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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第33話 北境の晩餐会

婚約発表のための晩餐会は、北境らしいものになった。王都のような薔薇の飾りも、香水を染み込ませた招待状もない。招かれたのは近隣の領主、砦の隊長、城下の代表、薬草畑を手伝った村の長たち。料理は豪華すぎず、けれど貧しくもない。


 リディアは献立を見ながら、何度も量を調整した。


「婚約発表なのに、胃に優しい晩餐会ですか」


 トマが笑う。


「お祝いで翌日全員が胃もたれしたら、私の評判が落ちます」


「確かに」


 献立は、柔らかく煮た山鳥、根菜の温サラダ、麦の小さな団子、北境産の白葉草を使った軽い湯。酒は出るが、強いものには温かい麦湯を添える。


 公爵家の親族の一部は、不満そうだった。


「公爵の婚約発表に、台所の女が献立を仕切るとは」


「子爵家の養女でしょう。王宮で粥を作っていたとか」


 リディアは聞こえないふりをした。だが、エルヴィンは聞こえないふりをしなかった。


 晩餐会の挨拶で、彼は淡々と言った。


「リディア・ベルセは、北境の食養部門を築く者であり、私の命と兵の体を支えた人です。彼女の仕事を軽んじる者は、北境の食卓に座る資格がない」


 広間は静まり返った。リディアは顔が熱くなった。


 強すぎる言葉ではないかと思ったが、彼の声は怒鳴っていない。ただ、境界を示しているだけだった。それでも親族たちは黙った。


 最初の料理が出る。根菜の温サラダを食べた年配の領主が、眉を上げた。


「これは、冷えた体にいいな」


 別の隊長は山鳥を食べ、驚いたように言った。


「脂を落としているのに物足りなくない」


 食卓の空気は、料理が進むほど変わった。華やかな驚きではない。だが、食べたあとに体が重くならない。会話が続く。酒を飲む者も、麦湯を挟むことで酔いすぎない。


 晩餐会は、食事の力を静かに証明していった。食後、ある老騎士がリディアへ近づいた。


「公爵夫人となっても、兵の粥を見てくださるか」


「私一人で全部を見るのではなく、見られる人を増やします」


「それはありがたい。昔、遠征帰りの兵は腹を壊しても我慢するものだと思っていた」


「我慢で治ることもありますが、我慢で悪くなることもあります」


 老騎士は深く頷いた。晩餐会の終わり、エルヴィンはリディアを広間の外へ誘った。


 夜の風は冷たい。庭の石灯りが、薬草畑へ続く道を照らしている。


「疲れたか」


「少し」


「よく立っていた」


「公爵様の挨拶が、少し強かったです」


「弱く言えば、聞かない者がいる」


「私は、自分でも言えるようになりたいです」


 エルヴィンは彼女を見た。


「今日も言っていた。老騎士に、あなた一人で抱えないと」


 リディアは気づかなかった。少しずつ、言えるようになっているのだろうか。


 その夜、晩餐会の記録には、献立だけでなく招待客の反応も書かれた。誰が麦湯を好んだか。誰が脂の少ない肉を物足りなく感じたか。酒を飲みすぎた者はいなかったか。


 婚約発表の晩餐会は、北境食養部門の最初の公開試験にもなった。リディアは記録の最後に書いた。


 祝いの食事も、体を壊さず終えることができる。それは、彼女らしい誇りだった。

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