【51話】ミア、社長から相談される!?
今回は朝ドラに乗ってみました
「ミアちゃん、これお願い」
「はーい」
ミアは受け取った皿を両手で持ち、店内を歩いていく。
「お待たせしましたー」
「ああ、ありがとう」
「ごゆっくりどうぞー」
皿を置いて、ミアは軽く頭を下げる。
「ミアちゃん、次は二番テーブル」
「了解!」
振り返ると、二番テーブルでは女学生が二人、何やら楽しそうに話している。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと……私は紅茶を」
「私はコーヒーをお願いします」
「はい、紅茶とコーヒーですねー」
注文を聞き終えると、ミアは伝票に書き込んだ。
「少々お待ちくださーい」
そう言って厨房へ戻る。
「……ふぅ」
ミアは小さく息を吐いた。
カラン、カラン。
喫茶店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー!」
ミアが振り向く。
「あ、記者さん」
「こんにちは、ミアちゃん」
女性記者は、一人の女性を連れて入ってきた。
「今日は二人ですか?」
「ええ。この人を紹介したくて」
「はじめまして」
「はじめましてー」
ミアは笑って頭を下げた。
「お席、こちらでーす」
二人を席へ案内する。
「ご注文は?」
「私はいつもの珈琲」
「私も珈琲を」
「はーい、珈琲二つですね」
ミアが厨房へ向かった。
「お待たせしましたー」
ミアが珈琲を二つ、テーブルに置いた。
「ありがとう」
女性記者がカップを受け取る。
「そうそう、紹介するわね」
隣の女性に目を向けた。
「こちら、宇野さん。京都から来てもらって、今ちょっとお手伝いしてもらってるの」
「宇野と申します。よろしくお願いします」
「ミアです。よろしくお願いします」
ミアは笑って頭を下げた。
「この子が、あの記事を書いているの」
女性記者がミアを見る。
「えっ……」
宇野は驚いたようにミアを見た。
「あの記事って……星でお店を評価している、あの記事ですか?」
「そうよ」
「京都にいた頃、読んだことがあります」
宇野は改めてミアを見る。
「この子が……?」
「そうよ」
「……女学生、ですよね?」
「そうですよー」
ミアは何でもないことのように笑った。
ミアは宇野の髪に目を向けた。
「あ、それ可愛い!」
「え?」
「その簪。めっちゃ可愛いじゃん」
宇野は髪に手をやった。
「これですか?」
「うん!」
ミアは嬉しそうに笑った。
「やっぱ京都って、可愛いのいっぱいあるんだねー」
ミアは宇野の簪を見ながら、嬉しそうに笑った。
宇野は少し意外そうにミアを見る。
「……可愛い、ですか?」
「うん!めっちゃ可愛い」
「あ!そうだ!」
「この前、浅草でチョコバナナ作って売ったんだよ」
「チョコバナナ?」
「そう! バナナにチョコをかけて売ったの」
「また、あなた面白いことを始めたのね」
「本当は、バナナ一本食べたかったんだけど流れでね」
女性記者は呆れたように笑った。
「それで売ってみたら、結構ウケちゃってさー」
「それと、演歌師さんとも歌ったんだよ」
「何の歌?」
「ゴンドラの唄!」
二人の会話は、いつまでも弾んでいた。
宇野は、二人の会話を呆気に取られたように聞いていた。
――なんて自由な子なんだろう。
女学生とは思えないミアの言動に、宇野はただ驚いていた。
宇野は少し考えてから、ミアに声をかけた。
「あの……今度、取材に行かれるとき、私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「もちろん! 一緒に行こうよ!」
ミアは嬉しそうに笑った。
宇野は思わず微笑む。
――この子と一緒なら、何か面白いものが見つかりそう。
女性記者は
「そういえば、この前、資生堂の社長さんから新しい化粧品の話があったので、取材に来ないかって言われたのよ」
「えっ、資生堂ですか?」
宇野が驚いて聞き返す。
「うん! ちょうどいいじゃん!」
ミアが嬉しそうに宇野を見る。
