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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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65 温泉あるって!

  65 温泉あるって!



 五日後、防寒着を受け取ったケイトたちは、再び北へ向かった。


「次の町は温泉がありますよ」


「温泉って、あの温泉」


「温泉か初めてだな」


 二人の反応を見て大使もにこにこと説明してくれた。


「はい、岩の間から熱いお湯が出て来るんですよ。この町の人たちはお風呂大好きでして、温泉を体験した人はお風呂大好きになります。実はわたしもお風呂大好きでして。この町に滞在するのは……ふふふ……いいですよ」


 大使の顔を見て、二人も楽しみになった。



 その日の夕方、一行は山間の町へ到着した。


 町へ入った瞬間、変わった匂いが風に乗って漂ってくる。


「この匂い……」


 ケイトが大使とマイクを見る。


「温泉の匂いです」と大使は誇らしげに言った。


「ああ、温泉だな」とマイクも笑った。


 大使がうれしそうに説明する。


「ここは温泉で有名な町なのですから、旅人も多く立ち寄ります」


 宿へ荷物を置くと、宿の主人が困った顔で頭を下げた。


「申し訳ありません」


「どうしました?」


 ケイトが尋ねる。


「実は急に、温泉がぬるくなってしまいまして」


「ぬるい? 急に」


「はい」


 主人は深いため息をついた。


「昔は熱すぎるほどだったんですが、逆に寒くなるほどです」


「困りますね」


「楽しみが減りまして……」


 主人は肩を落とした。


「町のみんな、本当に困っております」


 夕食の席でも、その話題ばかりだった。


「神様がお怒りだ」


「山の精霊の機嫌を損ねた」


「温泉も寿命なんじゃないか」


 皆が好き勝手なことを言っている。


 ケイトは黙って話を聞いていた。


 翌朝、宿の主人にケイトが言った。


「少し見てきてもいいですか?」


 宿の主人は驚いた。


「見ていただけるんですか?」


「ええ。原因が分かるかもしれません」


「ぜひお願いします!」


 町長まで呼ばれ、一行は源泉へ向かった。


 山の斜面から白い湯気が立ちのぼっている。


 近づくと確かに温かい。


 だが熱いというほどではなかった。


 ケイトはしゃがみ込み、湯へ手を入れる。


「ぬるいね」とお湯をかき混ぜながら言った。


「以前は湯気がもっと多くて、前が見えなかったんですよ」


 案内していた老人が答えた。


 ケイトは辺りを見回した。


 岩が木々をなぎ倒している。


 しばらく黙って考えている。


「最近、大雨はありましたか?」


 町長が答える。


「ありましたな。十日ほど前、大きな雨が三日続きました」


「山崩れは?」


「そういえば……」


 老人が遠くを指差した。


「この山が少し崩れて、岩がたくさん転がって来ました」


 ケイトの目が少し細くなる。


「上を見に行ってもいいですか?」


 全員で山を登った。


 途中から馬も通れない道になる。


 リンベルがふわりと飛び上がった。


「見てくる」


「お願い」


 リンベルはぐんぐん高度を上げる。


 しばらくすると戻ってきた。


「石。いっぱい」


「石?」


「川。ふさいでる」


「やっぱり」


 急いで現場へ向かう。


 そこでは大量の岩が転がっていた。


 そしてそのあたりは暖かく、湯気が立ち上っている。


「これが原因だと思う」


「岩がお湯をせき止めたのか」とマイクが言うと


「なるほど!」と大使も感心している。


 マイクは崩れた岩を眺めた。


「全部どかせば戻るかもしれないな」


 町の男たちが顔を見合わせた。


「やるか」


「やろう」


「温泉を戻そう!」


 その日から総出の作業が始まった。


 冒険者たちもやって来た。


 ケイトも現場にやってきて、作業員が火傷をしないように結界をはった。


 リンベルは上空から安全な場所を教え続けた。


「右」


「そっち危ない」


「こっち」


「じょうずになった。インプット」


 最後の岩を動かしてしばらくすると、ごぼごぼごぼっ!


 地面の奥から低い音が響いてきた。


「向こうが白くなった」とリンベルが言った。



 成功したかなと源泉へ向かうと、白い湯気が見えてきた。



「熱い!」と宿の主人が歓声を上げる。


「戻った!」


 町中に鐘が鳴り響いて合図をする。


 人々が集まって来た。


「本当だ!」「いつもの温泉だ!」


「熱いぞ!」「湯気だ――」



 町長は深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」


 ケイトは慌てて手を振った。


「たまたま思いついただけです」


「いいえ」


 町長は笑った。


「神様がお怒りなのではありませんでした」


 マイクが小さく笑う。


「ケイトらしい解決だな」


 リンベルもうれしそうに一回転した。


「温泉。復活。インプット」


 その夜、宿の温泉には熱い湯がたっぷりと満ちていた。


 湯気の向こうで、ケイトは幸せそうに笑う。


「温泉っていいね。インプット」




「あの方は本当に素晴らしい方ですね」


「ああ」


 マイクも静かにうなずいた。


 大使は湯船につかりながら満足そうに目を閉じる。


「我が国は、あの方を最高の待遇でお迎えしたいと思っております」


「そうだろうな」


「マイク様、あなたもご一緒にお迎えいたします」


「そうか」


「そうです」


 大使は湯気の向こうを見つめながら、小さく笑った。


「国を救う英雄というのは、剣を振るう者ばかりではありません」


「……そうだな」


 マイクは静かに湯へ肩まで沈んだ。


「本人は、たまたまだと言うだろうがな」


 二人は思わず笑う。


 湯気の向こうから、女性用の湯へ入っているケイトの楽しそうな笑い声が、かすかに聞こえてきた。


「温泉。最高。インプット」


 その声に、マイクは肩を震わせて笑った。


「我が国へ着いたら、陛下もきっと驚かれるでしょう。これほどの方だとは、誰も想像しておりませんから。外交面の活躍もかすむほどでございますよ」


 マイクは、俺も驚いているさ、と心の中で呟いた。







いつも読んでいただきありがとうございます!


ストックがなくなりましたので、これからの更新は水曜日と月曜日とさせていただきます。

感想をお寄せくださってありがとうございます。お返事がなかなかできませんが、感謝いたしております。

なぁ、執筆がうまくいかないとき、考えている頭の片隅で別の話が進んでいきます。わたしだけかもしれませんが……その別の話を投稿します。リメイクですが読んでみてください。



誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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