【18話】江ノ電で行く大正の鎌倉!?
今回は地元回なので話数長くなるかもしれません。
試験の日。
教室には、いつもより少し緊張した空気が流れていた。
「それでは、始めます」
先生の声とともに、三人は一斉に答案用紙へ向かった。
国語、英語、裁縫……。
ミアは一つ一つの問題を確認しながら、勉強会で教えてもらったことを思い出していた。
(大丈夫……! ちゃんと覚えてる!)
そして数日後。
教室の前には、試験結果が張り出されていた。
「やった!」
ミアは思わず声を上げる。
「前より点数上がってる!」
琴音も嬉しそうに微笑んだ。
「勉強会のおかげですね」
伊集院も結果を見ながら穏やかに頷く。
「皆さん、よく頑張りましたわ」
三人は顔を見合わせて笑った。
「終わったー!」
「これで……夏休みだー!」
教室では、同じように喜ぶ声があちこちから聞こえてくる。
琴音も微笑んだ。
「ミアちゃん、本当に嬉しそうね」
「だって夏休みだよ!」
ミアは笑顔で答えた。
家に帰ると、
「ただいまー!」
「おかえり、ミア」
いつものように、おばあさんが迎えてくれる。
「テスト、どうだったんだい?」
「頑張ったよ! 琴音ちゃんと伊集院さんと勉強したから!」
ミアは嬉しそうに結果を見せる。
「そうかい。よく頑張ったねぇ」
そして少し間を置いて、
「それでね……前に話した鎌倉のことなんだけど」
ミアは夏休みの予定を話し始める。
おばあさんは優しく頷く。
「楽しんでおいで。ただし、伊集院さんのお家にお世話になるんだから、迷惑をかけないようにするんだよ」
「うん! ちゃんとする!」
ミアは元気よく返事をした。
部屋に戻ったミアは、夏休みの準備を始めた。
「海かぁ……何を持っていこうかな」
着替えや小物を用意しながら、ふとタンスの奥に目が止まる。
「ん?」
そこには、見慣れない服が畳まれていた。
ミアはそっと取り出す。
「……これって」
黒っぽい布地に、長い袖。
さらに足元まで続く形。
しばらく眺めたあと、ミアは首を傾げた。
「……水着?」
思わずスマホでもあれば検索したくなるような姿だった。
(いやいや……水着っていうより……全身タイツじゃん!)
令和の感覚では想像もつかない形に、ミアは目を丸くする。
「これ着て海に入るの……?」
しかし、大正時代ではこれが当たり前。
肌を隠しながら海を楽しむための、大切な海水浴の服だった。
ミアはもう一度水着を見つめる。
「……まあ、これも大正レトロってことかな」
少し笑いながら、荷物の中へしまうのだった。
夏休みの朝。
ミアはいつもより早く目を覚ました。
「いよいよ鎌倉だ!」
準備した荷物を持ち、玄関へ向かう。
「行ってきます!」
「気をつけて行くんだよ」
おばあさんに見送られ、ミアは家を出た。
待ち合わせ場所は駅前。
しばらくすると、見慣れた姿が見えてくる。
「ミアちゃん!」
「琴音ちゃん!」
二人は笑顔で手を振った。
「楽しみですね、鎌倉の海」
「うん! 鎌倉の海って、どんな感じなんだろう!」
二人が話していると、伊集院からの連絡を聞く。
「伊集院さんは先に車で向かわれたそうです」
「車で!?」
ミアは目を丸くする。
(大正時代に車……やっぱりお金持ちは違う!)
琴音は微笑む。
「伊集院家なら、それも珍しくないのかもしれませんね」
駅に着くと、ミアは周りを見渡した。
「わぁ……」
いつも利用している駅と同じ場所のはずなのに、そこには違う景色が広がっていた。
行き交う人々の服装。 駅員さんの制服。 そして、響き渡る汽車の音。
「切符を買わないとね」
琴音の言葉に、ミアは窓口へ向かう。
「鎌倉まで二枚お願いします」
駅員が切符を手渡す。
「これが……昔の切符」
ミアは小さな紙を眺めた。
改札では、駅員が切符を受け取り、鋏を入れる。
「パチン」
小さな音が響いた。
(これ、テレビで見たことある……!)
