84.【タイタニスは】
タイタニスは雲にまみれながら、テラーストュートの白い戦艦を追い立てるストラッズと、地上に張り付き掃討を開始したインペネスからかなりの距離を取っていた。
最大級のサイズであるタイタニスは、これで良い筈なのだ。しかし、艦内のクルー達は続々と帰投する中程度損傷の機体を見上げては、バジーリオがいなければ戦線に出張れない自分達を悔やむのであった。
この巨体をもちながら、やることはさながらマシーンの教護所としての、受け皿の役割であるからだ。
こんなことのために、家族を月に置いて地球へ降下したのではない。という歯痒さはクルー全員に共通していた。
「おい、また来たぞ。」
タイタニスのブリッジを頂点とさせ、その下部、
タイタニスから連なる2本の巨大なレールはカタパルト射出用の道であり、同時に機体着艦の衝撃を受け止める甲板であった。
そこに、黒煙を上げながらフラフラと立ち昇る機体。
それを見つめて、アッシス搭乗の誘導員が通信越しに呟いた。隣接している2機であるのに、ただこの愚痴じみた呟きでさえ、雑音が混じり、戦闘中の雰囲気を醸し出していた。
しかし、この艦は何があってもミサイルに晒されることはないだろうという自意識があった。
欠伸を混え、風圧に飛ばされぬよう、足元を固定するためのスパイクを引きずりながら、機体を操縦する。
本当は、このような旧式作業マシーンではなく、空を駆ける機体を操縦したいというのが願望であった。
誘導灯を連結させた腕を掲げる。
海のように広がる雲の上空のタイタニスは、
太陽の紫外線に直に晒され、光も眩い。
この誘導灯如きでは意味を感じられなかったが、
いつだって軍人はポーズが重要なのだ。
そも、このようなマシーンを搭載でき、空を駆ける戦艦があるのなら、この戦艦に武装を搭載させ、マシーンの積載を無くしてその全てを兵器へ回せば、地球の侵略などは容易なのだ。
それをしないのは、我がエルガー帝国もあくまで人の倫理に則った国家の一つであるという証明と、マシーン開発技術の見せびらかしなのだろう。
爆発は、爆発でしかない。そのような一瞬の破壊力では、国力やら軍事技術やらの証明足り得ないのだ。
だから、このマシーンを介した戦争もポーズであると言える。
それであるのに、ビーム兵器だ。
大気を汚染するあの兵器。薬莢を生まないからと開発されたあれは、マシーン規格にわざわざ合わせる必要があるのだろうか。
「オーライ、オーライ……うわぁっ!!」
自身の目上をフラフラと飛んでいたマシーンは突然力を無くしたように落下し、自分たちの戦艦を揺らした。
灰色のセルヴスの黒煙の出所がわかる。
コックピットハッチをいつでも開けるように両腕をつき、下半身も突き出す。
女性のそれを思わせるような姿勢は、帝国から勇ましく送り出されたマシーンとは思えなかった。
「強引に乗っからないでくれ!!我々だって命懸けで出迎えに来てんだ!」
インカムを握り、声を張り上げる。マシーンの操縦桿を操作して、機体に連結ロープを接続する。
もう一機が合図を出して、タイタニスの二つの出っ張りの内の一つは、機体ごとデッキへ格納されていく。
完全にそれが格納された後、巨大な扉は重苦しくしまり、ロックがかけられた。出口の赤い点滅は緑に変わり、これで初めてパイロットはマシーンから降りることを認められる。
「ひどい姿勢だな、全く。」
クレーンを積んだレッカーの運転手はぼやき、そのまま荷台のクレーンを操作して、四つん這いのセルヴスの胸元へそれを伸ばした。
「いやすまないな。どうもバーニアかエンジン周りをやられたらしい。飛べてはいるから、誘爆の危険もないだろ。」
全身を黒色のパイロットスーツに身を包んだパイロットは、その薄緑のバイザーをもったヘルメットを外し、それをクレーンで上がってきたメカニックへ手渡す。
苛立った表情のメカニックをよそに、そのパイロットはツラツラと。
「誘爆の可能性など、こちらが見てみなければわからん。この機体は爆装しているんだから、もう少し慎重にやって欲しいな。」
言い終えた頃にはクレーンが下がっていて、メカニックは頭を抱えて溜息を吐いた。
***
「マックス、戦闘中だぞ、なぜ歩き回っているんだ!」
サラスは高座の肘置きに腕を置き、そのふくよかな体を背もたれに預けながら、周囲をふらつくマックスへ視線を向けた。戦闘中のブリッジで席を立つことは許されない。
これは、その人間の身を案じているのでは無い。
万が一にも攻撃があって、その衝撃で座席を立った人間が飛ばされた時、周囲の人間に接触する危険があるからだ。
身を投げ出された人間というのは、建物の瓦礫や岩のように危険である。無重力という制限を取っ払った戦場であっても、これを徹底された。それをなぜ、重力の制限がもたらされたこの星の戦いでやれないのか、サラスは不思議であった。
「失礼、色々ありまして、バジーリオ少佐の機体の受領ポイントを……」
「なぜ、今そんなことをやる!貴様の仕事は索敵だ、それをやれよ!」
サラスは肘置きを力一杯殴り、鈍音がブリッジに響き渡って、他の通信オペレーターは肩を揺らした。
それであるのに、不思議そうにサラスへ振り返ったマックス。
「そうは言っても、こんなところに敵は来ませんよ。
現に、我々の仕事は2隻の母艦として中破以下の機体の受け入れと整備でしょ?」
「ナーケルを出せよ、艦の護衛として。」
マックスの素っ頓狂とした返事を受けて、サラスは不満気に呟く。雲の先の空域は穏やかで、自分たちの足元が戦場であるとは思えなかった。
「無理ですよ、あれはさらに強化を……」
サラスが立ち上がり、マックスの頬を思い切り殴る。
マックスは合金造りの床に叩きつけられ、迷惑そうな表情であったクルーは全員ギョッとした表情へ変わった。
「貴様は大尉だな!総合職としてこの艦に配属された貴様が、おもちゃを貰った子供のようにはしゃぐ!」
「あのナーケルを我が艦に戻した理由はなんだ!
強化の不完全なダッケルをインペネスへ押し付けて、
その代わりに調教済みのナーケルを呼び戻したんだろ!」
「それであるのに、用途として使えず。その理由がお前のおもちゃ遊びのかまけだというのだ!この馬鹿が!」
サラスは青筋を立て、マックスへ掴みかかるが、他のクルーがそれを見かねて、サラスを宥める。
総員がザワつき、座席を立って、統率が取れていない。
これが、帝国の先兵としたタイタニスであるというのだ。すっかり、エルガーの旗を掲げるに値するのはインペネスとなってしまっていた。
「奴は培養カプセルで埃を被せるために強化したのではない。そんな理由であるのなら、地球人など即座に抹殺しているのだ。そこを堪えているということ、貴様は肝に免じろよ!側から見て、おもちゃに必死になる軍人、ましてや大人がどれだけ滑稽に映るのか、なぜそれを考えられん。」
サラスは呟き、クルーたちへ声をかけて、座席へ座る。
マックスは冷水を頭に被せられたような思いであったが、同時にこの母艦としての艦の役割、バジーリオに頼り切りの現状打破としてナーケルをさらに強化していると、叫びたい衝動に駆られた。




