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ハイカラにギャルが転生!〜令和ギャルの大正暮らし〜  作者: がお


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4/22

【4話】バイトする!?

タイトルにハイカラさんを使えないのが辛い(笑)

廊下は思ったより長かった。

窓から入る光が、木の床に細く伸びている。

(なんか急に静かすぎない?)

さっきまでの教室のざわめきが、もう遠い。

足音だけがやけに響く。

「校長室ってこんな奥なの……?」

小さくつぶやくが、返事はない。

角を曲がるたびに、空気が少しずつ重くなる気がした。

壁に掛けられた額縁の写真だけが、じっと見ているように感じる。

ミアは鞄を持ち直した。

そして、廊下の先に一つだけ雰囲気の違う扉が見えた。

「……あれだ」

足が、わずかに止まる。

ミアは小さく息を吸い、扉の前に立った。

コンコン、と軽くノックする。

「……失礼します」

中から落ち着いた声が返る。

「お入りなさい」

ミアはそっと扉を開けた。

部屋の中は静かで、窓からの光が柔らかく差し込んでいる。

机の奥には、白髪の老人が座っていた。

背筋はしゃんと伸びていて、穏やかな目元。

こちらを見ると、ゆっくりと微笑んだ。

「よく来ましたね、美亜さん」

その声は柔らかく、まるで孫を迎えるような優しさだった。

ミアは一瞬だけ警戒を緩める。

(……思ってたより怖くない)

老人は手元の書類を軽く整えながら、にこやかに続けた。

「どうぞ、そこにお座りなさい」

ミアが椅子に腰を下ろすと、校長は穏やかな笑みのまま軽くうなずいた。

「よっちゃん……ああ、おばあさんからの手紙は読みましたよ」

その呼び方に、ミアは一瞬だけ目を瞬かせる。

「大変でしたね」

ゆっくりとした声だった。責めるでもなく、探るでもない。ただ事実を受け止めるような響き。

校長は手元の書類を軽く揃えながら、にこやかに微笑んだ。

ミアは軽くうなずきながらも、ふと頭の中で引っかかる。

(何て書いてあったんだろう)

あのおばあさんの手紙。

自分は中身を見ていない。

ただ「校長先生へ渡して」と言われて、そのまま渡しただけだ。

なのに、この校長は最初から事情を知っているような口ぶりだった。

ミアは目の前の老人をちらりと見る。

穏やかに微笑んだまま、まるで何も問題がないようにそこにいる。

(……まあ、いいっしょ)

校長は、ゆっくりと書類を置いた。

そして穏やかな目のまま、ミアを見つめる。

「もし何か困ったことがあれば、遠慮なく相談しなさい」

その声は柔らかく、押しつけがましさもない。

まるで最初から何も問題など起きていないかのようだった。

ミアは一瞬だけ間を置き、軽くうなずく。

「……はい」

校長は満足したように微笑むと、小さく頷いた。

「では、今日はこれで終わりです。授業に戻りなさい」

その言葉で、話はあっさりと終わった。

ミアは校長室を出て、再び長い廊下を歩いた。

さっきよりも空気が少しだけ軽く感じる。

(……普通に終わったな)

拍子抜けしたような、それでいて胸の奥に小さな引っかかりが残るまま、教室へ戻る。

ガラッ。

戸を開けると、視線が一瞬だけ集まった。

席に戻ろうとしたところで、隣から小さな声がかかる。

「……ミアちゃん」

さっきの友達が、心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫? 怒られたりしなかった?」

その目は本気で不安そうで、少しだけ身を乗り出している。

ミアは一瞬きょとんとしてから、軽く肩をすくめた。

「うん、別に。普通だったよ」

友達はほっとしたように、少しだけ表情を緩めた。

ミアが席に腰を下ろすと、友達が少し身を乗り出した。

「ねえ、ミアちゃん」

「ん?」

友達は少しだけ周りを気にしてから、小さな声で続ける。

「今日、学校終わったら……うち来ない?」

ミアはぱちっと目を瞬かせた。

「え、家?」

「うん。ちょっと、お菓子あるし……さっきのことも気になるし」

最後の言葉は、少しだけ曖昧だった。

ミアは一瞬考えてから、ふっと笑う。

「おけおけ、行くー」

友達の表情がぱっと明るくなる。

「ほんと!? よかった……」

その安心した顔を見て、ミアも少しだけ肩の力が抜けた。

午後の授業は、どこか上の空のまま過ぎていった。

気づけば鐘が鳴り、教室は一気に帰り支度の空気になる。

「ミアちゃん、行こ!」

友達に手を引かれ、ミアは鞄を持ち上げた。

「うん」

校門を出ると、夕方の光が街をやわらかく染めていた。

人力車がゆっくりと通り過ぎ、着物姿の人々が行き交う。

(……やっぱ、まだ慣れないな)