「じゃあ、今度は化粧品の取材に行こうよ!」
宇野は少し戸惑いながらも、頷いた。
「……はい。ぜひ、ご一緒させてください」
その日は、しばらく三人で談笑をして過ごした。
ミアの浅草での出来事を聞きながら、宇野も時々笑う。
やがて、次の取材の日を約束して、二人は店を後にした。
約束の日。
ミアと宇野、そして女性記者の三人は、銀座の資生堂を訪れていた。
「ここが資生堂なんですね」
宇野が建物を見上げる。
「うん! なんかおしゃれだねー」
「今日は新しい化粧品の取材ですからね」
女性記者が笑う。
三人が中へ入ると、店員が声をかけてきた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
三人は案内され、応接室へ通された。
「すごい……」
ミアは部屋を見回した。
宇野は少し緊張した様子で、椅子に腰を下ろした。
女性記者も隣に座り、三人は社長が来るのを待った。
しばらくすると、扉が開いた。
「失礼します」
入ってきた男性の顔を見て、ミアが目を見開いた。
「あっ!」
隣にいた女性記者も、男性の顔を見て驚く。
「あら……」
ミアが嬉しそうに声を上げた。
「香水のおじさん!」
「……香水のおじさん?」
宇野が驚いてミアを見る。
男性は一瞬きょとんとしたあと、すぐに笑った。
「覚えていてくれたか」
「もちろん! この前、香水売り場で会ったじゃん!」
「そうだったね」
女性記者も頷く。
「私も覚えています。香水を作っていらっしゃいましたよね」
「ええ。あの時は楽しかったですよ」
宇野は三人の顔を見比べた。
「あの……この方は?」
ミアが振り返る。
「この前、香水売り場で会ったおじさんだよ」
「……それは分かりましたけど」
宇野は困ったように笑う。
「なぜ、その方がここに?」
すると男性が穏やかに笑った。
「それは私から説明しましょう」
男性は三人の前に座る。
「改めまして。私は福原信三と申します」
女性記者が頭を下げる。
「よろしくお願いいたします」
宇野も慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
そしてミアも――
「よろしくね、香水のおじさん!」
「ははは……」
福原は苦笑した。
「今日は、その呼び方のままなのですね」
「だって、香水のおじさんじゃん」
女性記者が思わず笑う。
宇野は目の前の光景を見ながら、まだ状況を飲み込めていなかった。
そして、福原が続ける。
「実は私が、資生堂の社長をしております」
「えっ!?」
宇野が驚きの声を上げた。
ミアと女性記者も顔を見合わせる。
「社長だったんだ……」
「そうだったんですね……」
福原は楽しそうに笑った。
「あの時は、わざわざ名乗る必要もないと思いましてね」
「じゃあ、今回の件は?」
女性記者が尋ねる。
福原は三人を見渡した。
「今日は、新しい化粧品のご紹介と……」
そこで少し間を置く。
「皆さんに、ちょっとお知恵を拝借したくてね」
「お知恵?」
宇野が聞き返す。
福原は微笑んだ。
「ええ。それは……」
今回は、宇野千代さんについて少し。
宇野千代さんは、1897年(明治30年)に山口県で生まれた作家です。
岩国高等女学校を卒業後、小学校の教員を務め、その後上京。ホテルの給仕や記者などの仕事を経験しています。
1921年(大正10年)、『脂粉の顔』が時事新報の懸賞小説に入選したことをきっかけに、本格的に作家として活動するようになりました。
その後も小説家として活動するだけでなく、昭和には服飾雑誌『スタイル』を創刊するなど、文学以外の分野でも活躍しました。着物のデザインにも携わったことで知られています。
今回は、そんな宇野千代さんが大正時代にミアと出会ったら……というところから、この物語に登場してもらいました。
もちろん、本作での出来事やミアとの交流は、史実とは異なるフィクションです。
これからミアと宇野さんが、どんな話をするのか。
よろしければ、もう少しお付き合いください。




