92.【墜落】
その機体は間髪が無かった。
息を吐かせず、再び上空を遮るマシーン。
自身に向けられたガトリングを拡大したような四連砲の内、その一つだけが紫の発光を伴っていた。
機体を右に弾けさせ、回避する。巨体を素早く動かしたことによる破裂に合わせて、屋根の破片がディスプレイ一杯に映り込む。それはディスプレイ越しであってもユナに迫って、飲み込むのではないかと錯覚させた。
上空の機体による爆発が起こり、屋根に倒れ込んだユナのマシーンの左右を、同時に瓦礫と煙が押し寄せた。
「舐めるなぁ!!」
マシーンの上体だけを起こすようにして、マシンガンを片腕で掲げた。機体の支柱として、もう片方の腕を屋根に食い込ませたこの状態、多少の反動は抑えてくれるだろうと考えた。
辺りを包む煙が空から降り注ぐ水滴によって、小さく穴を作り始め、霧散する頃。
一発目を射出。
その後、間髪入れずに砲身を左に移し、射出。
「……うあっ!」
次の瞬間、建物は射出の反動を殺せず、ミチミチと音を立て、セルヴスは地面へ叩き落とされた。背中に衝撃が走り、機体は土煙に包まれた。そして、自身の周囲を囲う景色は、自分の暮らしていた家の様式と同じ、英国のアンティークスタイルであるのだ。
ユナのセルヴスは首を回し、それらを一瞥する。赤いツインセンサーの輝きは暗闇に包まれた室内を照らし、縦線状に降り注ぐ雨と、それに濡れる家具を映し出した。ここは、おそらくリビングなのだろう。
黒と白のシャンデリアを揺らし、ソファには倒れ込む人のような立体をセンサーは検知した。さらに扉の先で、小さな呻きをスピーカーが拾った。
「……来ないで」
ユナの意思に反してその音は近づき、扉がゆったりと開かれる。銃口が向けられていた。針の穴ほどの銃口であった。
セルヴスの装甲を叩く小さな弾丸。
酷くか細く、弾痕にもならない。
機体の右マニピュレーターの一つに格納された、極小の機関銃を指の隙間から展開。
そちらに向け、斉射する。
目先の木造の床が弾け、壁に穴を開けて、その扉を何発も撃ち抜いた。
扉はひしゃげて、その先の人物も押し倒されただろう。
煙に包まれる建物内部を横目に、ユナは呼吸を潜めるようにして、コックピットの座席に体を預けた。
***
先の灰色の機体は、自分達を埋め尽くす建物にその全身を投じていった。
「こんなやつ、放っておいても死ぬよ!」
アダムは、時間を無駄にしたと苛立ち、自分の前方の戦艦へ向けて、機体を加速させる。
平線となる屋根達は、加速するギル・ミークにとって滑走路のようにも思えた。
アダムの操縦桿の操作により、そのマシーンは加速の中で、ゆったりと上昇していくからであった。
「……あれが地球へ来なければ、誰も死ぬことはなかった!」
自身の胸と正対するメインコンピューターを、左腕で操作する。マシーンは駆動音に合わせ、ビームソードの出力を停止。ただの柄となったものを腰にしまい、左腕を再び4連砲に包んだ。
「艦長、敵機が接近してきます!!」
建物群を突き抜け、こちらを目掛ける粒状のマシーン。
インペネスの内部でけたたましいブザーが鳴り響いて、赤いランプがブリッジを包み込んだ。
この戦場では一度も機能しなかったブザーであり、それはクルーを恐怖の一色で包み込んだ。
「あれは、デリッド艦をやった奴じゃないのか!」
メノクスが叫ぶ。それがクルー達の恐怖心を一層煽り立てた。
「……180度回頭!!」
高座に腰掛けるメノクスではなく、前方のオペレーターが勝手に叫んだ言葉である。
「待てよ!そんなことしたら近くの味方機が巻き込まれるぞ!」
「だったら、アレにやられていいのかよ!」
メノクスは、自身の手元の肘置きを敢えて拳を振り上げ、強く殴りつけた。
パニックに包まれようとしていたブリッジには、一瞬の静寂が糸を通すように入り込んだ。
「騒ぐな!判断は全て私に仰げ!」
メノクスは叫び、それに合わせてブリッジは外を覗かせるガラス前面にシェルターを築く。一瞬の暗闇の後、全天モニターが周囲の光景を映し出した。
