【37話】ミア、初めての宝塚!?
今回は大正の宝塚の話です。2部で書きたいので。今回は前編です。
ミアは昨日買ったばかりのブーツを履いて、学校へ向かっていた。
黒い革のブーツは、昨日の夜に試したように、筒の部分を半分ほど折り返している。
「やっぱ、この履き方かわいい~!」
ミアは歩きながら、自分の足元をちらりと見る。
昨日までとは違う足元が、なんだか新鮮だった。
しばらく歩いていると――
「あら?」
前方から見慣れた姿が歩いてくる。
「琴音!」
ミアが声をかけると、琴音も気づいた。
「ミアちゃん。おはよう」
「おはよー!」
二人は道の途中で合流する。
琴音はミアの足元を見ると、少し首を傾げた。
「……あら?」
「ん?」
「そのブーツ……」
ミアは嬉しそうに足元を見せる。
「昨日買ったやつ!」
「やっぱりそうなのね」
「どう? かわいくない?」
「ええ。でも……」
琴音は少し考える。
「昨日とは履き方が違うわね」
「そうなの!」
ミアは得意そうに笑った。
「昨日、家で試してみたんだよね。こうやって折り曲げた方がかわいいかなって!」
琴音はもう一度、ミアのブーツを見る。
「なるほど……」
「でしょ?」
「でも、こういう履き方をしている人、見たことないわ」
「そりゃそうだよ!」
ミアは笑った。
「だって、あたしが考えたんだもん!」
「ふふっ」
琴音も思わず笑う。
「本当にミアちゃんらしいわね」
「でしょー!」
二人は並んで歩きながら、学校へ向かっていった。
学校へ着くと、校門の近くに伊集院の姿が見えた。
「あっ、伊集院さん!」
ミアが声をかける。
「おはようございます」
「おはよー!」
伊集院も二人に気づいて挨拶を返す。
「おはようございます、ミアさん、琴音さん」
いつも通りの笑顔。
けれど――
琴音は、伊集院の様子が少し違うことに気づいた。
なんとなく落ち着かない。
話をしていても、どこかソワソワしている。
ミアも不思議そうに伊集院を見る。
「伊集院さん、今日なんか変じゃない?」
「えっ?」
「なんか、ソワソワしてる!」
「そ、そうでしょうか?」
伊集院は少し照れたように笑った。
琴音はそんな伊集院を見て、ふと何かを思い出した。
「あっ……もしかして、今日の観劇?」
「観劇?」
「学校行事で、劇を見に行くでしょう?」
「ああ! そうだった!」
ミアが手を叩く。
「今日、劇の日なんだ!」
琴音は頷く。
「宝塚少女歌劇を観るんでしょう?」
「そうそう、それです!」
伊集院が嬉しそうに答えた。
「今日はずっと楽しみにしていたんです」
「伊集院さん、宝塚好きなの?」
ミアが尋ねる。
「はい。以前から大好きなんです」
伊集院の表情が、ぱっと明るくなる。
琴音はそんな伊集院を見て微笑んだ。
「私は名前を知っているくらいだけど……」
「えっ、琴音もあんまり知らないの?」
「ええ。どんなものなのか、詳しくは知らないわ」
ミアも頷く。
「あたしも全然知らない!」
伊集院は笑顔で二人を見る。
「なら、きっと気に入ると思いますわよ」
ミアは笑った。
「劇なんでしょ? 楽しみ~!」
始業の鐘が鳴ると、教室に先生が入ってきた。
「皆さん、今日は予定通り観劇です」
教室から、ぱっと声が上がる。
「宝塚少女歌劇を見るんですよね?」
「そうですよ。では、準備ができた人から廊下に並んでください」
「はーい!」
ミアも琴音と一緒に席を立つ。
「なんか遠足みたいで楽しいね!」
「観劇ですから、遠足とは少し違うと思うけど……」
琴音が苦笑する。
その横では、伊集院が嬉しそうにしていた。
「ふふ……今日は楽しみですわ」
「伊集院さん、ほんっとに楽しみなんだね~」
「ええ!」
三人はクラスメイトたちと合流し、先生の引率で学校を出た。
そして一行は、今日の観劇場所へ向かって歩き始めた。
しばらくすると、一行は大きな劇場の前に到着した。
正面には大きな看板が掲げられ、入口の周囲には華やかな装飾が施されている。
「わぁ……!」
ミアは思わず足を止めた。
「ここで劇を見るの?」
「ええ。市村座です」
琴音が答える。
ミアは大きな建物を見上げた。
「なんか、めっちゃ雰囲気ある~!」
一行は入口から劇場の中へ入った。
「わぁ……!」
ミアは思わず声を上げる。
高い天井には大きな照明が吊り下げられ、客席には桟敷席が並んでいる。
「なんか、すごい雰囲気ある~!」
ミアが辺りを見回す隣で、伊集院は嬉しそうに舞台を見つめていた。
生徒たちは先生の案内に従い、それぞれの席に着いた。
ミアも琴音の隣に座る。
「どんな劇なんだろ~?」
しばらくすると、舞台の幕が上がる前に演目の紹介が始まった。
ミアは興味津々で舞台を見つめた。
「本日の演目は――
『正ちゃんの冒険』
『ねね姫様』
『采女礼讃』
『毒の花園』
『酒茶問答』の五演目となります」
「えっ、五つもやるの!?」
ミアが驚くと、伊集院が嬉しそうに頷いた。
「ええ。どれも素敵な演目ですわ」
「へぇ~、楽しみ!」
しばらくすると、場内の明かりがゆっくりと落ちていった。
舞台に静寂が訪れる。
やがて幕が上がり――。
『正ちゃんの冒険』が始まった。
ミアは初めて見る、大正時代の演劇に目を輝かせていた。
今回ミアたちが観劇するのは、当時の宝塚少女歌劇です。
現在の「宝塚歌劇団」は、当時は「宝塚少女歌劇」という名前で活動していました。
今回の舞台となる市村座は、東京・下谷二長町にあった歴史ある劇場です。
そして、この時期に市村座で上演された演目は、当時の香盤(上演順)では――
①『正ちゃんの冒険』
②『ねね姫様』
③『采女礼讃』
④『毒の花園』
⑤『酒茶問答』
という五演目でした。
今回は、この実際の演目と順番を物語に取り入れています。
大正時代の宝塚を、ミアと一緒にちょっと覗いてみてください♪




