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第二の星で  作者: ぷりお
91/101

91.【落雷】




アダムのギル・ミークは、暫くの時間を経て、ようやっと黒煙から姿を現し、再び他の煙の元へ消えていく。



「索敵急げ!!奴は、おそらくセンサーを大人しくさせている。それだけ、中身も弱っているということだ。」



ユナは、自身の左右下に位置するセルヴスへ通信を開く。自分達の真下には、避難に遅れた人々。

その群衆は、アダムの人の呻めきを集合させたような、マシーンの駆動音を聞き、その衝撃波に合わせて蠢き、悲鳴を上げていた。

それを受けて、ユナ達の焦りと、操縦桿を握る手の震えは増していく。



「索敵急げよ……!!」



自身の声は震えていた。



『敵機発見!!』



男の叫び、それはユナ達のコックピットをザラついた通信と共に包み込んだ。



「散開!」



隊長機であるユナの号令に合わせて、空中で編隊を組むセルヴスは分解される。


ユナは上昇、一機は右に機体を傾け、もう一機は反対側に機体を傾ける。


ドクドクと、ユナの心臓は鳴り響く。

自分の判断ミスが、自死に留まらず、他人の命までも捨てることになる。



『敵機ロスト、敵機ロスト!!』



再び、一機が叫んだ。

先の声と同じ男性のものであったが、材質の違うものであった。



「また消えたか。あの大型ビームを放ってから、明らかに挙動がおかしい……。」



ユナは呟きながらも、下の両機の動きも把握する。

それぞれが、手元のマシンガンを構え、赤いツインセンサーを四方に向ける。

索敵のセンサーを、パッシブにしているから、ユナ達は受けに回るしかないのだ。

かと言って、こちらから積極的に索敵をすれば、

撃墜されることはわかりきっていた。



途端、煙を引き裂き、先の巨大なマシーンが姿を見せる。右下の一機の背後に、そのマシーンは猪突していた。



「敵機発見!四時だ!」



ユナは、メインコンピューターに向けて叫ぶ。



「四時……!四時は………!!」



声を受けたパイロットは、パニックに陥り、マシーンの頭部を左右に揺らす。それに合わせて、シートと全天モニターも回転するため、方向感覚を失わせるには十分な挙動となった。



「遅い!!」



アダムのギルは、砲身を格納した片腕のマニピュレーターで、柄から放たれたビームソードを振り払った。

味方機は、その音に振り向き、エンジンの右半分と、

胴体、右肩を引き裂かれ、オイルを撒き散らす。

二、三度小さな爆発が起こり、そのセルヴスは降下を開始した。



マシーンを降下させ、味方機に退避のサインを出す。

体がフワリと浮かび、降下をやめた時、全身を揺らしながら、体を座席に戻す。



「突撃は……!」



「よせよ!」



敵機はこちらを確認しながらも、直ぐに退避行動を取るユナ達を襲う動きはない。



敵機に正対しながら後退。

煙を引くように、自身の側による味方機の前へ腕を差し出した。



「しかし、メーデの奴がやられましたよ……!!」



「知っている。お前もその仲間にならないよう、止めている……!」




ユナは叫び、前方の敵機へ振り向く。

その後すぐに、敵機に強化人間の二機が飛びついているのがわかった。先の味方機は地面へ到達し、その爆発の衝撃は、離脱するユナ達にも伝播する。



「奴の様子を見る。強化人間を上手く利用しながら戦えば、勝機はある。」



ユナは呟き、眼前の三機をバイザー越しに睨む。


強化人間二機を見つけたようで、敵機は上空に後退をかけていた。


その背後の空は、先まであった太陽を遮り、青空の半分を埋め尽くして曇天へと変わっていた。

ビーム兵器の紫の粒子が大気に充満し始め、

その曇天によく反射する。


それはヒラヒラと舞って、停止した二機のマシーンに降り注ぐ。装甲が焼けるような音が短く起こり、連続した。


マニピュレーターを胸の側まで持ってきてやると、

灰色の装甲に、焦げ目のような斑点がいくつもできているのがわかった。

そして、それはユナ達の神経を乱れさせるのだ。



「強化人間だけに、帝国を背負わせてなるものか。

シャキリにやれたこと、私にだってやれるでしょ!」



ユナがそう叫んだ直後、白い閃光が身を包んだ。


爆発とも違う地の唸りを、そのまま空から響かせるような衝撃であった。マシーンが揺れ、建物を咀嚼するような音が、戦場一帯を包み込み、自分達の周りを、空から落下する水滴が襲い始めた。



