表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

10 王妃のお茶会

10 王妃のお茶会


 お茶会の招待状を出したのは、夜会から五日後のことだった。

 本来ならば早くとも十日は準備に使う。だが、悠長なことは言っていられなかった。


 こじんまりとした、ごく内輪の茶会。参加者は王妃が直々に選んだ十二名だ。発言力のある夫人たちを中心に、王家に近い家の者、そして一人ローズライン侯爵夫人エリザ。

 王妃は微笑んだ。にこやかに、しかし目は笑わずに。

 茶が運ばれ、菓子が並んだ。しばらくは当たり障りのない話が続いた。季節の話、子供の話、庭の花の話。

 そして頃合いを見て、王妃は口を開いた。

「ところで、キャサリン嬢はどうなさっていますか?」

 場が静まった。

「はい、それは、その」とエリザが答える。「勘当いたしましたので、今はもう侯爵家とは無縁の者でございます」

「ええ、存じております」と王妃は穏やかに言った。「ですが、長らく王宮にもお越しいただいていた方ですから。こちらも気になっておりまして」

「お気遣いは無用でございます。勘当した者のことは、家としては関知しかねます」

「では、あのまま、なにも持たせずに」

「はい。勘当いたしましたので」


「そうですか。夜会の後、どちらへ向かわれたかもご存知ではない?」

「それが」とエリザは少し間を置いた。「てっきり王城で保護されているものと思っておりました」

 王妃は静かにエリザを見た。

「王城で?」

「はい。あの場は王城の夜会でございます。主人が勘当を申し渡したとはいえ、それまで公務もこなしておりました娘です。王城側でお引き取りになるのが自然かと。そのように判断いたしましたが、お見捨てになったのですね」

 淀みなく出てきた言葉だった。

 用意してきた、とすぐにわかった。

 王妃は茶のカップをゆっくりと置いた。

「王城で保護されていると思っていたので、ご家族として探す必要はないとご判断なさった」

「はい、さようでございます」

「それで五日間、何もなさらなかった」

「王城にお任せすればよいと思っておりましたので」

 エリザは視線をまっすぐに向けていた。嘘をついている顔ではない。いや、正確には、嘘をついているとは思っていない顔だ。自分の言葉を信じ込んでいる。あるいは信じ込もうとしている。

 場の夫人たちは誰も口を挟まなかった。静かに、それぞれの茶を飲んでいる。

「残念ながら」と王妃は言った。

「王城にはいらっしゃいません。勘当と除籍の場に居合わせた方々もご存知の通り、あの娘はあの夜のうちに夜会の場を出ております。その後の行方が、今もって知れないのです」

 エリザの顔が、わずかに動いた。

「そうでございますか。王城は目も手もあるから、安心だと思っておりました。今日は会えるかと思って参りましたのに……」

 ローズライン夫人はまわりを見て

「では、娘はどこにいるのでしょうか?」


「それを伺いたいのはこちらです」と王妃は言った。「お心当たりはございませんか。友人でも、親しくしていた方でも」

「あの娘は」とエリザがゆっくりと言った。

「王宮の公務ばかりしておりましたので、友人と申しますか、そのような方のお話は聞いたことがなく」

「そうですか」

 王妃はそれ以上は追わなかった。

 友人がいない。行き先がわからない。家族は探さなかった。王城にいると思っていた。

 その王城にもいない。


「キャサリン嬢の亡きお母様の宝石は、今もアビゲイル嬢がお持ちなのかしら」

 今度は、場が完全に静止した。

「あれは、その、行き違いがございまして」

「行き違い」と王妃は言った。温度のない声だった。

「はい。娘が欲しいと申しまして、つい」

「つい、渡したのですか」

「きちんと整理するつもりでおりました。いずれキャサリンにも話をして」

「夜会の場で、キャサリン嬢はすでに渡してあるとおっしゃてましたね。三か月年上の妹様に」と別の夫人が静かに言った。


「アビゲイルは甘えん坊なので妹として扱っておりました。家族の冗談のような物です」

 エリザは顔を赤くしてこう言った。


「宝石も冗談ですか?」

「いえ、あれはキャサリンも納得して」

「納得して、渡した?」と王妃は言った。「それとも、渡さざるを得なかった」

「納得です」

「そうですか」

 王妃はそれ以上追わなかった。追う必要はない。この場の全員が、もう答えを持っている。

 茶会はその後も続いた。話題は他に移り、笑い声も上がった。

 だが、エリザはその後ほとんど口を開かなかった。

 茶会が終わり、出席者は満足の笑みを浮かべて帰って行った。

 扉が閉まった後、王妃はそっとカップを置いた。

 王城にいると思っていた、か。

 都合のいい思い込みだとは思う。だが同時に、まったくあり得ない話でもない。公務を担っていた娘だ。王城が引き取るという選択肢は、確かにあった。

 あった、のに、しなかった。

 王妃は小さく息を吐いた。

 エリザを責める気にはなれなかった。あの言い訳は、そのままこちらへの問いでもある。なぜ王城は保護しなかったのか。なぜ誰も追いかけなかったのか。

 答えられない。

 窓の外に目をやる。青空が広がっていた。どこまでも、のんきな青だった。


 とにかく、あの娘を見つけなくては王室の大きな傷になってしまう。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