「インペネスは敵機に正対したまま後退!誘導ミサイル、対空砲用意!!」
メノクスの号令は早く。それに合わせてクルーは動き始めた。先のパニックによる、意味のない言葉は飛ばず、皆の意識は主砲、副砲、機銃座の人々への指示へと向いていった。
街を焼くために俯角していた主砲と副砲達、誘導ミサイルも含めたその全ては、アダムのギル・ミークを向いた。
アダムのマシーンは、上昇をかけ、空中で唸りをあげる。
それに合わせて、対空砲は擦るような音を立てて、軋みながらそれを追従した。
空中を舞うマシーンを追う主砲達は、角度の上げ下げが遅い。それに加え、破格的な出力を持つマシーンが相手であるから、不利であるのは目に見えていた。
それでも、インペネスがこうも戦場に顔を出す理由は、母艦の存在を味方の兵士に知らしめることと、常勝してきたクルー達の自信故だろう。
巨大な戦艦は、周囲を舞う敵味方の機体を強引に弾き飛ばすようにしながら、空を覆う影に尻を見せずに後退する。地響きが鳴り、雷が空を裂いた頃であった。
「撃てぇ!!」
メノクスの号令に合わせ、インペネスはその全体を立ち昇る筒状の煙に包まれ、衝撃波とけたたましい音がそれを追いかけた。
「来たっ……!!」
アダムは、全身の肌が逆立つような感覚に陥った。
煙を巻き上げ、空中の自身へ向けて放たれたミサイル達が、その戦艦全体の怨念を纏って、アダムを撃ちつけようと肉薄するからだ。
機体のアポジモーターと右半身のノズルを全開、独楽状に収束された下半身を引き摺るように、アダムはそれを回避した。
対空砲は一定間隔の打音を鳴らし、首を振る。放たれる閃光は垂直を維持しようと努力しながらも、しなりながらアダムを追従する。放たれた誘導ミサイルは、その着弾ポイントをアダムとしながらも、やはり他の機体の熱やらセンサーやらに釣られ、それに着弾していった。
元よりメノクス自身もこれを理解した上での斉射である。しかし、この機体の爆発が、相手のマシーンの視界を覆う目眩しとなると考えた。
アダムは、その煙の中で敵艦が停止するとは思えなかった。現に、ディスプレイ下一面の光景には、煙を裂こうと努力する小型のマシーン達に比べ、明らかに容易く煙を引き連れ、裂いていく影があるからだ。
砲身の内、2つに紫の粒子を持たせた。
ここで4連全てでビームを放とうとしないのは、
爆発の後、先の子供の頭部があったように、一過性の精神的後遺症があったためだろう。
アダムは、操縦桿のスイッチを押し込み、左のエネルギーと熱を放出した。
上空から放たれたそれは、インペネスの甲板左一帯を引き裂くように通過していった。
一瞬の高熱により、インペネスの装甲は赤熱化し、泥のように柔らかくなって、穴を開けた。
その損傷を隠すように爆発は起こり、ゆったりと黒煙が全体を包み込んだ。
爆発に伴い、船体は大きく揺れた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
クルーが叫び、臨界寸前で堪えていた絶叫がブリッジを再び包み込むのに、時間は要さなかった。
「状況は……!!」
鳴り響くブザーと、クルーの騒ぐ声に苛立ちながら、メノクスも負けじと声を張る。
「Gブロック、Fブロック全壊……!Eブロックに火災と空気漏れが生じています!!」
メカニック達の待機するハンガーや、兵舎となる右側のCブロックは被害を受けていない。
しかし被弾状況は、想定より遥かに酷なものであった。
「補強急がせろ、機銃座の人間どもはなにをやってるよ!」
「連絡が取れません!」
そう叫ぶオペレーターの声は、涙が混じり、子供の叫びのようであった。
メノクスからも汗が滴り始める。
そして、敵機が地の底からやってくる人の叫びを伴わせるような、悪趣味な駆動音を空に響かせてブリッジをパスする。
それに合わせてクルーの叫びは一層強くなり、メノクスの汗は血の気の引きに合わせて、流れるのをやめる。
