【7話】ハイカラなお手伝い!?
ミアがバイトします。
放課後。 今日の授業を終えたミアは、琴音と一緒に学校を出た。
琴音は
「それじゃあ、私ん家に行こっか?」 「うん!」
ミアは笑顔で答える。
二人は賑やかな街並みを歩き、琴音の実家である喫茶店へ向かった。
「ただいま。」
琴音の父は、ミアたちを見ると穏やかに笑った。
「おう、お帰り。」
琴音は興奮気味に今日の出来事を話した。
「今日、体育でバレーボールをやったんだけど。」
「ミアちゃんの作戦で、大逆転したんだよ」
と嬉しそうに話す。
「それはすごいな」
琴音の父は感心したように頷いた。
ミアは
「お手伝いの件だけど、おばあちゃん良いって。」
「それは良かった。じゃあ少し手伝ってもらおうかな。」
「一度お家に帰って、おばあさまに報告してから来なさい。」
「家の方も安心できるからね」
「はい! わかりました!」
ミアは琴音と別れ、屋敷への道を歩いた。
「ただいまー!」
玄関を開けると、おばあさんが穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい、美亜。学校はいかがでしたか?」
「うん!楽しかったよ。」
「それは充実した一日でしたね。」
「あのね、おばあちゃん。」
ミアは少し姿勢を正した。
「これから琴音ちゃんのお父さんのお店を、お手伝いしてきていい?」
おばあさんは静かに頷いた。
「ええ。約束を守り、勉学に励むのであれば、何も心配はいりません。」
「ありがとう!」
「暗くなる前には、お帰りなさい。」
「はーい! 行ってきます!」
ミアは小走りで琴音の喫茶店へ向かった。
「よろしくお願いしまーす!!」
「おう、早かったな。」
琴音の父は笑顔で迎える。
「それじゃあ、まずは簡単な仕事からお願いしようか。」
「はい!」
ミアは元気よく返事をした。
「お客様が帰ったら、食器を下げて、テーブルを拭く。それと、水を運ぶ手伝いだ。」
「了解です!」
慣れない言葉遣いに自分で少し笑ってしまう。
「"了解"とは、面白い返事をするお嬢さんだな。」
琴音もくすりと笑う。
店内にはコーヒーの香ばしい香りが漂い、数人の客が静かに談笑していた。
ミアは教わった通りに食器を運び、丁寧にテーブルを拭いていく。
「ありがとう。」
お客様からそう声を掛けられると、自然と笑顔になった。
一仕事終えると、琴音の父が声を掛けた。
「よく頑張ったな。少し休憩しよう。」
そう言って、冷えたコップをカウンターに置く。
「今日は特別だ。」
ミアの目がぱっと輝く。
「アイスコーヒーだ!」
ミアの前に、氷の入った冷たいコーヒーが置かれた。
「ありがとう!」
グラスを手に取り、一口飲む。
「うーん! やっぱり美味しい!」
その様子を見て、琴音の父は満足そうに笑った。
「実はな。」
「この前、美亜ちゃんが教えてくれたアイスコーヒーを、試しに店の品書きへ加えてみたんだ。」
「えっ、本当に?」
「最初は珍しがるお客さんばかりだったが、一度飲んだ人が『もう一杯』と言ってくれてな。」
「思った以上によく売れてるよ。」
ミアは思わず笑顔になる。
「やったー!」
琴音も嬉しそうに言う。
「ミアちゃんのおかげだね。」
父は首を横に振った。
「いや、美亜ちゃんがきっかけをくれたんだ。新しいものを試してみるのも大切だと気付かされたよ。」
ミアは少し照れながら笑った。
「えへへ……役に立てたなら嬉しい!」
三人が楽しそうに話していると、
「すみません。」
店の奥からお客の声が聞こえた。
琴音の父が振り向く。
「はい、ただいま。」
すると、お客が品書きを見ながら言った。
「冷しコーヒーを一つお願いできますか。」
琴音の父は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。」
その様子を見たミアは、ぱっと立ち上がった。
「マスター! ワタシが持っていく!」
「おっ、やる気だな。」
「うん! 任せて!」
琴音は少し心配そうに笑う。
「ミアちゃん、こぼさないでね。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
ミアは胸を張る。
琴音の父は冷えたグラスに香り高いコーヒーを注ぎ、氷を入れてミアに手渡した。
「ゆっくり運べば大丈夫だからな。」
「はい!」
ミアは両手で大切そうにグラスを持ち、お客の席へ向かって歩き始めた。
ミアは両手でグラスを運び、テーブルへそっと置いた。
「お待たせしました。冷しコーヒーです。」
「ありがとう。」
席に座っていた男性は、手元のメモ帳に何やら書き込みながら、小さくぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
「主人公……名探偵…誰でも楽しめる…。」
ミアは思わず首をかしげる。
(この人、大丈夫かな……?)
