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第二の星で  作者: ぷりお
90/103

90.【暗闇の女王】



イブのドミティアンの前を行くギランミの機体は、

線上になる建物群を一定超えたあたりで、そのアポジモーターを逆噴射し、空中で停止した。

王室となる城は、ディスプレイ越しに伺えるほど近く、そのさらに先の評議会の辺りには、黒煙が上がり、粒状のものが空中を舞っているのが見えた。



ギランミのメーディムは、その機体を、鉄骨を露見させながら展開されるスタンドに置いた。



イブのドミティアンも、地面から展開されるスタンドに、片膝をつく形で機体を着陸させた。

そのスタンドは、機体の重量をバネのように伸縮して逃す。イブとメサイアは一息吐いて、辺りの光景を

改めてディスプレイで見回した。



遠方に見える街は、夕日に包まれるように輝き、その光はマシーンの爆発であった。そのような光は、一つ、二つと瞬いて、地鳴りを発生させていた。

微かながら、必死に声を上げる人々の悲鳴。


あそこは、シェルターで隔絶されていなかった場所だ。



『一般市民の方々は、軍の指示にしたがって………

繰り返します………一般市民の……』



耳を澄ませると、爆発の中を掻い潜るように、必死に語りかける警報の声があった。

サイレンに合わせて、その女性の声は絶叫へと変わっていく。しかし、その絶叫すらも次の爆発に消されてしまうのだ。



「こんなの、生きていける筈がないでしょう……」



メサイアは、この地に生まれたものは、

死ぬ定めであると、諦念を抱き始めたのだ。



「姫様、マシーンを降りて頂きます。」



ギランミは呟き、機体の主電源を切ろうとメインコンピューターに手をかけた途端、砂嵐を纏い通信回線を左サブモニターが開いた。



『ギランミ大佐ですね……! 防御網が突破されています!このままでは、王室の空域にも侵入を許すことになる!』



通信先の声は、詰まる息を絞り出すように叫んでいた。

そうでなければ、背後でブリッジに響き渡る叫び声や、戦闘で発する爆発音に、全てが掻き消されてしまうからだ。その叫び声を聞くたびに、眉に皺が寄る。



「貴様らはエトセーラへ与した、ロイヤル・ミーレスだな。今になって、我々を捨てた部隊の指揮などどうやれば良いのだ。」



ギランミは、鼻で嘲るようにした。



『大佐……!このままではブリテンが敗北するのですよ!』



「違うな。お前達が敗北するのが恐いのだ。そのまま、死んでも盾となれよ、騎士の役目だ。私は姫様を護衛する。」



『我々が生きていなければ意味がないのだ………!』



メインコンピューターを操作する。機体の電源は完全に遮断され、その通信もプツリと一瞬の光を持って途絶した。




「気を付けて。」



メサイアを、座席に腰掛けながら振り返るイブの瞳は震えていた。



「帰ったら全て上手くいくわ。アダムとのことも。」



メサイアは、イブをもう一度抱き寄せるようにして、

開かれたハッチを、ラダー・ロープに捕まりながら

降下していった。


鉄骨に足を置き、ロープを空中へ放つ。それは、

擦るような高音を放ちながら、マシーンの胸元へ帰って行った。赤い機体は、ツインセンサーを緑に輝かせ、クレーンを使って降りるメサイアを見下ろした。


先の追手となる黒い機体を、イブは迎撃しなければならなかった。



メサイアは、イブともう少し話をしたいと感じていて、それは、イブも同様であり。イブのその欲求は、

メサイアの精神や人の形を弄りたい気持ちでもあった。




「ここに、メトロがあるのですか?ベルベーンに格納されていると聞きましたが。」



メサイアは、周囲の煙たさを知らず、大気に充満するそれを吐き出すように咳をした。



「ヘルメットをされていない……?」



自身の隣へ並ぶギランミは、バイザー越しに自分を見下ろし、冷たく言い放った。



この少しのやり取りで、ギランミは既にメサイアに辟易したようであった。

踵を返し、自分の前を歩く彼女。

再び遠方で爆発が起こり、空を巻くような高音が鳴り響く。空中で着弾した機体が、黒煙を上げながら落下する音で、爆発を投下する音に酷似していた。



イブのドミティアンは、その爆発の音と地鳴りに合わせて、再び浮上した。

メサイアは、轟音と地響きに肩を揺らしながらもそちらを振り向く。



「この程度の人死にに、そう過敏になられては困りますよ」



再び、嘲笑気味のギランミであった。




「ギランミ、そんな貴方ではないでしょう。戦いの熱は理解しますが、そのような。」



「帝国の機体は、リバーカンとも、メイディーンとも同じであると分かりました。計器も、似ている。それであるのに、虚しいですね。」



低く唸るようにギランミは呟く。砂埃が巻き上がる突風が吹き、メサイア達を包んだ。目を瞑ると、人の叫びやら、空襲警報のサイレンに意識が集中され、それが本当に嫌だった。



