【40話】ミアとプリン!?
まさか、よく行くユーハイムがこんな古くからあるとは思いませんでした。
午後の喫茶店。
「いらっしゃいませー!」
ミアは今日も元気に店内を走り回っていた。
カウンターではコーヒーの香りが漂い、窓から差し込む午後の日差しが、店内を柔らかく照らしている。
「ミアちゃん、三番テーブルお願い」
「はーい!」
注文を受けたミアが、料理を運んでいく。
最近では、すっかりこの店の雰囲気にも慣れていた。
そこへ、見覚えのある女性が入ってくる。
「あら、ミアちゃん」
「あっ、記者さん!」
以前、日傘の記事を書いてくれた女性記者だった。
「こんにちは。今日は取材じゃなくて、お客さんよ」
そう言いながら席に座る。
ミアがメニューを渡すと、記者は笑顔を見せた。
「ところでね、前に紹介した日傘なんだけど……」
「うん?」
「思った以上に評判がいいのよ」
「えっ、本当!?」
ミアの顔がぱっと明るくなる。
「ええ。新聞を見た女性から問い合わせも結構あってね」
「マジで!?」
思わず身を乗り出すミア。
「ミアちゃんのアイデアが、思った以上に受け入れられたみたい」
「やったぁ!」
ミアは嬉しそうに笑った。
すると記者が、店内を見回す。
「それにしても、このお店もずいぶん繁盛してるわね」
「そうなの。最近ちょっと忙しいんだよ」
「じゃあ、今日は何にしようかしら」
記者はメニューを眺めた。
「……あら、プリンがあるのね」
「うん。人気メニューだよ」
ミアが答える。
「じゃあ、そのプリンをお願い」
「はーい!」
ミアは注文を厨房へ伝えに行った。
しばらくすると、店主が作ったプリンが運ばれてくる。
素朴なカスタード・プディング。
「まあ……かわいい」
記者はスプーンを手に取る。
ひと口食べると、卵と牛乳の優しい甘さが口の中に広がった。
「美味しいわね」
「でしょ?」
ミアも嬉しそうに笑う。
女性記者は、残ったプリンを見つめながら、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ミアちゃん」
「なに?」
「今度、帝国ホテルへ取材に行ってみない?」
「帝国ホテル!?」
ミアの目が輝いた。
「そう。最近、あちらで珍しいデザートが話題になっているそうなの」
「デザート?」
「ええ。ホテルらしい、ちょっと洒落たものらしいわ」
ミアは思わず身を乗り出した。
「どんなの?」
「それをこれから調べに行くのよ。私もまだ詳しくは知らないの」
記者は笑った。
「前の日傘の記事も評判がよかったでしょう? 今度は食べ物の記事を書いてみようと思って」
「行く!」
ミアは即答した。
女性記者は、そんなミアを見て微笑んだ。
「ふふっ。じゃあ、明日待ち合わせて取材に行きましょう」
「明日?」
「ええ。帝国ホテルで待ち合わせましょうか」
「うん!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
「どんなデザートなんだろう……」
「それは明日のお楽しみね」
女性記者はそう言うと、残ったプリンをもう一口すくった。
翌日の午後。
ミアは女性記者との待ち合わせ場所へ向かった。
「ここが……帝国ホテル?」
目の前に現れた建物を見上げる。
大きく立派な建物。
赤茶色の煉瓦や石を使った外観は、普段ミアが見慣れている建物とはどこか違っていた。
「なんか、めっちゃカッコいい……」
大正時代の東京に現れた、近代的なホテル。
その姿は、まるで外国の建物がそのまま東京にやって来たようだった。
ミアが入口を眺めていると――。
「ミアちゃん!」
「あっ、記者さん!」
女性記者が駆け寄ってきた。
「待った?」
「ううん、今来たところ!」
ミアはもう一度、帝国ホテルを見上げた。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
二人は並んで、ホテルの入口へと歩いていった。
ホテルの中へ入ると、ミアは思わず足を止めた。
「わぁ……」
高い天井に、落ち着いた色合いの壁や柱。
大きな窓からは柔らかな光が差し込み、広々とした空間には上品な家具が並んでいる。
行き交う人々も、どこか普段とは違って見えた。
洋装の紳士や、きれいな着物を着た女性。
ミアはきょろきょろと周囲を見回す。
「なんか……別世界みたい」
「帝国ホテルですもの」
女性記者が微笑む。
二人は案内されるまま、奥へと進んでいく。
やがて、食事をするための広い部屋へと入った。
そこにはテーブルが整然と並び、白いテーブルクロスがかけられている。
ミアは席につきながら、また周囲を見渡した。
「ここでデザートを食べるの?」
「ええ。」
「楽しみ!」
ミアは目を輝かせた。
二人は席につくと、店員からメニューを受け取った。
女性記者はメニューを開き、料理の名前を眺める。
「さて、何にしましょうか」
ミアも隣から覗き込んだ。
「うわぁ、いっぱいあるね」
食事のメニューに続いて、デザートの欄にもいくつかの名前が並んでいる。
記者は少し考えてから、
「私はケーキにしようかしら」
「じゃあ、あたしはプリン!」
ミアは迷うことなく答えた。
「またプリンなの?」
記者がくすっと笑う。
「だって、気になるじゃん。ホテルのプリン!」
「ふふっ。それもそうね」
記者は店員を呼んだ。
「フランクフルタークランツをお願いします」
「プリンもお願いしまーす!」
ミアは元気よく注文した。
やがて二人の前に、それぞれ注文したデザートが運ばれてきた。
運ばれてきたのは、白いバタークリームで覆われた丸いケーキだった。