「やめてくれよ!!」
コックピットにブザーが響き、下からアダムに肉薄する灰色の機体は言った。
「やめてくれだと……お前達が始めたことだ!その落とし前を引導の形で渡しているだけだ!!」
アダムが絶叫し、その敵機へ左肩を向け突撃した。
ディスプレイに敵機の胸部が映って火花が散り、小さな煙を上げながら、その火花が消失するのを見た。
敵機の、黒い胸部。これから発される声は泣いていた。
「やめてくれなど、俺は言っていない!!」
敵機は叫び、アダムの機体を振り解こうとする。
しかし、ギルの砲身から放たれたビームを受けて、その胸部を橙の膨らみが包んで爆発し、空中に霧散していった。
「本能を、強い言葉で隠そうとするから、そうなるんだ!」
「怖いことは、怖いと言え!やりたくないことは、そう言えよ!人間だろ!!」
アダムは、塵となって地面に撒かれるそれに向かって叫んだ。言葉が空気へ向けて、空振りしていく感覚はとても気分の悪いことであった。
再び、先の戦艦は対空砲をアダムに向けて放ち始める。
「男がこの程度で騒ぐな!情けない……。」
ブリッジで響くメノクスの声は、最早作戦を指す声ではなかった。
艦隊が右に傾き始め、各ブロックからの絶叫が、オペレーターのヘッドホン越しにも聞こえ始めていた。
怒声が響き、それをブリッジの人間達は身を潜めるように聞いた後、その後の対応やら、機銃座の連撃やらの命令で、ブリッジの人間達が怒声をあげる。
その繰り返しであった。
「一方的にやられるなど御免だ!味方機を信じろ!後退急げ!」
「敵機が張り付きますよ!!」
メノクスが驚くような声を上げた頃には、地面を砕くような唸りが聞こえ、インペネスが再び揺れた。
「民間人はいないだろ……!」
アダムは、先の空洞を開けた箇所を、再度2本のビームレーザで焼き切ったところであった。
再び艦からの爆発がアダムを掴もうと巻き起こり、それを回避するように上昇する。高度を上げながら、纏わりつく煙を振り払っていく。
たまに空を襲う雷雨が、ミサイルの着弾音に酷似していて、それが鬱陶しかった。
そして、その一瞬の衝撃が去った後。
自分の発した民間人という言葉に紐付けられた、焼け爛れた頭部を思い出し、再び胃が掻き乱された。
「動きが止まりました!」
「誘導ミサイル斉射!」
アダムがえずこうと座席から傾いたその瞬間を、敵艦は待っているようであった。
「まずい……!!」
そう言った次の時には、雷の見せかけの閃光ではない、真の衝撃と閃光、轟音がアダムを包んだ。
「うわっ……!!」
座席を揺さぶられ、振り落とそうとする。
ブザーが鳴り響き、アダムは踏ん張るために操縦桿を強く握りしめた。
「逃すかよ、ここで死ね!!」
「こいつ……!!」
セルヴスの一機が、煙を上げながら落下を開始するギル・ミークに掴み掛かり、身を寄せた。
その直後に再び閃光が巻き起こり、アダムとその敵機は叫ぶまもなく、三度の爆発に包まれ、地面へ降下を開始した。
「敵機……撃墜!!」
「確認しろ!着弾しただけの可能性もある……!」
「いや、あれは死んだだろ……!地球の塵屑が、このインペネスに立ち塞がるから!」
ブリッジのクルーは叫び、メノクスの静止を聞く耳を持たなかった。冷や汗を拭うメノクスであったが、インペネスの被弾状況は軽くはなかったから、この隙に再装填の動きをしてもらいたかった。
なにより、人死にでここまで喜べる人間達が、自分と生活を共にした人間達であると信じたくはなかった。
地球へ降下する前の彼らは、こうではなかった確信があったからだ。
「ハァッ、ハァッ……」
街へ墜落し、今まで見下ろしていた黒煙を上げる側と成り下がったアダムのギル・ミーク。
唸りを上げるも、その左半身の装甲は剥がれ切って、パージされていた。
コックピットの中、肩で呼吸をするアダムは大量の汗を流し、なんとか息を吸い込もうと努力をする。
