
見覚えがある。
現代のデパートと似ている――。
けれど、何かが違った。
照明の柔らかな明かり。 着物姿で買い物を楽しむ女性たち。 洋服や帽子、髪飾りが並ぶ売場。
同じ「デパート」という場所なのに、流れる空気はまるで別世界だった。
「不思議……。知ってる場所なのに、初めて見る感じ……。」
ミアは目を輝かせた。
「すごい……。」
ミアが呟いていると、
「ミアちゃん!」
琴音が声をかける。
「こっち!」
「え?」
琴音はミアの手を取ると、楽しそうに歩き出した。
「髪飾りを見に行こうよ。」
「髪飾り?」
「うん。新しいのが欲しかったの。」
琴音に引かれるまま、ミアは売場へ向かう。
そこには、色とりどりの髪飾りやリボン、かんざしが並んでいた。
「わぁ……!」
ミアの目が輝く。
琴音が髪飾りを一つずつ手に取りながら、鏡の前で合わせている。
「こっちも可愛い……でも、こっちも素敵。」
真剣に悩む琴音の姿を見て、ミアは微笑んだ。
「女の子って、いつの時代もこういうの好きなんだね。」
そう呟きながら、ミアも並んだ商品へ目を向ける。
そこには、色鮮やかなリボン、細工の施されたかんざし、小さな花をあしらった髪飾りが並んでいた。
「へぇ……。」
現代で見るアクセサリーとは違う。
派手なデザインではないけれど、一つ一つに手作りの温かさがある。
「かわいい……。」
ミアは小さな髪飾りを手に取る。
見慣れた「おしゃれ」というものなのに、どこか新鮮だった。
「昔って、全部不便だと思ってたけど……」
ミアは小さく笑う。
「こういうの、いいな。」
琴音は淡い色のリボンが付いた髪飾りを手に取った。
「これにしようかな。」
その横でミアは、小さなガラスケースに並ぶ色とりどりの飾りを見る。
「これ……自分で作れそう。」
小さなビーズや飾り紐を眺めながら、現代のハンドメイドショップとは違う、職人の作った素材の美しさに気づく。
「かわいい……。」
ミアはしばらく眺めたあと、ふと琴音に尋ねた。
「ねえ、琴音ちゃん。」
「なあに?」
「こういうのって……部品だけでも売ってるの?」
琴音は少し首を傾げた。
「部品?」
「えっと……自分で作るための材料みたいなもの。」
「ああ、それなら小物屋さんにあるよ。」
「本当!?」
ミアの目が輝く。
「リボンとか飾り紐とか、細かいものを売ってるお店があるの。」
琴音は買った髪飾りを大事そうに包んでもらいながら笑った。
「帰り道に寄ってみる?」
「いいの!?」
「うん。ここから近いから。」
「やった!」
ミアは嬉しそうに笑った。
琴音が髪飾りを買い終えると、二人はそのまま同じフロアを歩いていた。
「ここって……。」
ミアは周囲を見渡す。
「化粧品とか、アクセサリーのお店が多いね。」
並んだ棚には、白粉や紅、香水、小さな鏡。 その隣には、髪飾りや装飾品が綺麗に並べられている。
「女の人のおしゃれの場所なんだね。」
ミアは楽しそうに商品を眺めた。
現代のデパートと似た雰囲気がある。
でも、並んでいるものはどこか違う。
着物に合わせる小物。 上品な色合いの髪飾り。 小さな瓶に入った化粧品。
「なんか……不思議。」
「何が?」
琴音が振り返る。
「こういう場所って、昔も今も女の子が楽しい場所なんだなって。」
琴音は意味が分からず首を傾げたが、ミアは笑った。
一階の売場を歩き終えると、琴音はふと思い出したように言った。
「そうだ、ミアちゃん。」
「ん?」
「二階にも見たいものがあるの。」
「二階?」
「うん。洋服や小物があるから、見てみたいなって。」
琴音が指差した先には、上の階へ続く場所があった。
「行ってみる?」
「もちろん!」
ミアが頷くと、琴音は笑顔で歩き出す。
その先にあったのは、大きな扉のついた機械だった。
「……これ。」
ミアの目が止まる。
「エレベーター?」
琴音が振り返る。
「うん。上の階へ行くなら、これに乗るのが楽だよ。」
目の前には、金属の格子で囲まれた昇降機があった。
中の様子が見える。
現代で見慣れたものとは違う、どこか重厚で不思議な雰囲気。