「人のやること、空を飛ぶコンセプトであれば、やはり同じ……。」



ギランミは、メサイアのそんな内心など、何も感受していないようである。

ギランミは、シャキリの搭乗していたマシーンのコックピットは開いた。スパークの中には焼け爛れた布と、操縦桿を握られた跡があった。男性がつける香水の、最低限の体臭は、微かに感じられた。

人の終わりは、跡形もない。それが感想であった。



建物の側に着くと、シェルターがあった。小型のもので、側にはカードキーを要求する端末。

入り口の取手には、赤い液体が付着していた。土で汚れ、靴の裏側のシルエットが、幾つも重ねられていた。


このシェルターに逃げ込もうとして、それができず

死んでいった人々の怨念であった。



ギランミは、パイロットスーツに内蔵された手の甲のチップをそれにかざした。

埃一つ受け入れなかったそのシェルターは、重苦しい音を立ててギランミとメサイアの前に、永遠に思える暗闇を映すのだ。



「ここに、人は入れてあげられなかったの……」



メサイアは、その暗闇に視界から、体までも引き込まれるような感覚に陥りながら、なんとか地に足つけた自分を自覚するために、言葉を絞る。



「日常の中で、大衆が関心を示さぬ暗い場所。自分の命が危険に晒された時だけ、そこに縋るなど、死んで当然だ。助かりたいのなら、常に暗いものを選り好みせず、享受し続ける器でなければ。」



ギランミの声に、人の体温はなかった。



「そのような、特権の時代は終わりなのです……」



「私もそう思う。そのために、貴方をあのマシーンへ送るのです。」



内部は薄暗く、水脈があった。薄暗い緑の照明が、

鉄造の網目状となった足元を照らす。


貯水されているものではなかった、酷く下水臭いものであった。


メサイアは、たまらず口元を抑える。



「無理もない。しかし、煌びやかな王室の地下はこれですよ。」



ギランミは笑い、その声は何度も反響する。



外界の喧騒や、爆発の音は遮断され、鉄の坂を降りる二人が靴を鳴らす音は交互に鳴り響く。

八月であるのに、酷く寒く感じるのは、薄緑の照明が、渋々二人を照らすからであろう。


時折二人を襲う地鳴りは、地上の爆発であるとわかった。視界が暗闇に包まれ、激しい濁流に全身を覆われる。それに伴って起こる地響きは、目隠しをしてそれを味わうようなものであった。


やっとの思いで、戦火に身を投げ、シェルターに辿り着いた人々は、みなこの恐怖を感じ続けるのだろう。


さらには、パニックになった人々に包まれながら、

子供の泣き叫ぶ声を聞きながら、血を流し、腕をなくして、痛みに叫ぶ人々に囲まれながら、それをするのだ。それが、戦争であるのだ。



マシーンの全貌は見えない、しかし螺旋となる坂の底に、白い光か何かが見えた。水脈は、流れ出ていたものが、滝のように、螺旋の中央を流れていた。



「昔の話をしたい。私が月の生まれであるのは周知のことだ。その後、貴方と出会って、この地位についた。その前、私が何をしているか、知る者はいない。」



前のギランミが足を止め、ようやっとと言うように、

呟き始めた。声が反芻し、メサイアの心臓は彼女の

憎悪を感じ取って、大きく跳ねた。全身に、指先からズクズクと血が巡るのがわかった。



「メローからは、貴方は孤児で適正を買われてと……。」



「そんな綺麗なものであるか。私は月の生まれなのに。」



諦観であった。



ギランミはこちらを振り返り、メサイアを見上げる。

階層の奥の暗闇には、人の執念が影の形をとるように、集まっているように錯覚した。

ギランミは、バイザーを上げながら、メサイアの元へ

再び上がってくる。

甲高い音が響いて、すぐにギランミの次の言葉があった。



「私は、姫様。私は労働街で体を売っていたんだ!粗野な男達に私は!」


「嫌だったなぁ、メローはそこの客でした。あれにはそういう趣向があった!それであるから、私は大佐だ!」



一瞬何を言われたのか理解できず、砕いていくのに時間を要した。そして、それが終わった頃メサイアは言葉を慎重に選ばねばと感じたのだ。

ギランミの手元に、拳銃があることも理由であった。



「それを、なぜ今になって。」


「ははははははははは。」



ギランミは、笑っていなかった。



「体を売ったこと、誤解しないで頂きたい。私はこの国のそういう面も好きだ。だから、導いて頂く! この通り、私は弟を殺しただけで、戦える身ではなくなった! この、弱さよ! これが特権の穴だと。私はすぐに分かりましたよ。」



