表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/72

66  寒さに慣れましょう

  66  寒さに慣れましょう


 次の町へ着くころには、空気はすっかり張り詰め、吐く息が白くなるほど冷え込んでいた。


「寒いね」

 ケイトは首をすくめ、新調したばかりの防寒着の襟をぐっと引き上げた。

 その様子を見ていた大使が、満足そうに深くうなずく。

「ケイトさん、この地においては『寒いね』ではなくてですね……『冷たいね』、と言うのですよ」

「冷たいね? ……冷たいね。なるほど、冷たいね!」

 言葉の響きを確かめるように何度か繰り返したケイトは、納得したように大使に笑顔を向けた。


「ここからさらに北へ進みますと、このくらいの寒さは日常茶飯事になります。今のうちに身体を慣らしておいた方がよろしいでしょう。ですから、この町には二泊することにいたします。無理をせず、のんびりと過ごしてください」

「なるほど、身体を寒さに馴染ませるわけか」

 マイクもどんよりとした北国の空を見上げる。

「確かに、この先はもっと過酷な寒さになりそうだしな」

「ええ。我が国は北に位置しておりますから。これからが本番ですよ」

 大使の言葉に引き締まる思いを抱きながら、三人はゆっくりと町を歩き始めた。


 新調した防寒着は、見た目こそ厚ぼったくて重そうだったが、実際に着てみると驚くほど身体に馴染む。

「これ、本当に暖かいね」

 ケイトが感心したように、防寒着の袖をぎゅっと握りしめた。

「それに、こんなにしっかりしているのに動きやすいし、全然重くないの」

「仕立て屋の腕がいいんだろうな」

 マイクもぐるりと肩を回し、その着心地を確かめるように呟いた。

「大使、いい店を紹介してくれてありがとう。助かったよ」

「お気に召していただけて何よりです。旅の基本はまず足元と衣服ですからね」

 大使は嬉しそうに目元を和ませた。

「それでは、わたしは少し役所へ行って、仕事をして参ります。お二人とも、ごゆっくり」



 大使と別れた二人は、異国情緒あふれる石畳の町をあてもなく歩いた。

 しばらく行くと、ショーウィンドウに色とりどりの帽子を飾っている、お洒落な店が目に入った。

 ウィンドウの向こうには、ふわふわした毛皮の帽子や、耳当てがついた実用的なものまで、たくさんの帽子が並んでいる。

「わあ、暖かそう……それに、すごくかわいい」

 ケイトは思わず足を止め、ガラスに顔を近づけるようにしてウインドウを覗き込んだ。

 その様子に気づいた店主が、カランカランと小気味よい鈴の音を響かせてドアを開けた。

「いらっしゃい、お嬢さん。寒そうだし、中で試していきなよ」


 気さくな店主に勧められ、ケイトは白い毛皮のついた帽子をそっと被ってみた。

「どうかしら……?」

 耳まで優しく包み込まれ、遮られた風の代わりに極上の温もりが広がる。

「暖かい……!」

「うん、よく似合ってる」

 隣で見ていたマイクが、褒めた。

「そうですか……?」

 直球の言葉に、ケイトは少し照れくさそうに頬を緩める。

「おじさん、これにします!」

「じゃあ、俺も一つもらおうか」

 マイクもケイトの帽子に合わせるように、色違いの落ち着いた色の帽子を選んだ。

 店主は満足そうに、真新しい帽子を被った二人を見比べた。

「いやいや、実にお似合いの二人だねぇ。帽子も喜んでるよ」

 その言葉に、ケイトは「あ……」と少し頬を赤くして視線を泳がせる。一方のマイクは、何も言わずに照れ隠しで帽子を深くかぶり直した。




 店を出ると、先ほどよりも一段と強い風が吹き抜けた。

 ひゅっと鳴る風の音に、ケイトは思わず両手をこすり合わせる。

「うう、手が冷たい……」

 防寒着と帽子は完璧だったが、手袋はまだ持っていなかったのだ。外気に晒された彼女の白い指先は、またたく間に赤く染まっていく。

