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ハイカラにギャルが転生!〜令和ギャルの大正暮らし〜  作者: がお


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5/22

【5話】海老で鯛を釣る!?

意外とこの時代ってお洒落ですね。

夕暮れの街を歩きながら、ミアは何度も考えていた。

(どうしようかな……)

頭に浮かぶのは、さっきの喫茶店。

『珈琲亭 椿』

優しい雰囲気のお父さん。 楽しそうに働く琴音。 そして、自分が作ったアイスコーヒーを美味しいと言ってくれたこと。

(なんか……いいな、あそこ)

現代では当たり前だったものが、この時代では新しいものになる。

それが少し不思議で、少し楽しかった。

「……バイト、したいな」

思わず小さくつぶやく。

ミアは空を見上げた。

夕焼けに染まった空は、現代で見るものと同じはずなのに、どこか違って見えた。

やがて、見慣れ始めた屋敷が見えてくる。

門をくぐり、玄関を上がると、いつものように静かな屋敷の空気が迎えてくれた。

(さて……どう言おうかな)

ミアは鞄を持ったまま、少しだけ立ち止まる。

その日の夕食。

いつも通り、静かな食卓。

箸を進めながら、ミアは何度もタイミングをうかがっていた。

(今かな……)

(いや、まだかな……)

そして、意を決して口を開く。

「ねえ、おばあちゃん」

向かいに座るおばあさんが顔を上げる。

「何ですか、美亜?」

ミアは少しだけ姿勢を正した。

「お願いがあるんだけど……」

おばあさんは、箸を置いてミアを見る。

「何ですか?」

ミアは少しだけ迷ったあと、口を開いた。

「……お店のお手伝いをしたいんだけど」

一瞬、食卓が静かになった。

「お店……?」

おばあさんは、意味を確かめるように聞き返す。

「うん。今日、友達のお父さんのお店に行ったの」

ミアは珈琲亭 椿での出来事を話し始めた。

アイスコーヒーのこと。 琴音のこと。 お父さんが楽しそうに作ってくれたこと。

おばあさんは黙って聞いていた。

そして、ミアが話し終えると――

「……美亜」

「はい」

「……いけません」

おばあさんの返事は早かった。

「え?」

ミアは目を丸くする。

「なぜ?」

「あなたは、この家の娘です」

「外で働くということが、周囲からどう見られるか……それも考えなければなりません」

ミアは黙って聞いていた。

現代なら「やりたいならやればいい」で終わる話かもしれない。

でも、この時代では違う。

「……そっか」

小さくつぶやく。

「分かった」

おばあさんは少し驚いたように目を細めた。

「美亜?」

「今日はもういい」

ミアはそう言って、箸を置いた。

「急に言ってごめんね」

そう言うと、席を立つ。

部屋に戻る廊下を歩きながら、ミアは小さく息を吐いた。

(やっぱり、簡単にはいかないか)

でも、不思議と諦める気にはならなかった。

(……でも、あのお店、また行きたいな)

そう思いながら、ミアは自分の部屋へ向かった。

部屋に戻ったミアは、ベッドに腰を下ろした。

「はぁ……」

おばあさんの言葉を思い出す。

反対された理由は分かっていた。

自分が名家のお嬢様で、この時代ではそれが簡単なことではないことも。

「でも……やってみたいんだよね」

ミアは天井を見上げる。

どうしたら、おばあさんを説得できるだろう。

「ちゃんと学校も行くし、迷惑もかけないって言えば……」

小さく呟きながら考える。

しかし、なかなか答えは出なかった。

「……明日、もう一回考えよ」

そう言って布団に入る。

ミアは、どう説得するか考えながら、静かに眠りについた。


翌朝。

「……眠い」

ミアは鏡の前で制服を整えた。

昨日の夜、あれこれ考えていたせいで、なかなか眠れなかった。

それでも、昨日教えてもらった通り何とか制服に着替えて鞄を持つ。

「行ってきます」

玄関で声をかけると、屋敷を出た。

朝の街は、昨日とはまた違う表情を見せている。

人力車が通り、通学する女学生たちの声が聞こえる。

(どうしたら、おばあちゃん納得してくれるかな……)

