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第二の星で  作者: ぷりお
81/101

81.【モルゴールの中(2)】




自身の足元に位置して、シェルター、壁そのものを破壊したバズーカ。

それを放った兵士は、煙を立ち込めさせるバズーカを投げ捨て、自分の顔の側に手を当てる。


「ヴィーナ少佐、お顔を……!」



「構わん……見るな!」


その手を押し退け、赤く染まり始めた視界をグローブで遮る。顔がジリジリと焼けるように痛み、液体が流れる感覚。瞳からも同じように液体が流れているのがわかった。


自身の髪が靡き、煙たさと血の匂いと焦げ臭さが充満したモルゴールの廊下は、外気を取り入れ始め、バズーカによって破壊されたエトセーラ達の残滓の背後には、欠けたような巨大な穴が建造物の屋根と空を映し出した。


「補強急げ!ブリッジのシェルターは開かないのか!」


ヴィーナは声を張り上げ、再びそちらの穴へ視線を向ける。戦艦の巨大な穴へ駆け寄った兵士はなす術なく、外気を通して空中に放り出された。ブザーが鳴り響き、時折艦体を大きく揺らす轟音。


「クソ、エトセーラ。疫病を形にしたような女だ!」


廊下で声が二、三度反芻した後。

大きく欠けたモルゴールの壁を突き破るように、

巨大な筒のようなものが、自分達に向けられていた。

風圧はさらに強まり、硝煙の匂いが瞬く間に充満する。



***



敵艦で起こった爆発。

ガラス張りで、艦の頂点に位置するようなブリッジのすぐ後ろ、突撃したセルヴスがそれを爆破したのが見えた。



「ユナ中尉!!」


自身の操縦桿を握る左腕の側から響く声は、若干の弾みをもって、この好機を逃してはならないという焦燥も混えていた。


自身の背後、母艦インペネスは建物を砕き、弾幕を放ちながら自分達を捲し立てる。


あの敵艦、ブリッジの破壊には至らなかった。しかし、中枢は撃滅した筈だ。それであるのに、敵機も、対空砲も機能しているではないか。


ここで一歩引く判断をしてきたのが、自分の常だ。

しかし、その判断を重ねてきた人生だったからこそ、

シャキリは自分を捨てていったということは、

強く確信できる。


理性という名の、聞こえの良い皮を被った臆病な自制と呪縛は、ユナの神経を逆撫でする。



「取り付くぞ、ここで撃沈させる!!」



***


艦内でブザーが鳴り響き、それはデッキも同様であった。

赤い点滅に伴い、鳴り響く空襲警報に近い音は、自身の体を震わせ、それを心臓に至らせるには十分なものだった。



「姫様、リバーカン発進いけます!」


自身の頭上。白銀の機体に黄色いクレーンを沿わせた最上からの声だった。



「姫様だけ、行かせるってのか!」


ブリッジの警報の合間をぬぐって、男の叫び声が響き渡る。


「当たり前だ、それ以外あるか!」



後ろを振り返り、いがみ合うメカニックらしき人間達へ寄ろうとする。

しかし、左腕がピンと伸びて、自身の全身がビクリと強張る。左手首から伝わる体温から、自身が引き留められたとわかった。


「姫様、出撃が可能です。」


自身を引き留めたパイロット。ヘルメットを被り、

青白いバイザーにその顔を覆い隠す男。

表情は伺えなかった、しかし、確かなやるせなさと使命感を持つ声音であった。



「しかし、彼が……」


「姫様、行ってなにになりましょう。」



エトセーラが自分にと、差し出してくれたこの青いパイロットスーツとヘルメット。薄い橙色のバイザーは、物々しく、灰色のデッキとその合金造りの床に微かな彩りを与える。

しかし、その景色は次第に目元の温かさに伴って、歪み始め。鼻頭の微かな痛みに伴って、その原型を保たない。



「皆さん……ごめんなさい。私のために……」


下へ俯くと、自身の荒い呼吸音と雫が、バイザーに垂れていった。



「姫様、頼みます。」


自身の左腕を掴む兵士は、メサイアへ付き添うように

丁寧な動きでクレーンへ誘導する。

メサイアが甲高い足音を4回ほど立てて、完全に土台に体を乗せたことを確認して、安全装置となるチェーンをかける。コンピューターを操作する音がして、クレーンは大きな振動の後、上昇を始めた。


ヘルメット下部のボタンに触れ、バイザーを上げる。

新鮮とは言えない。煙と油のような匂いを纏った空気が、

パイロットスーツを満たす。瞳を強引に拭うと、透明な視界の濁りは消えていった。



「ふざけるな!俺だってここを脱出したいさ!死にたくなんかない!!」


先程の男性メカニックは、泣き叫び。

それを見下ろす自分が、とても卑怯な人間に感じた。



背を向け、機体へ振り返る。

アイアンメイデン。処刑への唯一の慈悲として貼り付けられたであろうその表情。

自分を見下ろすその機体は、エトセーラの次に搭乗する自分を見定め、あわよくば飲み込んでしまおうという意思を感じさせる。




「これ、血?」


エトセーラのリバーカン・スクエマ。太陽とデッキの光に晒されたその機体は、純白を全身に侍らせながらも、その機体の右胸部。固まり、ダマとなった赤いそれが粘着質に纏わりついていた。


外の状況はデッキからでもわかる。

おそらく、人のものであるのは間違いない。

ブリッジで一生分の死体を見てきたメサイアであっても、誰のものかわからないこの染みは、ひどくグロテスクなものに感じた。


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