やがて係員が格子の扉を開ける。
「どうぞ。」
二人が中に入ると、ミアは思わず周囲を見回した。
「すごい……。」
中はただの乗り物ではなかった。
木目の美しい壁に、磨かれた真鍮の手すり。 細かな装飾が施され、柔らかな明かりが室内を照らしている。
まるで小さな洋館の一室みたいだった。
「エレベーターって、こんなに綺麗なんだ……。」
ミアは格子越しに外を眺める。
扉が閉まり、ゆっくりと上へ動き出す。
「本当に動いた……。」
ミアは格子越しに遠ざかる一階の景色を眺めた。
ガタン、と小さな揺れ。
エレベーターはゆっくりと動く。
やがて、ゆっくりと音を立てて二階へ到着した。
「着いたよ、ミアちゃん。」
琴音の声に、ミアは笑顔で振り返った。
「うん!」
二階へ足を踏み入れると、一階とはまた違う華やかな空気が広がっていた。
洋服や帽子、手袋、革製の鞄が美しく並び、多くの女性たちが楽しそうに品物を眺めている。
「わぁ……。」
ミアは思わず周囲を見回した。
「洋服がいっぱい!」
琴音は微笑みながら頷く。
「この階は洋服や履き物が多いの。」
「見てるだけでも楽しいね!」
二人はゆっくりと売り場を歩いていく。
その時だった。
「……あっ。」
ミアの足がぴたりと止まる。
ガラスケースの奥に、一足の編み上げブーツが飾られていた。
深い茶色の革に、丁寧な縫い目。
少し高めの踵が、どこか上品で可愛らしい。
「かわいい……。」
思わず見入ってしまう。
現代でも履きたくなるような、おしゃれなブーツだった。
「気になるの?」
琴音が隣で尋ねる。
「うん……すごく可愛い。」
店員が優しく微笑みながら声をかける。
「よろしければ、お手に取ってご覧になりますか?」
「えっ、いいんですか?」
店員はケースからブーツを取り出し、そっとミアへ差し出した。
ミアは両手で大切そうに受け取る。
「軽い……。」
革の香りがほんのり漂う。
「素敵だね。」
琴音も嬉しそうに眺めている。
ミアは名残惜しそうにブーツを戻し、そっと値札へ目を向けた。
「……。」
思わず固まる。
「た、高い……。」
おばあちゃんからもらったお小遣いでは、とても手が届かない金額だった。
「やっぱり、おしゃれってお金がかかるんだ……。」
少しだけ肩を落とすミア。
けれど、すぐに小さく笑った。
「ううん。」
ブーツをもう一度見つめる。
「よし!頑張って働いて、お金を貯めよう!」
琴音はそんなミアを見て、くすっと笑う。
「ミアちゃんらしいね。」
「えへへ。」
「琴音ちゃんは何を見に来たの?」
琴音は洋服売り場で足を止めた。
「実は、この服を見に来たかったの。」
そう言って、淡い色の洋服へ視線を向ける。
ミアは隣に並びながら尋ねた。
「買うの?」
琴音は少し困ったように笑う。
「ううん。今日は見るだけ。」
「見るだけ?」
「いつか買えたらいいなって思ってるの。」
その言葉に、ミアは優しく頷いた。
「そっか。」
洋服売り場をひと通り見て回ると、二人はゆっくりと通路を歩いた。
そのとき――。
ぐぅ〜。
小さな音が響く。
「あっ……。」
ミアは照れくさそうにお腹を押さえた。
琴音がくすりと笑う。
「ふふ、お腹空いちゃった?」
「いっぱい歩いたからかな。」
ミアは頬をかきながら笑った。
琴音は時計に目をやると、小さく微笑んだ。
「もうお昼頃だね。」
ミアも周りを見渡すと、買い物客の姿が少しずつ食堂のある方へ向かい始めていた。
「本当だ。」
「そろそろ食堂に行こうか。」
「うん! お腹ぺこぺこ!」
二人は笑い合いながら、食堂のある階へ向かった。
「デパートの食堂って、どんな料理があるんだろう?」
「きっとミアちゃんも気に入ると思うよ。」
「楽しみ!」
二人は笑顔を交わしながら、賑わう食堂へと足を向けた。
大正時代のデパートは、買い物だけでなく食事や最新の流行を楽しめる、当時の人々にとって憧れの場所でした。作中に登場した三越も、この時代にはすでに営業しており、日本を代表する百貨店として多くの人で賑わっていました。




