【43話】ミアの、喜劇だよ全員集合!?
目指せ50話!
学芸会当日。
学校の講堂には、女学生たちの姿があった。
舞台の前には椅子が並べられ、保護者や来賓も席についている。
「いよいよ始まりますわね」
伊集院が、隣に座る琴音へ声をかけた。
「うん! 楽しみだね」
琴音は舞台を見つめている。
その隣では、ミアが落ち着かない様子で座っていた。
「あー、緊張する……」
「ミアちゃん、まだ自分たちの番じゃないわよ」
「分かってるけどさぁ……」
やがて、司会の女学生が舞台へ上がった。
「それでは、学芸会を始めます」
講堂に拍手が響く。
最初の出し物は、二年生による合唱だった。
女学生たちが舞台へ並び、ピアノの伴奏に合わせて歌い始める。
「きれいな歌声ですわね」
伊集院が感心したように言った。
「うん。みんな一生懸命練習したんだろうね」
琴音も嬉しそうに頷く。
ミアは舞台を見ながら、ふと呟いた。
「あたしたちの劇も、あれくらい拍手もらえるかな?」
「きっと大丈夫ですわ」
伊集院が微笑む。
「ミアさんが考えた喜劇ですもの」
「いや、そこはあたしが主役ってことも考慮してよ!」
ミアが小声で抗議すると、琴音がくすりと笑った。
やがて合唱が終わり、講堂に拍手が起こる。
続いて、三年生による演劇が始まった。
舞台の幕が上がると、女学生たちが真面目な表情で登場する。
「次は演劇かぁ」
ミアは興味深そうに舞台を見つめた。
「どんなお話なんだろう?」
琴音が尋ねる。
「さあ、楽しみだね」
伊集院も舞台へ視線を向けた。
こうして、学芸会は順調に進んでいった。
やがて、ミアたちの出番がやってきた。
司会の女学生が舞台へ上がる。
「続きまして、二年生による喜劇、『学校の日常』です」
講堂に拍手が起こる。
幕が上がると、舞台には教壇と机が並べられていた。
伊集院が教壇に立ち、ミアと琴音は生徒役として席についている。
「それでは、授業を始めますわね」
伊集院が声をかけると、女学生たちが一斉に姿勢を正した。
「はい!」
ミアは勢いよく手を挙げた。
「先生!」
「はい、ミアさん」
「宿題、忘れました!」
女学生たちが一斉に机へ突っ伏した。
「ズコーッ!」
客席から、くすくすと笑い声が起こった。
ミアは、客席から起こった笑い声を聞いて、心の中で小さくガッツポーズをした。
(よし、掴みはOK!)
伊集院は教壇に戻ると、何事もなかったように授業を続けた。
しかし、ミアと琴音のやり取りは、まだ終わらなかった。
先生と生徒の掛け合い、騙しあい、そしてドタバタ。
練習で何度も繰り返した喜劇が、舞台の上で繰り広げられていく。
客席からは、笑い声と拍手が起こった。
ミアは、女学生たちの顔を見ながら、嬉しそうに笑った。
(みんな、ちゃんと笑ってくれてる!)
そして、喜劇はさらに盛り上がっていった。
会場は爆笑の渦の中、いよいよ喜劇も終盤に差しかかっていた。
先生役の伊集院と、生徒役のミアたちの掛け合いは、ますます激しくなっていく。
ミアと琴音は、練習で何度も繰り返した騙しあいを繰り広げていた。
伊集院は、そんな二人を見ながら、次第に眉をひそめていく。
「ミアさん! 琴音さん!」
「はいっ!」
二人が同時に返事をする。
「いい加減にしなさい!」
伊集院が教壇を叩いた。
その瞬間――。
バキッ!
教壇の机の足が折れた。
「えっ?」
伊集院が目を見開く。
そして、舞台上の机が次々と傾き始めた。
「あれ?」
ミアが声を上げる。
バキバキバキッ!
