04 ギルドの裁定
04 ギルドの裁定
商店の裏口の扉が、重く軋んだ。
「失礼する」
低く通る声と共に現れたのは、冒険者ギルドのギルドマスターだった。そして腕を組んだ男性の姿もある。
店内にいた店員たちがざわめいた。
「な、何のご用でしょうか……?」
対応に出てきたのは店主らしき男だった。顔には明らかな動揺が浮かんでいる。
クーパーが一歩前に出る。
「貴店が発行した依頼について確認に参りました」
「依頼……ですか?」
「ええ。『売り場雑用』として登録された依頼です」
その言葉に、奥にいたメイジーの肩がびくりと揺れた。
ギルドマスターが視線だけでそれを捉える。
「担当者は、そこの女性か?」
「は、はい」
店主がしどろもどろに答える。
「では話は早い。依頼内容と実際の作業が異なるとの報告があった」
静かな声だったが、場の空気が一瞬で冷えた。
メイジーが慌てて口を挟む。
「ち、違います! あの子が勝手に」
「確認する」
ギルドマスターは遮るように言った。
「倉庫を見せてもらおう」
拒否する余地はなかった。
「倉庫?」
「そう、倉庫で働かせた」
倉庫の扉が開く。
その瞬間、空気が変わった。
「これは」
店主が息を飲む?
「何人雇ったのか?」
と店主がメイジーに聞いている。
「その……その」
山積みだったはずの穀物は、すべて種類別に整然と並べられていた。袋は埃一つなく、床も清掃されている。まるで長年手入れされてきた倉庫のようだった。
クーパーが低く笑う。
「これを、終わっていないと?」
メイジーの顔がみるみる青ざめていく。
「ち、違うんです……! こんな短時間で終わるはずが」
「終わっている」
ギルドマスターは断言した。
その一言は、判決のように重かった。
「依頼票には売り場雑用とある。だが実際には倉庫整理を命じた。これは契約条件の不正変更だ」
一歩、メイジーへ近づく。
「さらに成果確認を行わず、署名を拒否した」
もう一歩。
「報酬の支払いを拒否した」
逃げ場はなかった。
「三重の契約違反だ」
沈黙が落ちる。
店主が慌てて頭を下げた。
「も、申し訳ありません! これは、その、店の不手際です。すぐにお支払いを」
「ならば話は早い」
ギルドマスターは淡々と言った。
「本依頼は完了と認定する。規定報酬の即時支払いを命じる」
「は、はい!」
「加えて違約金を請求する」
店主の顔が凍りついた。
「い、違約金?」
「契約違反に対する当然の措置だ」
視線が鋭くなる。
「異論は?」
「ございません」
絞り出すような声だった。
クーパーがすぐに書類を取り出す。
「ではこちらに署名を。依頼完了の確認と、違約金の同意書です」
震える手で店主は署名した。
その様子を、メイジーは呆然と見ていた。
「わ、わたしは……」
言葉にならない。
ギルドマスターがゆっくりと視線を向ける。
「あなた個人にも通達する」
その声には温度がなかった。
「今後、冒険者に対する業務指示に関わることを禁ずる」
「え……」
「同様の行為が確認された場合、ギルドは貴店との取引を停止する」
それがどういう意味か、理解できない者はいない。
冒険者を使えない店。
それは、この街では致命的だった。
メイジーの膝が震え、力なく崩れ落ちる。
倉庫を後にしながら、クーパーがぼそりと呟く。
「あの嬢ちゃん、とんでもねぇな」
「ええ。あの量を、あの時間で……」
ギルドマスターは何も言わなかった。
だが、その目はわずかに細められていた。
「逃がしちゃならないな」
ぽつりと、それだけが漏れた。
その頃、ケイトはまだ知らない。
自分の働きが、思っていた以上に大きな波紋を呼んだことを。
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