【26話】最後の鎌倉!?
今回で鎌倉編は終わりです。
後は皆さんの目で鎌倉の町を散策してください。
夏の朝日が、別荘の窓から差し込んでいた。
ミアはゆっくりと目を覚ます。
「……んー……」
布団の上で伸びをして、窓の外を見る。
昨日までの疲れが少し残っている。
花火を見て、手持ち花火をして、最後は線香花火。
「昨日、楽しかったな……」
ミアは小さく呟くと、着替えて部屋を出た。
食堂へ向かうと、琴音と伊集院はすでに席についていた。
「おはよう、ミアさん」
「おはようございます」
「おはよー!」
ミアも席につく。
テーブルには、朝食が用意されていた。
三人で朝食を食べ始める。
しばらくして、伊集院が口を開いた。
「さて……今日はいよいよ鎌倉で過ごす最後の日ですね」
「え?」
ミアが顔を上げる。
「もう帰るんだっけ?」
「はい。午後にはこちらを出る予定ですわ」
琴音が答える。
「そっか……」
ミアは箸を止める。
昨日まであれほど楽しかったのに、そう聞くと急に寂しくなってきた。
「じゃあ、今日の午前中が最後ってこと?」
「そうなりますね」
伊集院が頷く。
ミアは少し考える。
そして――
「じゃあさ!」
突然、顔を上げた。
まだ見ていない場所がある。
そして、ミアは顔を上げた。
「じゃあさ、最後に行きたいところがある!」
「どちらですの?」
琴音が尋ねる。
ミアは笑顔で答えた。
「小町通り!」
「…………」
「…………」
琴音と伊集院が顔を見合わせる。
「……小町通り?」
琴音が首を傾げる。
「どこですの?」
「え?」
ミアの顔が固まった。
「小町通り……知らない?」
「はい」
伊集院も不思議そうに答える。
「私は聞いたことがありませんね」
「えぇー!?」
ミアは思わず声を上げた。
「小町通りって、鎌倉じゃめっちゃ有名なのに!」
「……?」
二人はますます首を傾げる。
ミアはそこで、ふと気づいた。
(あ……)
(大正時代は無かったのかな?……)
「えっと……」
ミアは少し考えてから、言い直した。
「鎌倉駅の近くにある商店街!」
「商店街……ですの?」
琴音が首を傾げる。
「うん! お店がいっぱい並んでるところ!」
ミアが答えると、伊集院が少し不思議そうな顔をした。
「商店街で、よろしいのですか?」
「え?」
「せっかく鎌倉まで来たのですから、もう少し別の場所へ行かれるのかと思いました」
「……」
ミアは箸を持ったまま、二人を見る。
「商店街って、そんなに変?」
「いえ、そういう意味ではありませんが……」
伊集院は少し困ったように笑う。
「私たちが普段買い物をするような店とは、少し違いますから」
「ああ……」
ミアは納得した。
(そうか……)
(伊集院さんって、財閥のお嬢様だった)
ミアにとっては、鎌倉に来たら当然のように歩いてみたい場所。
でも二人にとっては、わざわざ時間を使って行く場所なのかもしれない。
ミアは少し考える。
そして――
「でも、行ってみたい!」
「ミアさん……」
琴音が微笑む。
「私も、ミアさんがそこまで行きたいとおっしゃるなら、見てみたいですわ」
伊集院も小さく笑った。
「そこまで言われてしまっては、反対する理由もありませんね」
「やった!」
ミアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、決まり!」
ミアは元気よく頷いた。
やがて三人は鎌倉駅へ向かう。
そして駅の近くまで来ると――
ミアの目に、通りに並ぶ店々が見えてきた。
「ここだ!」
ミアの顔がぱっと明るくなる。
琴音と伊集院も、初めて見る鎌倉の商店街を眺める。
「まあ……」
「思っていたより、いろいろなお店がありますね」
三人はゆっくりと、その通りへ足を踏み入れた。
鎌倉で過ごす最後の午前。
ミアたちの小町通り散策が始まった。
三人は小町通りをゆっくり歩いていた。
