【28話】初めての両親!?
夏休みが終わる…
「ミア、起きなさい。朝ですよ」
「んー……」
ミアは布団の中でもぞもぞと動いた。
「あと五分……」
「昨日、明日の朝は付き合ってもらうと言ったでしょう?」
「あー……そうだった」
ミアは眠そうに目をこする。
おばあさんが障子を開けると、朝の光が部屋の中へ差し込んできた。
「ほら、起きなさい」
「まぶしー……」
ミアは布団をかぶり直す。
「もう、しょうがない子だねぇ」
おばあさんは笑いながら布団をめくった。
「さあ、顔を洗って着替えなさい」
「はーい」
ミアは渋々起き上がった。
顔を洗って身支度を整える。
「おばあちゃん、今日はどこに行くの?」
「あなたのお父さんとお母さんを迎えに行きます。」
「えっ?」
ミアの手が止まる。
「お父さんとお母さん?」
「そうですよ」
「今日、会いに行くの?」
「ええ」
ミアは少し考える。
転生して初めて会うこちら側の両親。
「……ちょっと緊張するかも」
「ふふっ。大丈夫ですよ」
おばあさんは優しく微笑んだ。
「あなたはいつも通りでいればいいんです」
「うん……」
ミアは頷いた。
二人は朝食を済ませると、家を出た。
横浜へ向かう汽車の中。
ミアは窓の外を眺めながら、祖母に尋ねた。
「ねえ、おばあちゃん。お父さんとお母さんって今まで何処にいたの?」
「二人とも仕事で外国へ行っていたのですよ」
「じゃあ、なんで私は一緒に行かなかったの?」
祖母は少し間を置いて答えた。
「あなたが小さい頃は、とても身体が弱かったからです。外国へ連れて行くのは難しいと、ご両親が判断したのですよ」
「それで、おばあちゃんのところに?」
「ええ。ここなら静かに過ごせますからね。あなたの身体を休ませるための、静養も兼ねていたのです」
「そっか……」
ミアは窓の外へ視線を戻した。
今の自分には、その頃の記憶がほとんどない。
ただ一つ分かったのは――。
以前のミアは今の自分とは違うということだ。
やがて汽車は横浜へ到着した。
ミアとおばあさんは駅から港へ向かう。
港には外国船が停泊していた。
「大きい……」
ミアが船を見上げていると、船から降りてくる人々の姿が見えた。
その中に、こちらへ手を振っている男女がいる。
「……あの二人?」
ミアが呟く。
おばあさんは嬉しそうに微笑みながら、控えめに手を振り返した。
「ええ。そうですよ」
ミアは二人を見つめた。
あれが、私のお父さんとお母さん……。
二人が近づいてくる。
「ミア……大きくなったな」
父親が嬉しそうに声をかける。
「お父さん……」
ミアは少し緊張しながら頭を下げた。
「初めまして……じゃないけど、初めましてみたいな感じです」
「ふふっ、何を言っているの」
母親が笑う。
「久しぶりね、ミア」
「うん。久しぶり……」
こうして、ミアは両親と再会した。
「せっかく横浜まで来たんだ。近くで昼食にしよう」
「そうですね」
おばあさんも頷く。
四人は港の近くで食事をすることにした。
ミアは両親の間を歩きながら、少し不思議な気持ちになっていた。
これが、私の両親なんだ……。
四人は港から少し離れた場所にある、一軒の店へ入った。
店内は落ち着いた和の造りで、畳敷きの座敷へと案内される。
「ここは昔から贔屓にしている店なんですよ」
父親がそう言いながら席につく。
「今日は牛鍋にしよう」
「はい」
母親も頷いた。
「牛鍋?」
ミアは首を傾げた。
何だろう……牛の鍋?
