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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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62 タペストリーの秘密

 62 タペストリーの秘密


 ケイトたちは神殿へやって来た。待っていた神官たちに案内されて礼拝堂に入った。


 薄暗い礼拝堂は静まり返り、高い天井へと立ち上る香の香りが漂っている。


 色とりどりの光が、ステンドグラスを通して床へ落ちていた。


 そして正面、祭壇の背後の壁に、大きなタペストリーが掛けられている。


 聖女が微笑む姿を描いた、古い一枚だった。


 長い年月を経ても糸の落ち着いた色合いは美しい、ところどころ金糸が控えめに光を返している。


 ケイトは見上げて「立派ですね……」と呟いた。


「ええ。代々受け継がれてきた宝物です」


 神官が、どこか誇らしげに答えた。


 マイクも腕を組んで見上げる。


「これは洗うなんて発想にならないな」


「はい。その通りです」


 神官は困ったように笑った。


「ですが、神官長が夢をご覧になりまして」


「夢ですか?」


「はい。夢の中で、このタペストリーの聖女様が仰ったそうです」


 神官は少し声を潜めた。


「『埃っぽいので洗ってください』と」


 一瞬、礼拝堂が静まり返る。


 ケイトとマイクは顔を見合わせた。


(困った夢を見ちゃったな)


 二人とも同じことを考えていた。


 ケイトは慎重に口を開く。


「これって……洗うと傷みませんか?」


 神官は目を丸くした。


「傷むのですか?」


「ええ」


 ケイトはタペストリーを見上げながら説明する。


「布は水を吸って縮むことがありますし、刺繍糸が色落ちしたり切れたりするかもしれません」


「そうなのですか……」


 神官たちが困り顔になって顔を見合わせている。


「ですが、聖女様が夢で……」


「そうですよね」


 ケイトは否定せずに、少し考え込んだ。


「マイク。あのタペストリー、おろせそう?」


 マイクは壁と固定具を見比べる。


「梯子があればできる」


「やっぱりそうだよね」


 ケイトは神官へ向き直った。


「まずは、おろしましょう」


「おろす?」


「はい。近くで状態をよく調べます」


 ケイトは微笑みながら続けた。


「本当に水洗いできるものなのか。それとも別のお手入れ方法があるのか。専門家も交えて知恵を出し合ったほうがいいと思います」


「いきなり洗うのではなく?」


「はい。まず調査です」


 マイクがうなずく。


「大事なものだ。慎重に扱ったほうがいい」


 神官も何度もうなずいた。


「なるほど……確かにその方が安心ですね」


 ほどなく梯子が運ばれてきた。


 マイクは慣れた動きで梯子を登る。


「固定具は思ったより丈夫だな」


 上から声が降ってくる。


 慎重に固定具の留め金を外し、一つ一つ確認しながらタペストリーを壁から浮かせていく。


 下では神官たちが息を呑んで見守っていた。


 やがて最後の留め具が外れた。


 その時だった。


「ん?」


 マイクの手が止まる。


「どうしたの?」


「後ろに何かある」


「何か?」


 タペストリーを少し持ち上げると、壁との隙間から鎖で吊るされた一本の古びた鍵がぶらりと姿を現した。


 鍵はフォークほどの長さで、歳月を経たせいか鈍い色をしている。


 神官たちがどよめいた。


「鍵……?」


「こんな所に?」


 神官たちは目を見開いている。




「この鍵はどうしましょうか? 回収しますか?」


 彼らはしばらく鍵を見つめたまま固まっていた。


「はい……はい、お願いします」


 マイクは鍵をそっと外し、そのまま梯子を降りてきた。


 受け取った鍵を、まるで初めて見る聖遺物のように何度も裏返して眺める。


「こんなものが隠されていたとは……」


 誰も存在すら知らなかったらしい。


 それから、マイクはもう一度梯子を上ってタペストリーを降ろしてきた。


 マイクはタペストリーを床にそっと置いた。


「さて、洗濯ですが」


 神官たちも顔を上げる。


「この街の織物業者に相談してみてはどうでしょう」


「織物業者ですか?」


「布を扱う専門家なら、洗えるかどうかも含めて判断してくれると思います」


 ケイトもうなずいた。


「専門家の知恵を借りるのが一番ですよ」


 その時だった。


 高い天井付近を、リンベルがふよふよと漂いながら言った。


「専門家。インプット」


 その一言に、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


 神官たちも思わず笑った。


「そうですね。専門家に相談しましょう」


 鍵を大事そうに抱えながら、神官は深く頭を下げた。


「今後のことは神殿で話し合います。本日は本当にありがとうございました」


「お役に立てたならよかったです」


 ケイトは笑顔で答えた。


 マイクも軽く頭を下げる。


 二人はリンベルと一緒に神殿をあとにした。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。

挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
 洗うのは建前かついでで鍵の発見をさせたかった気がするな。
聖女様が伝えたかったのは、タペストリーの後ろに鍵があることであって、本当はタペストリーを洗う必要はないという可能性がでてきた?
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