【14話】新聞記者がやってきた!?
最近書いていて、いつの時代も余り変わらないなと思いました。
女性記者は店内へ一歩足を踏み入れると、ふと足を止めた。
「……あら?」
視線の先には、色とりどりの腕飾りを身につけた女学生たち。 そして、その中心で楽しそうに笑う少女。
「あなた……」
ミアが振り返る。
「あっ!」
「デパートの時のみつ豆アイスの子じゃない」
女性記者は驚いたように目を見開いた。
「やっぱり……あなたでしたのね」
「え? 覚えてたんですか?」
ミアが首を傾げると、女性記者は微笑んだ。
「もちろんよ。あんな珍しい甘味を考えた女の子、そう何人も忘れません」
ミアは少し照れながら笑う。
「えへへ……」
「お姉さん、どうして来たの?」
ミアは不思議そうに首を傾げた。
突然現れた女性記者に驚くよりも、再会できたことのほうが嬉しいような、屈託のない笑顔だった。
「このお店で最近、冷たいコーヒーを出していると聞いたの」
女性記者は店内を見渡しながら言った。
「街で少し話題になっていてね。珍しいものだと聞いたから、記事にできないかと思って取材に来たのよ」
「へぇ……!」
ミアは嬉しそうに目を輝かせる。
ミアと女性記者が話していると、店の奥から声が聞こえた。
「おや、もういらしていたんですね」
振り返ると、琴音の父がカウンターの奥から姿を現した。
「あ、お父さん」
琴音が声をかける。
琴音の父は女性記者に向かって、穏やかに頭を下げた。
「お待ちしておりました」
女性記者は
「最近、このお店で冷たいコーヒーを出していると伺い、取材に参りました。」
「そうでしたか」
女性記者は店内を見渡したあと、琴音の父へ向き直った。
「それでは、取材に入ります。」
「はい、どうぞ。」
琴音の父は答える。
女性記者は手帳を開き、続けた。
「こちらでは、冷たいコーヒーを出しているそうですね。どのようなきっかけで始められたのですか?」
琴音の父は、少し笑ってミアのほうを見る。
「それは……そこにいるミアちゃんの思いつきですよ」
「えっ?」
突然名前を出され、ミアは目を丸くした。
女性記者も驚いたようにミアを見る。
「あなたが考えたの?」
「うん。暑い日に冷たいコーヒーがあったら、美味しいかなって思っただけだよ」
ミアはいつもの調子で答える。
琴音の父は微笑んだ。
「最初は私も驚きました。でも飲んでみると、コーヒーの香りはそのままで、とても爽やかだった」
「今では、お客様にも好評ですよ」
女性記者は手帳に目を落としながら、小さく頷いた。
「なるほど……」
そして、ミアへ視線を向ける。
「あなたは、本当に面白いことを思いつくのね」
女性記者は手帳に何かを書き留めると、ふとテーブルの上へ視線を向けた。
そこには、先ほどミアが作ったコーヒー寒天が置かれている。
黒く透き通った甘味は、光を受けて静かに揺れていた。
「……あら?」
女性記者は器を見つめる。
「もしかして、その不思議な食べ物も……?」
そう尋ねると、店内の視線が自然とミアへ集まった。
ミアは少し笑いながら頷く。
「うん。それも私が考えたんだ」
「やはり……」
女性記者は驚いたように器を見る。
「これは一体、何でできているの?」
「寒天だよ。そこにコーヒーを混ぜて作ったの」
ミアが説明すると、女性記者は興味深そうに頷いた。
「寒天に……コーヒーを?」
「うん。ぷるぷるしてて、暑い日でも食べやすいかなって」
琴音の父も笑顔で続ける。
「この甘味も、お客様から評判になりそうですよ」
女性記者はしばらく器を眺めた。
「みつ豆アイス、冷たいコーヒー、そしてこの甘味……」
小さく呟く。
「あなたの思いつきは、次々と新しいものを生み出すのね」
ミアは照れたように笑った。
「みんなが美味しいって言ってくれたら、それで嬉しいんだけどね」
女性記者がコーヒー寒天へ興味深そうに視線を向けていると、琴音の父が穏やかな声で口を挟んだ。
「申し訳ありませんが……」
女性記者が振り向く。
「その甘味についての取材は、少し控えていただけないでしょうか」
「え?」
女性記者が意外そうな表情をする。
琴音の父は器を見ながら続けた。
「こちらは、これから店の商品として出していこうと考えているものなのです」
「なるほど……」
「まだ試作の段階ですので、詳しい作り方や内容が広まってしまうと、真似をされてしまう可能性がありますから」
穏やかな口調だったが、店主としての芯の強さが感じられた。
女性記者は少し黙ったあと、納得したように頷いた。
「……確かに、それはそうですね」
「せっかくの新しいものですから、大切に育てたいというお気持ちは分かります」
ミアは少し驚いた顔で琴音の父を見る。
「おじさん、そこまで考えてくれてたんだ」
琴音の父は優しく笑った。
「ミアちゃんが一生懸命考えたものだからね。簡単に真似されて終わってしまうのは、もったいないと思ったんだよ」
