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第二の星で  作者: ぷりお
89/101

89.【流れ弾】




上空の二機は、煙を巻き上げながら浮上するギルを見て、散開したようであった。

メインコンピューターを操作し、それを受けて、右サブモニターは点灯する。索敵だ。




「俺はこれから、幸せを見つけられるのか……?

こうも忍耐、忍耐で。恨みで終わる人生であるまい……!そんなものは、人ではないはずだ……!」



アダムの呻きに似た声は、爆発の中に掻き消されていく。


戦争とはこうあるのが、常なのだ。





「ダッケル、追加の部隊が来る。奴も乗り気であるから、ここで撃滅する。いいな!」



「了解、しかし私ははっきりと言う。メサイア以外に興味はないのだ。私を流刑にした奴を、生かしてはおけんのだ。」



ゼガームに響く声は、洞窟の底の呻きのように聞こえた。死んだ人間の声。


怨讐で人を見る人間の声は、ククルを震わせる。

しかし、ここで物怖じをしては、再びラッツェルに失望されるはずだ。それは、避けたい。

それに、彼女も自身と同じ強化人間。同情に似た気持ちがある。

強化人間として、子供として、自分は不幸だ。

という想いであった。

それを、先の敵にはっきりと否定されたことは、悔しい。



「殺すべき奴はそうなんだから、唾をかけたならやるぞ!」



それらしいことを言ってみる。

次は、ブザーが鳴り響く。前方の機体は、倒壊した建物を紛らせた街を背後にして、自分達を見つけたらしい。同時に、後続のインペネスから部隊が合流した。



「ククル・クガン准尉、指揮は私がとろう。インペネスの、ユナ・エイジール中尉である。」



数は5。全てノーマルタイプのセルヴスであるから、

ククルは内心嘲った。そのうちの一機が、ゼガームに手を置いて通信を開いた。

コックピットが、微かに揺れ、ククルの表情は不機嫌に歪んだ。



「インペネス……シャキリ大尉は戦死なさったと。

その大尉が指揮を取るのならわかるが、貴方は何をやってきたのです。」



「なに……?」




通信先の女性の声は、揺れた。

思わぬ返事であったからだ。そして、この程度の器量なのだとククルにはわかったのだ。



「奴に馴染んできた、邪魔立ては困る。

ダッケル、来い。我々で取り掛かれば良い!」



ゼガームは、バーニアを全開にし、遠方の煙へ突撃をかける。


ククルの友人を従えるような叫びは、ユナにも届く。

そして、このような可愛げのない子供は、死んでしまっても構わないと感じるし、死ぬだろう。

部隊のうちの一機が、ユナのセルヴスに近付いた。



「中尉、どうしますか。」


「やらせておけば良い。強化人間の使い方とはアレで良いのだ。戦争のために生まれたもの、我々と同じとは思わん。」



ユナは続けて、散開の合図を取った。ユナもそれに合わせて、セルヴスを建物群へ加速させる。

背後のインペネスと、地上に放つ歩兵部隊の進路確保。それが任務であり、そのためにはアダムのギルは邪魔であった。


直ぐに、戦闘開始の音が響いた。限界まで高度を下げ、機体を地面に這わせる。右サブモニターの緑の枠線には、子供を抱き寄せ、屈む民間人があった。


ユナは、セルヴスの腕を差し出して見下ろす。


それが、直ぐに余波の瓦礫に包まれるのを見ると、

そこに人間が居た実感などは、消え去ってしまうのだ。




***



「………!」



建物が弾け、自身のやや上に、先の赤い機体が姿を現した。ブザーに合わせて、アダムは機体を破片に擦らせながらも、仰け反り、砲身をゼガームに向けた。

ビームレーザーのエネルギーが充填され、ククルのメインモニターは熱で映像を歪ませる。



下半身を持たないその機体の、赤いセンサーと、砲身の紫は、ククルの機体を完全に捉えていた。



「これは……!」



腰を据えたかった、しかし、たまらず機体のアポジモーターを使い、不規則に、左右に揺すって上昇し、

後退をかける。



誘導ミサイルで追尾する。

その思考が走ったときには、即時に展開できる、

ギルの右肩やや上のミサイルポッドは、展開し、

第一波の残骸を投げ打ち、第二波を射出した。

煙りが上がり、ククルはそれを舌舐めずりして、回避。

一発目は、直前まで寄せ、胸のビームを射出して、爆破。二発目は、建物へ降下し、そのミサイルへ相対しながら、肩のアポジモーターから放たれる推力で、地面に爪先と踵を擦り、火花を放ち上昇、地面へ着地すると読んだミサイルは、そのまま爆発へと変わる。

破片が飛び散り、三、四発目は索敵を行えない。煙に紛れ、瓦礫が機体を細かく削るのを感じて、両腕を胸の前にだし、ビームシールドを全開させた。


破片の中に、明らかに二発の大きな爆発があった。

コックピットが大きく揺さぶられ、とうとう損傷のアラートが響いた。メインコンピューターは、両腕の袖上部が軽度の損傷を負ったと告げる。

ククルは、ホゥっと息を吐いて、煙を突き破り、降下して建物へ逃れた。


この、一連の回避と追撃を自分の力で完遂したと、

息を吐くのがククルが子供たる所以であった。




アダムは、敵の数が増え始めていることに感づいた。

自分の右に、敵艦が侵攻しているのがわかる。

敵は、それの進路確保と、保護に躍起になっているのだ。



ミサイル放出後の放熱運動の最中、再びブザーがコックピットを包み込んだ。ペダルの下のディスプレイ、

灰色の機体がマシンガンを構え、自分のギルに平行し、肉薄していた。赤いツインセンサーが輝き、自分を間近で照らす。

この間が、照準合わせの時間であるとわかると、

アダムの内心に余裕が生まれた。


機体の右腕、4連砲身にビームエネルギーを、放出、

維持させ、ビームソードとしての形状をとらせる。

自身の下半身の紫の光に照らされて、相手の灰色の機体はさらに間を置いた。


やはり、動きが鈍い。


自分の右の空間を裂くように、掬い上げる形で右腕を薙ぐ。


ガァン!!と金属を焼き切る音がして、その機体は

マシンガンを構える左腕半分、胸の装甲、マシーン頭部の顎先を引き裂かれ、オイルと、橙色と赤の液体を漏らす。装甲を焼き焦がし、一瞬黒いフレームが露見した後、赤いツインセンサーは、暗転した。機体は小さく爆発しながら、落下していく。



