【50話】ミア、路上ライブをする!?
今回はミアが歌います。
――放課後。
終業の鐘が鳴り、教室に帰り支度をする生徒たちの声が広がっていた。
ミアは鞄を手にすると、琴音の席へ向かう。
「琴音!」
「ん?」
琴音が振り返る。
ミアはニコッと笑った。
「今日さ、浅草行かない?」
「また浅草?」
「うん!」
ミアは楽しそうに頷く。
「この前行ったとき、まだ見てないところいっぱいあったじゃん!」
「確かに……」
琴音は少し考える。
「何か気になるものでもあるの?」
「それは行ってからのお楽しみ!」
「ミアちゃん、それって考えてないってことだよね?」
「えー、そんなことないって!」
ミアは笑いながら、琴音の腕を取る。
「ほら、早く行こ!」
「ちょ、ちょっと待ってよー!」
二人が浅草に着くと、通りには今日も大勢の人が行き交っていた。
「やっぱ浅草っていいねー!」
ミアは楽しそうに辺りを見回す。
「前に来たときとは、また雰囲気が違いますね」
琴音も周囲を眺めながら歩いていると――
「さあさあ、寄ってらっしゃい! 見ていっておくれ!」
聞き覚えのある威勢のいい声が響いてきた。
「……ん?」
ミアが足を止める。
「この声……」
二人が声のする方へ目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。
「あっ!」
ミアが声を上げる。
「この前のバナナのおじさんじゃん!」
台の前では、あの日のバナナ売りのおじさんが、今日も元気よく声を張り上げていた。
「おう! 嬢ちゃんじゃねえか!」
おじさんもミアに気づき、嬉しそうに笑う。
「また来たのか!」
「うん!ちょっとお買い物に」
おじさんはミアたちを見ると、ニッと笑った。
「おう、嬢ちゃんたち!気を付けてなー!」
威勢のいい声が、浅草の通りに響き渡る。
「うん! おじさんも頑張ってねー!」
ミアと琴音は、おじさんに手を振ると、浅草の町を並んで歩き始めた。
「今日はどこ行く?」
「ミアちゃんが誘ったんでしょう?」
琴音が笑う。
「あ、そうだった!」
ミアは楽しそうに辺りを見回す。
すると――
どこからか、音楽が聞こえてきた。
♪~
「……ん?」
ミアが足を止める。
「琴音、なんか聞こえない?」
「ええ。音楽だね」
二人は顔を見合わせる。
三味線の音色が、浅草の通りにゆっくりと響いている。
「なんだろ?」
ミアは音のする方へ歩き出した。
「ちょっと見てみようよ!」
「ミアちゃん、待ってよー!」
琴音も慌てて後を追う。
二人が角を曲がると――
そこには、一人の演歌師のおばさんが立っていた。
三味線を弾きながら、静かに歌っている。
ミアは、その歌声を聞いた瞬間――
「……あれ?」
どこか聞き覚えのあるメロディーに、思わず耳を澄ませた。
琴音が不思議そうにミアを見る。
「どうしたの?」
「この曲……聞いたことある」
「知ってる曲なの?」
ミアは首を傾げる。
「うーん、曲の名前は知らないけど……」
しばらく三味線の音を聞いていると、ミアの記憶の中に、昔見たコマーシャルの映像が浮かんできた。
「あっ! コマーシャルでやってたやつだ!」
「コマーシャル?」
琴音が不思議そうな顔をする。
「何でもない!なんか聞いたことあるんだよね!」
ミアは嬉しそうに笑うと、演奏に合わせて小さく身体を揺らし始めた。
ミアはしばらく黙って、演歌師のおばさんの歌声に耳を傾けていた。
三味線の音色に合わせて響く、その声は――思っていたよりずっと綺麗だった。
「……うまい」
思わずミアが呟く。
琴音も静かに演奏を聞いていた。
「本当に綺麗な声だね」
「うん……」
ミアは演歌師から目を離さない。
どこか懐かしくて、それでいて令和で聞いていた歌とは少し違う。
三味線の音と歌声が重なり、浅草の通りにゆっくりと響いている。
ミアはその歌を聞きながら、ふと笑った。
「なんか……いいね、これ」
するとミアは、何かを思いついたように顔を上げた。
「……よし!」
「ミアちゃん?」
琴音が声をかけるより早く、ミアは演歌師の方へ小走りで向かっていった。
「すみませーん!」
演歌師が三味線を弾く手を止め、ミアを見る。
「ん? お嬢ちゃん、どうしたい?」
ミアは目を輝かせながら、おばさんの前で立ち止まった。
「おばさん、この歌……わたしも歌っていい?」
演歌師は少し不思議そうな顔をしたが、やがて笑った。
「まあ、いいけど」
「やったー!」
ミアは嬉しそうに両手を上げた。
少し離れたところで見ていた琴音は、思わず苦笑する。
「もう……ミアちゃんったら」
ミアは演歌師の隣に立つと、少しだけ息を吸った。
「じゃあ、いくね!」
演歌師が三味線を構える。
♪~
三味線の音が、再び浅草の通りに響き始めた。
ミアは少しだけ目を閉じる。
そして――
「♪ いのち短し 恋せよ乙女~」