 それを見たマイクが、歩みをふと緩めた。

「ケイト」

「なに?」

「俺の手、温かいぞ」

 そう言うと、彼はごく自然な動作で、大きな右手を差し出してきた。

「え……?」

「手袋代わりだ」


 あまりにも大真面目な顔で言うものだから、ケイトは一瞬呆気にとられ、それから思わず吹き出してしまった。

「ふふっ、そんな手袋ある?」

「期間限定、現品限りだ」

「変なの」

 くすくすと言いながらも、ケイトはその温もりに誘われるように、そっと自分の小さな手を重ねた。

「……? あったかい……」

「だろ!」

 マイクの手はゴツゴツとして大きくて、不思議なくらい温かかった。

 冷え切っていたケイトの指先に、彼の体温がじんわりと染み込んでいく。

「本当だ……魔法みたい」

「言っただろ。俺は嘘はつかない」

 二人はそのまま、どちらからともなく指を絡ませ、並んで歩き出した。

 ただ手を繋いで歩くだけなのに、不思議と身体だけでなく、胸の奥までぽかぽかと温かくなっていくようだった。



 しばらく心地よい沈黙の中で歩いていると、一軒の趣ある革製品の店が目に入った。

 見れば、店先には暖かそうな毛皮付きの手袋がずらりと並んでいる。

「あっ」

 ケイトが足を止めた。

「手袋、あるね」

「……そうだな」

 マイクのトーンがわずかに下がった気がしたが、ケイトは嬉しそうに店へ入っていく。

 店内に入ると、人の良さそうな店主が次々と自慢の品を見せてくれた。

「いらっしゃい。こちらは内側に羊毛を編み込んであります。で、こっちの高級なやつは、革の内側に極上の毛皮を直接縫い付けてあるんですよ。防寒性は保証します」

 ケイトはいくつか試着し、自分の手にぴったり馴染む、淡い茶色の手袋を選んだ。

 指をグーパーと動かしてみる。

「これ、すごく動かしやすいし、それに本当に暖かい!」

「お兄さんもどうぞ。この先へ行くなら、これから手袋なしは本当にきついですよ」

 店主に勧められ、マイクは少しだけ名残惜しそうな視線をケイトに向けた後、「……そうだな」と一組の黒い手袋を選んだ。


 店を出ると、ケイトは嬉しそうに新しい淡茶の手袋をはめ、何度も手を開いたり閉じたりしてはしゃいでいた。

「うん、本当に暖かい!」

 満面の笑みを浮かべるケイト。

 しかし、その様子を隣で見つめていたマイクは、小さく「はぁ……」とため息をついた。

「どうしたの? マイク」

「いや、なんでもない」

「?」

 不思議そうに首を傾げるケイトに、マイクはこれ以上ないほど大真面目な顔で告げた。

「……俺の手袋が、早くもお役御免になったな、と思ってな」


 ケイトは一瞬きょとんとしてマイクの顔を見つめ――それから、堪えきれずにお腹を抱えて吹き出した。

「あはははっ!」

「おい、笑うな。こっちは大真面目だ」

「だって! そんなことで本気でがっかりする人、初めて見たんだもん!」

「俺は結構、あの期間限定の仕事を気に入ってたんだがな」

 拗ねたように視線を逸らすマイクが可笑しくて愛おしくて、ケイトは涙を浮かべながら彼の手をそっと引き、覗き込んだ。

「ふふ、大丈夫だよ。また手が寒くなったら……その時は、お願いするね?」


 その一言を聞いた瞬間、マイクの不満げだった表情が、目に見えてパッと明るくなった。

「……ああ、任せろ。いつでも引き受ける」

「ふふっ、期待してるね」


(仲良し、インプット)マイクはリンベルの代わりに心の中でそう呟き、満足感に浸りながら、「さて、どこかで暖かいものでも食べよう」と、美味そうな湯気を立てるレストランを探して、再びケイトと歩き出した。


 リンベルはケイトのカバンの中に大人しく収まっていた。

いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