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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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09 噂をする者たち

09 噂をする者たち


夜会の翌朝。


伯爵夫人のモリーンは、朝食もそこそこに帽子をかぶった。


夫が不思議そうな顔をする。


「こんな朝早くから、どちらへ?」


「カフェよ」とモリーンは手袋を引っ張りながら答えた。


「カフェ? 今日は何もないだろう」


「あるのよ。昨日の夜会、あなただって見ていたでしょう」


夫は一瞬口ごもり、それから小さく息を吐いた。


「気をつけて」


賢い夫だとモリーンは思った。止めようとしないところが特に。


馬車を出してもらうほどの距離でもない。モリーンは足早に大通りを歩いた。昨夜の興奮がまだ胸の中でくすぶっている。


あんな大きな事件は久しぶりだった。家にじっとしていられるわけがない。


いつものカフェに入ると、奥の隅のテーブルへ直行する。日当たりは悪いが、入口からは見えにくく、声が通りにくい。このグループの定位置だ。


席についてすぐ、店員が近づいてきた。


「いつものをお持ちしますか、奥様」


「ええ、お願い。それと、テーブルをもう二つ、椅子は多めに」


「かしこまりました」


店員は慣れた様子で動き始める。こういった朝には何が起きるか、この店の者たちはよくわかっているのだ。


最初にやって来たのはレナだった。帽子が少し斜めになっている。急いで来たのが一目でわかった。


「来ると思っていたわ」とモリーンは言った。


「あなたもね」とレナが向かいに座る。


続いてドロシー、ハリエット、クレアが連れ立ってやって来た。テーブルはすぐに手狭になり、心得た店員がどんどん椅子を増やしてくれる。


この席には下位貴族も参加する。この場だけの参加者だ。たまには親しい商家の者もこの筋からの情報は侮れない。


全員が落ち着いたところで、誰ともなく話が始まった。


もっとも、このグループには守るべき作法がある。場所が場所だ。あからさまな言い方はしない。


「巣箱は泥棒したものを認めているのね」


ドロシーがそっと言った。巣箱は王室のこと。この席では昔からそう呼んでいる。一番は国王、二番は王妃、そして蜂が王太子だ。


「二番はとても楽しそうなお顔をなさっていたわよね」とハリエットが続ける。


「楽しそう、というより」とクレアが口元に扇を当てる。「面白いものを見た、という顔でしたわ。息子の婚約者があんなことになっているのに、助け舟の一つも出さなかった」


「出せなかったのか、出さなかったのか」とレナが言った。


誰も答えなかったが、全員が同じ結論に達しているのは顔を見ればわかった。


「それよりも」とモリーンが紅茶のカップをそっとソーサーに戻した。「あの婚約者の装身具、ご覧になった?」


「見ました」とドロシーが少し眉を上げる。「あのお立場に、あれは、ちょっと」


「ちょっとどころじゃないわ。いつも質素でらっしゃるけど、あれは酷かったわね」とクレアが扇を閉じて言った。


「巣箱もあからさますぎますね」


「お義母様とお義妹様がお似合いのものをお召しになっていたのはわかったでしょう」とハリエットが静かに言った。


誰も続きを言わなかったが、沈黙が全部を語った。


「会場からお一人で出て行かれましたよね」とレナが確かめるように言う。「エスコートもなく」


「あれは、出て行ったというより、逃げ出したのよ。いい判断をなさったわ」とモリーンは言った。「本当。上手かったわ。あの場で勘当まで取り付けてしまうんですもの」


「すごく頭が良いのか、それとも」とクレアが言いかけて止まった。


「咄嗟に動けるということよ」とモリーンが引き取った。「普段から頭を使う場面が多かったんでしょうね。あのお家では」


しばらく、誰も口を開かなかった。


やがてハリエットが言った。


「お屋敷には戻られたのかしら」


「それが」とドロシーが身を乗り出す。「わたくし、帰りにちょっと確認したんですけれど、お屋敷の様子が普通だったのよ。お迎えに出た気配もなくて。ですから王城に保護されたのではないかしら」


「そうでしょうね」とレナが静かに言った。


「二番がすぐにお茶会を開くんじゃないかしら」とモリーンは言った。「弁明のために。あるいは、ご令嬢を保護しましたという形を見せるために」


「ではそのお茶会にご令嬢も出席されるのでしょうか」とクレアが問う。


「出席なさらなければ」とハリエットがゆっくりと言った。「二番があの令嬢を見捨てたと、そういうことになりますよね」


「明日は無理でしょう。早くて明後日かしら」とレナが考える顔をした。


「出席のご案内が来たら」とドロシーが言った。「わたくしたち、どんな顔をすれば」


「知らない振りができるかしら」とモリーンは独り言のように呟いた。「本当に、心配だわ」


その言葉に、全員がいっせいに扇を口元へ持っていった。


目が笑っている。


店員が新しいお茶を持ってきた。しばらく、このテーブルのお茶は何度でも追加されることになりそうだった。

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