ミアは嬉しそうに笑った。
琴音の父は、女性記者へ向き直ると、柔らかく微笑んだ。
「ですが……」
「はい?」
女性記者が顔を上げる。
「この甘味を正式にお店へ出すようになりましたら、一番にあなたへご連絡いたします」
「……よろしいのですか?」
女性記者は少し驚いた表情を浮かべる。
「ええ。その時は、ぜひ取材をお願いしたいと思っています」
琴音の父は静かに頭を下げた。
「この店の新しい名物として、多くのお客様に知っていただけるなら嬉しいですから」
女性記者は少し考えたあと、微笑んだ。
「分かりました。楽しみに待っています」
そして、もう一度テーブルの上のコーヒー寒天へ視線を向ける。
「それでは、その時に改めてお話を聞かせてくださいね」
「はい!」
横で聞いていたミアが元気よく返事をする。
女性記者はくすりと笑った。
「あなたは本当に楽しそうね」
「だって、美味しいものをみんなに食べてもらえるのって嬉しいじゃん!」
その言葉に、女性記者は少し目を細めた。
(この子は……本当に面白い子ね)
その後、女性記者は琴音の父から、冷たいコーヒーを出すようになった経緯や、お客たちの反応について丁寧に話を聞いた。
「暑い日には、わざわざこれを目当てに来てくださるお客様もいるんですよ」
琴音の父がそう話すと、女性記者は感心したように何度も頷き、手帳に書き込んでいく。
「なるほど……。香りを損なわずに冷たく飲めるというのは、確かに新鮮ですね」
ひと通り取材を終えると、女性記者は手帳を閉じ、立ち上がった。
「今日はありがとうございました。とても興味深いお話が聞けました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
琴音の父も丁寧に頭を下げる。
女性記者は店の出口へ向かいかけて、ふと足を止めた。
そして、近くのテーブルに置かれていた色とりどりの腕輪へ目を向ける。
「そういえば……」
ミアたちが振り向く。
「今度は、そのテーブルにある腕輪のことも聞かせてくださいね」
「これ?」
ミアは自分の手首の腕飾りを見せる。
「ええ。女学生さんたちがみんなお揃いでつけているでしょう?」
女性記者は興味深そうに微笑んだ。
「冷たいコーヒーも素敵だけれど、こちらもなかなか面白そうだわ」
「うん!みんなで作ったんだよ!」
ミアが嬉しそうに答えると、女性記者はくすりと笑った。
「ふふ、ますます次の取材が楽しみになってしまうわね」
そう言って軽く会釈をすると、店の扉を開けて出ていった。
女性記者の姿が通りの向こうへ消えていくと、店内は一瞬、静まり返った。
「……」
「……」
友達たちは顔を見合わせる。
「ねぇ……」
「今の、本当に新聞記者さんだったの?」
「う、うん……」
琴音が小さく頷く。
「新聞に載るかもしれないってこと?」
「そういうこと……だと思う」
その瞬間。
「えぇぇぇっ!?」
店中に驚きの声が響いた。
ミアだけはきょとんとした顔で首をかしげる。
「そんなにすごいことなの?」
「すごいに決まってるじゃない!」
「新聞記者さんなんて、そうそう来る人じゃないんだから!」
伊集院は思わず額に手を当てる。
「新聞に載るというのは、大変名誉なことですのよ……。」
「えっ、そうなの?」
「普通のお店でも滅多にありませんわ。それなのに、あなたは……。」
伊集院たちも、まだどこか信じられない様子でミアを見つめる。
「まさか新聞記者の方がいらっしゃるなんて……」
「本当に驚きましたわ」
そんな話をしているうちに、窓の外は夕焼けに染まり始めていた。
琴音が時計を見て声を上げる。
「あっ、もうこんな時間!」
「そろそろ帰らないと、おうちの人が心配するね」
友達たちは慌てて荷物をまとめ始める。
「それじゃあ、また明日!」
「また学校でね!」
「気をつけて帰るんだよ、」
琴音の父に見送られながら、少女たちは夕暮れの街へと帰っていく。
ミアは店先で大きく手を振った。
「またねー!」
友達と別れたミアは、夕暮れの街を家へと歩いていく。
今日の喫茶店での出来事を思い返しながら、自然と笑みがこぼれた。
新聞記者との再会。
冷たいコーヒーの取材。
そして、コーヒー寒天や腕飾りにも興味を持ってもらえたこと。
「新聞に載ったら、どうなるんだろう?」
そんなことを考えながら、ミアは夕焼けに染まる大正の街を歩いて帰宅するのだった。
今回登場した新聞記者ですが、大正時代は新聞の発行部数が大きく伸びた時代で、新聞記者は最先端の情報を伝える花形の職業でした。
テレビやインターネットがない時代だったため、新聞の影響力は非常に大きく、お店や新しい商品が新聞で紹介されると、多くの人が訪れるきっかけになることも珍しくありませんでした。
作中でも、これからどんな影響が広がっていくのか、お楽しみに。