しかし、先の三度の爆発によるショックがそれを阻害する。走馬灯を見たと錯覚したが、即座に浮かんだものが自分にトラウマを植え付けたあの死体であったことから、まだ死にきれるものではないと決心したのだ。
そんな思いは汗を拭い、操縦桿を再び握り直す力を生んだ。ギル・ミークも、その上体を起こすように軋み、地面の泥を放熱による運動で弾き飛ばす。
貧相な腕、鋭利な肩の装甲、4連式の砲身に隠されていたマシーンは、赤いタイタスであった。
このマシーン、外装はギルであり、中身はタイタスであるとわかったのは、先の爆破のおかげだろう。
タイタスの左半身は、残ったギルの頭部と右半身に不相応なサイズであった。
極めて小さい。そして、非力である。
この不恰好な外見は、母の腹を引き裂いて、赤子の半身をそのまま露見させるようなものであった。
そんなイメージが右半身、母の肉体のみで戦う覚悟を持たせるのだ。
「一度、女性を知ってそれでお終いなんてことは、ない筈だ。……これからだ、俺はこれから家庭を持つぞ。子供も産んでもらう!高望みではないだろう!
等身の望むことだろう……!!不自然ではないだろう!」
アダムは叫び、再び血が滲むほど歯を食いしばった。マシーンはそれに合わせて再起し、ジェネレーターを起動する。
「死ぬかこんなところで……! 俺は、またメサイアに会いたい。死ねない……!メサイアの体は俺にフィットしていた!!」
アダムは汗を拭い、上空の敵戦艦を睨んだ。
多数の敵機が集結し、下方のアダムのギルを睨むようにしている。
マシーンの出力は落ちている。
それは、自分を睨む敵戦艦も同じに思えた。
***
「まずいな……これでは。」
メノクスが呟き、ブザーは依然と響いていた。
戦艦が傾き始めているのがわかった。
「ストラッズ、降下を開始しています!敵戦艦と依然抗戦中!!」
「F-8ブロックの消火が間に合いません!E-12に引火しています!!」
「敵機発見、照準合わせろ!!」
様々な報告が飛び交うが、最後の報告でブリッジのクルーは再び心臓を握られる思いであった。
あの機体は撃墜されていなかったとわかり、先の駆動音が再び空域を犯した時、それは本当であるとみなが自覚した。
「私、機銃座に入ります!!」
そう叫んだのは、高座のメノクスの真正面に座り、常に シャキリや、アシュク、ガルーラ達の発艦シークエンスを行った女性、ドラ・ネルバーであった。
ヘッドホンを自身のコンピューターの前に置き、座席を立って、揺れる瞳でメノクスを見据えた。
「なんで、お前が行くんだよ!」
隣の男性オペレーターが咎めた、明らかに情の入りがあった。
「機銃座が機能してないんですよ!私がやる!!」
「男にやらせれば良い!!」
ドラはブリッジを足早に抜け出す。
メノクスは押し黙り、他のオペレーターからも叫びが聞こえた。そう言いつつも、誰も変わろうとしないのは、機銃座は真っ先に撃破される可能性があるからだ。
「くそ、穴が出来るんだよ、馬鹿が!」
ドラを止めたオペレーターは叫び、機銃との通信担当の一人を、そちらに向けさせた。
「敵機再接近……!!!」
そのオペレーターは空いた座席を埋めるなり、すぐに絶叫した。
「まだ来る!!なんでそこまでする!!」
そう叫んだのは、先の男性オペレーターだ。
「だから言った!再装填は済んだか!」
メノクスの号令に合わせ、再び主砲達は蠢く。
相手のマシーン、先より速度が落ち、追従がしやすいと報告が入った。気休めではあるが、ブリッジに一瞬の安堵が流れる。
「先と同じ手筈で落とせばいい……!テーーッ!!」
ギル・ミークは、屋根スレスレを飛行し、後ろから幾十ものミサイル、閃光、マシーンが追従する。アダムの後ろに、死が迫っているのがわかった。
二度目はない。そう思う。
「インペネスは絶対に落としてはダメだ!あれが落ちれば我々はどこに帰ればいいのだ!!」
自分の後ろから掛かる声、追従する敵機のものであった。
「イギリスの人間達も、お前達と同じだ!
