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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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69 王都へ到着

  69 王都へ到着


 馬車の修理は思った以上に難航した。


 車輪はともかく、車軸の修理がむずかしかった。


 職人は何度も首を振りながら木材を削り直し、金具を打ち直している。


「すみません、三日ではできません」


 そう告げられると、大使はすぐに護衛の一人を呼び寄せた。


「王都へ急げ。迎えの馬車を手配していただくよう伝えてくれ」


「承知しました」


 護衛は馬に飛び乗ると、街道を一直線に駆けていった。


 マイクとケイトは不満も言わずに、村長の奥さんと森に行ったり教会に行って掃除をしたりして過ごした。



「王都から迎えを馬車を出してもらいました。到着したら出発します」と大使が二人に言っている時、


 空から、ふわりと白いものが舞い落ちてきた。


「あらぁ、雪」


 ケイトが空を見上げる。


 その横でマイクも同じように顔を上げた。


「雪だな」


 二人は顔を見合わせて、同時に笑う。


「雪。めずらし……くない」


「うん、めずらしくないな」


 大使がくすりと笑った。


「はい。めずらしくありませんね。ここでは」


 ケイトは手のひらを差し出し、小さな雪を受け止めた。


 白い結晶は、指先へ触れた途端、透き通った雫へ変わる。


「きれい……」


「これから積もるんですか?」


 大使は空を見上げて首を横に振った。


「いいえ。この雪は溶けます」


「そうなんですか」


「次に降る雪から積もりますね」


 マイクが興味深そうに尋ねる。


「積もると街道はどうなりますか?」


「往来が難しくなります」


 その一言で空気が少し変わった。


 マイクは黙って大使を見る。


 大使も視線を返した。


 しばらく二人は無言で見つめ合う。


 ――国に帰る予定が……


 ――春まで動けませんよ……


 言葉にしなくても、お互いが同じことを考えているのがわかった。


 先に目をそらしたのは大使だった。


「王都では冬中楽しめますよ」


「それは、なにより」(くそ、騙された)


 短く答えるマイクに、大使は余裕の微笑みを見せた。


 ケイトは子どものように雪を追いかけていた。


 リンベルも嬉しそうに宙を舞う。


「雪。ふわふわ」


「捕まえられる?」


「やる!」


 リンベルは雪を追いかけて飛び回る。


 捕まえたと思った雪は指の間から溶け、また別の雪を追いかける。


 ケイトも笑いながら手を伸ばした。


「逃げた!」


「逃げた!」


 二人は雪の中を駆け回り、笑い声が村の広場へ響いていった。


 そんな二人を見ながら、マイクは肩の力を抜く。


「子どもみたいだな」


「ええ」


 大使も穏やかに微笑んだ。


「北へ来た実感が湧いてきたのでしょう」


 やがて雪は止み、雲の切れ間から弱い陽射しが差し込む。


 地面には雪は残らなかった。


 けれど遠くに見える山々は違っていた。


 頂上から白く染まり始めた景色は、時間とともに少しずつ麓へ向かって広がっていく。


「あれ……」


 ケイトが目を見張る。


「山が白くなっていく」


「本当だ」


 マイクも思わず立ち止まった。


 白い帯はゆっくりと山肌を下りてくる。


 まるで冬が、静かに歩いて来るようだった。


「きれいですね」


「ええ」


 大使はどこか誇らしげに山並みを見つめた。


「これからもっと美しくなりますよ」


 迎えの馬車は予定通り到着し、村に別れをつげた。



 早朝、最後の宿場町を出発した。


 街道はゆるやかな上り坂になっている。



「夕方には王都へ入ります」


「いよいよですね」


「先ず宿へご案内いたします」


 ケイトは目を輝かせた。


「楽しみです。いろいろと」


「いろいろか?」とマイクが言うと


「町もだし、温室も! 図書館も」


 大使は嬉しそうに笑う。


「ええ。ぜひ楽しんでください。いろいろと」


 その笑顔を見ていたマイクは、横目で大使を睨んだ。


(また何か企んでいる顔だな)


 しかし大使は気付かないふりをして、窓の外を眺めている。


 やがて馬車は峠の頂上へたどり着き、小休止となった。


 ケイトは真っ先に外へ飛び出した。


「わぁ……」


 思わず息をのむ。


 眼下には広大な盆地。


 その中央に、巨大な城壁に囲まれた王都が広がっていた。


 石造りの建物が陽光を受けて輝き、何本もの大通りが放射状に伸びている。


「あれが王都ですか」


 大使が隣へ並んだ。


「そうです」


「ここからの景色が王都の自慢の一つです。季節ごとにまったく違う表情を見せてくれます」


 マイクも腕を組んで景色を眺める。


「見事なものだな」


「初めて来た者は、皆さん同じことをおっしゃいます」


 再び馬車は坂を下り始めた。


 近づくにつれ、王都の城壁は想像以上の高さと長さで迫ってくる。


「大きい……」


 ケイトがぽつりとつぶやく。


「これほどとは思わなかった」


 巨大な門をくぐると、世界が一変した。


 広い石畳の大通りと行き交う馬車。


 立ち並ぶ店に、色鮮やかな看板。


 活気あふれる人々。


 馬車はその中心を軽やかに走り抜けていく。


 やがて宿へ到着した。


 ロビーで荷物を降ろし、大使が二人へ向き直る。


「それでは今日はごゆっくりお休みください」


「ありがとうございます」


 ケイトが礼を言う。


 大使はにこやかに続けた。


「お部屋に予定表を置いてありますので、ご確認をお願いいたします」


 その瞬間だった。


 マイクの眉がぴくりと動く。


(予定表……?)


 大使をじろりと睨む。


 だが大使はまるで気付いていないように、人の好い笑顔のまま一礼した。


「それでは、また明日」


 軽やかな足取りで宿を後にする。


 その背中を見送りながら、マイクはぼそりとつぶやいた。


「……嫌な予感しかしない」


 ケイトは首をかしげる。


「そうですか? わたしは楽しみですけど」


「だろうな」


 マイクは苦笑しながらため息をついた。


 明日から大使に振り回される。


 そんな予感だけは、妙にはっきりしていた。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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