男性はアイスコーヒーを一口飲むと、満足そうに息をついた。
「ほう……これは実に美味い。」
そして、ふとミアを見上げる。
「お嬢さん。」
「はい?」
「探偵と言えば、何を思い浮かべるかね?」
突然の質問に、ミアは目をぱちくりさせた。
「えっ? 探偵ですか?」
突然の質問に、ミアは少し考えた。
「うーん……やっぱりコナンかな。」
男性の目がわずかに輝く。
(ほう……コナン・ドイルか。)
(やはり、名探偵シャーロック・ホームズを思い浮かべるのだな。)
男性は満足そうに頷いた。
ミアは指を立てて得意げに言った。
「見た目は子供、頭脳は大人……かな!」
男性は一瞬、目を見開いた。
「見た目は子供……頭脳は大人……か。」
男はメモ帳に何かを書き込んだ。
「少年が探偵……か。面白い発想だ。」
(次の小説の題材に使えるかもしれないな。)
ミアはその様子を見て首をかしげる。
「……何か思いついた?」
「いやいや、お嬢さん。君の発想が少し面白かっただけだよ。」
男は笑いながら、冷しコーヒーをもう一口飲んだ。
ミアはカウンターへ戻った。
「ありがとうございました。」
「いらっしゃいませ。」
最初は少し緊張していた声も、いつの間にか自然になっていた。
注文を聞き、食器を片付け、テーブルを拭く。
慣れない仕事だったが、不思議と疲れよりも楽しさの方が大きかった。
(こういうの、なんかいいな……。)
お客様の笑顔を見ると、自然とこちらまで嬉しくなる。
しばらくして、店内が少し落ち着いた頃。
琴音の父が時計を見る。
「美亜ちゃん。」
「はい?」
「今日はこのぐらいで終わりにしようか。」
「えっ、もう?」
ミアは少し名残惜しそうに店内を見回した。
「初日だからな。無理をしてはいけない。」
「でも、楽しかったです!」
琴音が横で笑う。
「ミアちゃん、すっかり馴染んでたもんね。」
「本当?」
「うん!」
琴音の父は嬉しそうに頷いた。
「それなら良かった。今日は手伝ってくれてありがとう。」
琴音の父は小さな封筒を差し出した。
「これは今日のお礼だ。」
「えっ、でも……。」
「働いてくれた分だよ。受け取ってくれ。」
ミアは少し驚きながら封筒を受け取った。
「ありがとうございます!」
ミアは受け取った包みを大切そうにしまうと、店の外へ出た。
「今日はありがとうございました!」
「またいつでも手伝いにおいで。」
琴音の父が笑顔で見送る。
「うん!」
夕暮れの街には、温かな明かりが灯り始めていた。
「ミアちゃん。」
琴音が声をかける。
「明日は学校お休みだよね?」
「うん、そうだね。」
「じゃあさ……。」
琴音は少し笑って言った。
「一緒に買い物に行かない?」
「買い物?」
ミアの目が輝く。
「行く!」
琴音は思わず笑った。
「だって、この時代で買い物とか絶対楽しそうじゃん!」
「この時代?」
琴音は少し首をかしげる。
「変わった言い方するね、ミアちゃん。」
「あ、えっと……。」
ミアは慌てて笑った。
「ほら、新しい街を見るのが楽しみってこと!」
「じゃあ、明日の朝、ここで待ち合わせね。」
琴音は店の前を指差した。
「うん! 約束!」
ミアは笑顔で頷く。
「寝坊しないでね?」
「しないしない!」
自信満々に答えるミアを見て、琴音はくすりと笑った。
「じゃあ、また明日。」
「また明日!」
二人は手を振り、それぞれ帰る道へ向かった。
夕暮れの街を歩きながら、ミアは明日のことを考える。
(買い物かぁ……。)
(どんな服があるんだろう? 髪飾りとかも見てみたい!)
