【27話】ただいま!?
この小説を書いてて鎌倉に行きたくなり、行ってきました。あいにく長嶋屋はしまってましたが。ミルクホールでお茶をして小町通をぶらっとして帰りました。
鎌倉から戻ったミアは、夕方前に家へ着いた。
玄関の戸を開ける。
「ただいまー!」
すると、奥からおばあさんが出てきた。
「おかえり、ミア」
「おばあちゃん!」
ミアは笑顔で答える。
「鎌倉はどうだった?」
「めっちゃ楽しかった!」
ミアは靴を脱ぎながら、嬉しそうに話し始める。
「海行ったり、しらす食べたり、花火見たり……あと、小町通りも歩いたんだよ!」
「まあ。それはよかったねぇ」
おばあさんは微笑む。
するとミアは、何かを思い出したように荷物を開けた。
「そうだ、お土産!」
「私にかい?」
「うん!」
ミアが取り出したのは、小さな木箱だった。
「これ、鎌倉彫の小箱!」
おばあさんは両手で受け取る。
「まあ……素敵だねぇ」
蓋には細かな模様が彫られている。
おばあさんはしばらく眺めてから、優しく微笑んだ。
「ありがとう、ミア。大切に使わせてもらうよ」
「うん!」
ミアも嬉しそうに笑った。
「鎌倉、また行きたいなぁ」
「ふふっ。そんなに楽しかったのかい?」
「うん! すっごく!」
ミアは鎌倉での出来事を思い出しながら、楽しそうに話し始めた。
しばらくすると、おばあさんがふと思い出したように尋ねる。
「ところで、ミア」
「ん?」
「まだ夏休みは残っているんだろう?」
「うん、まだあるよ」
「じゃあ、これからはどうするんだい?」
ミアは少し考える。
「うーん……」
そして、指を折りながら答えた。
「琴音の家の喫茶店を手伝ったり……」
「喫茶店のお手伝いかい?」
「うん。それと……」
ミアは少し気まずそうに笑う。
「……あとは宿題かな」
「あら」
おばあさんがクスッと笑う。
「宿題、まだ残っているのかい?」
「だって、夏休みはまだあるから……」
「そう言っていると、あっという間に終わってしまうよ」
「分かってるってばー!」
ミアは頬を膨らませる。
おばあさんはそんなミアを見て、楽しそうに笑った。
翌日。
ミアは琴音の家が営む喫茶店へ向かっていた。
「今日はお手伝いだー!」
鎌倉から帰ってきたばかりだが、今日は琴音との約束がある。
店が見えてくる。
「あれ?」
ミアは足を止めた。
店の前には、何人もの人がいる。
「……え?」
いつもとは明らかに様子が違う。
店の中も、客でいっぱいだ。
「すご……」
ミアは驚きながら店の扉を開ける。
「おはようございまーす!」
すると、店の奥から琴音の父親が振り返った。
「ああ、ミアちゃん。おはよう」
「おじさん、今日どうしたの?」
ミアは店内を見回す。
「なんでこんなにお客さんいるの?」
琴音の父親は、忙しそうにしながらも笑顔を見せた。
「それがね……」
琴音のお父さんは、店のメニューを指差した。
「以前、ミアちゃんが作ってくれたコーヒー寒天をメニューに入れただろ?」
「あっ!」
ミアが思い出す。
「うんうん!」
「それを、あの記者さんが記事にしてくれたんだよ」
「記事に?」
「そう。『新しい洋風甘味』とかなんとか紹介してくれてね」
琴音のお父さんは苦笑する。
「それが新聞に載ってから、コーヒー寒天を食べたいってお客さんが次々に来るようになったんだ」
「ええー!?」
ミアは目を丸くした。
「私のコーヒー寒天が!?」
「そうなんだよ」
琴音のお父さんは店内を見渡す。
「おかげで、朝からこの有様さ」
ミアは驚いたように店内を見回した。
「すご……」
すると、近くの客から声が聞こえてくる。
「コーヒー寒天を二つ!」
「こちらもお願いします!」
「はい、ただいま!」
店員が慌ただしく注文を受けている。
ミアは思わず笑顔になった。
「なんか、すごいことになってるね!」
「ミアちゃんのおかげだよ」
「えへへ……」
ミアは照れくさそうに頭をかいた。
そして、すぐに気持ちを切り替える。
「じゃあ、私も手伝わないと!」
「頼むよ、ミアちゃん!」
「任せて!」
ミアはエプロンを身につけると、忙しそうな店内へ飛び込んでいった。
「コーヒー寒天、お待たせしましたー!」
ミアは注文の品を両手で運び、二人の客の前に置いた。
「どうぞ!」
客は、年配の夫婦だった。
「ありがとう」
男性が答える。
女性はミアの顔を見ながら、にこりと微笑んだ。
「まあ……元気ね」
「え?」
ミアが首を傾げる。
「はい! 元気だけが取り柄です!」
ミアが笑顔で答える。
女性はくすっと笑った。
「ふふ……それは素敵なことね」
「えへへ」
ミアは照れながら頭を下げる。
すると、隣の男性が口を挟んだ。
「君、店がこんなに忙しいのに、いつまで話しているんだ」
女性が少し困ったように笑う。
「まあ、あなた。少しくらいいいじゃありませんか」
それを聞いたミアが、思わず口を挟んだ。
「おじさん、奥さんは大切にしないと!」
「……」
男性が固まる。
女性は目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「まあ……はっきり言う子ね」
「えっ……」
ミアは我に返る。
「ご、ごめんなさい! 思わず言っちゃった……」
「ふふ。いいのよ」
