【41話】ミア、作家になる!?
昭和世代のコントと言ったらあれでしょ(笑)
朝の学校
教室内には、登校してきた女学生たちの声が響いていた。
ミアは自分の席に座りながら、窓の外を眺めている。
「ふぁ~……眠い……」
「ミアさん、朝から眠そうですわね」
隣の席から伊集院が声をかける。
「だって朝早いんだもん」
「女学校なのですから、当然ですわ」
「そうなんだけどさぁ」
ミアが机に突っ伏そうとした、その時――。
「皆さん、席についてください」
教壇に先生が立った。
教室が静かになる。
「それでは、朝の時間を始めます」
先生は出席簿を閉じると、生徒たちを見渡した。
「今日は皆さんに、お知らせがあります」
「お知らせ?」
教室のあちこちから、小さな声が聞こえる。
先生は黒板に文字を書いた。
『学芸会』
「今度、学校で学芸会を行います」
「学芸会?」
ミアが首をかしげる。
すると琴音が小声で教えてくれた。
「学校で、劇や音楽などを発表する行事よ」
「へぇ……」
ミアは黒板の文字を見つめた。
「それって……文化祭みたいなもの?」
「文化祭?」
琴音が不思議そうな顔をする。
「うん。みんなで出し物とかやったりするやつ」
「なるほど……」
琴音は少し考えてから頷いた。
「たぶん、近いものだと思うわ」
すると伊集院が、ぱっと顔を輝かせた。
「まあ! 学芸会ですのね!」
「伊集院さん、楽しみなの?」
琴音が尋ねる。
「もちろんですわ!」
伊集院は嬉しそうに胸を張った。
「こういう行事は、女学生にとって大切なものですもの」
ミアはそんな伊集院を見て笑った。
「なんか、めっちゃ張り切ってない?」
「当然ですわ!」
伊集院は目を輝かせた。
「わたくし、何をするのか今から楽しみですわ!」
教室の中にも、少しずつ期待するような声が広がっていく。
先生は黒板の前で微笑んだ。
「では、学芸会について説明しますね」
ミアは姿勢を正した。
「どんなことするんだろ……」
その顔には、もう眠気は残っていなかった。
先生は黒板の前に立つと、チョークを手に取った。
「それでは、まず皆さんがやってみたい劇を挙げてください」
「劇ですか?」
「はい。皆さんの意見を聞いて決めたいと思います」
すると、教室のあちこちから声が上がった。
「『シンデレラ』がいいです!」
先生が黒板に書いていく。
シンデレラ
「私は『白雪姫』がいいわ」
白雪姫
「『浦島太郎』も面白そう!」
浦島太郎
次々と候補が出てくる。
「『かぐや姫』!」
「『桃太郎』!」
「『赤ずきん』もいいんじゃない?」
黒板に、劇の題名がどんどん増えていった。
ミアはそれを眺めながら、
「へぇ~……結構いっぱいあるんだね」
「どれも有名なお話だもんね」
琴音が答える。
すると後ろの席から声がした。
「私は西洋のお話がいいな」
「私も!」
「衣装が素敵そうですものね」
女学生たちは楽しそうに話し合っている。
先生は黒板を見ながら、
「まだ他にありませんか?」
そう尋ねた。
すると、ミアが突然、手を挙げた。
「先生!」
「はい、ミアさん」
「コントっていうのはどう?」
「……コント?」
先生が首をかしげる。
「うん! 劇みたいな感じなんだけど、もっと笑えるやつ!」
教室が静かになる。
「コント……?」
「聞いたことありませんわ」
伊集院も首をかしげる。
琴音も少し考えてから、
「私も知らないわ」
「えー! コント知らないの?」
ミアが驚く。
「だって、そんな言葉、聞いたことありませんもの」
「そうなんだ……」
ミアは腕を組んで考える。
「じゃあ、お芝居なんだけど、みんなで面白いことをやるの!」
「面白いこと?」
