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第二の星で  作者: ぷりお
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97.【汚水で光る】



「メサイア様の言うことが正しいのなら、その焼けちゃってるのは、ギランミ大佐なんじゃないか。」


マッカーは呟き、唇を噛むと、すぐに血が溢れた。


「ギランミ大佐の方が、この国に真摯であったように感じる。それを、使い物にならないなど、人を物のように吐き捨てて、あの、メカニック共も!そういう人間が、蔓延るから、この世の中は、駄目なんだよ!!」


マッカーの叫びはコックピット内に響き渡って、メイディーンは、赤いツインセンサーの光量を一層強くさせた。


「あんな綺麗な人を、使い物にならない……?

例え使い物になるのだとしても、この世の中にいちゃいけないのは、お前達みたいな人間だとわかる!

私は、まだ酒も飲めない人間だが、お前達が生きていてはいけないのは、本当によくわかることだ!」


鉄が大きくひしゃげる音がして、コックピットに二、三回、高い音で警告が鳴り響いた。


メイディーンのマニピュレーターが、格納庫の左側に、大きな歪みを持たせていた。


マッカーのメイディーンは、とうとうひしゃげた格納庫の扉から、マニピュレーターを離し、スラスターを使って、下水が下に流れる鉄造りの地面へ、右足から先に接触させた。


しかし、鉄造は重力に耐えきれず、アッシスが爆散した場所は沈んで、マシーンの足は下水の貯蓄に満たされた。


下水の貯蓄は深く、またメイディーンの重量に合わせて、水位が上がり、マシーンの踵の半分を占めるほど増水した。


そして、湧き立つように盛り上がったそれは、

白い格納庫に覆い被さるようにして、汚水による侵食を始めていた。


『マッカー、早く戻れ!お前一人でどうなる!

メサイア様も、戻って欲しいとおっしゃっているんだ!本当にシェルターを閉じるぞ!』


左サブモニターから叫ぶ声は、先のチーフメカニックのもので、鬼気迫るものがあった。


「閉じれば良い!そして、メサイア様をマシーンへ乗せれば良い。私は、貴様らへの怒りより、あの月の野蛮人共を、抹殺しなければ、腹の虫が治らんとわかった!」



メイディーンは、自身より遥かに高い螺旋の床に向け、マシンガンを掲げ、斉射する。



「各自、階層ごとに集結しだい……うわぁ!」


アッシスの歩兵部隊が、編隊を組もうと固まったところに、地面が盛り上がる爆発が起こり、その一体を支えていた床は、残骸となってメイディーンに降りかかった。


その衝撃に合わせて、シェルターの扉はゆったりと閉鎖を始めていた。



「ウッ!」


コックピットに、残骸が装甲を擦る衝撃が走って、

マシーンの肩に装備された、鋭利なスパイクや、頭部の一本の角は、へし折れていくのがわかった。


警告音が鳴り響き、急いで頭部を守ろうと、マニピュレーターの二つを交差させる。


残骸の重量に押され、地面の水脈はさらに水位を上昇させている。


マシーンを飛翔させたかったが、確実に螺旋を強引に削り上げ、装甲を傷めて、制御不能に陥って、水脈に突進をかけるか。上昇しきっても地面を突き破る力を持たずにジリ貧になるかの二択であった。


そして、その爆発の中、おそらくマシーン頭部に貼り付いたのであろう、人の首のようなものが、ディスプレイ一杯、マッカーの正面に映し出された。


脊髄らしき赤みがかった骨をもって、半壊したヘルメットとその中身。かろうじて残る瞳と、赤ピンクの筋繊維を露見させる。歯茎と白い歯は、マッカーに未知のものを見せつけられている感覚に陥らせた。


「これが、人か……?ギランミ大佐も、こんな姿に。

こんな醜いものを、皮一つで隠そうと言うのだから、

それは貴様らのような人間が生まれるのも、仕方ないだろうよ。」


マッカーは呟き、マニピュレーターの各関節に備え付けられた、放熱機構で、その頭部を瓦礫と共に吹き飛ばす。


「しかし、その全体の中にも、私のような人間がいるのなら、声を上げれば良いだろ!私のように、皮の醜さを自覚しながらも、清く、美しく生きたい者は、本当に一人もいないのか!」


「ギランミ大佐は、綺麗な方だったのだ。月の蛮族に、その心や胸、陰部やらを、晒しながら死んでいって良いお方ではないのだ!!」


マッカーは呟き、メイディーンは右側の頭部の装甲を半壊させ、灰色のフレームを露見させていた。赤いツインセンサーの光量は、纏まりがなくなる。放出することだけに固執した瞳は、自分の胸元の螺旋の坂をかける、アッシスの歩兵部隊を照らし出す。


数にしておよそ、10はある部隊。さらに、穴を開けた坂のさらに上から、人々の怒声とマシーンが地面を叩く音が聞こえる。そして、それら全てが下水の滝を介しても、明らかに統制されたものであるとわかるから、完全に包囲されているのだろう。


実際、マッカーのメイディーンは、暗い壺の中に蛇と人を押し込めて、そこに水を流しながら、ゆったりと死を待つものであった。


自身の真横のシェルターは、完全に閉鎖されていた。


「敵機、こんなところで突っ立ってるのか!!」


アッシスの一人が叫び、マシンガンを放つ。それに合わせて、坂を詰まらせた歩兵が、次々とメイディーンの下腹部や、腰を目掛けて、四方から射撃を開始した。


コックピットを小突くような音が、何度も反芻し、

マッカーの神経を逆撫でる。


自分を包囲するとぐろは、機械がアルミを叩く複数の打音と、豆鉄砲で装甲を削ろうとする鬱陶しい音に包まれた。



「貴様らのような、矮小なものというのは、そうさ!暗闇に頼るほかないからなぁ!」


「それであるのに、なぜ貴様らはこの暗がりで、

ギランミ大佐の裸を見るのだっ!!」



メイディーンは、マッカーの叫びに合わせて、そのマシンガンを四方に斉射する。辺り一体を爆発が包み、弾痕を作る場所は、兵士を爆発四散させて、アッシスの部品と共に吹き飛ばす、その後であった。