ミアは左右を見ながら、きょろきょろと辺りを見回している。
「……あれ?」
「どうしましたの?」
琴音が尋ねる。
「思ってたより、お店少ないね」
ミアは通りを見渡した。
現代の小町通りなら、店がずらりと並び、多くの観光客で賑わっている。
けれど今は、ところどころに店がある程度だ。
「今の小町通りとは、ずいぶん違うんだ……」
ミアは少し驚いた。
「まだ商店街ができて間もないのかもしれませんね」
伊集院が周囲を眺めながら言う。
「そっかぁ」
ミアは納得したように頷いた。
しばらく歩いていると――
「……あっ!」
ミアが突然立ち止まった。
「どうしましたの?」
ミアが指差した先に、一軒の和菓子屋があった。
店先には、木の看板。
そこには――
「長嶋家」
と書かれている。
「和菓子屋さんだ!」
ミアの顔が明るくなる。
「長嶋家……」
ミアは看板を見つめる。
「なんか、この名前……聞いたことある気がする」
「ご存じなのですか?」
「うーん……なんとなく!」
ミアは笑った。
「せっかくだし、入ってみようよ!」
三人は店の中へ入った。
店内には、いくつもの和菓子が並んでいる。
ミアは目を輝かせた。
「わぁ……いっぱいある!」
琴音も興味深そうに眺める。
「どれも美味しそうですわね」
「何にする?」
三人で相談しながら、それぞれ気になる和菓子を選ぶ。
店先で買った和菓子を、三人で食べる。
ミアは一口食べると――
「……おいしい!」
思わず笑顔になった。
「甘すぎないのがいいね!」
琴音も一口食べる。
「まあ……上品な甘さですわ」
伊集院も頷いた。
「こういうものも、鎌倉の楽しみの一つなのですね」
ミアは和菓子を眺めながら笑った。
「うん!」
そして、もう一口。
「やっぱり、鎌倉来てよかった!」
三人は小町通りをゆっくり歩いていた。
道の両側には、いくつかの店が並んでいる。
八百屋には、季節の野菜や果物が並べられていた。
「野菜も売ってるんだ」
ミアが覗き込む。
少し先には魚屋もある。
店先には魚や干物が並んでいた。
「鎌倉らしいね」
さらに歩くと、酒屋が見えてくる。
軒先には大きな酒樽が置かれている。
「お酒屋さんですわね」
琴音が呟く。
ミアはそのたびに立ち止まっては、店先を覗き込んだ。
現代の小町通りのように、店が途切れることなく並んでいるわけではない。
それでも、歩いているだけで楽しい。
「こういうのもいいなぁ」
ミアが笑う。
三人は再び小町通りを歩き始めた。
しばらくすると、ミアが一軒の店の前で足を止める。
「ん?」
店先には、洋服や帽子などが並べられている。
「服屋さんだ」
ミアは興味を持ったように店内を覗き込んだ。
「ちょっと見ていい?」
「ええ、もちろん」
琴音と伊集院も後に続く。
店内には、洋服のほかにも小さな飾り物が並んでいた。
ミアはその中から、一つのアクセサリーを見つける。
小さな木の飾りに、花の模様が彫られている。
表面は黒に近い深い色で、光が当たると赤茶色の模様が浮かんで見えた。
「……これ、かわいい!」
ミアが手に取る。
「これは鎌倉彫を使った髪飾りですわね」
琴音が教えてくれた。
ミアは髪飾りを光にかざした。
「へぇ……なんか大人っぽい」
「ミアさんによくお似合いだと思いますわ」
「じゃあ、これにする!」
ミアは髪飾りを購入すると、さっそく髪につけた。
「どう?」
「よくお似合いですわ」
琴音が微笑む。
「うん、可愛いですね」
伊集院も頷く。
ミアは嬉しそうに笑った。
「鎌倉のお土産、ゲット!」
そう言って、また二人と一緒に歩き始めた。
三人が通りを歩いていると、ミアがふと足を止めた。
「ねえ、あれって写真屋さんじゃない?」
店先には写真機が置かれている。
ミアは目を輝かせた。
「せっかくだから、写真撮っていこうよ!」
「写真ですの?」
琴音が驚く。
「うん! 三人で!」
伊集院も店を眺める。