女性は楽しそうに微笑んだ。
「あなた、面白い子ね」
ミアは照れくさそうに笑ってカウンターに戻った。
女性は笑いながら、隣の夫に言った。
「あのような子が、私の学校にも来てくれると嬉しいわ」
「そうか?」
夫は首を傾げる。
「ええ。きっと、あのような子がたくさん来てくれると、楽しい学校になるでしょうね」
女性はそう言うと、コーヒー寒天にスプーンを入れた。
「では、いただきましょうか」
二人はコーヒー寒天を食べ始める。
「……変わった人だったなぁ」
ミアは首を傾げながら、次の注文を取りに向かった。
その後も、店は夕方まで忙しかった。
「コーヒー寒天、お待たせしましたー!」
「はい、こちらのお客様どうぞ!」
ミアも琴音も、休む暇もなく働き続けた。
やがて夕方。
最後の客を見送り、ようやく店内が静かになる。
「ふぅ……疲れたー!」
ミアはカウンターに手をついた。
「今日は本当に大変だったね」
琴音の父親も疲れた様子で笑う。
「二人ともよく頑張ってくれた。よし、まかないを作ろうか」
「やった!」
ミアが嬉しそうに声を上げる。
ところが、厨房の食材を確認した琴音の父親が固まった。
「あれ……?」
「どうしたの、おじさん?」
「しまったな……」
冷蔵庫や棚を確認する。
「今日はお客さんが多かったから、食材がほとんど残ってない」
「えー!」
ミアが厨房を覗き込む。
「本当だ……」
琴音も困った顔をする。
「どうしましょう?」
琴音の父親が頭を掻く。
「何か買いに行くしかないかな」
するとミアが手を上げた。
「私に任せて!」
「ミアさん?」
「このくらいなら、何とかなるよ!」
ミアは厨房を見回した。
残っている食材を確認する。
「これと……これと……」
ミアはニヤッと笑った。
「これなら作れる!」
琴音と父親は顔を見合わせる。
「何を作るんだい?」
「それは、できてからのお楽しみ!」
ミアは腕まくりをした。
そして、フライパンを火にかける。
「よーし!」
ミアは手際よく食材を切り、油を引いたフライパンへ入れていく。
ジュッ――。
香ばしい匂いが厨房に広がった。
「まあ……いい匂いですわ」
琴音が覗き込む。
琴音の父親も興味深そうに眺めていた。
「ミアちゃん、何を作っているんだい?」
「もうちょっと待って!」
ミアはご飯を加え、手早く炒める。
そして――
「できた!」
ミアは皿に盛り付けた。
「お待たせ!」
テーブルに料理が並ぶ。
琴音と父親は、見慣れない料理をじっと見つめた。
「これは……?」
「食べてみて!」
ミアは笑顔で勧めた。
琴音が恐る恐る一口食べる。
「……まあ!」
思わず目を輝かせた。
「美味しいですわ!」
「本当かい?」
父親も一口食べる。
「これはうまい!」
ミアは嬉しそうに笑った。
「でしょ!」
琴音のお父さんは、皿を眺めながら首を傾げた。
「ミアちゃん、これはなんだい?」
「え?」
ミアは一瞬考える。
「チャー……」
言いかけて、慌てて言い直す。
「中華風焼き飯!」
「中華風の焼き飯?」
「そうそう!」
ミアは笑顔で頷いた。
「ご飯と卵を炒めて作るの!」
琴音のお父さんは、もう一口食べる。
「なるほど……これはうまいな!」
「でしょ!」
琴音も嬉しそうに頷く。
「こんな食べ方があるなんて、知りませんでしたわ」
ミアは得意げに胸を張った。
「えへへ、簡単なんだよ!」
ミアが嬉しそうに笑う。
琴音のお父さんは少し考えると、目を輝かせた。
「これは……うちのメニューにできるな!」
「えっ、本当?」
ミアが喜ぶ。
すると琴音がすかさず口を挟んだ。
「お父さん、うちは洋食屋ですよ」
「……そうだった」
琴音のお父さんは少し考え、残念そうに肩を落とす。
「うーん……諦めよう」
「えー!」
ミアが思わず声を上げる。
三人は顔を見合わせ、笑った。
バイトを終えたミアは、夕方に家へ帰った。
「ただいまー!」
「おかえり、ミア」
おばあさんが出迎える。
「今日はどうだったんだい?」
「めっちゃ忙しかったよ!」
ミアは笑いながら答える。
「でも、まかないも食べたから、お腹いっぱい!」
「まあ、それなら晩ごはんは少しでいいね」
「うん!」
ミアは食卓につくと、晩ごはんを少しだけ食べた。
「ごちそうさま!」
「はい、お粗末さまでした」
食事を終え、ミアが食器を片付けていると、おばあさんが声をかけた。
「そうだ、ミア」
「ん?」
「明日の朝、ちょっと付き合ってもらいますよ」
「え?」
ミアは振り返る。
「明日? 何するの?」
「それは明日のお楽しみ」
おばあさんは意味ありげに微笑んだ。
「……なんだろ?」
ミアは首を傾げる。
何をするのか分からないまま、ミアは明日の予定を考えていた。
――翌朝、何が待っているのだろう。
今回は、ミアがまかないで「中華風焼き飯」を作りました。
いわゆるチャーハンですね。
チャーハン自体は大正時代にも中国料理店などで食べられていましたが、現在のように日本の家庭料理として一般的だったわけではありません。
ミアにとっては当たり前の料理でも、琴音たちにとってはちょっと珍しい料理。
そんな時代の違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。