考えながら歩いていると――

「ミアちゃん!」

後ろから聞き慣れた声がした。

振り返ると、そこには琴音が立っていた。

「琴音ちゃん」

琴音は笑顔で駆け寄ってくる。

「おはよう」

「おはよ」

二人は並んで学校へ向かって歩き始めた。

琴音がふと思い出したように口を開いた。

「そういえば、ミアちゃん」

「ん?」

「昨日言ってた、お店のお手伝いのことなんだけど……」

ミアは少しだけ表情を曇らせた。

「あー……」

そして、小さく笑う。

「やっぱりダメだった」

「え?」

琴音が驚いた顔をする。

「おばあちゃんにお願いしたんだけどね」

「ミアちゃんのおばあさん?」

「うん。やっぱり、ワタシがそういうことするのは駄目みたい」

ミアは肩をすくめる。

「名家のお嬢様だからって」

琴音は少し黙って、ミアの顔を見る。

「やっぱり、そうなるよね。」

その声には、少し残念そうな響きがあった。

学校に着くと、いつものように教室は女学生たちの声で賑わっていた。

「おはよう、ミアちゃん」

「おはよー」

琴音と別れ、それぞれ席につく。

授業が始まると、ミアは黒板へ視線を向けながらも、時々ぼんやりしていた。

(どうしたら、おばあちゃん納得してくれるかな……)

昨日から考えていることが、頭から離れない。

気づけば午前の授業は終わり、昼休みになった。

教室には、お弁当を広げる音や楽しそうな会話が広がる。

琴音が自分の席からミアへ声をかける。

「ミアちゃん、お昼一緒に食べよ」

「うん」

琴音に声をかけられ、ミアは机を寄せる。

二人が弁当を広げる少し離れた席では――

「まあ!」

突然、誰かの声が響いた。

視線を向けると、伊集院が取り巻きの令嬢たちに囲まれながら、優雅に弁当を開いていた。

「伊集院さん、それは……」

「エビフライですの?」

弁当箱の中には、綺麗に盛り付けられた大きなエビフライ。

周囲の令嬢たちは目を輝かせる。

「洋食のお料理ですわね」

「ご家庭で作られるなんて、さすがですわ」

伊集院は騒ぐ周囲を見て、少しだけ微笑む。

「料理人が作っただけですわ」

さらりと言うが、その様子はこの学校でも特別な存在であることを感じさせた。

その様子を見ていたミアは、思わず呟く。

「エビフライ……」

「ミアちゃん、知ってるの?」

琴音が首をかしげる。

「うん。まあ……」

ミアは言葉を濁した。

(エビフライって、そんなに珍しいものなの?)

ミアは伊集院の弁当を見ながら、首をかしげた。

「ねえ、琴音ちゃん」

「ん?」

「エビフライって、そんなに珍しいの?」

琴音は少し驚いた顔をする。

「え?」

「いや、みんなすごい反応してるから」

琴音は伊集院の方を見る。

「エビフライは洋食のお料理だからね」

「洋食……」

「それに、家で作るには材料も手間もかかるから、普通のお弁当にはあまり入らないと思う」

ミアはもう一度、伊集院の弁当を見る。

(そっか……)

琴音は

「伊集院さんのお家って、やっぱりすごいんだね」

ミアは伊集院の弁当を見ながら、しばらく考えていた。

その瞬間――

「あ」

ミアの目が少しだけ開く。

「ミアちゃん?」

琴音が不思議そうに首をかしげる。

ミアは琴音を見ると、にっと笑った。

「ねえ、琴音ちゃん」

「なに?」

「今日、学校終わったら買い物付き合って!」

「え?」

突然のお願いに、琴音は目を丸くする。

「買い物?」

「うん。ちょっと夕飯の買い物をしたいんだ」

ミアは楽しそうに笑う。


放課後。

授業が終わると、ミアは鞄を持って琴音の席へ向かった。

「琴音ちゃん、お願いしてたことなんだけど」

「買い物だよね?」

ミアは笑顔で立ち上がる。

「うん!」

二人は並んで学校を出た。

夕方の街には、仕事帰りの人や買い物をする人の姿が見える。

「何を買うの?」

琴音が尋ねる。

ミアは少し考えながら答えた。

「エビ」

「エビ?」

琴音が首をかしげる。

「あと……パン粉かな」

「パン粉?」

琴音は不思議そうな顔をした。

ミアは慌てて笑う。

「あ、ごめん。料理に使うもの」

「何を作るの?」

「それは……ヒミツ」

ミアは楽しそうに笑った。

昨日は断られてしまった。

でも、ただ諦めるつもりはなかった。

(おばあちゃんに、ちゃんと分かってもらうんだから)

