08 薬草採取と魔獣
08 薬草採取と魔獣
朝、薬師ギルドのドアを開けた途端、
「おはよう、ケイト」
と声をかけられた。反射的に
「おはようございます」
と返してから、マイクさんだと気づいた。
「あれ? マイクさん、どうしてここに?」
「護衛だよ」とマイクさんが笑った。
「護衛って?」
「うるさくなりそうだから、念のためにな」
うるさくなりそう、というのは、パーシーのことかしら。あるいはあの元王太子? まぁ、どちらにしても。
「なるほど。よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくな」
マイクさんがおどけて頭を下げた。わたしもつられて笑ってしまった。
ケイトが来たと伝わったのか、奥からフィリップさんが顔を出した。
「マイクからすでに聞いたと思うが、今日からしばらく彼が護衛につく。人間相手だろうが魔獣相手だろうが、頼っていい」
「ありがとうございます。ちょうどよかったです。今日は少し奥まで入ってみようと思っていたので」
フィリップさんが眉をわずかに上げる。
「奥とは?」
「命草が生えていそうな場所に、見当がついたんです。ただ、一人で行くには魔獣が心配で迷っていました。マイクさんが来てくれるなら心強いです」
「わかった。任せよう。ただし、無理をしないこと。マイクの言うことをよく聞くこと」
「はい」
「マイク、頼む」
「わかった」
短いやりとりで話はまとまった。簡潔でいいわね。
わたしたちはギルドを出て、いつものように森へ向かった。
歩きながら、わたしは目に入った薬草を順番に採取していく。冷まし草、紛れ草。状態のいいものだけを選んで、丁寧に根元から切る。
「ケイトって、見つけるのが早いな」とマイクさんが後ろから言った。
「よく来る場所ですから。どこに何が生えているか、大体わかってきました」
「そのうち地図でも作るか?」
「それいいですね。もう頭の中にはあるんですけど、書き出したことはなかったです」
「頭の中に?」
「ええ、なんとなく。このへんを歩いていると自然と」
マイクさんが小さく笑った声が聞こえた。
だんだん奥へ入るにつれて、草木が深くなり、足元も柔らかくなってくる。魔獣の気配も、確かに増してきた。
「ケイト、右」
マイクさんの声が低くなった瞬間、茂みから大型の魔獣が飛び出してくる。
わたしは咄嗟に結界を張りながら後ろへ下がり、マイクさんが一息に仕留めた。
「素早い。見事ですね」
「こういう時だけほめるのか」
「普段も素敵だと思っていますよ」
「可愛いことを言うな」とマイクさんが苦笑いした。
倒れた魔獣を、わたしは収納へ入れた。大きな体が、するりと消える。
「ちょっと待て、ケイト」
マイクさんが目を丸くしてこちらを見ている。
「そんなに大きな収納を持っているのか!」
「商店の依頼で倉庫整理をやったら、大きくなったようです。依頼はやっておくもんですね」
「そうか。なんか、驚きだ」
マイクさんが首を横に振りながら呟く。その顔が心底びっくりしているから、なんだか可笑しくて笑いをこらえるのに苦労した。
その後も魔獣が何度か現れたが、そのたびにマイクさんが片付けてくれる。わたしは収納へ入れる係だ。なんて便利な組み合わせかしら。
やがて、予想していた場所に差し掛かると、薄暗い地面に見慣れた葉の形が見えた。
「あった」
わたしは声を潜めた。命草だ。思ったより群生している。
丁寧に、慎重に、根を傷めないよう濡れた布を用意しながら採取していく。全部取るのではなく半分ほどで手を止めた。根を残せば、またここに取りに来られる。
「今日はこれで終わりにします」
「まだ行けそうだが」
「残しておきます。薬師さんに取り過ぎるなと言われているので。来月また取れますから」
マイクさんがわたしの顔を見て、それからまた命草のあたりに目を向けた。
「そういう考え方、ちゃんとしているな」
「当然のことですよ」とわたしは答えた。
帰り道、しばらく無言で歩いていると、マイクさんがふいに口を開いた。
「なぁ、ケイト。貴族の令嬢の暮らしと今の暮らしは、ずいぶん違うだろう。辛くないのか?」
まっすぐな問いだった。
「全然、辛くないです。別の苦労はありますけど、こちらの方がずっと楽です。なにより夜、ゆっくり眠れます。前は忙しくて寝る暇もありませんでした」
「そうか。そうだよな」
マイクさんが小さく呟いた。なんか、心配してくれているのかしら。
「それに、ただ働きでしたから、前は。今はお金がもらえます。それは本当に大きいです」
「なるほどな」
マイクさんがうなずきながら言った。
その横顔が、少しだけ複雑な表情をしているように見えた。何かを言いかけて、やめたような。
聞けばよかったかな、と思ったけれど、わたしも黙って歩き続けた。
薬師ギルドに戻ると、命草をはじめ今日の薬草を全部売った。フィリップさんがわたしの持ってきたものを一つひとつ丁寧に確認して、
「命草、きれいに取れていますね。お手本みたいだ」
と言った。それが嬉しくて、わたしは思わず胸を張った。
それから冒険者ギルドへ向かった。マイクさんが倒してくれた魔獣を売るためだ。
解体所にずらりと並べていると、クーパーさんがやって来た。
「これを持って帰ってきたのか?」
クーパーさんが目を細めてわたしを見る。
「ええ、マイクさんが倒してくださいまして」
「う、それを言いたいわけでは……」
何が言いたいのかしら。魔獣の量? それとも種類?
「ちゃんと護衛をしていますので」とマイクさんが口を挟む。
「そうだな」とクーパーさんがため息まじりに返した。
二人の間に漂う、なんとも言えない空気。わたしには見えていない何かが、そこにある気がした。
まぁ、今日も無事で薬草も取れて魔獣も売れた。上出来よね。
わたしは受け取った報酬を財布にしまいながら、今夜の夕飯はなにかしらと考えていた。
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