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第二の星で  作者: ぷりお
76/104

76.【月から産み落とされて】




左のオートマニュピレーターは槍を掴み上げ、自身が操作する右腕には再び剣を構える。


眼前の白い機体は速度を上げ、自身へ向けて降下してくる。


「やはり、地球に毒されたな。ギランミ!!」


ギランミは左腕を掲げ、こちらへ斬りかかる。

剣で応対させ、即座に左のオートマニュピレーターの槍を突き立てるが、そのマニュピレーターは弾かれるように跳ね上がった。


眼前の機体は右足を掲げていた。


コックピットに衝撃が走り、シャキリの体を揺する。


「うぁっ!」


左上から爆発音と閃光が、自身の顔に入り込んだ。

バイザー越しの視界で、その閃光は目視していなかったはずだ。それであるのに、光はいやらしくシャキリの顔の半分を包み込んだ。


ブザーが鳴り響き、唯一の視力となっていた片側が一時的に暗転する。

視界を完全に奪われた。



「シャキリ、どうした!」

ギランミは眼前の機体の動きは完全に停止していた。

機体の損傷は、槍を持っていた腕の手首から上を切り落としただけだ。それで機能停止するほど、月の機体はヤワではない筈だ。



それであるのに、眼前の機体は静止したまま浮遊する。

パイロット、シャキリに何かあったのだ。


――確実に撃墜できる。


「ダメだ!弟には……死なれたくない!!」

その黒い機体を足で蹴り、その勢いで機体を離反させる。

屋根に飛び乗り、白銀のリバーカンは未だに空中を漂う黒い機体を目視し続けた。



「お父さん、あの白いロボットと黒いロボットのどっちが味方なの?」

避難民なのだろう。煉瓦を撒き散らし、黒煙を上げる車、パニックに陥った人の濁流の中で、父に覆い被さるように庇われた少年は、空を見上げていた。


屋根に取り付き、膝をつく白い機体。

そして、その先には屋根の辺りを浮遊するだけの黒い機体。



「お父さんは、あの黒い方が悪いやつだと思うな。」


「なんで?」


「あの見た目、怖いだろう?お父さん、あの機体を見ているととても怖いんだ。」

父親の男は少年を抱き寄せる。


「じゃあ、あの黒いやつが悪いんだ!早くやっつけられてほしいね!お家、帰りたいもん!」


「そうだな、人を怖がらせる見た目なんて、してちゃいけないよな。」


少年の視線は、浮遊を経てやがて、建物を崩しながら寄りかかる。シャキリのアコニットへ向いていた。



心臓の脈動が全身を走る。ヘルメットは外した筈だ。

コックピットのブザー音と、マシーンの駆動音は、

被り物を外した瞬間、クリアに蓋の中の籠りを消し去ったからだ。


「くそ……。」

真っ白な視界が、ようやく眼前のメインコンピューターの動きを捉え始めた。

自身の目の前にいた筈のギランミの機体は、どこにもいない。


「に、逃げたのか!冗談じゃない!」

右サブモニターを操作すると、緑の枠線が外の景色を映し出すディスプレイを動き回り、屋根に取り付く白い機体を捕捉した。


ホッと息を吐く。姉を殺せば、自分の抑えていたものは完全に決壊するだろう。

その自意識は確信となっていた。


しかし、姉の起こした行動。月から地球を羨んで、

そちらへ住処を変える。


これは確実に、この戦争の元凶であると感じられた。


「……逃げてどうなる!人生とは、人としての生だ。

生きることだけに固執しては、人として生きるとは言えないんだ!」


機体のジェネレーターは再び稼働を始めた。

このロングレンジバレット。あと2発は撃てる。


肩から派生した左マニュピレーターは使い物にならない。

右腕でそれを掴み、導線を引き摺りながら、そのマニュピレーターを機体から切り離す。


肩の切断面はスパークを起こし、野晒しにされた導線はいつ起爆剤になってもおかしくなかった。


汗が流れる。呼吸が荒くなり、操縦桿を握る腕は震え、胃の中をグルグルと掻き乱される感覚。


ヘルメットを外したシャキリは、

マニュピレーター操作の黒いカチューシャと、

赤茶色の頭髪が晒され。

黒い眼帯と、もう片方には外側から深い青、内側になるにつれて、水色に近い色でグラデーションがかかり、中央には揺れながらも、ディスプレイを見据える黒い瞳孔。



ロングレンジバレットのエネルギーの充填を伝える。

小気味の良い音。


機体は再び瞳を輝かせて、寄りかかっていた建物から、ゆっくりと体を起こす。


ギランミを殺しても、後がある。

イギリスの残存兵と、テラーストュートの戦艦。


「少佐、お前がここにいればな……。」

汗を袖で強引に拭った。

操縦桿を握り直し、グローブが音を鳴らす。



操縦桿を握った瞬間。腹の底からグッと、

重たいものが走る感覚。


マンチェスターの惨状から、ルーラ達を殺した瞬間までの全てがフラッシュバックした。


インペネスの民間人収容所にいた、自分を殴った男は生きているのだろうか。 ガルーラは生きていたんだったな。

ルーラとミィカは、殺したのか。バジーリオは?