ミアが歌い始めた。
演歌師が、ちらりとミアを見る。
ミアの歌い方は、おばさんが知っている歌い方とは少し違っていた。
当時の歌のリズムよりも軽く、伸びやかで、どこか現代的な歌い方。
「♪ 朱き唇 褪せぬ間に~」
三味線のリズムと、ミアの歌声が少しずつずれていく。
演歌師は一瞬戸惑ったものの――
すぐにミアの歌声に合わせるように、三味線の弾き方を変えていった。
♪~
「♪ 熱き血潮の 冷えぬ間に~」
ミアの歌声に、三味線がぴたりと寄り添っていく。
「……!」
琴音が目を丸くする。
演歌師は楽しそうに笑っていた。
「なるほどねぇ……そういう歌い方かい」
ミアは嬉しそうに笑いながら、さらに声を張る。
「♪ 明日の命は ないものを~」
三味線と歌声が、いつの間にか一つの音楽になっていた。
通りを歩いていた人たちも、次々と足を止め始める。
「なんだなんだ?」
「女の子が歌ってるぞ」
琴音は人だかりを見回しながら、小さく呟いた。
「また始まっちゃった……」
ミアはそんなことには気づかず、楽しそうに歌い続けていた。
ミアが歌い続けていると――
♪ いのち短し 恋せよ乙女~
チャリン。
足元に置かれたお椀に、小銭が落ちる。
ミアは歌を止めず、そのまま歌い続ける。
♪ 朱き唇 褪せぬ間に~
チャリン。
また一枚、小銭が入る。
三味線の音色に合わせて、ミアの歌声が浅草の通りに響いていく。
♪ 熱き血潮の 冷えぬ間に~
チャリン。
さらに小銭が落ちる。
演奏を聴いていた人たちも、次々と足を止め、ミアたちを取り囲むように集まり始めていた。
ミアは人だかりにも気づかず、楽しそうに歌い続けていた。
最後の一節を歌い終える。
♪ 明日の命は ないものを~
三味線の音が、最後の一音を残して止まった。
一瞬、浅草の通りが静かになる。
そして――
パチパチパチパチ!
集まっていたお客さんから、大きな拍手が起こった。
「おおー!」
「上手いぞ!」
「いい歌だった!」
ミアは少し驚いたように目を丸くしてから、嬉しそうに笑った。
「えへへ……」
琴音も拍手をしながら、ミアを見つめていた。
拍手が落ち着くと、演歌師は足元のお椀を見た。
そこには、たくさんの小銭が入っていた。
演歌師は少し驚いたように笑う。
「あんた、才能あるよ」
そう言って、演歌師は集まったお金をミアに差し出した。
「これ、あんたが歌った分だ。持っていきな」
「え? いいよ、そんなの」
ミアは首を横に振る。
「私、歌いたかっただけだから!」
おばさんは少し驚いた顔をしたあと、嬉しそうに笑った。
「そうかい……」
ミアはニコッと笑うと、演歌師に尋ねた。
「ねえ、おばさん」
「ん?」
「またここに来たとき、歌わせてくれる?」
演歌師は少し笑って、頷いた。
「ああ、いいよ」
「やったー!」
ミアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また来るね!」
「ああ、待ってるよ」
ミアは演歌師に手を振ると、琴音のところへ戻った。
「ミアちゃん、歌、上手かったよ」
「ほんと?」
ミアは嬉しそうに笑う。
「うん。久しぶりにカラオケしたなー!」
ミアは満足そうに伸びをした。
「やっぱ歌うのって気持ちいいね!」
琴音はそんなミアを見て、クスッと笑った。
「カラオケ……?」
「何でもない!」
ミアは元気よく答えた、
ミアは浅草の通りを歩きながら、ふと足を止めた。
西の空には、夕日がゆっくりと沈み始めている。
「まさか、大正に知ってる歌があるとは思わなかったなー」
ミアは夕日に目を細めながら、今日歌った歌を思い出す。
「なんか、不思議な感じ……」
琴音も隣に立ち、同じように夕日を眺めた。
浅草の町に、夕暮れの光が静かに広がっていく。
今回は、浅草で出会った「演歌師」と、今回登場した歌について少し。
演歌師は、三味線などを弾きながら歌を披露し、街頭などでお客さんからお金をもらっていた芸人です。
大正時代の浅草では、こうした芸能を楽しむ人々の姿も見られました。
そして今回ミアが歌ったのは、「ゴンドラの唄」。
大正時代に作られた流行歌で、映画『生の輝き』の主題歌として知られるようになった曲です。
この歌は大正時代の歌ですが、令和になってからも映画やCMなどで使われたり、現代のアーティストによって歌われたりしています。
そのため、ミアが令和でこの曲を耳にしていた、という設定にしてみました。
今回は、そんな大正時代の歌を、令和ギャルのミアが現代風の感覚で歌ってみたら……というお話でした。
大正の三味線と令和ギャル。
時代が違っても、音楽は一緒に楽しめる――そんな感じで50話を締めてみました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!