メサイアの側に立ったギランミは、メサイアを抱き寄せた。半ば強引に、ギランミの胸部に顔が押し付けられ、その息苦しさ、モルゴールの中で自分を庇いながら銃殺されたクルーを思い出させる。

そして、彼女の名前を出せない自分が、憎いのだ。



「あの機体は絶大だ。月の帝国など打尽にできる。エトセーラも残酷な女だ。それを知りながら、貴方を送り込んだ。」



ギランミは叫んだ。メサイアの顔に、人の発声による振動と、鼓動の早まりを伝える。



「それでも、貴方にも立ってもらいたい。」



メサイアの懇願であったがギランミは、メサイアの両の肩を掴み、色を落とし切った濃緑の瞳で、メサイアを見据えた。黒い瞳孔は拡大を初め、暗闇に包まれているからと、メサイアは自分に言い聞かせたのだ。



「複座など弱気はいうまいよ。私はこのまま王室へ向かい、メーディムでメローを殺す!この地の暗さ。

それは、嗜虐として享受できるほど、生易しくはないと、奴の腐り切った脳に叩きつけてやるのです。」



「貴方のその苦しみは、わからないけれど。おかしいわ。私はそんな暗い部分まで背負い切れるとは、思えません。」



ギランミの肩を掴む力は、強くなり。耳元で拳銃と中の弾丸が小刻みに揺れる音が聞こえた。

再び、地鳴りも起こった。



「貴方は人並みではいけない。貴方は広い心でなければいけない。貴方は女王だ!おとぎ話ではないのだ、そうでなければ、アルメイアの血が泣く!」



「やめてください!私はイブを、アダムを守ると決めました!それが人の営み、等身大でなければ人は星を介してまで戦争をするとわかったから……!」



下水の中で二人の女性の叫びが聞こえた時、

地下から、鯨が鳴くような呻めきが聞こえた。

メトロ・ポリシーが呼んでいると、ギランミは

呟いた。そして、血を完全に走らせた瞳を、

メサイアに向ける。



「人のエゴをそのまま晒ける真似は良しなさい、

女王」



諭すようであった。そこに、かつてのギランミの温かさを見出してしまうのが悲しかった。



「ギランミ、人本来の姿とは、恨みに身を任せることではないでしょう!もっと自然体に、自然に身を委ねて!無理に抗おうとするから、恨みが生まれるのよ……!!」



メサイアは、その温かさの鋒を水の中から掴み上げるような思いで叫ぶ。濁流の音を聞いていたが故の感覚であろう。



しかし、ギランミはほうれいに嫌な皺を作り、その

美しさと気品を保つ顔は、怨念に塗れた。


肩の一方から手を離され、空気の冷たさが襲った。

次の瞬間、頬に激痛が走り、歯がガチガチと音を鳴らして、メサイアは地面に倒れ込んだ。

鉄が、不規則に音を鳴らす。


ギランミが、拳銃の銃身でメサイアの頬を殴りつけたのだ。


照明に照らされた純白の頬が赤く、青く変色し、口からは血を流した。唇が震えて、その皺に合わせて血が滴る。

メサイアは、揺れる青い瞳で右に立ち尽くすギランミを見上げた。

視界が濁り始め、殴られた右頬でない、左目から涙が溢れた。それを追って、右目からも涙が流れる。



「所詮人のやる事と、ぬかって流れた結果が、月と地球の人類分断だと分かったのだ」



「地に足つかず、恐ろしい星であった。暗い宇宙、それに照らされる人の表情、明るい筈があるまいよ!絶えず青と緑に包まれたお前達に、なにがわかる!!それに憧れて、なぜ悪い!」



ギランミは、絶叫しながら倒れるメサイアに近づく。



「立ってもらう!!」



そう叫び、また同じ箇所を拳銃で殴りつけた。



「グッ………!」



頬の赤は、次第に緑と青を交えたものと変わっていく。痛みから逃げようと、顔を背けるメサイアを、ギランミは首を掴んで逃さなかった。顔に走る衝撃は、鼻頭から鼻根を漂う、味のしない電子機器を直接嗅いだような香りと、ジンワリと走る痛みに変わる。


抑えられた首は、キリキリと音を立て、唾を飲み込む先が閉じられた。それでも、自分を掴むギランミから視線を外したくはなかった。



ギランミはそれを受けて、メサイアを再び投げ飛ばす。壁に叩きつけられ、メサイアは呻きを上げながらもたれた。肩で息をして、頬がジクジクと痛む。涙がこぼれ落ち、鼻は再びジワジワとひりついた。