「そう! 見てる人を笑わせるの!」
女学生たちは顔を見合わせた。
「劇なのに……笑わせる?」
「そんなものがあるのかしら?」
「面白そうではありますけど……」
伊集院が興味を示す。
先生は黒板を見ながら、
「なるほど……つまり、喜劇のようなものですか?」
「そうそう! それ!」
ミアが嬉しそうに頷いた。
伊集院は黒板に書かれた「喜劇」という文字を眺めながら、少し考え込んだ。
そして、ふっと笑う。
「……面白そうですわね」
「でしょ!」
ミアが嬉しそうに振り向く。
「わたくし、そういうお芝居も見てみたいですわ」
「じゃあ、喜劇にしようよ!」
「でも、どういうものなのかしら?」
琴音が首をかしげる。
「えっと……」
ミアは少し考えてから、ニヤッと笑った。
「それは、やってみれば分かるよ!」
「ずいぶん簡単におっしゃいますわね」
伊集院がくすっと笑う。
教室の女学生たちも、なんだか楽しそうに顔を見合わせていた。
黒板には、いくつもの劇の題名。
その一番下に、ミアが提案した――
『喜劇』
という文字が残っていた。
先生は黒板に並んだ劇の題名を眺めた。
「それでは、皆さん。候補が出そろったようなので、多数決で決めましょう」
女学生たちは、それぞれやりたい劇に手を挙げていく。
「『シンデレラ』!」
「『白雪姫』!」
「『かぐや姫』!」
次々と票が入っていく。
先生が黒板に正の字を書きながら数えていく。
「シンデレラ……」
「白雪姫……」
「かぐや姫……」
そして最後に、
「喜劇……」
票を数え終えた先生が、黒板を見つめた。
「……喜劇が、六票」
ミアが身を乗り出す。
「えっ、じゃあ……!」
「シンデレラも六票ですね」
「ええっ!?」
教室がざわめく。
「同数ですか?」
琴音も黒板を見る。
先生はもう一度、票を確認した。
「……いえ、一票だけ違います」
「え?」
「喜劇が七票です」
「やったー!」
ミアが両手を上げて喜ぶ。
「喜劇に決まりですわね!」
伊集院も嬉しそうに笑った。
「ギリギリですけどね」
琴音が苦笑する。
「ギリでも勝ちは勝ちだよ!」
ミアは胸を張った。
先生も微笑みながら頷く。
「では、今年の学芸会は、このクラスでは喜劇を演じることにしましょう」
教室から拍手が起こった。
ミアは満面の笑みを浮かべていた。
放課後。
教室に残った女学生たちは、机を囲んで話し合っていた。
黒板には大きく、
『学芸会 喜劇』
と書かれている。
「では、次は役割を決めましょう」
先生が言うと、女学生たちが顔を見合わせた。
「劇をするなら、役者が必要ですわね」
「それから衣装も!」
「舞台の準備も必要よ」
次々と声が上がる。
琴音が黒板を見ながら言った。
「台本も必要ね」
「そうだね」
すると、伊集院がミアを見る。
「ミアさん」
「ん?」
「喜劇を提案したのはミアさんですわよね?」
「うん!」
「それなら……」
伊集院がにっこり笑う。
「台本を書いていただくのはいかがかしら?」
「えっ?」
ミアが目を丸くする。
「だって、言い出しっぺだもん!」
琴音も笑いながら頷いた。
「確かに、ミアがどんな喜劇を考えているのか、ちょっと見てみたいわ」
「えぇ~、あたしが書くの?」
「もちろんですわ」
伊集院が楽しそうに言う。
「どんなお話になるのか、今から楽しみですわね」
ミアは腕を組んで考え込んだ。
「うーん……」
そして、ニヤッと笑う。
「じゃあ、めちゃくちゃ面白いの考える!」
「期待していますわ」
こうしてミアは、喜劇の台本を書くことになった。
その日の放課後。
ミアは学校から帰ると、自分の部屋で机に向かっていた。
「うーん……」
机の上にはノートと鉛筆。
