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ハイカラにギャルが転生!〜令和ギャルの大正暮らし〜  作者: がお


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12/22

【12話】元気すぎる看板娘、爆誕!?

とうとう夏になってしまいましたね。

午後の授業を告げる鐘が鳴り、教室の空気が一気に緩んだ。

「終わった……!」

ミアは机に突っ伏しながら、大きく息を吐く。

「英語はまだいいけど、裁縫は肩こるんだけど!」

「ミアちゃん、授業中もずっとそう言ってたね。」

前の席の琴音が、くすりと笑った。

周囲の生徒たちも、教科書を風呂敷に包んだり、友人と談笑しながら帰り支度を始めている。木の机が動く音や、廊下へ向かう足音が重なり、女学校らしい賑やかな空気が広がっていた。

ミアも鞄を肩に掛け、伸びをする。

「よーし、今日はいよいよバイトか~。」

「ば、ばいと……?」

ミアははっとして言い換えた。

「……あ、今日から琴音ちゃんのお店でお手伝いの日だよね!」

「ふふっ、そうだね。放課後一緒に帰ろうね」

二人は教室を出ると、校門を抜けて琴音の家が営む喫茶店へと向かった。

夕方の街は、昼間とは少し違う顔を見せている。路面電車ががたんごとんと音を立てて通り過ぎ、買い物帰りの人々が行き交っていた。

「ミアちゃん放課後にお店のお手伝いって大丈夫?」

琴音が歩きながら訪ねる。

「慣れてるから大丈夫だよ!前にやったことがあるんだ。」

「そうなんだ、ミアちゃんなら、きっとすぐ慣れるよ」

琴音はそう言って微笑んだ。

しばらく歩くと、通りの角に木製の看板が見えてきた。

『珈琲亭 椿』

ガラス窓の向こうには、丸いテーブルと木の椅子が並び、ほのかに珈琲の香りが漂っている。

胸を躍らせながら、ミアは琴音と一緒に店の扉を開けた。

「ただいま。」

琴音が声をかけると、カウンターの奥から男性が顔を出した。

「おう、おかえり」

四十代半ばほどの男性は、白いシャツに黒い前掛けを身につけ、穏やかな笑みを浮かべている。

「ミアです、今日からお願いします~!」

ミアが元気よく頭を下げると、男性は朗らかに頷いた。

「おう、ミアちゃんよろしくな」

「はい!」

「この前少し教えたから、大体は分かるよな?」

「はい!」

ミアは勢いよく返事をする。

「まずはお冷やを運ぶところから頼む。慌てなくていいからな」

「任せてください!」

ミアは銀色のトレーに水の入ったコップを載せ、慎重に客席へ運んだ。

「こちら、お冷やです!」

少し緊張しながらも、無事にテーブルへ置くことができた。

(よしっ、意外といけるかも!)