先のビーム粒子が付着したマニピュレーターは、小さな煙をいくつも上げる。



「これは……」

「中尉、これは落雷です!!」



落雷、月に住むユナ達には縁のない言葉であった。


次の瞬間、爆発を伴い、体の右半分から火を吹きながら墜落してくる機体。それは、一つではなく、次々と

墜落してくる。

それぞれが閃光を巻き上げ、衝撃波をユナ達に届けた。


「ウワッ……!」



堪らず叫び、幾つもの光を両肩のオートディフェンサーを起動して遮る。

自分達を包み込む翼のように展開されたビームシールドは、接近する破片も蒸発させていく。

空からの水滴が当たり、ビームシールドはそれを受けて、逐一ノイズのようなブレを巻き起こす。


これは、雨だろう。

落雷と降水は、月の自分達のマシーンには天敵である。次々と、火を纏いながら落下する味方機達。

倒壊した街の光景も相まって、隕石を降らせる終末のようであった。



「中尉、どういうんですこれは……!」



真横のパイロットは、パニック寸前というところであった。



「こいつら、大きな雲に身を顰めていた機体だな。」



これらの正体は、雲の帯電による落雷、その衝撃を受けてよろめき、敵艦の対空砲や、敵機の狙撃に撃墜されたマシーン達であるとわかった。

それを若干蔑むようにユナが発言したのは、それを通して、自分と隣のパイロットの焦りを払拭したい思いがあったからだろう。




***



「ウッッ!!」



ゼガームが吹き飛ばされ、連続して並ぶ家屋にマシーンの背中を打ち付ける頃、空が何度も瞬き、空を砕くような音を発しているのを感じた。



「これは、落雷か……!」



倒壊した家をクッションにするククルの叫びを、

アダムは聞き逃さなかった。



「落雷を知っている……?月にはそんなものないだろ!」


「当たり前だ!……なら、私達はなぜ知ってるんだ。」



ダッケルも叫び、黒い機体、アコニットの動きが止まった。ククルのゼガームを見下ろすアダムと、そのさらに上から槍を持つアコニット。


三人の中に、一瞬だけ家族に抱くような親近感が生まれた。外部の人間達に飲み込まれる時、自分の親しい人間を見つけ、それが妙に人の濁流の中からクッキリと映し出される。あの感覚であった。