表面には細かなナッツと砂糖がまぶされている。
「わあ……!」
ミアの目が輝く。
「これ、ケーキなの?」
「ええ。ドイツ風のお菓子らしいわよ」
しばらくすると、ミアの前にもプリンが運ばれてきた。
「お待たせしました」
「ありがとー!」
目の前に置かれたのは、いつもの素朴なプリン。
その横には、小さな器に入った生クリームと、色とりどりのフルーツが添えられていた。
「わぁ、フルーツもあるんだ」
ミアは嬉しそうにスプーンを手に取る。
まずはプリンをひと口。
「ん〜、やっぱ美味しい!」
次に、生クリームを少し口に運ぶ。
「これも美味しい」
そして今度は、添えられたフルーツをひとつ。
「甘酸っぱくて、いい感じ!」
ミアは一つひとつ、別々に味わっていく。
その様子を見ながら、記者が笑った。
「ずいぶん楽しそうね」
「だって、いろいろ食べられるんだもん」
二人はデザートを食べ終えると、会計を済ませて店を出た。
帝国ホテルの外に出ると、ミアが大きく息を吐く。
「はぁ〜、美味しかった!」
「ふふっ。気に入ったみたいね」
「うん! あのケーキ、すごかった!」
ミアは嬉しそうに笑う。
「白いクリームにナッツがいっぱいで、見た目もおしゃれだったし」
「フランクフルタークランツね」
「そう、それ!」
そしてミアは、自分が食べたプリンを思い出す。
「でも、あたしのプリンも美味しかったよ」
「ええ。あれも良かったわね」
ミアは少し考えるように黙った。
「……あ!」
「どうしたの?」
ミアは記者のほうを振り向く。
「ねえ、記者さん!」
「なに?」
「明日、あたしの喫茶店に来てよ!」
「明日?」
「うん! 絶対来て!」
ミアはにっこり笑った。
「ちょっと、試してみたいことがあるの!」
記者は不思議そうな顔をしながらも、頷いた。
「分かったわ。じゃあ、明日お邪魔するわね」
「約束ね!」
ミアは嬉しそうに笑った。
翌日の午後。
喫茶店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー!」
ミアが振り向く。
「あっ、記者さん!」
昨日の女性記者が店に入ってきた。
「こんにちは、ミアちゃん。昨日言っていたから来てみたわ」
「待ってたよ!」
ミアは嬉しそうに笑う。
「こっちこっち!」
記者を席へ案内すると、ミアはすぐに厨房へ向かった。
「ちょっと待っててね!」
「ええ。でも、何をするのかしら?」
「それは……お楽しみ!」
ミアは意味ありげに笑った。
しばらくすると、ミアがトレーを持って戻ってきた。
「お待たせー!」
記者の前に、そっと皿を置く。
「……まあ!」
そこにあったのは、昨日食べたプリンとはまるで違う姿だった。
大きなプリンを中心に、生クリームが添えられ、その周りには色とりどりのフルーツが飾られている。
「これ……プリン?」
「そう!」
ミアは得意そうに胸を張った。
「昨日食べたプリンに、生クリームとフルーツを合わせてみたの!」
記者は目の前のデザートをじっと見つめる。
「ずいぶん華やかになったわね」
「でしょ?」
ミアはニコッと笑った。
「プリンのフルーツ盛りかな!」
記者はスプーンを手に取ると、プリンをひと口食べた。
「……美味しい!」
生クリームとフルーツも少しずつ味わう。
「プリンだけでも美味しいけれど、こうして食べると華やかね」
「それに、よく冷えているのね。プリンも柔らかくて、とても食べやすいわ」
そして、プリンの上にかかった黒いソースに気づいた。
「この黒いものは何かしら?」
「カラメルソースだよ」
記者はカラメルソースとプリンを一緒に口へ運ぶ。
「……あら、美味しい!」
「でしょ?」
「このほろ苦さが、プリンの甘さによく合うわ」
ミアは嬉しそうに笑った。
そこへ、厨房から琴音の父が出てきた。
「ありがとうございます」
「うちで作るプリンより、少し柔らかくしてあるんですよ」
そう言って、プリンを眺める。
「それに、こうして生クリームやフルーツを添えるだけで、ずいぶん豪華に見えるでしょう?」
記者は改めて皿を見る。
「ええ。本当に。見た目だけでも、特別なデザートという感じがするわ」
ミアは得意そうに笑った。
琴音の父は笑った。
「実はこれ、うちのメニューに入れようと思ってるんですよ」
「まあ!」
記者が驚く。
「また記事にしてくださいよ」
琴音の父は、冗談めかして笑った。
「もちろんよ。こんな面白いデザート、記事にしない手はないわね」
「やった!」
ミアも嬉しそうに声を上げた。
その日は、記者にプリンアラモードの簡単な説明をして、取材は終わった。
「じゃあ、今日のところはこのくらいで。詳しいことは記事にまとめるわね」
「よろしくねー!」
記者を見送ったあと、ミアは店内を片付けながら、昨日の帝国ホテルを思い出していた。
「帝国ホテルかぁ……」
美味しかったケーキ。
そして、自分で考えたプリンアラモード。
「また、美味しいもの食べたいなぁ」
ミアはそう呟いて、にっこり笑った。
そして今日も、喫茶店の一日は終わっていった。
今回は、作中に登場したデザートについて少し。
プリンは、卵と牛乳などを使った洋菓子。日本でも大正時代には洋菓子店や喫茶店などで親しまれるようになっていました。
そして記者が食べていたのが、フランクフルタークランツ。
白いバタークリームでスポンジを包み、アーモンドシュガーをまぶした、ドイツのフランクフルトに由来するお菓子です。
このお菓子は現在でも**ユーハイムの「ユーハイムクランツ」**として販売されています。
大正時代の洋菓子を調べていたら、今でも食べられるお菓子につながっているのが面白いですね。