学芸会でやる喜劇の台本を考えている。
「喜劇って言っても、何を書けばいいんだろ……」
ミアは鉛筆を指でくるくる回した。
「そういえば……」
ふと、以前テレビで見た劇を思い出した。
「昔の劇、面白かったなぁ」
学校を舞台にした、ドタバタした喜劇だった。
先生と生徒が勘違いしたり、みんなが慌てて走り回ったり。
最後には、登場人物が次々と巻き込まれて大騒ぎになる。
「そうだ!」
ミアは顔を上げた。
「学校でドタバタする話なら、みんなでできそう!」
鉛筆を握り直す。
「先生がいて、生徒がいて……」
ノートに登場人物を書き始める。
「それで、なんか事件が起きて……みんなが勘違いして……」
ミアの頭の中に、少しずつ劇の場面が浮かんでくる。
「これ、絶対面白い!」
ミアは楽しそうに笑った。
こうして、ミアの学芸会の喜劇作りが始まった。
翌日の朝。
教室では、学芸会の話で盛り上がっていた。
「ミアさん、台本はできましたの?」
登校してきた伊集院が声をかける。
「うん! 昨日、家で考えてみた!」
ミアはノートを取り出した。
「まだざっくりだけどね」
やがて先生が教室に入ってくる。
「皆さん、席についてください」
女学生たちが席に着く。
先生が黒板の前に立つと、ミアが手を挙げた。
「先生、昨日考えた喜劇の内容、発表していい?」
「もちろんです」
ミアは教壇の前に立った。
「えっとね、舞台は学校!」
女学生たちが顔を見合わせる。
「学校で、ある出来事が起きるの」
ミアは黒板に簡単な絵を描きながら続けた。
「それをみんなが勘違いして、どんどん話が変な方向に進んでいくの!」
「まあ……」
伊集院が楽しそうに聞いている。
「先生も巻き込まれて、生徒も慌てて、最後にはみんなで大騒ぎ!」
ミアが両手を広げる。
「そんな感じ!」
教室が少し静かになる。
琴音が尋ねた。
「つまり……学校で起きる出来事を、みんなでドタバタしながら解決するの?」
「そうそう!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
「まだ細かいところは決めてないけど、面白くなると思う!」
伊集院が笑顔で言った。
「いいですわね。なんだか楽しそうですわ」
「でしょ?」
ミアは得意げに胸を張った。
先生も内容を聞きながら頷いた。
「では、この案をもとに、皆さんで細かいところを決めていきましょう」
「はーい!」
教室に、明るい声が響いた。
先生の言葉に、教室の女学生たちは再び話し合いを始めた。
「どんな役がいいかしら」
「私は生徒役がいいわ」
「衣装も考えなくちゃね」
そんな声を聞きながら、ミアは自分のノートを閉じた。
「ふふっ……」
「ミアさん?」
琴音が不思議そうに見る。
「ううん、なんでもない!」
ミアは笑顔で答えた。
けれど、その頭の中には、令和でテレビから見た昔の喜劇の場面が浮かんでいた。
「これ、絶対面白くなる……」
ミアは一人でニヤニヤする。
「みんな、びっくりするだろうなぁ」
そう呟くと、また楽しそうに笑った。
――まだ誰も知らない。
これから始まる学芸会が、とんでもないドタバタ劇になることを。
今回は、作中に登場した「学芸会」について少し。
現在の「文化祭」に近い学校行事は、大正時代にも行われていました。
当時は「学芸会」などと呼ばれ、演劇や唱歌、音楽、朗読などを生徒たちが発表する行事として行われていました。
特に高等女学校では、こうした発表の場も女学生たちの楽しみの一つだったようです。
今回は、そんな大正時代の女学校の学芸会を舞台に、ミアたちが喜劇に挑戦します。
ミアがどんな劇を作るのか……次回をお楽しみに!