マンチェスター以後顔を合わせることはなかった。

ラッツェルも腐れ縁だが、このシェルターの先で戦っているのか。


アシュクは?ミレンは、なぜ自分についていなかったのだろう。ユナ中尉。

アシュクとミレンとユナだったか。

自分の部隊は。

ルーラはインペネスへ入ったのだったか?

いや、死んでいったのか。 ガルーラも死んだような気がするな。バジーリオ少佐もレディングで戦死したのだったか?


インペネスってなんだろう。ユナ中尉って……ユナとそんな物騒なごっこ遊びしたっけな。



ミィカは自分とルーラの子供だったかな。



倦怠感が体を襲い、メインコンピューターと操縦桿を握る腕は歪み始める。


「吐き気がする………。予備メットはあったか?」

メインコンピューターの下を探るが、ロッカーらしいものはなかった。


左サブモニターには、写真。


女性と、自分。横には ガルーラだろうか。


「邪魔だな、これ………。」

テープで丁寧に貼り付けられていたそれを、剥がし。

先程のヘルメットが落ちた場所へ投げ捨てる。



「ユナ……?今日は来る約束じゃなかったか?1人だと心細いな。最近物騒だしな。」



機体は完全に浮遊し、天井の側に肉薄する。

悪魔の見た目を冠したその機体は、それを腕を掲げて押し除ける。




「シャキリ、まだやるのか!」

ギランミは浮かび上がったそれへ向かい、屋根を吹き飛ばし、上昇する。



シャキリの機体に、ブザー音が鳴り響く。

虚であった青い瞳が、再び意思を持ったように焦点を合わせた。


「……ギランミ!!」


右腕の袖から槍を取り出して、下から接近する機体と再び火花を散らした。


「シャキリ、人には人の生き方というものがある。

月の人間は、地球に受け入れて欲しかったのだろう!

反発して何になる!」



白い機体は、自身の機体の頭部に横蹴りを喰らわせた。

ディスプレイが砂嵐を起こし、再び機体は力無く降下する。


「………?なぜ、怒られているんだ。」



あれは姉さんの声だった筈だ。なぜ、家を勝手に出て行った彼女に、自分が叱られているのか。

ユナと、ずっと待っていたというのに。

あの家にはもう誰も来なかった。


機体はズシンと、音を立て。エアバッグに包み込まれたシャキリは、横たわる座席からディスプレイの左を見つめた。


機体にコツンコツンと音が響く。

視線の先には、石や瓦礫を抱えながら、自分の家にそれを投げつける人々。


「また、ラッツェルがからかいにきたのかな?でも、いつもより人多いぞ。ユナ……ユナ!ラッツェルが来た!!」



「黒いやつ、死んじゃえよ!自殺でもなんでもいいから、死んじゃえ!」


父親に包まれていた子供は、言葉を吐き、涙を流して、手元に抱いた石を投げつける。

自身を抱いていた腕は、この黒い機体からはみ出るように血を流していた。



「マンチェスターを落としたのってこいつか!空から降ってきた屑が!!お前みたいなやつが生きてるからさ!」

子供の後ろの人間が、叫びながら瓦礫を投げつけた。



静寂を貫く巨人は、力無く腕を垂らす。



「そりゃ、こんなのは月に飛ばしたくなるよ!

汚らしいんだよ、人殺し!!」


「家族を返せよ!なんで、お前みたいな奴が生まれてるんだよ!」



コックピットのディスプレイはそれを、絶え間なく映し出す。瓦礫が弾け、罵声をシャキリの耳へ届ける。



「そりゃ……こんなことされたら、殺さないとな!」



シャキリの機体は腕を動かして、周囲の人間を吹き飛ばす。エンジンを点火させて、その風圧に先程の人間達は叩きつけられ、家屋に人型の血が貼り付いた。


人が逃げ惑い、アルカロ・アコニットは地面から立ち上がって、その逃げ惑う人間達を、赤い瞳で追う。



「お前達、全員死んでしまえよ。のうのうと、生きてこられて良かったな!それもここまでだよ、全員消えろ!」

シャキリの目の縁から涙が溢れ、アコニットはそれに合わせて、エンジンの駆動音を響かせた。




途端、ギランミのリバーカンが、シャキリのアコニットの手を取った。そのまま浮遊し、屋根は一瞬で遠のく。


「シャキリ、一緒に遠くへ行こう。そうすれば、石なんて当たらないから!私が付いているから!」



ギランミの声だった。

心が軽くなる声だった。しかし、ミィカやルーラの死んだ瞬間。

足をもたつかせながら走るミィカの首を飛ばして、

機体の足に抱きついて泣き叫ぶルーラ


『ミィカちゃんも、死んでしまって。マンチェスターを襲ったの貴方だと知ってました。でも、愛してます。好きなんです、貴方が!』



「姉さん……でも、姉さん。………僕は!!」



リバーカンを突き放し、黒い天井へ向けて、

ロングレンジバレットを組み上げる。



「シャキリ!!」


ギランミの叫びは、紫色の粒子が発する光に消えて行った。

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