【42話】ミア、主役になる!?
今回はコントのおさらいで。
放課後の教室。
黒板には、学芸会の文字が書いてある。
「それでは、今日は役割を決めましょう」
先生が教壇に立つと、女学生たちが机を囲んだ。
「まずは、主人公を決めたいと思います」
「主人公は誰がやるの?」
ミアが尋ねる。
女学生たちは顔を見合わせた。
「……」
「どうしたの?」
琴音が尋ねる。
「その、喜劇というのは、どんな風に演じればいいのかしら?」
一人の女学生が答えた。
「台本を読んでも、どこで笑わせるのか分からなくて……」
「私もです」
「台詞は分かるんですけど、動きが難しそうですわね」
教室に、困ったような声が広がる。
ミアは腕を組んだ。
「うーん……」
自分の書いた台本を見つめる。
「ここは、こうやって慌てて走り回るの!」
ミアは立ち上がると、教室の中を少し走った。
「それで、こっちの人が勘違いして、また変なことになって……」
「なるほど……」
琴音が頷く。
「でも、実際にやってみないと難しいわね」
「そうですわね」
伊集院はミアを見つめた。
そして、にっこりと微笑む。
「それなら、ミアさんが主人公を演じればよいのではありませんか?」
「……え?」
ミアの動きが止まった。
「だって、ミアさんがこのお話を考えたのでしょう?」
「うん、そうだけど……」
「それに、どの場面で何をするのか、一番よくご存じですもの」
伊集院は、まるで当然のことのように言った。
「ミアさんが演じてくだされば、皆さんも分かりやすいと思いますわ」
「えぇっ!?」
ミアが目を見開く。
「ちょっと待って! あたしは脚本を書く係だよ!」
「でも、主人公を決める必要がありますもの」
「いやいや、主人公は別の人でいいじゃん!」
琴音が笑った。
「でも、ミアちゃんがやるのが一番分かりやすそうね」
「琴音まで!?」
女学生たちも、次々と頷き始めた。
「ミアさんなら面白くできそうですわ」
「そうね。動きも楽しそう」
先生も少し考えてから、ミアに尋ねた。
「ミアさん、お願いできますか?」
「先生までぇ!」
ミアは頭を抱えた。
「脚本だけのつもりだったのに……」
伊集院が楽しそうに笑う。
「まあ、これで喜劇の流れも分かりやすくなりますわね」
「そういう問題じゃないってば!」
「それでは、次の役を決めましょう」
先生が黒板に向き直る。
「先生役は、どなたがよろしいかしら?」
ミアが尋ねると、女学生たちは顔を見合わせた。
「先生役なら……」
伊集院がすっと手を挙げた。
「わたくしがやりましょうか?」
「えっ、伊集院が先生役?」
「はい。皆さんをまとめる役ですもの」
伊集院はにっこりと微笑んだ。
「それに、先生のような役柄も楽しそうですわ」
「確かに、伊集院さんなら似合いそうね」
琴音が頷く。
「じゃあ、先生役は伊集院で決まり!」
ミアが黒板に書き込んだ。
「次は、あたしの相手役!」
「相手役ですか?」
「うん。あたしと一緒に、いろいろやる役!」
ミアが琴音を見る。
「琴音、やってくれない?」
「私?」
「うん! あたしと一緒なら、面白くなるよ!」
琴音は少し考えてから、笑った。
「分かったわ。ミアちゃんと一緒なら、楽しそうね」
「やった!」
ミアが嬉しそうに手を叩く。
「じゃあ、琴音が相手役ね!」
先生は黒板に名前を書き足した。
「では、残りの役はどうしましょうか?」
「生徒役がいいです!」
「私も!」
女学生たちから、次々と声が上がる。
「それなら、生徒役を何人か決めましょう」
先生が言うと、女学生たちは楽しそうに話し合った。
「私は、真面目な生徒がいいわ」
「私は、ちょっとおっちょこちょいな役がいい!」
「それでは、皆さんで相談して決めましょう」
伊集院がまとめる。
ミアは黒板を見ながら、満足そうに頷いた。
「いい感じじゃん!」
「じゃあ今日はさわりだけ、やろうか」
生徒たちはそれぞれの配置について演じた。
「皆さん、宿題は持ってきましたか?」
伊集院が教壇から尋ねる。
「はい!」
ミアが元気よく手を挙げた。
「忘れました!」
女学生たちが一斉に机へ突っ伏した。
「ズコーッ!」
琴音も机に頭をつけている。
「ミアちゃん、持ってきたって言ったじゃない!」
「え? だって、忘れたんだもん!」
伊集院は教壇で頭を抱えた。
「ミアさん……」
「はい!」
「宿題を忘れた罰として、に立っていなさい!」
伊集院が教壇から指を差す。
「えぇ~!」
ミアが声を上げる。
「バケツを持ってですわ!」
「バケツ!?」
琴音が思わず振り向いた。
「はい。これを持っていなさい」
伊集院がバケツを手渡す。
ミアは渋々、バケツを両手で持った。
