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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第64話 冬前の公爵家会議

トマが王都へ発ってから、北境では冬前の公爵家会議が開かれた。議題は食養院だけではない。砦の修繕、村道の補修、薬草棚の屋根、軍糧の保存、そして今年の冬祭りの規模。領主たちは厚い外套を脱ぎ、長い卓に資料を並べた。


 以前なら、食事の話は会議の終わりに回された。今は違う。


 エルヴィンは最初の議題として、食養記録を置いた。


「今年、ラウム村の絵記録板を各村へ広げる。字の記録と併用し、司祭や書記がいない日にも使えるようにする」


 ノルバート男爵が腕を組んだ。


「絵の板まで予算に入れるのか。冬祭りの飾りを削ることになる」


 リディアは資料を開いた。


「飾りをすべて削る必要はありません。ただ、食べられない人の記録が残らない村では、薬師の到着が遅れます。昨冬、三つの村で同じことが起きました」


「祭りは領民の気を晴らす」


「はい。だから残します。けれど、祭りの温かい汁を出す鍋と、病後の人が食べる薄い汁の鍋を分ける費用も必要です」


 会議室は静かになった。冬祭りの鍋は、皆が楽しみにするものだ。濃い肉汁、香草、酒。元気な人には喜びになる。だが、弱っている人には重い。


 リディアは続けた。


「楽しみを減らす話ではありません。楽しめない人にも、同じ広場へ来られる皿を用意する話です」


 若い領主が手を挙げた。


「それなら、祭りの予算からではなく、療養費から出すべきでは」


「広場へ出るための皿です。祭りの予算にも意味があります」


 議論は長引いた。飾りの布を半分にする村、領主の宴席を一皿減らす村、商人に香料の寄付ではなく麦の寄付を求める村。それぞれの案が出た。


 リディアはすべてを一つの答えにしなかった。土地ごとの冬があるからだ。


 会議の終わりに、エルヴィンは書類へ署名した。


「北境の冬祭りは続ける。ただし、弱った者が広場から締め出されぬ形にする」


 その一文が議事録に残った。夜、リディアは執務室で目を押さえた。厨房の鍋より、会議の言葉のほうが疲れることがある。


 エルヴィンが麦湯を置いた。


「飲め。夫人の朝だけでなく、夫人の夜も必要だ」


「ありがとうございます」


 彼女は湯気を見つめた。


「昔は、食べられない人のために一皿を作ることだけ考えていました。今は、祭りの予算まで見ることになるのですね」


「一皿を守るためには、予算も道も屋根も必要だ」


「台所は広いですね」


「君が広げた」


 リディアは首を振った。


「広がっていたことに、ようやく気づいただけです」


 冬前の公爵家会議は、派手な勝利ではなかった。だが、次の冬、広場の端に薄い汁の鍋が置かれることになった。


 それは、誰かが家に閉じこもらずに済むための、小さな約束だった。

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