螺旋の先の壁は撃ち崩れ、浸水が始まり、ひしゃげた

アルミ造りの螺旋を包み込む。


煙が巻き起こり、狭い空洞一杯にそれが充満した時、

マッカーのコックピットのディスプレイは、灰色と

黒以外の何物でもなかった。


マッカーのメイディーンを飲み込もうと、水位を上げる下水は、弾丸による破壊で破裂した隣のダムと合わさって、機体の腿までも浸水していた。



***



「マッカーの通信途絶!!」


「なぜ、まだ通信を取ろうとしている!シェルターを閉じた時に決心したことだろう!」


狭苦しい管制室には、コンソールとオペレーターが3人、その後ろに臨時のベッドがあって、メサイアはそこに横になり、足の治療を受けていた。


そして、それを見守るチーフメカニックは、オペレーターの不要な焦燥を怒鳴りつける。


「決心とは、なにをです!」


メサイアの叫びは、足の傷口に当てられる、瞬冷スプレーの滲みによって、僅かに跳ねて震えていた。


「マッカーを盾とする決意であります。姫様の足の処置が終わり次第、メトロへ送るぞ!鳴き止まなくて敵わん!」


チーフメカニックは叫んで、管制室の扉を開く。

その時、何人かのメカニックが、肩を揺らしながら、

途切れ途切れの呼吸で、部屋に飛び込んできた。

そのメカニックは、チーフに何かを耳打ちしている。


「マッカーを盾なんて、彼も若いですよ!」

 

メサイアは、それを横目にしながら、チーフの背に向けて叫ぶ。


「彼は、それを盾に突っ走ったのです。そして、それで一生に幕をするのが、彼の生き方なんでしょ。」


コンソールの前に、ローラーを取り付けた椅子に腰掛ける女性オペレーターが、吐き捨てるように言った。


やるせなさが混じっているが、メサイアは傷の痛みで、表面的な文脈しか感じ取れなかった。


「ブリテンというのは、かくあるべき国ではないでしょう!」


「しかし、貴族の一存で、国を背負ってクーデターを起こせてしまう国なのですよ。」


「エトセーラのことを言っているのね!」


メサイアは叫ぶが、再び足の鋭い痛みで顔を歪めた。

死んでいったエトセーラ達に、メトロ・ポリシーの搭乗を急かされている気分であった。



「しかし、あなたの名誉を思って言っていることなのです。……だから、痛むのね。」


メサイアは自嘲気味に笑って、自分を治療した軍医に肩を借り、お礼を言いながら、立ち上がる。


「では、早速。」


チーフメカニックは、そんなメサイアを見て、扉の前に集るメカニック達を怒鳴りつけ、メサイアと軍医を催促した。



***


煙が明けた先には、再び弾丸であった。


「リッター・ギャロン用意!!」


メイディーンの頭部の、丁度前傾上に位置する螺旋の、アッシス歩兵は、叫び、その奥から大砲のようなものがマシーン2機に引き摺られる。その横には、瓦礫と共に退けられた、破れた蒼いパイロットスーツと、骨や黒い肉を露見させる死体があった。


リッター・ギャロンと呼ばれた大砲は、アルミ造りの手すりを突き破り、その砲身をメイディーンの頭頂部へ俯角させた。


6メートルほどのサイズのアッシス、2機をもってようやく運べるサイズである。その口径は、マシーンの額に巨大な空洞を作ることは、容易く行えそうであった。



「敵の攻撃が来る前に放つぞ!カウント開始!!」


『3……2……1……てぇっ!!』


スピーカー越しの声が、暗闇に響き渡り、その薄緑の色彩を乱す、圧倒的な赤と橙が弾けた。


コックピット内部に、閃光が輝き、バイザーを上げていたマッカーの視力は、完全に奪われた。


彼の灰色と黒を交えた瞳には、その灰色が黒に包まれる瞬間があったからだ。


次は、自分を飲み込む爆発音であり、コックピットの

センサーは、それを律儀に拾うから、マッカーのヘルメットは大きく膨張して、耳を圧迫する。


「うぁぁぁ!!」


マッカーの喉から発される叫びは、二、三度誘発する爆破に再び掻き消され、メイディーンは、その頭部の顎上部から全てを失い、顎下の兜となるフレームを露見させ、その姿は人の死に体であった。


大砲で人の頭の8割を吹き飛ばせば、この挙動を取るのだろう。


メイディーンは、圧力パラメータの駆動を失い、自分の腰まで迫る水脈に、マシンガンを投げ落とす。


それに合わせて、水位はさらに上がり、腹の辺りまでも下水が覆い隠した。


マシーンは、後方の螺旋を、エンジンで押し潰した後、首と背中のもたれによって、壁を破壊し、

隣に設置されていた水脈も解放してしまった。


「水脈が上がっています!!」


「退避だ!!」


アッシスの歩兵部隊は、叫び最初にメサイアとギランミを飛ばした穴へと傾れるが、下水は空白を埋めるように、水圧をもって、細かいマシーンの全てを爆散させる。


そして、マッカーのメイディーンの胸部、心臓の彼も、同様に水圧により急速にひしゃげ、爆発を伴って下水の一部へと変わった。


それは、ギランミであった骸と同じタイミングだった。









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