見慣れない大正の街並み。
けれど、少しずつこの時代での生活が楽しくなっている気がした。
屋敷に戻ると、すでに夕食の準備が整っていた。
「お帰りなさい、美亜。」
「ただいま!」
ミアは席につくと、温かな料理を前に手を合わせた。
「いただきます!」
その様子を見て、おばあさんは優しく微笑む。
食事が少し進んだところで、ミアは今日の出来事を話し始めた。
「おばあちゃん、今日ね。琴音ちゃんのお父さんのお店を手伝いでね……。」
ミアは今日の出来事を嬉しそうに話す。
「お客さんにアイスコーヒー運んだり、テーブル拭いたりしたんだ。」
「働くというのは、良い経験になりますね。」
おばあさんは頷いた。
「人に仕え、喜んでもらうことを知るのは大切なことです。」
「うん!」
ミアは笑顔で答える。
「それでね、今日のお礼って、お金ももらったの。」
「まあ。」
おばあさんは少し驚いたように目を細めた。
「それでね、おばあちゃん。」
ミアは箸を置くと、思い出したように話し始めた。
「明日、琴音ちゃんと買い物に行くんだ!」
「まあ、お友達とですか?」
おばあさんは穏やかに尋ねる。
「うん!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
「学校だけじゃなくて、もっと琴音ちゃんのこと知りたいし。それに、大正の街のお店も見てみたい!」
その言葉に、おばあさんは少し目を細めた。
「そうですか……。」
「美亜が、この場所で少しずつ馴染んでいるようで安心しました。」
「えへへ。」
ミアは照れくさそうに笑う。
「それにね、おばあちゃん。」
「なあに?」
「明日は可愛いもの、いっぱい見つけたい!」
その言葉に、おばあさんは小さく笑った。
「ふふ。美亜らしいですね。」
「ただし、くれぐれも琴音さんに迷惑をかけないように。」
「はーい!」
元気な返事が屋敷に響いた。
夕食を終えたミアは、自分の部屋へ戻った。
「ふぅ……。」
布団の上に座り、今日一日のことを思い返す。
学校での出来事。
琴音と過ごした時間。
そして、初めてのお手伝い。
「なんか……充実してるなぁ。」
ミアは小さく呟いた。
スマホもない。
見慣れた街もない。
それでも、少しずつこの時代で大切なものが増えている気がした。
ふと、明日の約束を思い出す。
「明日は買い物かぁ……。」
どんなお店があるのか。
どんな服や髪飾りがあるのか。
考えるだけで楽しくなる。
「楽しみ……。」
ミアは笑顔のまま布団に入り、ゆっくり目を閉じた。
明日の大正の街歩きに胸を弾ませながら――。
今回、ミアは喫茶店のお手伝いを始めました。
現代では「アルバイト」と呼ばれる働き方ですが、大正時代には現在のような学生アルバイトという形はまだ一般的ではありませんでした。
当時は「手伝い」「奉公」「店員」などの形で働くことが多く、給金も仕事によって月払い、日払いなど様々でした。
今回は、名家のお嬢様であるミアが社会経験として喫茶店を手伝う、という形にしています。
また、大正時代の喫茶店では
「冷しコーヒー」と呼ばれるものも登場し、喫茶店文化の広がりとともに親しまれていきました。