生徒たちの机の足が一斉に折れた。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
ミアも琴音も、伊集院も、全員がひっくり返った。
講堂に、大きな笑い声が響き渡る。
しばらくして、舞台の上は静かになった。
伊集院は、倒れた教壇の横で、何とも言えない顔をしている。
ミアは床に転がったまま、隣の琴音を見た。
琴音も床に座りながら、ミアを見つめていた。
客席から、さらに大きな笑いが起こった。
やがて、舞台の幕が下りた。
講堂は拍手と笑い声に包まれた。
こうして、ミアたちの学園喜劇は、大成功のうちに幕を閉じた。
劇が終わり、ミアたちは講堂の控え室に戻っていた。
「あー、終わったぁ!」
ミアは椅子に座ると、大きく伸びをした。
「お疲れさまでした、ミアさん」
伊集院が微笑む。
「いやー、緊張したけど楽しかったね!」
琴音も嬉しそうに笑った。
「うん! お客さん、すごく笑ってくれたね」
「でしょ? あたしの喜劇、最高じゃん!」
ミアが胸を張る。
伊集院は、ふと真面目な顔になった。
「それにしても、最後の机が一斉に倒れるところは見事でしたわね」
「あれは練習どおりだよ!」
ミアが笑う。
「みんな、ちゃんとタイミング合わせてくれたからね」
琴音が頷いた。
「何度も練習したものね」
「うん。最初は大変だったけど、みんなでやると楽しいね!」
ミアは、控え室にいる女学生たちを見渡した。
「また、こういう劇やりたいなぁ」
伊集院も、楽しそうに頷いた。
「そうですわね。わたくしも、なかなか楽しかったですわ」
「伊集院、先生役似合ってたよ!」
「まあ、ありがとうございます」
三人は顔を見合わせて笑った。
すると、控え室に二人の女性と一人の男が入ってきた。
ミアは顔を上げると、目を見開いた。
「あ、この前の宝塚の人!」
天津乙女と小夜福子を見て、ミアが声を上げた。
二人の後ろには、見慣れない男性が立っていた。
「お久しぶりですわね、ミアさん」
天津が微笑む。
「うん! どうしてここに?」
「今日は東京に用事がありまして」
小夜が答えた。
「たまたまこちらで学芸会をやっていると聞きまして、せっかくなので見せていただきましたの」
「そうだったんだ!」
ミアは嬉しそうに二人を見る。
「じゃあ、さっきの劇も見てくれたの?」
「ええ。とても面白かったですわ」
「ほんと!?」
ミアの顔がぱっと明るくなった。
小夜福子も、楽しそうに笑った。
「本当に面白かったですわ。観ているうちに、思わず声が出てしまいました」
「え?」
ミアが首をかしげる。
「ミアさん、後ろ! 後ろ! と、つい言ってしまって……」
「えぇっ!?」
ミアが驚いて目を丸くする。
「観客席から言ってたの!?」
小夜福子は、少し恥ずかしそうに笑った。
「ええ。あまりにも自然に出てしまいましたの」
琴音がくすくすと笑う。
「それだけ夢中になって見てくださったんですね」
「そうなんです!」
小夜福子が頷く。
「まるで自分も舞台の中にいるような気持ちになりましたわ」
ミアは嬉しそうに笑った。
「それ、最高の褒め言葉じゃん!」
すると、後ろにいた男も口を開いた。
「いやあ、なかなか面白かったですよ」
「ありがとうございます!」
ミアが嬉しそうに答える。
男は少し考えるようにしながら続けた。
「特に、あのテンポの早さ。今まで私が見てきた喜劇とは、少し違っていましたね」
ミアは首をかしげた。
「テンポ?」
「ええ。次々と展開が変わっていくでしょう。台詞だけでなく、役者の動きも速い。見ている側を飽きさせません」
ミアは嬉しそうに笑った。
「そこ、けっこう練習したんだよ!」
天津乙女が、その様子を見て、少し意外そうに笑った。
「まあ、小山内さんがこんなに褒めるなんて、珍しいですね」
小山内は少し照れたように笑った。
「そうですか? 私は面白いものは、面白いと言いますよ」
ミアは二人のやり取りを聞きながら、目を輝かせていた。
天津が時計を確認する。
「まあ、そろそろ私たちも用事がありますので」
「あ、そうなんですか」
ミアが少し残念そうに答える。
天津は微笑むと、ミアに声をかけた。
「今度、宝塚を観にいらした時は、ぜひ楽屋にもいらしてくださいな」
「えっ、本当に?」
ミアの顔がぱっと明るくなる。
「はい。お待ちしていますよ」
そう言うと、天津と小夜、そして小山内は控え室を後にした。
ミアは、二人を見送ると、琴音に嬉しそうに話しかけた。
「琴音ちゃん、聞いた? 宝塚の人に面白いって言われたんだよ!」
「うん、聞いてたよ。ミアちゃん、すごかったもん」
「でしょ! なんか、作家になった気分!」
ミアは嬉しそうに胸を張った。
そしてミアが伊集院の方を見ると、伊集院は放心状態になっていた。
「……天津乙女さんと、小夜福子さんが……見てた……」
伊集院は、まだ信じられない様子でボソボソと呟いている。
「伊集院さん、大丈夫?」
ミアが声をかけると、伊集院は我に返った。
「……ええ。大丈夫ですわ」
どう見ても、大丈夫そうには見えなかった。
こうして、学芸会は思いがけないゲストを迎え、幕を閉じた。
今回、ミアたちの学芸会を見に来た小山内薫は、大正時代を代表する劇作家・演出家の一人です。
日本の近代演劇の発展に大きな影響を与えた人物で、自由劇場や築地小劇場にも関わりました。
そんな小山内薫が、ミアたちの喜劇を見て「テンポが早い」と感じたのは、現代のコントと当時の喜劇には、少し違いがあったからです。
大正時代の喜劇では、落語や寄席などにも見られるような、言葉の掛け合いや勘違い、登場人物同士のやり取りから笑いを作るものが多くありました。
一方、現代のコントでは、テンポの速い会話に加えて、動きや間、突然の展開など、視覚的な笑いも重要になっています。
今回のミアたちの劇は、そんな現代のコントを大正時代の女学生たちが演じたら……というイメージで書いてみました。
時代が違えば、笑いの作り方も少し違う。
でも「人を笑わせたい」という気持ちは、きっと昔も今も変わらないのかもしれません。




