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第二の星で  作者: ぷりお
79/102

79.【モルゴールの中】




「やはり、殺せてしまう。」


ユナは操縦桿を両手に握り、グッと力を込めた腹部を緩めるように、分厚い息を吐いた。

再び吸われる息に合わせて、盛り上がった肩はヘルメットの下部に軽く触れ、ストンと降ろされる。


散り散りになった敵機を瞳で見送り、スラスターは青い光を細く噴射させ、機体を垂直に。

背中から一気にかけられた加速は、

再びインペネスの陰からユナの機体を晒す。



人はやはり、断崖にその身を投じようという気概をもって、初めてその全能を発揮する。

野生動物と同じ駆動をもつ人間が、それを発揮できないわけがなかった。


長い営みのために温存されるその力を、自分達の宿命のために爆発させ、エネルギーへ転回させる。


気分の良いことだ。野生動物達と同じエネルギーを持たず、退廃的にしか生きられないのが人間という前提は、最早マシーンに乗りながら力を証明できる我々には通用しない。


自分が選ばれることを待つ人間であると考えるより、

可能性を潰してでも、国のために命を尽くす。

自分には、シャキリだけではない。

あの月の帝国には、自分の父と母だっていたのだ。



「シャキリ、貴方は1人を選んだのだから、たとえ死ぬとしても、1人で死ななければならないのよ……!」



ブザーが鳴り響き、右のサブモニターは

赤い二つの点が、青い自分の点へ向かっていることを伝える。


黒いシェルターから浮上してくる2機の敵機。

テラーストュートのタイタスだ。



一機が自分より高度を取り、もう一機は突撃ーー


再び呼吸を止めて、腹部に力を込める。


人は、選んだ孤独を貫かないで、都合の良い時だけ人に寄りかかれるほどの贅沢は許されていない



壁を叩くような打音、空気を破裂させる甲高い音の二つを交えた弾丸が響き、ユナのヘルメットの耳当ては膨張する。


青白いバイザーを光が覆い、ユナの表情は掻き消されていく。




「うわ……!」



突撃をかけたタイタスは、破裂をもって霧散。


上空のタイタスから放たれる、空気を抜くような細かい音。自身の下に位置する建造物、道路がそれを受けて、土と、煉瓦を舞わせる。


相手の照準から外れるために、機体を左右に軽く揺すり、その後に静止。


インターバルを使って、空気を吸い込み。一気に吐き出してから、再び吸い上げるようにして、止める。


機体のアポジモーターが噴射され、足裏や腿のあたりからなるスラスターもそれに合わせて熱を持つ。


機体は加速し、建物と道路へ肉薄するようにして、若干上昇。ピッピッとメインコンピューターが唸る。


球体型の背景に包まれた、シートは布とレールを擦り上げるような心地よい音を立て、機体は地面を背にするように翻る。


敵機の背後のエンジンをやや上のディスプレイが捉えた。

それがこちらを見下ろし加減で振り向く直後、

力を失ったように地面へ接触し、辺りを煙と機体の残骸が包み込んだ。




「あの機体の識別は?……どこのものだ!」


インペネスのメノクスは、眼前の機体が敵機を次々と撃墜していくのを確認した。



「ユナ中尉のものです。頑張ってくれています!」



「それはわかるが動きすぎだな。シャキリからの通信はまだか、インペネスを前進させるぞ!」


ブリッジで声が反芻して、インペネスは再び風圧を纏う。建物が揺れ、飛び散り。

ユナの上空の巨大な戦艦は再び前進を始めた。



***



「敵艦隊が前進してきます!」


王宮を背にしたエトセーラの部隊のプティッカ級戦艦。


『モルゴール』



「来るに決まってる!中佐との通信は!」


艦長が座ることとなる高座には、エトセーラの側近

ヘクター・ベクトの姿。


「中佐との通信は途絶!ベルベーンからの通信も途絶!」


オペレーターの男はヘクターに目も向けず、しかし肩から焦りを滲ませるように叫ぶ。


「なぜ、ベルベーンと通信を取ろうとしているのです!ヘクター、エトセーラの意向は!」


ヘクターの座席の下に位置するメサイアが、咎めるように座席を立つ。


「しかし、姫様。眼前に帝国の戦艦が迫っているのです!エトセーラ中佐を見つけ出せ、我々も撃墜される!」


ヘクターはメサイアを一瞥し、座席へ座っていないことを咎める。

箱入りの娘の前線を知らぬこの言動は、戦火の緊迫も相まって、非常に腹立たしいものだった。

テラーストュートに保護されていたというのなら、

最後までそこに閉じこもっていればよかったものを。


「敵機きましたぁ!!」


ブリッジから見下ろせる砲台が左右に動き、光を発する。

戦艦の真上、右、左をかける風圧と喉と腹の底を刺激する衝撃音。


思わず咳き込んで、眼前のディスプレイへ視線を戻す。

灰色の敵機が機銃とミサイルを掻い潜り、こちらへ肉薄しようというところだった。



「私……私はメトロ・ポリシーで出ます!」


メサイアが耐えきれないように立ち上がり、ヘクターの肘置きに手をかける。手が小刻みに震え、青い瞳はヘクターに縋っているようにも思えた。


「姫様、しかし……。あれはギランミ大佐と搭乗されるものです、1人では。」


途端、ブリッジ内で破裂音が響き、通信オペレーターの1人が背に小さな穴を開け、コンピューターに突っ伏すように倒れ込む。

その穴からは、赤いものが湧き出す。


スライドした扉に気付かなかった。

ヘクターは自分の能力の低さを呪った。



扉を開いた人間。白い手袋に包まれた華奢な指には黒い拳銃が煙を上げていた。


ヴィーナ・ラビーネだった。


ヴィーナも含めたギランミの部隊は、

あのシェルターへ覆われた筈だ。

機能を停止しているのか、それとも……


「エトセーラに手を貸す賊どもが!……姫様。あなたもギランミ大佐に背くということは、この国を捨てられたということだ。」


ヴィーナは呟き、メサイアへそれを向ける。

メサイアは体を小刻みに震わせながらも、ヴィーナと相対した。


「ヴィーナ、それは違います。私は、月の人間と地球の人間などと区別をつける時ではないと感じています!」


「しかし、貴方はエトセーラとテラーストュートの元についた。そも、そうやって区別などという言葉が直ぐに出ているのが確たる証拠だよ!」


ヴィーナは拳銃のトリガーを震えながら押し込む。



「姫様!!」


破裂音に合わせて、高座に座っていたヘクターがメサイアを押し出して、メサイアは地面へ叩きつけられた。


何度か咳き込み、眼前のヘクターへ視線を向ける。


顔の側頭部に穴が開き、瞳孔が開き切った瞳を見開いて地面へ突っ伏した片側からは赤い液体が流れ、それはメサイアの黒い靴を汚した。




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