「それは、いい思い出になりそうですね」
「でしょ!」
ミアは二人の手を引いて、写真屋へ入っていった。
三人が写真館に入ると、店内には大きな写真機と撮影用の椅子が置かれていた。
壁には、これまで撮られた人々の写真が並んでいる。
「へぇ……」
ミアは珍しそうに写真機を眺めた。
撮影の準備が始まる。
店の人が三人の立つ位置を決め、服装や髪を整えていく。
さらに写真機の調整にも時間がかかる。
「……写真撮るのって、こんなに時間かかるんだ」
ミアが小さく呟いた。
「もう少しですから、ミアさん」
琴音が微笑む。
三人は並んで椅子の前に立ち、撮影の準備が整うのを待った。
撮影の準備が整うと、店の人が三人に声をかけた。
「それでは、こちらへお願いします」
ミアは二人を見ると、突然思いついたように言った。
「ねえ、二人とも、こうしよう!」
ミアは胸の前で両手を合わせ、指でハートの形を作る。
「?」
琴音と伊集院が不思議そうに見る。
「うん! こうやって!」
ミアに促され、二人も真似をする。
「こうでしょうか?」
「そうそう!」
三人は胸の前でハートを作り、並んで撮影に臨んだ。
「ハイ、チーズ!!」
撮影が終わると、三人は写真館を出た。
「楽しかったー!」
ミアは嬉しそうに笑う。
撮影した写真は、後日それぞれの家へ届けてもらうことになった。
「写真が届くの、楽しみですわね」
琴音が微笑む。
「うん!」
ミアも笑った。
三人は写真の出来上がりを楽しみにしながら、再び小町通りを歩き始めた。
小町通りをしばらく歩いた三人は、昼前になると別荘へ戻った。
「いっぱい歩いたねー!」
ミアは少し疲れた様子で、椅子に腰を下ろす。
「少し休んだら、帰る時間ですわね」
琴音が時計を見る。
しばらく休憩したあと、二人は帰る支度を始めた。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
ミアが荷物を持つ。
伊集院が二人を見送る。
「駅までお送りします」
「ありがとう!」
三人で別荘を出る。
駅へ向かう道を歩きながら、ミアは振り返った。
「鎌倉、楽しかったなぁ……」
琴音が微笑む。
「ええ。本当に楽しかったですわ」
やがて駅に着く。
駅で別れる直前、伊集院が二人に声をかけた。
「ミアさん、琴音さん」
「ん?」
二人が振り返る。
伊集院は少し微笑んだ。
「もしよろしければ……来年も、また鎌倉へいらしてください」
「来年も?」
ミアが目を輝かせる。
「うん! 絶対来る!」
琴音も嬉しそうに頷いた。
「ええ。ぜひまたお邪魔させていただきますわ」
「お待ちしています」
伊集院が微笑む。
やがて電車が到着する。
「それじゃあ、またね!」
「東京で!」
ミアと琴音が電車に乗り込む。
動き出した電車の窓から、二人は伊集院に手を振った。
伊集院も、二人が見えなくなるまで手を振り続けていた。
電車の窓から、鎌倉の街並みが少しずつ遠ざかっていく。
ミアは窓の外を眺めながら、静かに笑った。
海、しらす、江島神社、花火、そして今日の小町通り。
「……楽しかったな」
ミアは、鎌倉で過ごした夏の日々を噛み締めるように、そっと呟いた。
夏の思い出を胸に、電車はゆっくりと鎌倉を後にしていった。
今回は、鎌倉編の最終回ということで、大正時代の小町通りを散策してみました。
当時の小町通りは、現在のようにたくさんのお店が並ぶ観光地ではなく、八百屋や魚屋、酒屋など、地域の人々が利用する店が点在する通りだったそうです。
作中に登場した和菓子屋の**「長嶋家」**は、現在も小町通りに残っている老舗です。
ミアたちが歩いた大正時代の街並みと、現在の小町通りを比べながら読んでいただけたら嬉しいです。
これで鎌倉編は終了です。
ミアたちの夏の思い出を、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。