ミアは思わず目を輝かせる。
「すごい……本当にやってる」
琴音が不思議そうに笑う。
「ミアちゃん、何か珍しいものでも見たの?」
「あ、ううん! なんでもない!」
二人はホームへ向かう。
やがて汽笛が響き、列車がゆっくりと入ってきた。
「行きましょう」
「うん!」
二人は列車に乗り込み、鎌倉へ向かうのだった。
列車がゆっくりと動き出す。
窓の外には、大正の町並みが流れていった。
木造の家々。 道を歩く人々の着物姿。 時折見える商店の看板。
ミアは窓に顔を近づける。
「なんだか不思議……」
「何が?」
琴音が尋ねる。
「同じ日本なのに、違う風景みたい。」
琴音は優しく微笑んだ。
「いつもの風景だよ。」
「うん。でも……なんか落ち着く感じもする」
二人は流れていく景色を眺めながら、鎌倉での予定を話していた。
「海では何をするんだろう?」
「海水浴ですから、海で遊んだり、砂浜でのんびりでしょうね」
「楽しみ!」
やがて乗り換えの駅に到着する。
二人は別の列車へ乗り込み、鎌倉へ向かった。
しばらくすると――
「……あっ!」
ミアが窓の外を見て声を上げる。
遠くに青い海が見えてきた。
太陽の光を受けて、きらきらと輝いている。
「海……!」
琴音も窓の外を見る。
「綺麗だね……」
ミアは息を飲んだ。
(知ってる鎌倉の海とは違う……)
そこに広がっていたのは、大正時代の夏の海。
まだ今ほど人で賑わっていない、どこか素朴な海岸だった。
「早く行きたい!」
ミアは笑顔になる。
列車は海沿いの道を進みながら、二人を夏の鎌倉へ運んでいく。
ミアは窓の外を眺めながら、ふと琴音に尋ねた。
「ねぇ琴音ちゃん。この電車って何ていうの?」
琴音は少し考えて答える。
「これは江ノ島電気鉄道だね。」
「江ノ島電気鉄道……?」
ミアは聞き返した。
琴音は頷く。
「鎌倉と藤沢を結んでいる電車だよ。」
ミアは窓の外を走る景色を見つめる。
「えっ……」
思わず声が漏れる。
(江ノ電って……こんな昔からあったの!?)
令和でも多くの人に親しまれている電車。
まさか自分が、大正時代の車内からその電車に乗っているなんて。
「すごい……」
「ミアちゃん?」
琴音が不思議そうに見る。
「あ、ごめん! なんか感動しちゃって」
ミアは笑った。
「鎌倉と藤沢を結ぶ、大切な電車だからね。」
琴音は優しく微笑む。
「長く人を運んできた電車なんだよ。」
ミアはもう一度、窓の外を見る。
同じ海。 同じ線路。
でも、見える景色は今とは違う。
(なんか……時間旅行してるみたい)
列車は海沿いを進み、鎌倉へ向かっていった。
ミアは窓の外を眺め続けていた。
流れていく景色の中には、初めて見るものも多かった。
木造の家々。 昔ながらの商店。 着物姿で歩く人々。
けれど――
「あれ……?」
ミアはふと目を細めた。
海沿いの道。 山と海が近い景色。
どこか見覚えがある。
(この感じ……知ってる)
令和で訪れた鎌倉と、どこか似ている。
もちろん建物も人の服装も違う。
でも、海の匂いや町の空気は変わらない。
「不思議……」
「どうしたの?」
琴音が尋ねる。
「ううん。ただ……昔なのに、変わってない場所もあるんだなって」
琴音は窓の外を見ながら微笑んだ。
「きっと、大切にされてきた場所だからだろうね。」
ミアは頷く。
(昔の鎌倉も、今の鎌倉も……どっちも素敵だな)
そんなことを考えているうちに、列車はゆっくりと速度を落としていく。
「そろそろ着くね。」
琴音の声に、ミアは顔を上げた。
駅のホームが見えてくる。
「鎌倉だ……!」