そう思いながら、二人は夕暮れの街へ歩いていった。

二人は商店が並ぶ通りへやってきた。

店先には野菜や魚が並び、威勢のいい声が飛び交っている。

「いらっしゃい!」

現代のスーパーとは違う、活気のある空気。

ミアは周囲を見回した。

(ほんとに昔の市場って感じ……)

琴音は慣れた様子で店を見て回る。

「あ、ここならあるかも」

魚屋の前で足を止めた。

「すみません」

琴音が声をかけると、店の主人が振り向く。

「いらっしゃい。何をお探しで?」

「エビはありますか?」

「エビならあるよ」

店主が見せてくれたのは、小ぶりなエビだった。

ミアはそれを覗き込む。

「これで大丈夫かな……」

「何を作るんだい?」

店主が興味深そうに聞く。

ミアは少し迷ったあと、笑った。

「ちょっと、新しい料理を作ってみたいんです」

店主は面白そうに笑う。

「へえ、そりゃ楽しみだね」

琴音がエビを選び、買い物を終える。

次に向かったのは――

「珈琲亭 椿」

昨日訪れた喫茶店だった。

「お父さん、ただいま」

琴音が扉を開ける。

「おや、お帰り」

父親が顔を上げる。

ミアは軽く頭を下げた。

「こんにちは」

「昨日ぶりだね、美亜さん」

穏やかな笑顔。

ミアは少し緊張しながら口を開く。

「あの……お願いがあるんですけど」

「何かな?」

「パン粉って、ありますか?」

父は一瞬だけ目を瞬かせた。

「パン粉?」

「はい。料理に使いたくて」

すると父は、少し考えてから笑った。

「あるよ」

奥から袋を持ってくる。

ミアは受け取ろうとして、財布を出そうとした。

すると――

「それは、お代はいらないよ」

「え?」

「昨日のアイスコーヒーのお礼だ」

父は優しく笑う。

「ありがとうございます!」

ミアは笑顔でお礼を言った。

買い物を終えると、夕方の街は少しずつ暗くなり始めていた。

ミアは手に持った袋を見つめる。

「これで……大丈夫かな」

隣で琴音が微笑む。

「きっと大丈夫だよ」

その言葉に、ミアも少し笑った。

「琴音ちゃん」

「ん?」

「今日は付き合ってくれてありがとう」

ミアが頭を下げると、琴音は慌てて手を振る。

「そんな、大したことしてないよ」

「でも、助かった」

ミアは笑顔で言った。

「じゃあ、また明日ね」

「うん。また明日」

二人はそこで別れる。

ミアは一人、夕暮れの道を歩き始めた。

手には、買った材料。

そして胸の中には、小さな決意。

(今度こそ、おばあちゃんに分かってもらうんだから)

そう思いながら、ミアは家路についた。


家に着くと、ミアは玄関を開けた。

「ただいま」

すると、奥からおばあさんの声が聞こえる。

「お帰りなさい、美亜」

いつもの穏やかな声。

「今日は少し遅かったですね」

ミアは少しだけ笑う。

「うん。琴音ちゃんと買い物してた」

そう言いながら、手に持った袋を見せる。

おばあさんは不思議そうに首をかしげた。

「買い物……?」

ミアは少し得意げに笑った。

「今日のおかずは、ワタシが作るね」

「……美亜が?」

おばあさんは少し驚いた表情を見せる。

ミアは頷く。

「うん。任せて」

そう言うと、ミアは袋を持って台所へ向かった。

台所には、すでに炊きたてのご飯と味噌汁が用意されていた。

「じゃあ、あとはおかずだけだね」

ミアは買ってきた袋を開ける。

中から取り出したのは、小さなエビ。

(伊集院さんのとは違うけど……)

昼間見た、大きなエビフライを思い出す。

(大事なのは、高いものを使うことじゃない)

この時代で、自分にできることを見せること。

ミアは気持ちを切り替えた。

エビの下ごしらえをして、衣をつける。

小麦粉、卵、そしてパン粉。

最後に油に入れる。

じゅわっ。

小さなエビが揚がる音が、静かな台所に響いた。

香ばしい匂いが広がる。

「……いい感じ」

ミアは揚がったエビフライを皿に盛り付ける。

見た目は伊集院の豪華なものとは違う。

でも、自分で考えて作った料理だった。

(これなら……)