友達と並んで歩きながら、ミアは周囲を見渡す。

舗装された道路の代わりに、石畳。

遠くに見える路面電車の音。

店先には木の看板が並び、現代のようなネオンはない。

「ミアちゃん、こっちこっち」

友達に促され、曲がり角を進む。

その途中で、ミアはふと足を止めた。

(……ほんとに)

何気ない風景なのに、全部が少しずつ違う。

コンビニもない。

スマホを見ている人もいない。

当たり前の“今の世界”が、どこにもない。

ミアは小さく息を吐いた。

(やっぱさ……ここ、ほんとに現代じゃないよね)

そのまま二人は住宅街へ入り、友達の家へと向かっていった。

やがて、友達は一軒の建物の前で足を止めた。

「ここ、うち」

ミアはその建物を見上げる。

「……え?」

そこにあったのは、普通の家ではなかった。

木造の二階建て、落ち着いた佇まい。

そして、入口の横に掛かった看板。

『珈琲亭 椿』

(喫茶店……?)

ミアの胸の奥が、かすかに跳ねる。

友達は何気なく扉に手をかけた。

「入って」

ガラガラ、と引き戸が開く。

中に入った瞬間、ミアは一瞬息を止めた。

柔らかい照明。

整えられたテーブル。

コーヒーの香り。

そして——どこか見覚えのある空気。

(ここ……)

頭の奥に、何かが引っかかる。

(……ワタシが転生した場所?)

店内は外よりもさらに静かで、木の床が柔らかく鳴った。

壁際の席へ案内され、二人は向かい合って座る。

「何にする?」

友達がメニューを開きながら聞く。

ミアは軽くそれを覗き込み、あまり迷わず答えた。

「アイスコーヒーで」

その瞬間、友達の手がぴたりと止まった。

「……あいす、こーひー?」

きょとんとした顔でミアを見る。

ミアは首をかしげる。

「え、ないの?」

友達は小さく首を振った。

「コーヒーはあるけど……」

言いかけて、困ったように笑う。

ミアはそこで初めて気づく。

(あれ? もしかして……)

ミアは少し首をかしげたまま、続けて口を開いた。

「じゃあさ、コーヒーゼリーとかも……ない感じ?」

その言葉に、友達は完全に固まった。

「こーひー……ぜりー?」

ゆっくりと復唱してから、ぱちぱちと瞬きをする。

「それって……お菓子?」

ミアは逆に目を丸くする。

「え、普通にデザートだけど」

友達は困ったように笑いながら、首を横に振った。

「聞いたことないわね……そんなの」

その返事で、店内の空気が少しだけ現実味を帯びる。

(あ、これ……本当にないやつだ)

ミアはようやく、じわじわと理解し始めていた。

「おや」

カウンターの向こうから現れたのは、穏やかな雰囲気の男だった。

年の頃は四十前後、落ち着いた物腰で、どこか人の良さがにじんでいる。

友達はぱっと顔を明るくする。

「お父さん」

男はミアの方にも視線を向けると、軽く会釈した。

「いつも琴音がお世話になってます」

その言葉に、ミアは一瞬だけ目を瞬かせた。

(琴音……あ、この子の名前か)

ミアは慌てて合わせるように軽く頭を下げる。

「いえ、こちらこそ」

男は柔らかく微笑んだまま、二人の様子を見た。

「今日はゆっくりしていきなさい」

そのとき、琴音がふと首をかしげた。

「ねえ、お父さん」

奥へ戻ろうとしていた父に、声をかける。

「アイスコーヒーって知ってる?」

その言葉に、父の足がわずかに止まった。

「……あいす、こーひー?」

ゆっくりと繰り返し、少し考えるように眉を寄せる。

「いや、聞いたことはないな」

そう言って、穏やかに笑った。

「冷たい珈琲のことかい?」

琴音はミアの方を見る。

「ミアちゃんが、それ頼んでて……」

ミアは一瞬だけ言葉に詰まる。

(やっぱり、ないんだ)

父は少し目を細めて、興味深そうに笑った。

「へえ……初めて聞くが、作ってみようか?」

その言い方は軽く、どこか職人らしい好奇心も混じっていた。

ミアは少しだけ慌てて手を振る。

「あ、そんな大したもんじゃなくて」

言いながら、説明するように続けた。

「コーヒーに氷とシロップとミルクを入れるだけです」

その瞬間、父と琴音は同時に目を瞬かせた。

「……それだけ?」

琴音が思わず聞き返す。

ミアはうなずく。

「うん、それだけ」

店の中に、ほんの一瞬だけ静けさが落ちた。

(え、そんなに変かな……?)