「ウワァ!!」



コックピットの人間の顔は、ハッキリと見え

その全貌を隙間から覗かせようという時に、爆発の

火が全体を包んでいった。



人の絶叫が、耳に残る。



「自分から死にに来たんだろ!」



叫びは、落下した先の爆発に消えた。

その煙に身を隠した地上で、黒い機体がスナイパーライフルを隠していた。



「………グッ!!」



機体のアポジモーター全開させ、主エンジンの下部を残すように、右に回避した。

コンマの差で、装甲を剥がす風切り音。

掠った程度の認識であったが、直ぐに付着した

弾薬が爆発し、ギル・ミークとアダムの視界を包んだ。



「軽度損傷だろ、喚くなよ!!」



着弾のブザーは、大袈裟でメインコンピューターに

表示された損傷報告を閉じ、左腕の4連砲身を

折り畳み、格納させた。



「………!」



ギル・ミークは煙の中で低く呻く。痛いと言っているような、か細い鳴き声であった。



「なんで、イブを……」



折り畳まれた砲身から、中枢の細いマニュピレーターが露見した。腰に装備された柄の一つを手に取ると、それは煙を裂いて、紫の粒子を纏うビームソードとなった。


煙を払った先に、再び他のセルヴスがさらに高度を下げて、地面を背にマシンガンを構えているのが見えた。遅れるブザーを横目に、機体を後退させる。

上昇して、離脱したその空域に、赤い敵機が飛び込むのが見えた。



「グァッ………! お前、俺に当ててどうする!!」



ゼガームは、味方機のセルヴスのマシンガンの斉射に

着弾し、右肩と腹部に損傷を伴う。

座席が揺らされ、メインコンピューターの下から、

補助アームが展開されて、ククルを支えた。




「貴様こそ、このタイミングで飛び出す指示はない………!?」



そう叫んだ、セルヴスのパイロットの目線の先。

やや上の、足を持たないながら巨大なその機体は、

紫のエネルギーを充填させた四つの砲身を、

地面に平行して浮遊する自分に向けていた。



街を焼き払うことになる。

アダムの汗と、揺れる瞳を、緑から赤へと切り替わった照準が包んだ。



マシーンの先からビーム・レーザーが射出され、

右腕の濁流の閃光は、瞬く。

マシーンを揺らしながら射出されるそれを見つめると、自分の体までも連れて行かれてしまう錯覚をした。




「なんて………!!」



顔全体を覆う光に、ククルは目を細めながらも、操縦桿を引っ張り上げた。



「………中尉!!」



セルヴスのパイロットが叫んだ直後、マシーンは光の鋒に飲まれ、着弾点を見つけたビームは、地面を膨張させた。

濁流が消え去って、直ぐに、弾けるような衝撃と爆発が起こって、家屋を吹き飛ばし、地下の下水が飛び出して、マグマを噴き出した地面へ降りかける。黒煙は拡大しながら、空域のマシーンと街全体を包み、空へ到達しようとしていた。



アダムは、肩で息をして、汗を拭った。

視界を包まれながらも、追撃をかけようとする機体はなかった。破片が飛び散り、マシーンの装甲へぶつかる。



「出力は、抑えたが……。」



街の一角を吹き飛ばしたことへの、免罪の言葉に感じられた。

ビームソードを収納し、柄を腰に仕舞い込んだ。

砲身を畳んだ腕を、煙の先の瓦礫に伸ばしてみる。

マニュピレーター一つ一つに、纏わりつく黒煙。

それを裂くように、ゆっくりと空中を舞う瓦礫の一つを手に取った。


なぜ掬ったのかはわからなかった。

マシーンが主導するような、無意識であった。






機体の手元に収まった瓦礫の中、黒く焦げたものがあった。ディスプレイは、それを囲い込み、拡大する。

とても、小さい。そして、引いていく煙から差し込む太陽に反射して輝く、金色の線上のもの。



「………?」



メインコンピューターを操作して、さらに拡大した。

ディスプレイの端に展開された映像。

その、線は風に靡いていた。しかし、本数が少なく。

酷くまばらであった。


その下、窪みがある。

二つの空洞。

T 字の筋の下のもの。その筋に沿うと、さらに大きな窪みが一つ。


「ウッッ……!」



口がある。白い歯は、細かい瓦礫と破片に削られ、

煤を受け入れて、穴を開け、欠けながらも食いしばっていたのがわかる。

鼻筋がある。瞳を収めたものがある。


そして、柔らかい。


それの横には、巻物をして、黒にまみれた

棒のようなもの。腕とわかった。巻物は、時計とわかった。



頭は、幼児のものだ。

先の金色の線は、爆発の余波で残った頭髪だ。

隣の腕は、大人のものであった。


アダムは、口元を押さえ、えづいた。

手元のこれを、振り払いたかった。

持ち主に悪いと感じた。




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