「何が言いたい……。そもそも、この倒れてるマシーンは、なぜ俺を直ぐに強化人間とわかった。」



アダムは呟く。もう一度、対話をしてみたい衝動に駆られるが、既に殺すと決めた人間達である。




「被害者側なら、もっとそういう顔をしていろ……!!」



上空の黒いマシーンへ向け、左のミサイルポットから

斉射。



「アッ!!」



ダッケルは閃光に包まれ、アコニットは離脱こそしたものの、片足を引き摺るように煙を上げ、建物群へ消えて行った。




「事情があろうとも、もうお前らは地球の敵だよ!」



「やられる……!!」



そのマシーンは、次はククルの機体を向いていた。

ククルは叫び、建物をクッションにしながら、胸部の

ビーム兵器を射出。建物が砕け散り、ゼガームは衝撃から空中に放り出されるも、そのビームは空中で霧散していった。アダムのギル・ミークは既にその場からは離脱していた。



「くそ、逃げるか……!」


突如、ククルに強い吐き気と、頭痛が襲った。

口元を抑え、えずくが、吐き出るのは言葉であった。


「この街を、壊してはいけない気がする……!」




***




「月の母艦をやる!!」



この落雷、アダムの母艦のノアはそれを避け、

おそらくこの空域、街の側へ降下するだろう。

ただでさえ敵艦一隻を相手にしていたノアだ。

今地上を掃討している紫の戦艦。

インペネスを撃滅しなければと、アダムは考えた。


汗が滴り、自分の内心でアレをやれるのかという

問いが、何度も跳ね返る。

撃沈させることではなく、あれほど巨大な戦艦に乗る

人々全てを殺せるのかという問いであった。




「中尉、あの大型がインペネスへ向かっています……!」

「本当か!!」

「予測進路も出ました!」



ユナは機体を跳ね上げさせ、加速する。

後ろからそれを引き留める声が掛かるが、

マシーンのgとエンジンの駆動音、ノズルが発光する音はその全てを掻き消し、鼓膜を突くようなその音も、ユナの心臓の鼓動と焦燥が掻き消した。



アダムを包み込む警告音。

右の遠方から、また灰色の機体が接近しているのが見えた。



「まだ来るか、懲りずによく!」


機体をそちらへ傾け、旋回による急速な圧力は、

その下の屋根達を弾けるには十分であった。



「やらせない、インペネスは!」



ユナのセルヴスは、コンピューターの操作に合わせて、マシンガンに備え付けられた右レバーの出っ張りを、自分の胸元へ引いた。

これにより、弾丸は、薬莢を持つ実弾から、ビーム粒子のものに切り替わる。

連続性は無くなるが、ダマとなったビームはあの機体を中破させることは可能だろう。


緑の照準が立ち上がり、屋根が造る地平線の先の、

自分に正対する大型のマシーンを捉えた。

目を焦がす緑。バイザーも連動して、小さく赤い照準を巡らせる。ユナの瞳に、その2色が合致したタイミングがあった。



「死ねっ!!」



空の白い発光に合わせて、紫の粒子は射出された。

ユナのセルヴスは、右腕に構えるマシンガンの威力に

機体の姿勢を傾けないように、左のアポジモーターを全開にした。


発せられた閃光は、等速に屋根を駆け、アダムへ向かう。それを、機体を上昇させて回避、再びマシーンをその位置へ戻して前進する。



ユナのセルヴスは、左に回避して、相手の射線から外れるとすぐに二発目の装填を行った。


再び照準は視界を動き回り、赤い照準はさらに激しく視界を回る。それに瞳が釣られないよう、篭った激しい呼吸音を感じながら、機体を追う。


照準の切り替え、マシーンのセンサーが動き、シート全体も合わせて稼働する。


再び、緑と赤の中心。黄色く点滅した枠とワンポイントに、その機体を捉え込んだ。


右腕が、後ろに引き下がり、紫の粒子がディスプレイ越しに射出された。対空砲のような凄まじい音が振動と共にやってきて、ユナの動きは止まる。


再び、回避され、自身の居所を勘付かれた。

マシンガンと、右腕関節、肩、肘、手首の排熱を受けて、煙は雨の中に蒸発していく。



「なんでよ……!!」



雨が激しさを増す中、とうとう轟音が響き、それは

自分に向けられているとわかった。


紫の閃光。形が砲弾から発されるような規格ではなく、自分の視界一杯を包む閃光であった。


マシーン左肩のオートディフェンサーが展開され、

バチバチと電流が走る音が聞こえて、自分の機体は、右半身から屋根に叩きつけられる。


左腕は所々焼き切れ、スパークを発生させていた。

雨が滴り、その電流は反射の激しさを増す。




再びブザー音がユナを包んだ。上空から敵機が四つの砲身を構え、セルヴスを見下ろしていた。



「………グッ!!」



機体を削りながら、急速に後退。建物の屋根がひらけて、少しの地面を露出させ、再び屋根の連続が自分の下を埋め尽くす頃、先にいた自身の空域一帯が弾けとび、煙が舞っていた。破片がこちらにも飛び散り、ユナはコンマの遅れで、自分がこうなると確信した。




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