【47話】ミア、恋バナをする!?
今回は恋バナです。
昼休み。
ミアと琴音は、いつものように机を並べて話していた。
「ねえ琴音、この前のお店さ――」
「うんうん。それで?」
二人が楽しそうに話していると、ミアはふと教室の前のほうへ目を向けた。
そこには伊集院が座っていた。
「……はぁ」
小さなため息。
いつもの伊集院なら、姿勢もよく、どこか余裕のある雰囲気を漂わせている。
しかし今日は違った。
机に頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺めている。
「……どうしたんだろ?」
ミアが首をかしげる。
琴音も伊集院のほうを見る。
「あら……本当ね」
「なんか元気なくない?」
「そうね。伊集院さんがあんな顔をするなんて、珍しいわ」
ミアは少し考える。
そして――
「ちょっと聞いてくる!」
「えっ、ミアちゃん?」
琴音が止める間もなく、ミアは伊集院のところへ歩いていった。
「ねえ、伊集院」
「……何かしら?」
伊集院が顔を上げる。
ミアは伊集院の顔をじっと見る。
「元気ないじゃん」
「……そう見える?」
「うん。めっちゃ」
伊集院は、もう一度小さくため息をついた。
「実はですね……」
伊集院は少し迷ったように視線を落とした。
「お父様から、縁談のお話がありましたの」
「えっ、縁談?」
ミアが目を丸くする。
「そうですの……」
伊集院は小さくため息をついた。
「まだ正式に決まったわけではございませんのよ。ただ、お父様が先方の方とお話をされているようで……」
「えー……」
ミアは思わず伊集院の隣の席に腰を下ろした。
「伊集院は、その人のこと知ってるの?」
「いいえ。お会いしたこともございませんわ」
「じゃあ、嫌なの?」
「……それが、よく分かりませんの」
伊集院は窓の外を見つめる。
「お父様は、とても良いお話だとおっしゃっておりますの。でも……」
「でも?」
伊集院は少し黙ってから、ぽつりと呟いた。
「私、まだそのようなことに興味が持てませんの。」
「まだ会ったこともない人と結婚って、おかしくない?」
ミアが思ったまま口にすると、伊集院は少し驚いたようにミアを見る。
「……やはり、そう思いますの?」
「だって、知らない人なんでしょ?」
「ええ……」
「どんな人かも分からないのに、一緒に暮らすんだよ?」
「……そうですわね」
伊集院は再び小さくため息をついた。
「お父様は、家同士のお付き合いとして大切なことだとお考えなのですわ」
「うーん……」
ミアは腕を組んで考える。
「あたしだったら、まず本人に会ってみたいけどなぁ」
「本人に……?」
「うん。話してみて、面白い人なのか、つまんない人なのか、それくらい分かってからじゃない?」
伊集院は、しばらくミアの顔を見つめていた。
そして――
「……ミアさんらしいですわね」
そう言って、ほんの少しだけ笑った。
「よし! じゃあ会いに行こう!」
ミアが勢いよく立ち上がる。
「えっ?」
伊集院が目を丸くする。
「その人、どこにいるの?」
「どこに、と申しますと……」
「だって、会ってみなきゃ分からないじゃん!」
ミアは当然のように言う。
伊集院は少し困った顔をして答えた。
「西園寺様は、陸軍の少佐でいらっしゃいますの」
「西園寺?」
「ええ、西園寺家のご長男で、今は東京の陸軍の駐屯地にお勤めだそうですわ」
「じゃあ、そこにいるんだ!」
「そういうことになりますわね……」
伊集院は戸惑いながらミアを見る。
「ですが、まさか本当に会いに行くおつもりですの?」
「もちろん!」
ミアはニッと笑った。
「どんな人なのか、見てみようよ!」
「でも……」
伊集院は困った顔をした。
「お父様に何と申し上げれば……」
「んー……」
ミアは腕を組んで考える。
「まあ、見に行くだけだから!」
ミアはあっけらかんと言った。
「別に結婚するって決まったわけじゃないんでしょ?」
「それは……そうですけれど」
「だったら、どんな人か見てみようよ!」
伊集院は少し考え込む。
「……確かに、どのような方なのか知っておくくらいは……」
「でしょ?」
ミアは満足そうに笑った。
「じゃあ、決まり!」
「まだ決まっておりませんわ……」
「細かいことはいいじゃん!」
「ミアさん……」
伊集院は呆れたような顔をした。
その日の放課後。
ミアと伊集院は、陸軍の駐屯地へ向かった。
「なんか、こういうのってドキドキするね!」
ミアは楽しそうに歩いている。
「ミアさん……。これは遊びに行くわけではございませんのよ?」
「分かってるって!」
「本当に分かっておりますの?」
伊集院は少し不安そうな顔をする。
「だって、縁談のお相手に会うんでしょ?」
「ええ……」
「だったら、どんな人か見るだけじゃん!」
「……そうですけれど」
やがて二人は、陸軍の駐屯地へと到着した。
大きな門を前に、伊集院が足を止める。
「……ここですわ」
「へぇー……」
ミアは目の前の駐屯地を見上げた。
「ここに、西園寺少佐がいるんだね」
「ええ……」
伊集院は緊張したように胸元で手を握る。
「なんだか、急に緊張してまいりましたわ……」
「大丈夫、大丈夫!」
ミアは伊集院の肩を軽く叩く。
「あたしも一緒にいるから!」
二人は門へ近づいた。
門衛が二人に気づき、声をかける。
「どちら様でしょうか?」
伊集院が一歩前へ出る。
「伊集院家の者ですわ。西園寺少佐との面会のお約束をしておりますの」
門衛は伊集院を見ると、少し驚いたような表情を見せた。
「伊集院様でいらっしゃいますか。少々お待ちください」
門衛が詰所へ向かい、何かを確認する。
しばらくすると、別の軍人が二人のところへやって来た。
「お待たせいたしました。西園寺少佐がお会いになります。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
伊集院が頭を下げる。
ミアも慌てて頭を下げた。
そして二人は、案内されるまま駐屯地の中へと入っていった。
ミアは歩きながら、伊集院に小声で話しかける。
「ねえ……なんか本当に会いに来たんだね」
「だから、そう申し上げておりますでしょう……」
「へへっ」
ミアは楽しそうに笑った。
案内された二人は、駐屯地内の一室へ通された。
「こちらで少々お待ちください」
案内役の軍人がそう言って、部屋を出ていく。
部屋には、机と椅子が置かれていた。
ミアと伊集院は並んで腰を下ろす。
「……伊集院、緊張してる?」
「ええ……少しだけですわ」
伊集院は膝の上で手を重ねている。
「あたしがいるから大丈夫だって!」
「ミアさんは、ずいぶん楽しそうですわね……」
「だって、どんな人なのか気になるじゃん!」
その時だった。
コンコン。
部屋の扉がノックされた。
「……!」
伊集院の肩がぴくりと動く。
「どうぞ」
扉がゆっくりと開く。
そして――
一人の男が部屋へ入ってきた。
今回は伊集院さんに縁談のお話が出てきました。
大正時代、とくに伊集院家のような裕福な家や上流階級では、結婚は本人同士だけではなく、家同士の付き合いとして考えられることもありました。
そのため、本人がまだ相手と面識がない段階で、家同士で話が進むこともあります。
もちろん、すべての家庭が同じだったわけではありません。
本人同士が会って話をする機会を設ける場合もありました。
というわけで、今回は「じゃあ実際に会ってみよう!」とミアが動き出します(笑)
次回、いよいよ西園寺少佐とご対面です。