そのとき、入口の扉がからん、と音を立てて開いた。

反射的に、ミアはぱっと顔を上げる。

「いらっしゃいませー!」

店内に、明るくよく通る声が響いた。

新聞を読んでいた紳士が思わず顔を上げ、近くの客同士も小さく目を見合わせる。

当時の喫茶店では、店員は丁寧で落ち着いた応対をすることが多く、ミアのように元気いっぱいの挨拶は珍しかったのだ。

「お、おう……」

入ってきた客も少し驚いた様子だったが、ミアはにこにこと笑顔を向けている。

カウンターの奥では、琴音の父が目を丸くしたあと、ふっと笑みを浮かべた。

しばらくの間、ミアは店内を忙しく動き回っていた。

「お待たせしました!」

お冷やを運び、空いた皿を下げ、注文を伝える。最初はぎこちなかった手つきも、少しずつ慣れてきている。

「ミアちゃん、だいぶ様になってきたね」

琴音にそう言われ、ミアは得意げに胸を張った。

「でしょ? 接客はわりと得意なんだよね!」

夕方になり、店内が少し落ち着いた頃。ミアは奥の席へ珈琲を運んでいた。

そこに座っていたのは、三十代半ばほどの男性だった。黒い洋装に丸眼鏡をかけ、テーブルには原稿用紙と万年筆が置かれている。

「お待たせしました、珈琲です」

ミアがカップを置こうとすると、男性は難しい顔をしたまま顔を上げた。

「……お嬢さん」

「はい?」

「君は、小説は読むかね?」

ミアは

「読むよ。えっと……“なろう”っていうところで」

「なろう……?」

男は首を傾げた。

ミアはしまった、という顔をする。

「あー、その……素人の人が小説を投稿して、みんなで読んだり、人気が出ると賞をもらえたりする場所かな」

「ほう。誰でも小説を発表できる、ということか」

「そうそう! だから、学校の先生とかじゃなくても、普通の人が作家になれたりするんだよ」

男は興味深そうにミアを見つめた。

「それは実に面白い発想だな……」

「うん。自分の名前付いた賞とか、かっこいいよね!」

「ほう……作家の名を冠した賞とは、ずいぶん名誉なことだ」

ミアは何気なく言ったつもりだったが、男はどこか考え込むように珈琲へ視線を落とした。

そのとき、別の席から声がかかった。

「すいません」

「あっ、はい! ただいま!」

ミアは慌てて返事をし、文士風の男性にぺこりと頭を下げる。

「失礼しますね」

そう言ってテーブルを後にした。

「ふぅ、今日はよく動いたな」

琴音の父が腕まくりをしながら厨房へ入る。

「二人とも腹減っただろ。まかない作るから、少し待ってな」

しばらくして運ばれてきたのは、赤いソースが絡んだ細長い麺だった。

「わっ、スパゲッティだ!」

思わずミアが声を上げる。

「知ってるのか?」

「う、うん。えっと……洋食屋さんで見たことある!」

琴音は興味深そうに皿をのぞき込む。

「私はまだ食べたことないかも……」

湯気の立つ皿が二人の前に置かれた。

赤いトマトソースが細長い麺に絡み、ほのかに香草の香りが漂っている。

「いただきます!」

ミアはさっそくフォークを手に取り、麺をくるくると巻いた。

「んっ、おいしい!」

思わず目を輝かせる。

「トマトの酸っぱさと、お肉のうま味が合ってる~!」

琴音も恐る恐るフォークを持ち、真似をして麺を巻いてみる。

「こう……かな?」

「そうそう! 上手!」

一口食べた琴音は、驚いたように目を丸くした。

「わぁ……! 麺なのに、いつものうどんや蕎麦と全然違う味がする」

「でしょ? これ、ハマるやつだよ!」

二人が楽しそうに食べていると、カウンターの奥から琴音の父が笑った。

「気に入ってもらえたみたいで何よりだ。洋食ってのは、こういう新しい味を試せるのが面白いんだよ」

ミアはフォークを持ったまま、満足そうに頷いた。

「うん! 毎日でも食べたいくらい!」

琴音はくすくす笑いながら、もう一口スパゲッティを口に運んだ。


スパゲッティを食べ終えた頃には、店内の客もほとんど帰り、外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。

「そろそろ閉店だな」

琴音の父はカウンターの上を片づけながら、ポットに残った珈琲を流しへ持っていく。

ミアはその様子を見て、思わず声を上げた。

「えっ、捨てちゃうんだ?」

「ん? ああ、時間が経った珈琲は香りが落ちるからな。明日には使えないんだ」

黒い液体が流しへ流れていく。

ミアは少し眉を下げた。

「もったいないね……」

琴音の父は手を止め、振り返る。

「そう言う子は珍しいな。普通は“古いなら仕方ない”って顔をするもんだ」

「だって、まだ飲めそうだし。何かに使えたりしないの?」

ミアの言葉に、琴音も興味深そうに父を見つめた。

「まあ、仕方がないな」

琴音の父は苦笑しながら、空になったポットを片づけた。

「今日はお疲れさん、ミアちゃん。初日なのによく動いてくれたよ」

「えへへ、ありがとうございます!」

ミアが嬉しそうに笑うと、琴音も隣で頷いた。

「本当に助かったよ、ミアちゃん」

店内の明かりが少し落とされ、最後の椅子がテーブルの上に上げられる。外では路面電車の音が遠くに聞こえ、夕暮れの街に静けさが戻り始めていた。

こうして、『珈琲亭 椿』の一日はゆっくりと幕を閉じた。

店を出ると、夜の風がひんやりと頬を撫でた。

「今日はありがとう、ミアちゃん」

琴音がぺこりと頭を下げる。

「こちらこそ! 楽しかったよ。またお手伝いするね!」

二人は途中まで一緒に歩き、分かれ道で手を振った。

「じゃあ、また明日!」

「うん、また明日ね!」

ミアは鼻歌まじりに家路を急ぐ。提灯の灯りがぽつぽつと並ぶ通りを歩きながら、今日の喫茶店での出来事を思い返していた。

(接客、けっこう楽しかったなぁ。スパゲッティもおいしかったし、あの小説家っぽい人、なんだったんだろ……)

家に着くと、玄関からふわりと出汁の香りが漂ってきた。

「ただいまー!」

「おかえり、ミア」

おばあさんが優しい声で迎えてくれる。

食卓には焼き魚と煮物、湯気の立つ味噌汁が並んでいた。

「いただきます!」

箸を手にしたミアは、待ちきれない様子で話し始める。

「ねえ、おばあちゃん! 今日、琴音ちゃんのお店でお手伝いしたんだけどね――」

おばあさんは微笑みながら頷いた。

「ほう、それで?」

「最初はお冷や運ぶだけだったんだけど、途中から注文も取ったんだよ! それでね、お客さんに『いらっしゃいませー!』って言ったら、みんなびっくりしててさ!」

「ふふっ、ミアらしいねぇ」

ミアは味噌汁をすすりながら、楽しそうに喫茶店での出来事を語り続けた。

ミアは焼き魚を一口食べると、ふと思い出したように顔を上げた。

「ねえ、おばあちゃん」

「なんだい?」

「うちに寒天ってある?」

おばあさんは少し驚いたように目を瞬かせる。

「寒天かい? ところてんを作るときのなら、戸棚に少し残っているよ」

「ほんと!?」

「急にどうしたんだい」

ミアはにやりと笑った。

「ちょっとね、面白いもの思いついちゃったかも」

おばあさんは首を傾げながらも、どこか楽しそうに微笑む。

その夜、ミアの頭の中では、喫茶店の余った珈琲と寒天を使った“ある計画”がぐるぐると巡っていた――。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回はミアの初めての喫茶店お手伝い回でした。

当時の喫茶店は、今のカフェよりも少し落ち着いた雰囲気で、店員さんも静かで丁寧な接客をすることが多かったそうです。そんな中で、ミアの元気いっぱいな「いらっしゃいませー!」は、かなり目立っていたかもしれません。

また、洋食やスパゲッティも大正時代にはまだ新しく、若い人たちにとっては“ハイカラな食べ物”でした。琴音が驚くのも、きっと自然な反応です。

そして最後にミアが聞いた「寒天」。

いったい何を思いついたのか……? 次回をお楽しみに!

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