二人は期待に胸を膨らませながら、列車を降りるのだった。
駅に降り立つと、夏の陽射しが二人を照らした。
「着いた……!」
ミアは駅の外を見渡す。
同じ鎌倉でも、令和で見た景色とは違う。
人々の服装。 町の雰囲気。 聞こえてくる音。
すべてが大正の夏だった。
「ミアさん、琴音さん」
声の方を見ると、伊集院が立っていた。
「伊集院さん!」
二人は笑顔で駆け寄る。
「長旅、お疲れになったでしょう」
「ううん! 電車から見る景色、すごく楽しかった!」
ミアは興奮気味に話す。
伊集院は嬉しそうに微笑んだ。
「それはよかったですわ」
すると駅前には、一台の車が停まっていた。
ミアは目を丸くする。
「これ……伊集院さんのお家の車?」
「はい。我が家の者が迎えに来ております」
(大正時代に車で移動……やっぱりすごい)
ミアは改めて伊集院家の暮らしに驚く。
三人が車へ乗り込むと、運転席には一人の男性が座っていた。
「よろしくお願いいたします」
運転手は丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いします」
ミアも慌てて挨拶を返した。
(運転手さんがいる……)
令和では当たり前に車に乗っていたミアだったが、大正時代の、それも運転手付きの車という状況に改めて驚く。
車はゆっくりと走り出した。
駅から別荘までは、それほど遠くはなかった。
窓の外には、鎌倉の町並みが流れていく。
やがて――
「あっ……!」
ミアは声を上げた。
目の前に広がる青い海。
その近くに、一軒の家が見えてきた。
大きな屋敷というほどではない。
けれど、白い壁と広い庭を持った、落ち着いた立派な家だった。
「ここが……」
車が別荘の前で静かに止まった。
「到着いたしました」
運転手が扉を開ける。
三人が車から降りると、玄関の前には一人の女性が立っていた。
白いエプロン姿のメイドだった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
メイドは丁寧に頭を下げる。
「ただいま戻りました」
伊集院も穏やかに返事をする。
「お二人を紹介いたしますわ」
伊集院はミアと琴音を見る。
「こちらは、こちらの別荘のお世話をしてくださっている方ですの」
「初めまして」
琴音が丁寧に挨拶をする。
「初めまして!」
ミアも少し緊張しながら頭を下げた。
(やっぱり、本当にいるんだ……メイドさん)
令和ではなかなか見ることのない光景に、ミアは少しだけ目を輝かせる。
「長旅でお疲れでしょう。お部屋をご用意しております」
メイドが荷物を受け取る。
海の近くの静かな別荘。
ミアたちの大正の夏休みが、いよいよ始まろうとしていた。
読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、ミアたちが夏休みに鎌倉へ向かうお話でした。
作中に登場した「江ノ島電気鉄道」について少し紹介します。
現在、多くの人に親しまれている江ノ電は、大正時代から鎌倉と藤沢を結ぶ電車として走っていました。
長い年月の中で、車両や駅の姿は変化してきましたが、海沿いを走る景色や、鎌倉の町を結ぶ役割は今も受け継がれています。
ミアが感じたように、昔と今で変わったものもあれば、変わらず残っているものもあります。
大正時代の鎌倉と、令和の鎌倉。 同じ場所でも、時代によって見える景色は違います。
次回はいよいよ、鎌倉の海での夏休みです。 ミアたちは大正時代の海水浴をどのように楽しむのでしょうか?
また次回もよろしくお願いします!