ミアは小さく頷いた。

台所から漂う香りに、おばあさんが顔を上げた。

「あら……いい匂いですね」

ミアは少し得意げに笑う。

「でしょ?」

そう言いながら、出来上がった料理を食卓へ運ぶ。

「今日はエビフライだよ」

おばあさんは皿を見る。

「エビ……ですか」

「うん。ちょっと作ってみたかったんだ」

ミアは満足そうに頷く。

二人は向かい合って座り、夕食を始める。

炊きたてのご飯。

温かい味噌汁。

そして、揚げたてのエビフライ。

ミアは少しだけ緊張しながら、おばあさんの様子を見る。

「……」

おばあさんは一口食べ、静かに箸を置いた。

ミアは少し照れながら、箸を動かす。

「まあ……洋食屋さんみたいにはいかないけどね」

少し小さめのエビフライを見ながら、苦笑する。

「でも、自分で作ったから」

おばあさんはゆっくりと一口食べた。

しばらく味わうように黙っていたが――

「……美味しいですね」

その一言に、ミアの表情が明るくなる。

「ほんと?」

「ええ」

おばあさんは微笑む。

「外で食べる料理とは違いますが、丁寧に作ったことが伝わります」

ミアは少し嬉しそうに笑った。

おばあさんは、箸を置くとミアを見る。

「美亜」

「ん?」

「このような料理……どこで覚えたのですか?」

ミアは少し考える。

「えっと……」

少し迷ってから、答える。

「前の家で」

「前の家?」

「うん。お母さんが仕事で帰りが遅いことが多かったから」

ミアは少し笑う。

「だから、ご飯は自分で作ることが多かったんだ」

おばあさんは黙ってミアの話を聞いていた。

「最初は簡単なものだけだったけど……作ってるうちに、いろいろ覚えたの」

そう言って、ミアはエビフライを見る。

「料理って、楽しいんだよね」

おばあさんは少し目を細めた。

「でも、別に寂しかったわけじゃないよ」

おばあさんが顔を上げる。

「友達も多かったし」

「それに、前の家でもお店のお手伝いみたいなことをしてたから」

「お手伝い?」

「うん。働くっていうより、いろいろ手伝ったり、人と話したりするのが好きだったんだ」

ミアは楽しそうに続ける。

「だから、料理もそうだけど……人と関わるのって好きなんだよね」

おばあさんは静かに聞いていた。

昨日とは違う。

ただ「働きたい」と言っているのではない。

美亜は、自分のやりたいことをちゃんと考えているのだと。

おばあさんは、しばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「美亜」

「はい」

「昨日のお話ですが……」

ミアの手が止まる。

「お店のお手伝いをしたい、という話です」

ミアは少し身構える。

「……うん」

おばあさんは穏やかに微笑んだ。

「お手伝いしても、よろしいですよ」

「え?」

ミアは思わず顔を上げる。

「本当に?」

「ええ」

おばあさんは頷く。

「ただし、学校を疎かにしないこと。そして、家の名に恥じない振る舞いをすること」

ミアの表情がぱっと明るくなる。

「うん!」

「ありがとう、おばあちゃん!」

嬉しそうに笑うミアを見て、おばあさんも小さく微笑んだ。

「さあ、冷めないうちに食べましょう」

「うん!」

ミアは嬉しそうに頷き、箸を持つ。

揚げたてだったエビフライも、少し時間が経てば衣が落ち着いてくる。

二人はゆっくりと食事を続けた。

「そういえば今日の授業なんだけどね」

ミアが話し始める。

「国語、やっぱり難しいんだよね」

おばあさんは微笑みながら聞いている。

「あとね、昼休みに伊集院さんのお弁当にエビフライが入ってて……」

「まあ」

「みんなすごい騒いでたんだよ」

ミアは楽しそうに今日あったことを話す。

学校のこと。

琴音のこと。

街で見たもの。

昨日までなら少し遠かった大正の生活が、少しずつ自分の日常になっていく。

ミアは明日、琴音のお店へ行くことを考えながら、少しだけ胸を弾ませていた。

今回登場したエビフライですが、大正時代には現在のような一般的な家庭料理ではなく、洋食文化の広まりとともに知られるようになったハイカラな料理でした。

エビ自体は昔から食べられていましたが、大きなエビを使ったフライは特別感のある料理でした。

作中では、ミアがこの時代で手に入る材料を使い、自分なりに工夫して作った料理として描いています。

時代が変わると、当たり前のものが新しいものになる。そんな違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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