表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二の星で  作者: ぷりお
94/104

94.【救護信号】



少女達を再び、振動が襲った。

地面が波打ち、それが二、三度続いた時、その衝撃はピタリと止んだ。


マシーンの赤いツインセンサーは、頭部の、左右を確認する動きに合わせて、道全体を映し出した。


道の両端には瓦解した建物、その隙間に人の死体のようなものが多数転がっているのがわかる。


そして、道の中央には、服の一部が破れた老人や、

子供を庇うように背中を向ける大人、瓦礫から這い出るように身体を伸ばし、それを引っ張って助けようとする人々の群れがあった。先の少女を抱いた母親も、道の路地から、姿を現し、マシーンのセンサーに撫でられるように照らされた。


「酷いな……」


セルヴスのパイロットは呟き、マシーンにゆっくりと片膝をつかせて、比較的崩壊した屋根に、その左マニュピレーターを置く。マシンガンは、民間人に向けないよう、銃口を地面に押し付けた。


人々は、巨体が自分達を覆う影を作ったことで、ひどく怯え、身体を寄せ合って泣き叫ぶ者までいた。



『避難に遅れている民間人は他にいるか?お前達が最後か?』



灰色の機体は赤い光を、自分達に当てるのを止めて、

次はその二つの瞳を点滅させ、それに合わせて発声を行う。



「お前は、帝国のマシーンだろ!さっきのパイロットを殺したのも、お前だな!」



ザワザワと蠢く民間人の中で、声を張るものがいた。

誰が上げた声かは認識出来なかったが、セルヴスのパイロットにも、それはよく響く声であった。


メインコンピューターを操作して、右サブモニターに、飛行によって記録した、簡易的な地図を展開する。


迷路のように表示される線上の中に、幾つか青く記されたポイントがあった。


インカムを手に取り、再びスピーカーを起動する。


『ここからそう遠くない場所に、病院がある。

お前達をそこに誘導する。繰り返す……』


その巨体から放たれる声は、人を穏やかにさせるような声音で、逆にそれが、自分達を罠に嵌めようとしているのではないか、と民間人に勘繰らせた。


「地球側のパイロットを殺したお前を、信用できるか!そもそも、あのパイロットは生身で、水を求めていたんだ!」


その叫びを聞いて、セルヴスは暫くツインセンサーを瞬かせることはしなかった。瞳を伏しているようにも思えた。



『しかし、私達も生きるか、死ぬかの戦いだ。

敵を野放しにすれば、死ぬのは我々なのだ。』



少しの静寂の後、再び爆発が起こった。

人で出来た塊は呻きを上げ、パニックに陥る人々も少なくない。そして、それは段々と伝播するようであった。

少女の母親もそれに合わせ、再び肩を揺らし始める。

胸の中央へ右耳を張り付けると、鼓動の脈拍がとても早いのがわかった。


その爆発のすぐ後に、再び灰色のマシーンが声を出した。若干の焦燥が見え隠れしていた。



自分の頭に降りかかった、死ぬのは我々という言葉が、少女には、長時間ここに居座らせないでくれという、パイロットの訴えにも感じられた。



「どうする……」

「奴の殺し方を見ただろう!信用出来るはずがない!」

「ただ、怪我人だっているぞ!病院に着けば一先ずは……」

「病院が占拠されている可能性だってある、そもそも、奴はなんでその場所がわかるんだ!」



人の怒声が入り混じり、マシーンは片膝を上げ、煉瓦の破片を振り撒きながら、その両足の底を地につけた。地面が大きく揺れ、時間が来たと、全員が直感した。


地面に押し付けられていた筈の、マシンガンの銃口も、俯角しているのだ。


『最後通達とする。私の誘導に従い、病院へ向かってくれる者は、上空から援護すると約束しよう。それに反対するものは、ここに残るか、解散とする。』


『そして、その者達の生死を、私は考慮しない。

諸君らの不安を煽るわけではないが、もうじき歩兵部隊と、我々による掃討作戦が始まる。主要機関を除き、全てを焼き払う作戦である……』


そのマシーンの声は、冷たかった。



「お母さん……」


少女が母親の顔を見上げた。

母親は、煤で黒く滲んだ顔と汗を流しながら、