家族を奪われ、恋人を殺された!お前達にだ!」
アダムは振り返らず、たまらずに叫んだ。
その叫びを先に投げかけた機体は、ミサイルか閃光に撃滅された。
「オレ達の知ったことではない……!!家族の写真がある!あそこには……!!」
「お前達が始めたことだ!!俺だって、俺だって生きたいから。みんなが生きていける時代が来ればいいけど、お前達にそのつもりはないんだから、あの戦艦は殺すぞ!!」
アダムは絶叫し、右の半身に残されたミサイルポッドを展開した。
第三波である。
それが射出された時、敵機は呻き、戦艦のミサイルとギルのミサイルに板挟みになって爆発した。
「その前に貴様を殺せば解決することだろ!!」
「もっともらしく喋って、お前一人が死ねば良いんだよ!!」
家屋を突き破り、自分の前の二機が言った。
アダムは怒りより、恐れが先行した自分を憎む。
しかし、再び怒りが溢れることで、その憎しみも消えてくれた。
「うわ……!!」
対空砲に叫びを掻き消され、一機が被弾した。
もう一機が迫り、ギルのビームレーザーを剣状の塊として引き裂いた。
爆発の威力に合わせて、アダムはそれを推力とした。再び上昇する影、それをインペネスはしっかりと捉えた。
「ドラ、どうした……!!ブリッジは!!」
Eブロックの火災を消化するクルーを横目に、ドラは自分を引き止める声に視線を向けた。
「どうしたも、機銃の人間がいないんでしょ!」
「そうではあるが、お前にやれるか!」
「来てるんだよ!」
ドラは強引に静止を押し退け、機銃座に座り込む。
隣の座席は無人で、若干の空気漏れを感じた。
扉を閉め切ると、全面ガラス張りの球体が自分を包む。
頭上の雷と雨はドラの背中を震わせる。
先の奇妙な鳴き声に合わせて、敵機は姿を現した。
煙を何度も避けて飛び立つその姿に、人が乗っているとは、ドラには到底思えない。
そうであるから、機銃から弾丸を放つことに抵抗はなかった。
自分の心臓から鼓膜全てを殴りつけるような振動と閃光。ドラは思わず咳き込んだ。
「なんて……音よ!!」
濁流を空中に霧散させるように光は、敵機を追尾する。その途切れ途切れの閃光一つに、生への執着や、あわよくば敵機を墜落させたいという願望がある。
しかし、煙は扉の下を掻い潜り、部屋へ充満していった。それはドラへもすぐに届いていき、肺を犯す。
思わず再度咳き込んだ刹那、閃光が走って視界が真緑と黒に包まれた。
おそらく、落雷であろう。
視界がようやく正常な色と立体を取り戻す時。
ドラは自分が担当する機銃がおざなりであることに、まず焦りを感じた。しかし、その焦りも視界も全て、前方の光景に奪われる。
戦艦から放たれる誘導ミサイル。幾つもの煙と爆発に紛れ、敵機を地面へ引き摺ろうという手がある。
それは、そのマシーンの背後に廻ったり、斜め上の視覚から突撃したりと、在り方を変えながら突撃する。
しかし、そのような煙に足を引かれながらも、
その全てを回避して悠然とあるのは、
ギル・ミークであったのだ。
「え……」
喉からやっと声を出した頃、爆発が起こり、ドラのいた機銃座と周囲のエリアは全壊した。
「左もやられ始めています!!」
何度かの衝撃の後、戦艦のグラつきは収まった。しかし、それは両側が損害を受け、墜落の一途を辿り始める合図であった。
異常を伝えるブザーの音は、最早聞き慣れた。
クルーの中には泣き叫び、拳銃をガシャガシャと鳴らす人間まで現れる。
「自害はするなよ……!まだ早い……。」
メノクスは呟くが、拳銃を持つクルーに掲げた腕が震え始めるのを見た。
