75.【人殺しとアコニット】
「お前達が始めた戦争だ。それを知りながら、なぜ今になって死が怖いか!人を殺すことは恐れず、自分が存在しなくなるのを恐れるなんて!!」
黒い機体は、照明を背に降下する。
身を左に叩きつけ、回避するが、座席に振動が走り。
操縦桿を握る手を滑らせる。
「ロイヤリティ、まだお前の元へはいけない、行きたくない!」
次はさらに衝撃が襲った。エアバッグに包まれ、背中を中心に体が浮かび上がる。
地面を砕き、機体が落下する。沈み込んだ地面から、水が溢れ出し、機体へ降り注いでいく。
ディスプレイの横。
「こ、これ……血。血だ!!」
機体に塗れる。人の鮮血と体の一部。
溢れる水から垣間見える。道路の脇に飛び散った人の塊。
瞳は黒く染まり。白目が見えず、暗い路地裏からこちらを見据える。
「げえっ!」
吐瀉物が、ヘルメットの中を包み込み、急いでそれを外して、座席の後ろへ投げ捨てる。
「これ、これが守りたかったものか。こんな風に死んでいく……人って!!」
エトセーラは肩で息をするが、心臓の鼓動は、エトセーラをなんとか生かそうと、鳴り響く速度を早める。
地面に倒れ込む機体へ向けて、砲身のエネルギーを装填する。
自身の後ろに、上昇するものがあった。
アコニットはそれを振り返り、ツインセンサーを赤く輝かせる。
白銀の機体。しかし、直感できた。
「シャキリ………なんで…」
その白銀の機体から、自身のコックピットへ鳴り響く声。その人間のやるせなさ、自分を咎める意図、死んでいった人間達への想いの全てが混在していた。
「………ギランミかぁ!!」
砲身を再び格納。
操縦桿が軋み、機体は振り向き様に、その白銀の機体へ飛び掛かる。
「シャキリ、この国の人間が、私達と同じルーツであったこと、知らないわけがなかったろうに!」
ギランミは叫び、リバーカンの刃とアコニットの剣が重なって、両の機体は顔を突き合わせる。
「貴様のように、逃げることが出来なかったからだ!
だから、戦うことで生きていくしかなかった!
月で、地球の人間に侵略されることを待つなんて無理だった!」
「私だって、まだ子供でいたかったからだ!」
ギランミ叫び、機体を蹴り押す。
シャキリの呻き声が聞こえ、ギランミは体をのけ反らせた。 シャキリの声音は、成熟しきった男性のそれだった。
11歳の頃の、可愛らしく、跳ねるような声音の面影は消え去っていた。
後退していく、黒い機体を追うように機体を加速させる。ヴィーナの機体が後ろから付随した。
「ヴィーナ、街の人間達を避難させろ!」
「しかし、シェルターが閉じていますし……大佐!ロイヤリティをやられたんですよ!」
「わかっているから、あれは私で片付ける!」
バイザーを上げ、空気を吸い込む。
自身の顔を覆うガラスは曇り、息が詰まってしまうような気分だった。
ヴィーナは何も言わずに、機体を反対側へ向け、加速していく。
「肉親殺しだと……。」
ヘルメットを外し、それを投げ捨てる。
球体型のコックピット、浮いた座席の真下のディスプレイが割れ、破片が飛び散った。
「戦争であるなら、咎められることはない。中尉もこのシェルターにはいない!」
シャキリは天井へ体を向けた状態から、地面へ翻す。
眼下のディスプレイに逃げ惑う人々がいる。
しかし、シェルターには終わりがあった。
連続した建造物の最奥。黒い壁に人が集り、塊をなして、無理矢理突破しようとする車に潰されている。
「街全体を覆うには至らなかったか。」
ロングレンジバレットを組み上げ、自身の背から鳴り響くブザー音に、機体を翻させた。
自身へ肉薄しようという機体へ向け、ビームの塊を2度射出する。
ビームレーザーを放たせたつもりだが、砲弾のように重苦しく放たれた弾丸を、ギランミの機体は軽快に回避する。
黒い天井にそれは着弾し、閃光と衝撃波を放つ。
「出力が下がっている!」
自身の機体の胸部からなる砲身は、黒い煙を先端から上げ、中央にラインを入れた連結部は、所々スパークを起こしていた。
むやみやたらに使った落とし前だった。
これ以後、同じ扱い方をすれば砲身は爆発し、アコニットはそれに巻き込まれるだろう。
自身の武装のパワーに負けてパイロットも死ぬ。
それであるのに、人間はさらに上の破壊力を求める。
人間が気まぐれで作った力によって、
次はその力の気まぐれで人間は殺される。
アコニットの最初はラッツェルに奪われたが、
その後はアコニットと自分は、常に月の使者の代名詞であったつもりだ。
「マンチェスターから、お前とは共に戦ってきたと思っていたが。私の独りよがりか!」
砲身を分解して、再び格納。
この繰り返しの過程でさえ、この武装は軋んで、折り畳まれる動作は明らかに遅かった。