「もう、重いんだけど……」
ミアはバケツを持って、教室の端で立つ。
女学生たちは顔を見合わせる。
「……」
琴音が小声で言った。
「ミアちゃん、頑張って……」
伊集院は教壇に戻ると、何事もなかったように黒板を見た。
「それでは、授業を続けますわね」
ミアはバケツを持って立っている。
すると、琴音がそっと。
「ミアちゃん……」
「ん?」
琴音はミアの脇腹をくすぐった。
「わっ! ちょっと、琴音!」
「しーっ!」
伊集院が黒板に文字を書いている。
「……」
ミアは笑いをこらえながら、バケツを持ち直した。
伊集院が振り向く。
「ミアさん、静かにしていなさい!」
「はい!」
琴音は何事もなかったように席に戻った。
伊集院が再び黒板を向く。
琴音がまた。
「ミアちゃん……」
「もう、やめてよ!」
「ちょっとだけ!」
琴音がくすぐる。
「ひゃははは!」
ミアが笑い声を上げる。
伊集院が振り向いた。
「ミアさん!」
「はいっ!」
琴音は素早く席に戻る。
「……」
伊集院は首をかしげた。
「おかしいですわね……」
再び黒板を向く。
琴音がまた立ち上がった。
「ミアちゃん……」
「また?」
琴音はミアの脇腹に手を伸ばす。
その瞬間――。
「琴音さん?」
伊集院が振り向いた。
「……」
琴音の手が、ミアの脇腹の前で止まった。
「……」
ミアもバケツを持ったまま固まる。
伊集院は二人を見つめた。
「何をしていらっしゃるのかしら?」
琴音はその姿勢のまま、にっこりと笑った。
「……何も?」
伊集院は首をかしげた。
「そうですの?」
「はい!」
琴音は手を引っ込めると、何事もなかったように席へ戻った。
しばらくすると、伊集院が黒板から振り返った。
「ミアさん、もう反省したようですので、席に戻りなさい」
「はーい!」
ミアは嬉しそうにバケツを置くと、席へ戻った。
「やっと戻れたぁ!」
琴音が小声で言った。
「ミアちゃん、お疲れさま」
「もう、琴音のせいで大変だったんだから!」
「ごめんごめん」
琴音は笑いながら謝った。
「では、次の場面ですわね」
伊集院が黒板に向かう。
チョークを手に取り、問題を書き始めた。
「それでは、この問題が分かった人は手を挙げてください!」
「はい!」
ミアが勢いよく手を挙げた。
「分かりません!」
女学生たちが一斉に机へ頭をぶつけた。
「ズコーッ!」
「ミアちゃん、分からないなら手を挙げなくてもいいのに……」
「だって、先生が手を挙げてって言ったじゃん!」
伊集院は教壇で頭を抱えた。
「ミアさん……」
伊集院は深いため息をつくと、ミアの前まで歩み寄った。
「手を挙げたんですから、解きなさい」
「えっ?」
「さあ、前に立って。この問題を解いてみなさい」
伊集院に促され、ミアは黒板の前へ立たされた。
ミアはチョークを手に取り、問題を見上げた。
「先生、これってどうやって解くの?」
ミアは黒板の前で、腕を組んで考え込んでいた。
「うーん……」
琴音は見かねて、こっそり指で答えを示した。
「ミアちゃん、答えは……」
しかし、ミアは琴音の手元がよく見えない。
「え? 何? もっと大きく!」
琴音が慌てて身振りを大きくした、そのときだった。
「琴音さん?」
伊集院が振り向いた。
琴音はとっさに手を背中へ隠した。
「……何もしていませんわ」
「そうですか?」
伊集院は琴音をじっと見つめる。
琴音は何事もなかったように、すました顔で席に座った。
こうして、喜劇の前半部分の練習を終えた。
「今日はここまでにしましょう」
伊集院がそう言うと、女学生たちは一斉に立ち上がった。
「お疲れさまでした!」
「お疲れー!」
ミアたちは片づけを済ませ、教室を後にした。
帰り道、伊集院がふと口を開いた。
「宝塚の舞台とはまた違いますけれど、なかなか面白い劇ですわね」
琴音も笑顔で頷いた。
「うん! 絶対、お客さん喜ぶよ!」
ミアは二人の顔を見ながら、嬉しそうに笑った。
「でしょー?」
「じゃあ、学芸会まで頑張ろうね!」
琴音が笑顔で言う。
「うん、頑張ろう!」
ミアも元気よく答えた。
三人は笑いながら、それぞれの帰路についた。
大正時代の一般的なお笑いには、落語や寄席などで親しまれていた、言葉の掛け合いや勘違い、失敗を笑いにするものがありました。
また、演劇でも真面目な芝居だけではなく、登場人物の行き違いや大げさな動き、コミカルなやり取りなどを取り入れた喜劇が演じられていました。
現代のコントとは形が違いますが、「勘違いから騒ぎが起こり、最後に笑いになる」という部分には、今のお笑いにも通じるところがあります。
今回のミアたちの劇も、そんな大正時代の喜劇をイメージしています。