アダムは、4連砲の全てに熱を持たせた。
先のような、凄惨な死体を見ることになっても致し方ないとした。
汗を滴らせ、それはメインコンピューターに降り注ぐ。ギル・ミークの左側は、損傷箇所から黒煙を上げている。
残存エネルギーは67パーセント。
相手の戦艦も最早撃墜寸前というところで、周囲のマシーンは戦艦から離れたり、逆に近づき、黒煙を上げる穴の箇所を確認しに行くようであった。
その状態を確認しては、戦艦の中に入り込んだりしている。
ギルのディスプレイは、それを延々と映し出す。
アダムから涙が溢れ、鼻の辺りが痛く滲んだ。
操縦桿を握り込み、涙を拭うことはしなかった。あれら全ての行動が、人のものであるとわかったからだ。
イギリスのマシーンは砕け、その腕や足は空中で分解しながら霧散する。
帝国の機体も、煙を巻き上げる爆発の中から、手を掲げる。爆発の音は、生き物が最後の精力を使い曇天の空へ叫びを上げる音であった。
「人のやることか……これが。 そうやって死ぬために生まれてきたんだと、思えるか!
お前達は!」
それは自分へも向いた言葉であった。
「家族を愛せるなら、それをちょっと他人に向けてあげれば良いのに……それが難しいのか、言葉を話せる俺たちが……」
自身が手をかけようとする、巨大な人の命。
このまま空中を漂わせるのは、逆に無惨であると思った。
帝国の機体は黒煙を上げ、火を噴く空洞に機体の体を重ね、それは幾重にも連なった。
ギル・ミークの右腕のエネルギーは充填された。この一斉射で、おそらくあの艦は墜落するだろう。
アダムの手は震え、心臓を何人もの人々から握られる感覚に陥った。殺した人間達が、アダムのそれに縋るのだ。
しかしブザーが響き、自分の左右上下からマシーンが接近するのがわかる。
「地球の機体……!!お前も共に死ね!!」
「死ぬかよ……!!絶対に死ぬものかよ!」
アダムは叫び、そのエネルギーをビームソードのもどきとして振り払う。下と、右のマシーンは霧散して、残りの二機が取り付いた。タイタスの片腕で、左の一機を掴む。
機関砲で胸部を撃ち抜き、もう片方にビーム・レーザーを射出。先の一機を追う形で墜落していった。
「……味方機が、インペネスへ張り付いて盾になってくれています……」
オペレーターの声は、震えて涙に塗れていた。
「そうか。」
メノクスは軍帽を深く被り短く答えた。
心残りは、 シャキリの具体的な生死を確認できないところだろうか。アシュクも、 シャキリも学生時代はみな可愛い子供であった。それは、ミレンやトーガンも同じであった。
それらを、教官として見届けたのはメノクスであったのだ。その付き添い紛いでマンチェスターから始まった人殺しであった。
最早ブリッジの中で叫ぶ人間はいなかった。
外の密集したマシーンは、アポジモーターやノズルを蒸し、船体の姿勢を保たせようとする。しかし、落下軌道に入った巨大な戦艦を止められるマシーンは、存在しなかった。
「艦長……遺書を書いても良いですか……」
メノクスの右に位置する女性オペレーターが振り返る。涙に溢れ、普段の彼女が見せない表情であった。
「もちろんだ。トーガンのマシーンで少しは逃がせないか。」
「おそらく、少尉も空洞を埋めてくれているかと。」
その声を受けて、メノクスは息を吐き、座席にもたれた。
ブリッジを光が包む。
インペネスは、迫るビームレーザーを受け、
船体を二つに割られ、地面へとゆったりと墜落を始めた。
地震気をつけてお休みください!!