作り笑顔をした。


声には、反応していないことから、この母親の聴力は失われているとわかる。


微笑みを返したのは、少女が顔を上げたことに視界と雰囲気で気が付いたからだろう。



「お母さん、あの人に付いていけば、逃げられるって。お母さん、走ってくれる……?」


「………」


母親は、少女の口が必死に動き、指を指しているのを見て、その先にマシーンがいることから、それを怖がっているのだろうと感じた。


その少女を胸に埋めるように抱くが、少女の爪が腕に食い込み、顔を歪ませる。



「ねぇ、みんな行っちゃうよ!!着いていこう……!!」



少女の叫びは、人のどよめきと再びの爆発で掻き消された。



『カウントを始める。それに合わせて、建物右を走れ。上空を私が飛び、君達を保護すると約束しよう。

安心して欲しい、救護信号を放つから、敵味方の攻撃は絶対にない……!』



パイロットの声は、震えて、マシーンはそんな姿を見せないように、ゆっくりと後退する。

ブースターの音が周囲を包み、段々と砂煙が舞い始めた。


少女と母親を除いた全ては、その砂煙の先へ動き始めていた。


『カウント開始……3…2…1!』


そのカウントと最後の叫びに合わせて、マシーンが飛翔する。衝撃音と、風圧をもって、それに抗うように人々は走り始めた。



「お母さん……!!」


見上げた母親は目を瞑り、耳からは大量の血液が滴っていた。肩を揺らし、口からは呼吸が漏れ出す。


足からも血が滴り、黒く潰れた傷もあった。


少女の視界の先、母親の揺れる肩の先から見える瓦礫の山からは、赤と黒と、黄色や白い筋を見せる、死体の手が伸びていた。


少女達が逃げ遅れるように仕向けるために、

瓦礫に埋めれた人間が、その手を掲げているようであった。



――次に爆発が起こった時、先まで機体と、人々が固まっていた場所が火に包まれ、その少女と母親の跡形は無くなった。



その爆発の元凶であり、それを空中から見下ろすのは、ラッツェルのアコニットである。


「あの機体、救護信号など飛ばして、下には民間人がいる。」


ディスプレイを見据えるラッツェルの声には、

バイザー越しの呼吸による曇りと、怒りがあった。


「ハハハ……売国奴という奴を、私も見ることになるとはな。」



照準が立ち上がり、赤と緑の点滅が走る。

その二つの照準は、一度、地面の民間人の固まりを捉え、その後に操縦桿二番目のボタンを押し込むと、キャンセルとなった。


もう一度照準が合致したタイミングは、民間人を逃すために飛行するセルヴスのエンジンであった。


最上部のボタンを押し込み、閃光が走る。


前方のセルヴスは被弾し、空中でひしゃげるような姿勢を取って、民間人諸共一帯を爆発で包んだ。



「貴様のような屑、月の帝国へ還すわけにはいかんよ。お前は、死んだ先でも、仲間に石を投げられ、

地面から湧く、敵国の兵士には足を貪られる。売国奴として、正しい死に方じゃないか。」


ラッツェルは背もたれに身体を預け、ディスプレイの先を再び見た。


逃げようと必死に駆けた民間人は、火が体に移り、

雨であってもそれは、消火されず、逆に濡れたマシーンのオイルによって、引火を促進した。


その民間人達は、熱さに悶え、飛び跳ねたり、身体を

建物に擦ったり、機体が巻き起こす火に、自ら身を投じる者まで居た。



「良い気分だ!!月の人間による、地球人の殲滅をもって、我々の行いは真に正しい粛正とされる!!

苦しめよ!我々の怒り、ノコノコとのさばった貴様らに、叩きつけてやる……」



ラッツェルは高笑いして、上空のブザーが迫っていることに、気付く余裕がなかった。



「ぐぁっ!!」


マシーンが建物に叩きつけられ、衝撃が全身に走る。


ディスプレイが割れて、身体を割く感覚。

そして肩の辺り、骨の一つが、嫌な音を立てて、肉から血が活性する感覚があった。



「…………ウッ、ぐぅっ!」


左肩から走る鈍痛に身を屈め、座席の中で悶える。


ブザーに包まれたコックピット。

自分を見下ろすマシーンを睨みつけると、それは鎌を持っていたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