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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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70 温室

 70 温室 

 

 王都へ到着した翌日、ケイトたちは大使の案内で、旅の目的の一つである温室へ向かった。


 温室があるのは、王宮から馬車でしばらく進んだ王都の北側だった。


 石造りの建物が立ち並ぶ大通りを抜けると、少し開けた場所に、ガラス張りの細長い建物が見えてきた。


「あれが目的の温室ですか?」


 馬車の窓から外を眺めていたケイトが尋ねる。


「はい。あちらです」


「思っていたより普通だな」


 マイクが言った。


 温室と言われても少し窓が上についているだけだった。。北国の弱い日差しを受けて、屋根が静かに光っているだけである。


 けれど近づいてみると、周囲の様子が王都のほかの場所とは少し違っていた。


 街路の端や建物の陰にはうっすらと雪が残っているのに、温室の周囲にはほとんど雪がない。囲いの内側には冬枯れしていない草が生え、背の低い木にも緑の葉が残っている。


「あれ?」


 馬車を降りたケイトは、温室のそばに生えている草を見て首をかしげた。


「ここだけ、草が青いね」


「言われてみれば、そうだな」


 マイクが地面へ目を向ける。


 吹く風は変わらず冷たかったが、温室の周囲だけは、どことなく寒さが和らいでいるように感じられた。


「この下に温泉が通っているのです」


 大使が足元を示した。


「この下に?」


「ええ。この辺りでは、ほんの少しだけ温泉が湧くのですよ。ただし、あの温泉ほど高い温度ではありませんし、人が入浴できるほどの量はありません」


「それでも温泉なの?」


「もちろんです。量が少ないので、無駄にしないようパイプの中を通し、熱だけを利用しています」


 温泉は地上に流されることなく、地下に埋められたパイプの中を巡っているという。そのため、辺りに湯気が立つことも、温泉特有の匂いが漂うこともなかった。


「見えないところを温泉が流れてるんだ」


 ケイトは興味深そうに足元を見つめた。


「はい。温室の床下へ送り、そのあと周囲の土の下を通しているのです。大きな熱は得られませんが、土が凍りつくのを防ぐ程度には役立ちます」


「それで、ここだけ雪がないのか」


 マイクは靴の先で地面を軽く踏んだ。


 温かいというほどではない。しかし、ほかの場所のように固く凍ってはいなかった。


 温室の周囲には、寒さに強い薬草や野菜が植えられていた。本来なら冬には地上部分が枯れてしまう草も、低いながら緑の葉を残している。


 ケイトはその一つを見つけ、しゃがみ込んだ。


「これ、冬眠草ですね」


「薬草なのか?」


「うん。寒くなると葉が全部枯れて、土の中の根だけで冬を越すの。でも、ここでは葉が残ってる」


 ケイトは触れないよう注意しながら、丸い葉をのぞき込んだ。


「少し暖かいだけでも、こんなに違うんだね」


「たった一つの熱源を、ずいぶん上手に使っているんだな」


 マイクが感心したように言うと、大使は誇らしげにうなずいた。


「冬の長い国ですからね。わずかな熱も、我々にとっては貴重なのです」


 やがて温室の扉が開き、土のついた前掛けを身につけた年配の男性が姿を現した。


「お待ちしておりました、大使閣下」


「ご無沙汰しております。こちらが、先日お伝えしたケイトさんとマイクさんです」


「ケイトです。よろしくお願いします」


「マイクです」


 二人が挨拶すると、男性は穏やかに笑った。


「この温室の管理を任されております。外は冷えますから、中へどうぞ」


 扉を開けても、暖かな空気が押し寄せてくるようなことはなかった。


 中へ入ったケイトは、少し意外そうに瞬きをした。


「あれ? 思ったより暖かくない」


「はい、全部を暖かくはできません。ここは季節が全てあると思って下さい。温度の高いところは南国の植物が育っていますが、周りは冬枯れがないと思ってください」


「なるほど、四季があるって素晴らしいですね」とケイトが熱心に言った。


「そう、思っていただけるのは嬉しいですね」と管理人の顔に喜びが浮かんだ。


「はい。南の国でなければ育たない薬草を見たいとやってきたのは確かですが、それだけではない温室の素晴らしさに驚きました」


「その通りです。この温室では、暖かな地方の植物ではなく、この国や周辺の山地に生える薬草を主に育てています。ここでは冬になるとなにも取れませんから凍らない場所が大切なんです」


「寒いっていうのを途中で少しだけ経験しました。感覚とか常識が違うことは知りましたが、全部を理解してないと思います」


 管理人は話しながら温室を案内した。


 通路の両側には、大小さまざまな鉢や栽培棚が並んでいたが、マイクも知っている薬草だった。


「すごい……!」


 足取りも軽く通路を進んでいく。


「こういった薬草が同時に採集できるっていいですね!」


「ケイトさんのお国でも季節がずれますか?」


「はい、ずれてしまいます。ですから、乾燥処理が大切です」


「それは同じです。じつはこのあたりの薬草はこの国では天然で採れないのです」


「え? このあたりもそうなのですか?」


「はい。そうなのですよ。ですからここはありがたい場所です



 外では冷たい風が吹き、雪がすぐそこまで来ている。


 けれど、わずかな温泉の熱に守られた温室では、薬草たちが静かに緑の葉を広げていた。


 人が入ることもできないほど少ない温泉。それでも工夫して使えば、寒い土地で薬草の命をつなぐことができる。


 ケイトにとってそこは、珍しい薬草が集められた場所であると同時に、この国の人々の知恵が詰まった、宝物のような場所だった。


◆◇◆◇◆

次回は 07/29 の更新になります。


いつも読んでいただきありがとうございます!


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とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

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よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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