そんなことを考えていると、店員が鍋や食材を運んできた。
ミアはその支度を見て、思わず声を上げた。
「すき焼きじゃん!」
一瞬、部屋が静かになる。
「……すき焼き?」
父親が不思議そうにミアを見る。
「あ……」
ミアは口元を押さえた。
しまった。
ここでは牛鍋って呼ぶんだった。
「いや、その……牛鍋って、すき焼きみたいなものなんだね!」
「そうですよ」
おばあさんが笑う。
「関西ではそう呼ばれるらしいですね。ミアは、よく知っていますね」
「え、えへへ……なんとなく!」
牛鍋を囲みながら、四人は食事を始めた。
「向こうでの仕事はどうなんですか?」
おばあさんが尋ねると、父親は外国での仕事について話し始めた。
「向こうではなかなか忙しくてね。今回も長く滞在出来そうにないんだ。」
「まあ、そうでしたか」
その一方で、おばあさんはミアの最近の暮らしについて話していた。
「最近は女学校にも慣れてきましてね。お友達もできたんですよ」
「そうか。それはよかった」
「それに、この子は最近ずいぶん活発になりまして……」
「ちょっと、おばあちゃん!」
ミアが慌てて止めようとする。
両親はそんなミアを見て笑った。
牛鍋をつつきながら会話は続き、いつしか時間はゆっくりと過ぎていった。
食事を終えると、四人は店を出た。
「ごちそうさまでした」
ミアは満足そうにお腹をさする。
「牛鍋、結構おいしかったなぁ」
「気に入ったようですね」
おばあさんが笑う。
そのまま四人は、ミアとおばあさんが暮らす家へ向かった。
やがて、四人はおばあさんの家へと戻ってきた。
おばあさんが玄関を開ける。
「お邪魔します」
父と母が続いて中へ入る。
ミアも後ろから家の中へ入った。
両親がこの家に来るのは、久しぶりのことだった。
四人はお茶を飲みながら、しばらく話を続けていた。
「ところで、今回はどのくらい日本にいられるんですか?」
おばあさんが尋ねる。
父親は少し申し訳なさそうに答えた。
「残念だが、そう長くはいられないんだ。仕事が忙しくてね。数日したら、また外国へ戻らなければならない」
「まあ……そうですか」
母親も静かに頷いた。
ミアは湯呑みを手にしたまま、二人の顔を見る。
「そっか……数日だけなんだ」
せっかく会えた両親との時間は、思ったより短いようだった。
父親はしばらくミアを見つめていた。
そして、おばあさんに向かって言った。
「こうして見ると、ミアもすっかり元気になったようですね」
「ええ。昔とは見違えるほどですよ」
父親は少し考えてから、口を開いた。
「それなら……今回、私たちと一緒に連れて行こうと思うんだが」
「えっ?」
ミアが顔を上げる。
おばあさんも少し驚いた表情を見せた。
「外国へ?」
「はい。もう身体も丈夫になったようですし、これからは私たちと一緒に暮らすのもいいんじゃないかと思いまして」
ミアは突然の話に、言葉を失った。
外国……?
まさか、そんな話になるとは思ってもいなかった。
ミアは、隣にいるおばあさんの顔を見た。
おばあさんは、少し戸惑ったような表情を浮かべている。
「……」
ミアは黙ったまま、膝の上で手を握った。
外国へ行く。
両親と一緒に暮らす。
それは、本来なら嬉しいことなのかもしれない。
けれど――。
ミアはすぐに答えを出せず、悩んでいた。
おばあさんは一度、ミアの顔を見た。
そして、ほんの一呼吸置いてから、静かに答えた。
「……分かりました」
ミアは、少し驚いたようにおばあさんを見る。
「おばあちゃん……」
「あなたも元気になったことですし……ご両親と暮らすのがいいでしょう」
おばあさんはそう言って、微笑んだ。
ミアは俯き、しばらく考えていた。
そして、顔を上げる。
「……でも、私……」
「どうしました?」
「外国には行かない」
両親が驚いた顔でミアを見る。
「どうして?」
ミアは少し困ったように笑った。
「だって、それじゃあおばあちゃんが一人になっちゃうし……」
そして、少し間を置いて続ける。
「それに、琴音や伊集院さんとも離れるのは嫌だから」
おばあさんは黙ってミアを見つめていた。
すると、父親の表情が変わった。
「……伊集院?」
ミアが頷く。
「うん。伊集院さん」
「まさか……伊集院財閥の?」
「たぶん、そう」
父親は少し驚いた顔のまま、ミアに尋ねた。
「その伊集院家とは……どんな関係なんだ?」
「普通に友達だけど……」
父親は少し考えてから、おばあさんを見る。
「実は、今やっている事業の一つを伊集院財閥と共同で進めているんだ」
「まあ、そうだったんですか」
「だから、ミアが伊集院家のお嬢さんと親しくしていると聞いて驚いたよ」
ミアは二人の話を聞きながら、目を丸くした。
「そうだったんだ」
父親はミアを見つめる。
「それなら、無理に外国へ連れて行く必要はないかもしれないな。伊集院家との付き合いもあることだし、何よりミア自身が日本に残りたいのなら……」
「……いいの?」
「ああ。しばらくは、おばあさんのところで暮らすといい」
ミアの表情が、ぱっと明るくなった。
おばあさんも、少しほっとしたような表情を浮かべた。
ミアはそんなおばあさんを見て、嬉しそうに微笑んだ。
父親は
「だが、せっかく久しぶりに娘に会えたんだ。帰るまでの数日くらいは、私たちと一緒に過ごさないか?」
「うん!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
その日は、ミアが女学校のことや、琴音たちのこと、そして鎌倉での出来事を両親に話して過ぎていった。
「それでね、私、今喫茶店でお手伝いもしてるんだよ」
「お手伝い?」
父親は驚いた顔をする。
「えへへ」
おばあさんは笑いながら、最近のミアの様子を話していた。
こうして久しぶりに家族で過ごした一日は、あっという間に過ぎていった。
今回はミアの両親が外国から帰ってくる話でした。
大正時代は、もちろん現在のように飛行機で気軽に海外へ行くことはできません。海外への移動には長い時間がかかり、基本的には船が使われていました。
横浜港は当時、日本を代表する国際港の一つ。
そんな時代なので、ミアが両親を横浜港まで迎えに行くという話にしてみました。
港で外国船を待つミア――。
今ではなかなか想像しにくい光景ですね。