 



「対話を避けた大人達のやること。それを、次の世代の絶望にはしないで……」



血の味が滲みながらも、喉を抑えながら呟く。

しゃがれて、震える声にメサイア自身も驚いた。


ギランミはメサイアの側により、喉元に拳銃を押し当てた。抵抗しようと上げた腕を、足の靴で踏みつける。もう片腕が動こうとした時、隠れた喉仏に先端を押し付けた。


喉の拳銃、銃口は煙の香りであった。

射撃から時間が経っていないとわかった。



「綺麗事を告げて、はいそうですかと人は従わない。

強制力がなければ、こうしなければ、自分の存在は許されないと思わせなければ!

月の人間の侵攻を止めたいなら、止めなければ死ぬと思わせろ!!やれ!!女王の血筋だろ!!」



「そんなことのために、力は使わない!月も、地球の人間も諌めて私は……!人は、みな柔らかい心がある筈!母の寵愛を受けて生まれた人間の全てが棘と傷にまみれているとは言わせない!」



メサイアは、ギランミに抵抗するように声を張らせた。叫ぶ内に涙が再び溢れ始めた。

それがギランミの手をつたい、地面へと流れていく。

ギランミはそれを酷く嫌悪した。



「母を語ったな、異母の生まれで、家族に放任された私の前で……母を!!メサイア、それは駄目だ!!」



ギランミが、喉から銃身を離し、肩へ向けて、

発砲しようという時、大きな爆発音が起こり、二人は

弾き飛ばされた。



「い、いやっ………!!」



メサイアは手すりを飛び越え、濁流に身を投じようという時、ギランミの腕がメサイアを掴み、引っ張り上げて、再び陸に体を打ち付けさせた。



「敵だと……!!」



ギランミの声は血走り、爆発を巻き起こした穴の向こうへ向いた。



「やはり、地下があったな。そして、このシェルターは人が少ない。何か隠していると見た。」



粗野な男の呻めき。それに合わせて、マシーン由来の

ガシャガシャとした音が鳴り響いた。

人型作業マシーン、アッシス。それを武装させた、

トニトルス作戦のアッシス歩兵部隊であった。



「あれは、サリーをやった歩兵……!!」



メサイアの声に、初めて憎しみが籠ったのは、

ニョックを殺させる原因がこれであったからだろう。




「姫様、降りてマシーンの元へ……!!」



ギランミは叫び、メサイアを立たせる。

腕がダラリと伸び、足に力が入っていない。



「立てない……!ごめんなさい……!私は女王になどなりたくない……!!」



「しかし、貴方はそう生まれたのです。私が月の生まれということで、エトセーラの反旗を買われたように……!」



ギランミは拳銃を構え、それをメサイアの腿に発砲した。



「アァッ……!」


破裂音が響き、

鉄の棒を叩きつけられたような、熱みと痛み。

メサイアが大きく呻めき、体を持ち上げさせた。

足が震え、大量の血が滴り始める。



「立てますよ。やれないことはないのです……!

やれないとは、命をかけるつもりが無いだけだ!」



ギランミの声は、先の虚無と違い、自分を叩き上げる意思が宿ったように感じた。



パイロットスーツを破り、そこをきつく縛り上げる。

青いパイロットスーツの布に、すぐに赤が滲みだした。


後ろの、歩兵部隊のマシーンは、音を響かせ、

こちらに降りてくるようであった。



「走れ……!!」



ギランミが叫んだ頃、メサイアは飛び出す。

坂の傾斜は、メサイアのもつれる足を早めさせた。

遠方で銃声が響く。



「人は……必ず暗い。人に優しく、穏やかに生きたいという言葉。その欺瞞がわかる。優しくされる対象に、私達はいない。」



ギランミはなんとか言葉を紡いだ。

この薄暗い空間。死に場所とわかった。



「穏やかに生きたい、私もさ。しかし、そう呟く人間こそ、人を排除する。自身との境遇の乖離、人の形の違いまでも排除の対象になってしまう。どうしようもないそれが私は、それが本当に悲しい。」



ギランミは涙を拭い、男の叫びが聞こえて、周辺一帯は弾き飛ばされた。



その後に、メサイアが降りていったその暗闇一帯を、

再び鯨を思わせる鳴き声が包み込んだのだ。








くだらないギャグに脳を溶かされ、前の話と最新話の辻褄が合わないことに気づき、後付けしました。すいません。自分で書いて考えてる設定なのに、悉く忘れてるのがはなくそすぎる。

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