父が奥へ引っ込むと、店内はまた静かになった。

コーヒーの香りだけが、ゆっくりと漂っている。

「ねえ、今日の授業さ」

琴音がカップを整えながら、ぽつりと話し出す。

「国語、また難しかったよね」

ミアは少しだけ肩の力を抜いて頷いた。

「うん。正直、半分くらい何言ってるか分かんなかった」

琴音はくすっと笑う。

「ミアちゃんでも分かんないのあるんだ」

「あるよ普通に」

そんな他愛ない会話が続く。

そのときだった。

奥から、カップが置かれる静かな音がした。

コトン。

「お待たせしました」

父が静かにテーブルへ近づき、ミアの前にそれを置く。

中には、深い琥珀色の液体。

その上に、小さく揺れる氷。

(……あ)

見慣れたはずの形なのに、少しだけ違う。

ミアは軽くカップに手を伸ばし、ひと口飲んだ。

「……美味しい」

思わず声が漏れる。

苦味の中に、ほんの少しだけ丸みがあって、思っていたよりずっと飲みやすい。

(あ、ちゃんとコーヒーだ)

ほっとしたようにもう一口飲む。

それを見ていた琴音が、身を乗り出した。

「ねえ、それちょっとだけ飲んでいい?」

「いいよ」

ミアがカップを少し差し出すと、琴音は興味津々に一口飲む。

「……わっ」

目をぱちっと開く。

「なにこれ、美味しい!」

驚いたように、もう一度カップを覗き込む。

「冷たいのに、ちゃんとコーヒーなんだね」

ミアは少しだけ笑う。

「でしょ?」

そのやり取りを、店の奥から父が静かに見ていた。

「ねえ、お父さん。これ、お店のメニューに加えられないかな?すごく美味しいよ!」

友達の言葉に、父は一瞬だけ目を細めた。

「そうか」

そう言うと、グラスのアイスコーヒーをゆっくり持ち上げる。氷が軽く鳴った。

一口飲み、静かに間を置いたあと――

「……いけるな」

短い一言だったが、その声には確かな手応えがあった。

友達は思わず表情を明るくする。

「ほんとに!?やった!」

父はもう一度グラスを見つめ、少しだけ考えるように言葉を続けた。

「このままでも出せるが……もう少し香りを立たせてもいいな」

友達の声が弾んだその横で、そのやり取りをぼんやりと見ながら、視線は自然と店内へ流れていった。

統一された内装、丁寧に整えられたテーブル、そして働く娘たちの衣装。

(……なんだか、メイド喫茶みたいだな)

しばらく眺めていると、ふと思いついたように口を開く。

「ねえ、琴音。ここってバイト雇ってない?」

「……ばいと?」

琴音はきょとんと首をかしげた。

「ばいとって……何?」

「あ、ごめんごめん」

ミアは苦笑いしながら頭をかく。

「お店を手伝う人ってこと!」

「ああ、お店のお手伝い?」

琴音は納得したように頷き、奥にいる父へ声をかけた。

「お父さん、お店を手伝ってくれる人って雇ってる?」

父は振り返り、少し考えてから首を横に振った。

「今は家族だけでやっているよ。」

「娘も学校が終わってから手伝ってくれているんだ。」

「そうなんだ」

ミアは少しだけ残念そうに肩を落とした。

父はそんな様子を見て、穏やかに笑う。

「もっとも、人手が足りないと思う日もあるがね。」

ミアの表情がぱっと明るくなる。

「じゃあ、ワタシが手伝ったらダメ?」

琴音は目を丸くした。

「えっ、ミアちゃんが?」

父も少し驚いたようにミアを見つめる。

「……本気かい?」

「ですが、美亜さんは良いところのお嬢様でしょう。お店のお手伝いなんて、ご家族が許しませんよ。」

ミアは少しだけ考えてから、にっと笑った。

「じゃあ、おばあちゃんに聞いてみる!」

「許してもらえたら、お手伝いしてもいい?」

父は少し驚いたように琴音と顔を見合わせ、それから穏やかに笑った。

「ええ。おばあさまがお認めになるのでしたら、そのときは喜んで。」

「うん!」

そのあともミアと琴音は学校のことや街のことなど、他愛もない話で盛り上がった。

気づけば外はすっかり夕暮れに染まり、店の窓から差し込む光も少しずつ赤みを帯びていく。

「そろそろ帰らなきゃ」

ミアは立ち上がり、鞄を肩に掛けた。

「今日は来てくれてありがとう」

「ううん、こっちこそ。また明日ね」

「うん。また明日!」

ミアは二人に軽く手を振ると、『珈琲亭 椿』をあとにした。

夕暮れの街を歩きながら、頭の中には一つのことだけが浮かんでいた。

(おばあちゃん、許してくれるかな……)

少しだけ胸を弾ませながら、ミアは家路を急いだ。

今回登場したアイスコーヒーですが、大正時代にはまだ一般的ではありませんでした。そのため、作中ではミアの現代知識から生まれた「新しい飲み物」として描いています。

また、ミアが口にした**「バイト」**という言葉も当時にはありません。「アルバイト」はドイツ語由来の言葉ですが、日本で広く使われるようになるのはもう少し後の時代です。そのため、琴音が意味を理解できず、「お店のお手伝い」と言い換える場面にしました。

こうした現代と大正の文化の違いも、この作品の楽しみの一つとして読んでいただけたら嬉しいです。

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