78.【舞う破片】
黒いシェルターの破片から差し込む光。
その光を一身に受ける機体は、突如力を失って建物を巻き込んでいった。
「うっ……!」
破片が飛び散り、風圧と共に押し寄せるのが見えた。
家々の隙間を引き裂き、道路を砕いて自身へ向かう様は、ギランミに対しての執念を感じさせた。
一度は乗り捨てようとした機体。リバーカンの胸元のハッチを開く。震える腕で外付けの小型コンピューターを操作する。額からは血を流し、左目に入り込もうというそれを、もう片方のパイロットスーツで拭った。
コックピットに入り込むと、外の衝撃音による、自身を急かせる気持ちは消え去った。
導線を足に触れさせないようにして、座席へ屈むようにして座る。
革づくりの座席は軋んで、ギランミを受け入れながらも外からやってくる衝撃は、ギランミを座席からふるい落とそうとしていた。
外の映像を映し出すディスプレイには人を巻き込み、
家屋へ食い込んでいく腕や装甲。
焼け爛れ、黒い装甲を茶色が覆い。赤黒いオイルを撒き散らしながら、それはリバーカンを通り過ぎて行った。
「シャキリ、わかるか……?」
「我々は騙されていたんだ。あの家族に!
あの家の母親が、私にだけ優しくなかった理由がようやくわかった!だから、私は地球へ降りた!」
機体の大半が飛び散ったように見えた。
しかし、巨大な破裂音がして、リバーカンのコックピットはノイズに包まれる。
ギランミは頭を抑え、自身の体を一層丸めた。
眼下の割れたディスプレイ。そこにあったヘルメットを乱雑に扱ったことを悔やんだ。
「シャキリ、ごめんなさい。あなたも連れて行けば良かったの?でも、地球へ降りた直後の私の姿など、お前に見せられは……」
ディスプレイが再びノイズを掻き消しながら外を映し出す。
黒い山羊のような頭。二つの角を有する機体は、
その一つをへし折られ、顔の大半を焼かれ、内部の灰色のフレームと首元からは導線を露出させ。
ツインセンサーの片側は内部の赤いレンズを露出させながらも、もう片方の赤い瞳は、残骸の胸の中で縮み込んだギランミを見据えていた。
赤いオイルを頂点から流し、鱗のような細かい装甲から、その瞳は確実に巨人の胸に身を隠す自分を見抜いていた筈だ。
牙を剥き出しにしたような黒い口元の装甲は歪み、こちらを嘲っているようだった。
***
「………!シェルターが開き始めているの。」
自身の真下を映すディスプレイ。
街の一部を覆い尽くしていた丸いシェルターは、
地鳴りを纏いながら建物達をあらわにする。
「街全体を覆いたかったようだが、庇護を無碍にしてきた貴様らに、天誅がくだるな!」
ユナは自身の灰色の機体。セルヴスのマシンガンを構え直す。右腕でグリップを握り直し、トリガーへ人差し指となるマニュピレーターをかけ。左腕でそれを覆うようにソッと被せる。
「いつまでも、のうのうと男によがりつく女であるとは思われたくない……!」
シェルターへ向かって前進しているインペネス。
敵が集り、閃光を伴い弾幕を放ちながら抵抗を行うが
停滞し、ましてや後退しようというところであった。
降下していったシャキリ・シャクティの援護は無いということだ。
やはりこの程度の器量の男。
そう思わなければ振り回された自分が惨めだった。
「街へ降下し、インペネスを援護する。ダッケルに3機、私に4機続け!」
ユナのセルヴスは頭上へ振り返り、手を大袈裟に振って、その赤い瞳を輝かせる。
「しかし、強化人間だけの部隊が生き残れますか!」
左サブモニターから、若い男の声。
不安が入り混じり、自分の決定に懐疑的。
シャキリであれば黙ってついていくのだろう。
「やらせておけ。この空域はテラーストュートの艦がある。しかし、ストラッズもいる。我々の母艦を落とされてみろ。帝国に居所はないぞ!」
眼下のモニターの男はピクリと肩を揺らす。
戦いや艦での生活において、たどたどしかったユナの声が張りのあるものに変わっていた。
「怯えるのは構わん。しかし、祖国への献身の機を逃すことになるな。貴様の人生は、そうやって女のなり損ないのように振る舞うことか!」
操縦桿を握り直し、機体を地面へ向ける。
雲を突き抜け、体が座席から浮く。
望遠していた建物達の屋根は、その白と黒の色彩を顕にする。
自身の背後に、幾つかの灰色の機体が続くのをレーダーを介して確認した。
「中尉、急接近しては弾幕に巻き込まれます!」
自身を引き止めるような叫び声。
しかし、眼下の青白い機体を照準が捉えた。
マシーン全体が小刻みに揺れ、重低の細かい音が、
閃光を伴いながら散る。
インペネスの頭上で爆発が巻き起こり、機体の破片が飛び散る。
ユナへ向かおうとしたそれは、セルヴスの装甲を何度か擦り、地面へ引っ張られるように墜落を始め、それをインペネスの弾幕が爆破する。
「帝国が!!」
爆発の中から、別の機体が煙を引き摺りながら突撃。
足を残すように、機体を背から建物達へ降下させる。
操縦桿と座席のベルトに唯一繋がれた部位。
それ以外の体は浮遊感に襲われる。
先の敵機の足。腰の連結部分が太陽とインペネスの陰に覆われながら露見する。
そこへ向かって、再び重低が響き、弾丸が発される。
粒状となった光は、自身が見上げる機体の足を砕き、
爆発が全体を包み込む。
下半身からの衝撃に巻き込まれ、霧散した残骸が建物へ降りかかった。




